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M-224 黄色の旗2つ


 次の出漁は2日後になるとのことだ。

 一緒に出掛けた老人達の漁果は120Dを越えているらしい。


「やはりアオイと一緒だということなんだろうな。聖痕の御利益を得られると信じて頑張ったに違いない」


 昼間、遊びに来たバレットさんがそんなことを言って笑っていた。

 信じる者は救われる……。ということなんだろうか?

 俺達に酒を出してくれたナツミさんも、その言葉を聞いて笑みを浮かべていた。


「いつまでもおじさん達が頑張れるとは思えないし、帰島してからゆっくり休めたかったんでしょうね。アキロンも今日には帰って来るでしょうから、私達にも都合が良いわ」

「ラビナス達は昨日帰ったから、今日はアルティ達ものんびりしてるんだろうな。1回の出漁で最低でも銀貨1枚なんだから、ラビナスの指導は大したものだと思うよ」


「ネイザンさんがどちらか船団に欲しいと言ってたにゃ。漁果がネイザンさんの船団を越えると色々と面倒にゃ」

「その辺りは、長老達が考えてくれるんじゃないかな?」


 ラビナス達の船団があれほどの漁果を上げる要因がアルティ達となれば、確かに片方をネイザンさん達の中堅船団に加えることも考えねばなるまい。

 だが、2人ともラビナスの船団を離れたときに、一気にラビナス達の漁果が下がってしまっては将来に繋がらないからな。

 現状に満足して、将来に課題を残すようでは問題だろう。長老達の判断が楽しみでもある。


「バレットさん達が困った時には、相談に乗ってあげるんでしょう?」

「一応考えてはあるんだ。アルティ達をネイザンさんの船団に組み入れるのが一番だと思うよ。その上で、1か月交替で、ラビナスの補佐をすればいい。ラビナス達を中堅の船団で手助けするのは何ら問題ないからね」


 ナツミさんが笑みを浮かべて、ワインをカップに注いでくれた。同じことを考えてたということなんだろうか?

 マリンダちゃんは、「交代するなら問題ないにゃ」と言って同じように笑みを浮かべているけど、アルティ達の片方だけを上位の船団に組み入れることは問題だと思ってたんだろうな。


 その翌日。俺の案はマリンダちゃんからトリティさんに伝わり、トリティさんからオルバスさん、そして長老へと伝わったようだ。

 結果は次の漁から帰った頃に分かるだろう。

 休日の最後は、漁への最終準備でもある。ナツミさん達は食料を買い込みに出掛け、俺は甲板で漁具の手入れだ。


 どうにか3つの胴付き仕掛けの釣り針を研ぎ直したところで、パイプを取り出し一息ついていると桟橋をナツミさん達が足早に歩いてきた。


「帰って来たよ! どんな感じなんだろうね」

「きっと大漁にゃ! 直ぐに分かるにゃ」


 桟橋の反対側のカタマランからは、トリティさん達も甲板に出て入り江を見ている。

 さんざん神亀と一緒に漁をした仲間だから、気になるのかな? それに実のお婆ちゃんだからね。


「黄色の旗2つにゃ。背負いカゴに一杯にゃ!」

「旗の数で漁果を知らせてるの?」

「教えといたにゃ。カゴに半分で1つ、1杯なら2つにゃ」

 

 3つだと、それ以上ってことなんだろうな。バレットさんにも教えてあげよう。船団全体の漁果が1目で分かるからね。

 よく見ると、他のカタマランも旗を上げているようだ。揚げていない船は1つも無いし、2つ上げているのはアキロンの船だけのようだ。


「3日間の漁なんだから背負いカゴ半分以上で十分だわ。一か月で6回以上出漁できるから、50Dずつでも銀貨3枚よ」

「とりあえずは問題なしと……」


 10隻に満たないカタマランは入り江に入っても1列を保って荷揚げ用の浮き桟橋に向かって行く。

 俺達のところに来るのは、もう少し後になりそうだ。

 夕食は皆で取れそうだな。甲板に広げた漁具を倉庫に戻して場所を広げておく。


「お腹を空かしてるはずだから、たっぷり作っておくね」

「ナディのご飯でお腹を壊してなければ良いにゃ」


 そこまで酷くは無いと思うんだけど、母親としては心配なんだろうな。

 オルバスさんのところでもリジィさんが夕食の支度を始めたようだ。考えることは同じなのかもしれない。


 最初にカタマランにやって来たのはグリナス夫妻だ。嫁さんのカリンさん達がナツミさんの手伝いに参戦してくれてる。

 ラビナスとお茶を飲んでいると、オルバスさんがワインを持ってやって来た。トリティさん達は料理持参で後からということだろう。


「なんだ? もう始めてるのか? レミネイ達はもう少し後からになるぞ。先に行ってろと追い出されてしまった」

 

 笑い声を上げながらバレットさんがやって来たけど、両手にワインは問題だな。


「まだ主役が戻ってないが、かなりの漁果だったらしいぞ」

「夫婦で交替しながらの素潜りだからなぁ。他の連中は男だけが潜ってたから、アキロン達には敵わないよ」


 カタマランの甲板で休憩を上手く取りながら漁を続けたのか……。

 その考えは、俺にも無かったな。

 ナツミさんとマリンダちゃんが交代で海に潜って漁をする時があるけど、あんな感じで漁をしたんだろう。

 男女の仕事の区分けが曖昧になっているということなんだろうが、料理はアキロンも出来ないんじゃないか?


 ゆっくりと小さなカタマランが俺達のカタマランの横に停泊する。

 アンカーをアキロンが下ろす間に舷側の間に緩衝用のザルを3個ほど挟んで、船尾をロープで結んでおく。

 船首の方はアキロンが結んでくるだろう。


「ただいま、戻りました」

「お帰りなさい。疲れたでしょう? 直ぐに夕食になるわよ」


 ナツミさんが、俺達にぺこりと小さく頭を下げたナディに優しい声を掛けている。カタマランの屋根を伝って歩いてくたアキロンが甲板に跳び下りると、ナディの手を引いて俺達の甲板にやって来た。

 アキロンは俺達の輪に座り込んだけど、ナディはそのまま桟橋に歩いていく。疑問に思ってその先を見ると、トリティさんが手を振って呼び寄せている。どうやら料理が出来たようだ。


「トリティさん達に先を越されたわ。こっちはもう少し掛かるからね」

「美味いもんを食わせてくれよ。……どうやらレミネイ達も終わったようだ。少し輪を広げねばならんな」


 トリティさん達がナディに手伝ってもらい料理の皿を運ぶ。直ぐに、カゴに料理を入れてきたレミネイさんも俺達の前に皿を並べたんだけど、同じ料理が無いというのが凄いな。


「やっと出来た!」と言いながら、ナツミさん達はスープ鍋を俺達の中に下ろしたところで、ココナッツの椀や、真鍮の食器を配り始める。

 御飯はバナナ入りの炊き込みのようだけど、どうやら炊いたのではなくて蒸したようだ。少し硬いご飯になるんだよな。


 皆が料理を囲んで輪になったところで、夕食が始まる。

 まだ夕暮れには早いけど、このまま宴会に入るはずだから丁度いい頃合いだ。


「ほう、魚肉団子を揚げて餡かけにしたのか……。辛みがワインに丁度合うな」

「シーブルの唐揚げは久し振りだ。こっちはカマルの唐揚げだな」

「チマキも美味しいね。中に入ってるのって、クルミかしら?」


 普段は簡単な夕食だからね。昔は大勢で食べてたけど、こんなに集まったのは久し振りなんじゃないかな?


「ところで、漁はどうだったんだ?」

 

 バレットさんの急な質問に、アキロンが喉に御飯を詰まらせたようだ。ナディが心配そうに背中を叩き、ナツミさんがワインのカップを渡している。


「……そうですね。いつも通りでしたけど、グルリンの回遊に出会いましたよ。俺は2匹だけでしたが、ナディが6匹を突きました」


 アキロンの話に、全員に目がナディに向かった。ナディが思わず目を伏せてしまうほどだったけど、それほど銛の腕があるってことなんだろうな。


「グルリンを突くか……。俺やオルバスにもできるだろうが、3匹は無理だろうなぁ」

「かつてのカイト様は10匹以上突くことが出来たと言われているが、ナディがそれに近づいているとは……」


 バレットさん達は感心しているようだ。それほど突くのが難しいのだろうか?

 そういえば、俺は突いたことが無いんじゃないか? 参考までにどうやって突くかを聞いておいても良さそうだ。


「俺も聞いた時には驚きましたよ。素潜りではサンゴの裏を注意はしますが、後ろを見ることはあまりありませんからね。それにシーブル並みの敏捷さでしょう? あれならフルンネの方が容易く感じます」


 ラビナスの評価はそうなるのか? バレットさん達が頷いているところをみると、素潜りの獲物というよりは青物狙いの釣りで獲る獲物のようだな。


「まったくナディの底が知れんな。アオイ以上の腕を持つかもしれん。アキロンもうかうかできんぞ。まあ、夫婦なんだからその辺りは上手くやるんだな」

「私も突いたことがあるにゃ。神亀の背で漁をしてると簡単に突けるにゃ」


 トリティさんの言葉に今度はアキロンに視線が行った。


「神亀は無いですよ。でも近くにいたのかもしれません。一緒に行った連中全て大漁でしたからね」

「俺達も130Dを越えたからなぁ。最低でも80を超えている。2人で暮らすには十分な収入だったと思うよ。ましてや、雨期の漁だからね」


 話を聞くと2日目は豪雨だったらしい。朝の一時を素潜り漁にして、昼前からは根魚釣りだったということだ。

 2日目が丸々素潜り漁であったなら、さらに漁果が増えていたんだろうな。

 だけど、これでグリナスさんの評価も上がるんじゃないか?

 2年後のヒヨッコ達が楽しみだ。


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