表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
356/654

M-218 小さなカタマラン


 オルバスさん達の引っ越しが終わっても、俺達のカタマランに遊びに来るのはやはり船の大きさが小さいということなんだろう。

 遊びに来るのは構わないんだけど、バレットさん達は朝から酒を飲んでるんだよね。

 俺にも勧めるんだから困ってしまう。


「明日には船団が出航すると聞いたぞ。長く乗っていたから少し寂しくもあるな」

「違えねぇ。だが、これでのんびり漁を楽しめるわけだ。老いた連中ばかりだから、素潜りは余りできねぇだろうな」


 大型船と燻製船にザバンが荷を運ぶ様子を眺めながら、ココナッツジュースで割った酒を飲んでいる。

 自分達はまだ若いというように聞こえる会話だから、思わず笑みを浮かべてしまった。

 マリンダちゃんが更にジュースで薄めてくれたカップで顔を覆ったから、2人に気付かれることは無かったようだ。

 このまま、2人に付き合うのかと諦めていると、甲板の後ろから俺を呼ぶ声が聞こえた。


「アオイ、アキロン達の船を見に行かないか!」

 

 後ろに顔を向けると、グリナスさんがザバンを漕いでいた。オルバスさん達もおもしろそうにグリナスさんに顔を向ける。


「ヒヨッコの話は俺達も聞いたが、さすがは長老というところだな。トリティは心配してるようだが、レミネイ達は喜んでたぞ。俺達もグリナスなら協力してやれそうだ。頑張れよ」


 バレットさんの激励に、グリナスさんが頭を掻いて苦笑いを浮かべている。オルバスさんは難しい顔をしているけど、実の父親だからなぁ。トリティさんの心配もそこにあるんだろう。


「一応、俺達のカタマランに近い構造なんですが、安いですからねぇ。一応見てきます」

「そうだな。次の船は俺達のカタマランと同じ船になる。廉価版とはいえ、次につながらないようではおもちゃと変わらん」


 相変わらず固い口調だけど、それだけ若手の成長には一家言を持っているということなんだろう。

 グリナスさんも迷ったら、この2人に相談すれば良いんじゃないか? 前筆頭と次席の言葉なら若い連中だって聞く耳は持っているはずだ。

 2人に頭を下げて、グリナスさんの漕いできたザバンに乗り込む。

 新しいカタマランは南に作った浮き桟橋に係留してあるから、まだ若手も乗り込んでいないはずだ。


「朝から飲んでたのか?」

「あの2人ですから。助かりましたよ。あのままでは、明日はハンモックから出られませんからね」

「俺とラビナスは一安心だ。アオイに預けておけるからな」

「成績が良くないと、同行するかもしれませんよ?」

「脅かすない! ほんとに来そうで怖くなる。……おっと、着いたぞ。ロープを頼む」


 甲板に乗り移ったところで、舷側にロープを結んだ。いつの間にかザバンが流されてたりしたら、皆の笑い者になってしまう。

 グリナスさんが甲板に乗り込んだところで、先ずはカタマランを一回り見てみるか。


 全長は3FM(9m)に少し足りないようだ。ザバンを船首に乗せて、船尾に1FM(3m)ほどの甲板がある。操船楼は小さなものが家形に半分入るような形で設けられているけど、若い夫婦2人だけだから家形は十分な広さだ。甲板の横幅は1FM半(4.5m)ほどだ。カタマランに似せているけど、実際はトリマランで甲板の真下にザバンの半分ほどの船が付いている。それに6石の魔道機関が1つ搭載されているのだ。


「甲板の後ろは板が外れるんだな。その左右にベンチがあるのは俺達と同じだ。操船楼の下にある倉庫も十分だろう。扉の枠にタモ網を置けば良い」

「左右に曳釣り用の竿を差す金具もありますよ。俺達はリール竿を使いますが、手釣り仕掛けを流しても問題ないでしょう。俺もいつかはマーリルを手釣りで狙いたいと思ってるぐらいですからね」

「基礎をきちんと教えれば、マーリルさえ狙えるってことか? 俺達はリール竿を使ったんだが、5M(1.5m)ほどの小さな奴で苦労したよ」


 リール竿と手釣りのどちらが優れているか……。俺にはいまだに結論が出ない。爺様は最後まで手釣りだったが、あの年代だからリール竿の良し悪しの判断は出来なかったのかもしれない。だけど、かなりの大物でも両手でやり取りしてたんだよな。


「真似事ぐらいはやっておくべきかもしれないな。2本を出して取り込みの練習は必要だろう」

「バルやシーブルで練習ですか。たまに大型も出ますからねぇ。船を停めて協力しなければいけないような獲物が掛かるかもしれませんよ」


 嫁さん2人なら問題は無いのだろうが、2人目を貰うのはラビナスに教えを受ける連中の筈だ。

 そうなると本格的な曳釣りができるはずだから、曳釣りの要領を教えるだけで済むんじゃないかな。


「俺達にもそんな時があったんだよな。操船楼からカリンが跳び下りてタモ網を使ってくれたんだ」

「同じです。船をちゃんと停めたのか心配になったことが何度もありました」


 曳釣りは広い場所で教える必要があるだろうな。停めたつもりが動いてたなんてことになったらサンゴにぶつかってしまいそうだ。


 操船楼に上がってみると、魔導機関の出力を調整するレバーと舵輪があるだけのシンプルな構造だ。これなら操船に戸惑うことも無いだろう。

 保冷庫は甲板の左右に2つある。1つで背負いカゴ1つ分以上入りそうだ。2つあるから1つを野菜庫にするんだろう。水瓶は少し小振りだけど水汲み用の容器で3杯は入りそうだ。2人暮らしなら十分すぎる量と言えるだろう。


「さすがにカマドは2つ出来なかったみたいだな」

「あまり凝った料理も作れないでしょうから、これで十分でしょう。帰れば親元で一緒に食事が取れますよ」


 俺達もそんな時代が長く続いていた。今でもトリティさん達が同行すると聞けば笑みが浮かんでしまうんだよね。


「さて、そうなると先ずは曳釣り用の竿だな。それぐらいは準備してやろう」

「先端のフックは俺が用意しますよ。あまり子供達に費用を出させたくありませんからねぇ」


 1個5Dもしないからね。接着剤と太いタコ糸は色々使えるから、少し余分に買い込んでおこう。


「それで、船はいつ決まるんですか?」

「今日には分かるはずだ。昼食後に長老のところに来るよう世話役から連絡があったんだ」


 ザバンに乗り込み、桟橋に向かう。

 自分のカタマランを眺めるとバレットさん達の姿が見えない。かなり酒を飲んでいたけど、自分の船に戻ったんだろうか?


「後で相談に来るぞ!」と言ってグリナスさんはザバンを漕いで行った。色々と大変だな。俺も色々と用意しておいたから、それを出しておくか。

 家形の屋根裏に置いといたおかず用の竿を取り出していると、ナツミさんが顔を出した。

 家形の中でナディ達の荷物を整理していたようだ。


「あら、帰って来たの? バレットさん達は老人と一緒に浜に出掛けたわ。向こうも向こうで忙しそうね」


 笑みを浮かべているのは、アキロンとバレットさん達の行動が一緒なのがおもしろいということらしい。

 ということは、浜の日陰にいる若者達の中にアキロンがいるってことなんだろうな。


「新しい船は小さいけれどそれなりに使えそうだ。魔道機関の出力レバーと舵輪があるだけの操船楼だから、ナディも戸惑うことは無いだろう。帆柱の無い船に行ったから、帆走ができるかは分からなかったよ」

「帆走はアキロンが出来るからだいじょうぶよ。それで、おかず用の竿を贈るのね?」

「この外に、根魚用の仕掛けと餌木を1つずつだ。持ってはいるだろうけど、多い分には心強いはずだからね」


 笑みを浮かべたままで頷いているのは、過保護だと思っているのかな?

 元々が暇つぶしがてらに作ったものだ。これぐらいは良いんじゃないかな。


「今日の夕方にはアキロンがどの船に乗るかが分かるらしい。アキロンの船だと一目で分かれば良いんだけどね。だけど、乗るのは2年ほどだから塗装するわけにはいかないだろうな」

「考えてるわ。だいじょうぶよ」


 何を考えてるかは、教えてくれないんだよな。まあ、直ぐに分かることなんだけどね。

 家形の中から、マリンダちゃん達が出てきたから、昼食の準備が始まるんだろう。おかず用の竿を家形の舷側に紐で吊り下げて、直ぐに持ち出せるようにしておく。仕掛けや餌木も簡単に紙で包み、手提げカゴの中に入れておく。


 昼食が終わってお茶を飲んでいると、桟橋を浜に向かって行くグリナスさんが片手を上げて挨拶してくる。


「出掛けるんですか?」

「直ぐに戻って来るさ。そうだ! ブリッツが曳釣り用の竹竿を持ってくるはずだ。2人でどうにかしてくれないかな?」

「構いませんが、ヒヨッコの数は?」

「6家族と聞いている。1隻余ってしまうけど、それは老人達が使うかもしれないな」


 12本ということか。少し多い気もするけど途中で壊れることが無いように丈夫に作ってやろう。

 だけど、老人達も使うとなれば今後はあのカタマランの数が増えるのかもしれないな。

 小屋は小さいけれど3人なら余裕で暮らせるはずだ。

 待てよ、そうなるとカマド1つに文句が出そうだ。その辺りのことも考える必要があるかもしれないな。


 やがて、背負いカゴに竹竿を入れた2人が俺を訪ねてきた。1人はグリナスさんの友人のブリッツさんだが、もう1人の名前が思い浮かばない。


「グリナスに届けるように言われたんだが、これでいいだろう。俺がグリナスと一緒に教えることになったんだ」

「俺のところのアキロンが厄介になりますから、よろしくお願いします。ところで、そちらの方は?」

「弟のケイナスだ。初めてだろうが、よろしく頼むよ。ほら、お前からも挨拶しとけよ。我等トウハ氏族の聖痕の持ち主、その人だからな」


 兄貴に促されて、どうにか名前を言ったけど、顔が真っ赤だぞ。人見知りする性格なんだろうか?


「グリナスさんから6人だと聞いてます。曳釣り用の竿ですから、先端にこのフックを取り付けて接着剤で固めれば長く使えるでしょう。2度塗りしますから手伝ってください」

「良いぞ。お前も手伝え。俺達はこの仕掛けだが、アオイの竿は少し違ってるんだ。後で見せて貰うんだな」


 弟の面倒を今でも見てるんだろうか? 中々良い兄貴じゃないか。

 ヒヨッコの指導なら、確かに適任だろうな。

 家形の中からは笑い声が聞こえる。トリティさん達が遊びに来てるからスゴロクでもして遊んでいるんだろう。

 その内に、顔を出したらお茶を頼めばいい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ