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M-222 飲み過ぎた


 昨日からの漁の話を肴に話が弾む。

 砂浜に2つ作った焚き火の周りを男達と嫁さん達が別々に囲んでいるのは、昔からの風習なんだろうか?


 たまに風に乗って聞こえてくるおばさん達の笑い声を聞くと、どんな話に興じてるのかと興味が湧いてくる。


「さすがに聖痕の保持者だということだな。ワシ等もだいぶ釣り上げたし、まだまだバレット達より銛の腕があると思っていたんだが……」

「オネイの爺さんに負けたら俺が笑われてしまう。とっくの昔に俺の方が上だぜ」

「そうか? それにしては数が少ないようじゃが?」


 そんなことを言って爺さん達が笑い声を上げている。さすがにバレットさんも強く言い出せないみたいだな。オルバスさんは諦めたのか、カップの酒を黙って飲んでいる。


「まあ、昔は俺も爺さん達の腕を目指したんだが、この頃の若いもんは目先だけを見てるような気がしてな」

「長老達もそれを案じて、ラビナスとグリナスに託したんじゃろう。どうにか形になったところでラビナスを目指せばトウハの未来は明るいだろうよ」

「アオイを目指すのは、そもそも無理じゃろうな。その嫁は更に問題じゃ。ワシより多く突いてると聞いて驚いたぞ」


 漁には運不運が付きまとう。たまたま運が良かっただけなんだろうが、バルタックを9匹と聞いて皆が驚いていた。


「アオイを同行させるだけで、いつもより獲物の数が多いことも確かなようだ。ラビナスがアルティとマルティを別の船団にと念を押すのも頷けるな」

「おっ、ちゃんと見てるな。さすがは元筆頭だ。ワシ等のお守りを数年すれば役につけるだろうな」


「よせやい」と言ってバレットさんが頭を掻いている。

 早ければ、次のリードル漁を区切りにアルティ達は中堅の船団に仲間入りということになるんだろう。まだ20歳にもならないんだけど、その辺りの気苦労は無さそうだ。

 ラビナスの率いる船団から抜けるかどうかは、ラビナスと長老の話し合いで行われるらしい。グリナスさんの船団に加わるのが2年と区切られているのに比べれば少し問題が出てきそうな気もするけどね。

 いつまでもラビナスと一緒に行動することになったら、周囲の目が気になるだろうな。


「それよりもアキロンだな。グリナスがどこまで面倒をみられるかが見ものだぞ。すでに中堅の腕を越えている。さすがは聖姿を肩に描いて生まれただけのことはあるようだ」

「嫁を自分で連れてきたと聞いたぞ。トウハ氏族にあの娘はおらなんだし、他氏族の島に渡るにはあの船では小さすぎる。長老はトウハに加えると宣言したそうだが、どう見ても尋常の娘ではないな」

「その話は止めとくんだな。俺達も不思議を感じてはいる。だが、神亀に乗って漁をし、神亀を使って船を動かせる娘だ。俺は龍神の眷属だと思っているぐらいだからな」


 皆が敬う龍神に眷属が果たしているのかは、神学の世界になってしまいそうだ。アキロンが幸せに暮らせるなら、相手が誰でも俺には問題にならない。それはナツミさん達にも言えることだが、料理だけは課題が残ってるんだよなぁ。


「明日も、この漁場で良いのじゃろう? このままで行けば、明後日には帰島できそうじゃな」

「久しぶりの豊漁じゃな。おかげで腕がしびれてしもうた」


 老人達の話に頷きながらバレットさん達が酒を注いでいる。

 俺は、しっかりと魚を焼いているんだが、次々とトリティさんが串に刺した切り身の持ってくるから、焼き魚だけでお腹がいっぱいになってきた。

 全て食べるのは至難の業だろう。最後は皆で分ければ朝食に色が添えられるんじゃないかな。


 3時間ほどの宴会を終えたところで、ザバンでカタマランに渡る。

 少し飲み過ぎた感じだから、夜風に辺りながら渋めのお茶を飲んだ。


「だいぶ飲まされたねぇ。明日はだいじょうぶなの?」

「爺さん達の陰謀かもしれない。俺を潜れないようにしてバレットさんの上を行くつもりなんだろうな」


 俺の話にマリンダちゃんと一緒になって笑い声を上げている。本気なんだけどねぇ。


「そういうところがネコ族なんだよね。ちょっとしたいたずら何でしょうけど、その裏ではそれをまじめに考えてるんだから」

「私達で見返してやるにゃ!」


 マリンダちゃんの言葉に俺も笑い声を上げる。

 なるほどね。競争心はいつまでも、ということなんだろうな。そうなると、次はトリティさんだって参加しかねないぞ。

 神亀の覚えめでたい御人だから、ナツミさん達も苦労するんじゃないかな。


 翌日は案の定頭を押さえながらハンモックで寝ることになってしまった。

 マリンダちゃん特性の濃いお茶もあまり効果が出ない。ココナッツジュースで割った酒は飲み口が良いからなぁ……。かなり飲んでいたようだ。


「今日は私達で漁をするから、ゆっくりと寝てなさい」

「済まない。かなり飲んでいたようだ。昼には起きられると思うんだけど」

「これを飲んで寝てるにゃ。お母さん達には負けないにゃ!」


 半分笑い顔の2人だから、俺の心配はほとんどしてないんじゃないか? それでも、マリンダちゃんがお腹の上に竹の水筒を乗せてくれた。

 あの苦いお茶なんだろう。申し訳ないけど、ここは2人に任せるしかなさそうだ。

 漁にやってきて漁が出来ないというのは、何とも情けない話だ。次の出漁では、宴会の酒はカップ1杯だけにしておこう。

 調子に乗って飲み続けてしまったからなぁ


 甲板の方から海に飛び込む音が聞こえてきた。

 ナツミさん達が漁を始めたに違いない。明日は帰島するから、今日が最終日になるのだがこの体で潜ったら事故を起こしかねない。

 残念だけど、今日はここで揺られていよう。


 カタマランの小さな揺れが眠りを誘う。いつの間にか寝てしまったらしく、次に目を開けた時に聞こえてきたのは豪雨が家形の屋根を叩く雨音だった。

 いつ聞いても、雨音というよりはダンプカーが砂利を落とす音に似ている。それだけ雨粒が大きいんだろう。南方だからさすがに雹は降らないけどね。


「やはり起きてたの? 漁は中止ね。もう少し穏やかなら甲板から根魚が狙えるんだけど」

「無理はしない方が良いよ。雨は漁師の休息時間だからね。自然を相手の仕事なんだから無理は禁物さ」


 どうにか体を起こすと、朝から比べてかなり楽になっている。あの苦いお茶が効いてるのかな? 

 笑みを浮かべたナツミさんの後に付いて甲板に出ると、豪雨が辺りの景色を消していた。

 かろうじて数十m離れたカタマランが、ぼんやりと水面に浮かんでいるのが見える。


「これで4匹目にゃ! 豪雨だけど根魚の動きは良いにゃ」

「じっとしてられないみたい。そんなところはトリティさんに似てるのよね」


 マリンダちゃんがタープの下から竿を出して釣りをしている。

 お母さん達に負けないようにと頑張ってるんだろう。こんな豪雨に合うと、昔ナツミさんが作った甲板に穴を開けたことは先見の明があったんじゃないかな。

 皆が呆れていたから、その後の動力船に付けなかったのはナツミさんも反省したのかもしれないな。


 ナツミさんからお茶のカップを受けとって、タープの下のベンチに座ってマリンダちゃんの釣りを眺める。

 見ていると次々にブラドを釣り上げている。この豪雨で魚が活性化しているということなんだろうか?

 ナツミさんが、甲板でバタバタしているブラドを棍棒で大人しくさせたところで、口に指を入れて台に持って行った。

 捌くのはナツミさんが受け持ってるのかな?

 

「昼過ぎなのかな?」

「昼過ぎというより、もうすぐに日が傾き始めるわ。夕食は団子スープにするけど、食べられそう?」

「だいぶ楽になってきたよ。今日は本当に申し訳ない」


 俺の言葉に、ナツミさんが笑みを浮かべて首を横に振りながら包丁を使っている。


「トウハ氏族の洗礼の1つなんでしょうね。色々とあるみたいだから気にはしてないし、何となくおじさん達のやり方が子供じみてて……」

 話の途中で包丁を置いて笑い出してしまった。

 まあ、自分達の矜持を俺達に示そうということなんだろうけどね。俺がバレットさん並のウワバミだったら、どんな手を考えたんだろうな?

 そう考えた途端、俺も笑い声を上げてしまった。


「ね、おもしろいでしょう? とはいっても、昔はそれなりの腕を持った漁師達なんだから、今回の漁でも銀貨を手にするんでしょうね」

「グリナスさん並ということ? さすがに歳を取ってるんだからそこまでは無いんじゃないかな」

「油断は出来ないにゃ。お母さん達がやる気を出してるのはそれなりに腕があるって事にゃ」


 単なる年寄りの冷や水じゃないってことか? となれば今回の漁果が気になって来るぞ。

 昼間の漁をナツミさん達に任せてしまったからね。場合によってはオルバスさん達より漁果が出ないということもありえるんだよな。


「西が明るくなってきたにゃ! もう少しで豪雨が納まるにゃ」


 マリンダちゃんの言葉を聞いて西に目を向けると、確かに少し明るくなっている。ナツミさんの話しでは、夕暮れが近いということだけど、赤みはないな。

 急速に空が明るさを増すと、豪雨がピタリと収まり青空が広がり始めた。

 太陽が水平線にだいぶ近づいているけど、夕焼けが始まるのはもう少し時間が必要のようだ。


「私も始めるから、アオイ君はこのザルに獲物を入れてくれない? 数匹溜まったところで捌いていくわ」

「了解。ナツミさんが捌き始めたら、俺が替わるよ。少しは漁をしないとね」


 今日の漁はまだまだ続くのだ。かなり遅い参戦になるけど、俺も頑張らないとね。


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