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M-217 アキロン達のカタマランがやって来た


 リードル漁が近づいているから、遠出をせずに近場の漁場で漁をする。

 グリナスさんが一緒なのは、リードル漁を終えた後に控えている、ヒヨッコ指導の予行というところなんだろう。

 アキロン相手に色々と話をしていたからなぁ。

 カリンさんもナディに料理を手ほどきしていたけど、あまり上達する見込みは無さそうだ。


「だいたい、俺達が漁をする場所は覚えたし、海図にも落とし込んである。漁場によって漁法を変えるのも理解したつもりだ。これで、一通りの漁法を教えることができるよ」

「乾期と雨期を2回ずつ経験すれば、ラビナスに引き渡しても十分に漁ができるでしょう。ラビナス達は島から1日半以上の場所で漁をしますからねぇ」


 グリナスさんの漁場は型が前と違って良くなっているが、中型止まりだ。大型の魚を対象とする漁の方法はラビナスに任せることになるのだろう。

 そういう意味でハリオを突きに向かうのは、グリナスさんの指導が終わる最終日として位置付けがなされるようだ。

 大型を突くのは今までとは異なる。ということを感じられれば十分だと思う。とは言っても、1匹ぐらいは何とかして欲しいところだけどね。


「根魚に青物それに素潜りを教えれば良いのだろうが、曳釣りは教えなくともだいじょうぶかな?」

「近場ならそれなりの魚が釣れそうです。それと延縄を組み合わせれば獲物が何もないということにはならないでしょう」


 あまり真剣に考えられても困る話だ。この辺りならこの漁法で獲物が獲れるぐらいに教えるのが一番だと思うんだけどねぇ。グリナスさんは面倒見が良いから、自分の漁も忘れて指導しそうな感じだな。


「俺からということで、根魚用の仕掛けと、おかず用の竿を全員に贈ります。曳釣り用の仕掛けぐらいは、最初のリードル漁で揃えられるでしょう」

「ちゃんとタモ網を用意してくるだろうか? 自分の船を持てるから、舞い上がってなければ良いんだけどなぁ」


 そんな話を度々するようになってきた。

 たまにラビナスやネイザンさんも混じるから、やはり長老達がこの3人の指導を楽しみにしているということなんだろう。


 リードル漁が1週間後というところで、遠くで漁をしていたバレットさんやオルバスさんが帰って来た。

 リードル漁には俺達のカタマランに相乗りするのだろう。一応次のカタマランを頼んだようだが、まだ届いていないらしい。

 改めて漁には出ずにリードル漁を控えて、入り江にたくさんのカタマランが浮かぶのを目を細めて眺めている。


「いつ見ても壮観だな。俺達もようやくお役御免らしいが、妙な依頼を受けてしまったなぁ」

「仕方あるまい。素潜りを終える歳になってしまった。まだ漁ができる連中と一緒に近場で楽しめるなら十分じゃないか?」

「そういうこった。だが、カタマランの魔道機関は2つある。前と比べれば速くは無さそうだが、島から2日を越えることはできそうだ」


 まだまだ現役って感じだな。どうせ釣るなら大きい方が良いと互いに思っているのも問題に思える。できればグリナスさんの選んだ漁場の反対側を目指して欲しいんだけど、そんなことを言った日には「年寄り扱いするな!」と怒られそうだ。

 全員55歳を過ぎた高齢者船団なんだけどねぇ。あまり無理しても困るんだよな。そんな無茶をしないように俺を仲間に入れたんだと、長老の考えが良く分かってしまう2人の会話だ。


「アオイも貧乏くじを引いたようだが、あちこち出歩いていたから文句も言えなかったんだろう。だが、俺達にはありがたい話だ。聖痕の持ち主と一緒であれば不漁は無いからな」

「アルティ達も上手くやっているようです。グリナスさんにはアキロンが一緒ですから、ネイザンさんが気にしてましたよ」

「ネイザンも、張り合う様じゃねぇと様にならんな。話の外になってきたら、双子の内成績の良い方をネイザンに任せれば良いだろう」


 バレットさんの話しにオルバスさんが頷いているけど、それは最後の手段だろうな。何のための筆頭なのか分からなくなってしまいそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 雨期前のリードル漁を無事に終えて氏族の島に戻った時には、3隻の商船が真新しいカタマランを曳いて俺達を待っていたようだった。

 中型のカタマランが2隻に、小型のカタマランが7隻、その内の3隻は帆柱を持ったカタマランだ。

 いよいよ漁師の育成が始まるのだと思うと、何となく心が躍る。


「俺とバレットのカタマランもあるようだな。トリティには残念だが魔道機関は6石だぞ」

「前のカタマランでだいぶ楽しめたにゃ。速く航海したい時はアオイのカタマランに乗せてもらうにゃ」


 トリティさんもようやく落ち着いたということなのかな? リジィさんが俺に顔を向けて首を振っているところをみると、そうでもないらしい。


「あっちの小さなカタマランがアキロン達の船ね。帆柱も丁度いい感じね。あれで曳釣りをしたら良いかもよ」

「スクリューが騒音を立てることが無いからな。案外、数を上げられるかもしれんぞ」


 案外そうかもしれないな。ナツミさんのお父さんがヨットに曳釣りの道具を積んでいたのも、それが原因なのかもしれない。


「だとしたら、カタマランに三角帆を付けるのも良いかもしれませんね。オルバスさん達の船ならそれを確かめられるんじゃないですか?」

「風任せで曳釣りというのもおもしろそうだな。まだ商船がいるはずだ。どれ、確認してくるか……」


 桟橋に近づいたところで、オルバスさんが身軽に甲板を飛び降りて行った。

 トリティさん達がちょっと呆れた表情でオルバスさんを見送っているけど、今度のカタマランがヨットになるかもしれないと内心では喜んでいるんじゃないかな。


「またトリティさん達と御一緒出来ますね」

「年寄りばかりにゃ。でも漁ができるなら楽しく暮らせるにゃ」


 ナツミさんの言葉に、トリティさんの視線の先には商船が運んできたカタマランがあった。

 まだティーアさんが小さかったころには、あの大きさのカタマランだったんだろう。3人ほどで暮らすには十分な大きさだ。俺もあれぐらいが丁度良いと思うんだけど、この船はどう考えても2倍以上の大きさがある。


「雨期の終わりにまた出掛けましょう。今度は曳釣りでマーリルを狙えます」

「あの大きな魚にゃ? 燻製船では、今でもその話が続いてるにゃ!」

「大きかったにゃ。でも、あの後は皆小さかったにゃ」


 やはりこのカタマランはカジキの曳釣りに特化してるんだ。ナツミさんも俺達の漁を素潜りから釣りに変えようとしているのだろうか? まだまだ銛の腕が鈍ることはないと思うんだけどねぇ。


 カタマランを桟橋に停泊させると、トリティさんが商船に向かった。アキロン達もそわそわして落ち着かないけど、カタマランの引き渡しは2、3日後になるんじゃないかな。


「ナディ、一緒に出掛けましょう。マリンダちゃんも出掛けられるよね」

「だいじょうぶにゃ。足りない食器と調味料は、早めに揃えといた方が良いにゃ」


 家形からカゴを背負ったマリンダちゃんが現れたところで、3人が出掛けて行く。

 俺とアキロンでお留守番かと思ったら、アキロンも桟橋を下りて行った。友人のところ炉に向かったんだろうな。いよいよ一緒に漁に出掛けられるんだし、友人が選んだ嫁さんを確認したいというところかもしれない。


 そんなアキロンを笑顔で見送っていたのはリジィさんだった。かつてのラビナスの姿を思い出してたのかもしれない。

 アキロンの姿が見えなくなったところで、ココナッツの実を割って1つを俺に渡してくれた。


「ラビナスが今では若手の指導にゃ。私も歳をとったにゃ」

「まだまだ老人には早いですよ。10年は漁で暮らせるはずですからね」

「10年は直ぐにやって来るにゃ。その時にはラビナスに世話を頼むにゃ」


 パイプを咥えてタバコを楽しみながら、リジィさんの話しに聞き入る。

 俺も、アキロンのところで世話になるのかもしれないな。だけど元気な内は、近場で漁をしていたいものだ。


「私達と一緒は少しかわいそうにゃ。たまには伸び伸びと漁をした方が良いにゃ」

「そんなことをしようものなら、トリティさん達が黙っていませんよ。でも、たまには昔のように漁をしたいですね」


 リジィさんも同じ思いなんだろう。俺に顔を向けると頷いてくれた。


 夕暮れ近くになって、ようやくナツミさん達が帰って来た。出掛ける時にはマリンダちゃんがカゴを背負っているだけだったけど、帰って来た時にはナツミさんまでカゴを背負っている。いったいどれだけ買い込んできたんだろう?


「とりあえず1式揃えたよ。漁に必要な漁具はアキロンで良いのよね。銛と釣り竿があればどうにかなるんでしょうけど、足りない物が無いか確認する必要がありそうね」

「今までも近場で漁をしてたんだから、一通りは揃ってるんじゃないかな? ナディも根魚用のリール竿と銛を1つ持ってるからね」


 無いというなら、曳釣り用の仕掛けに延縄用の仕掛けぐらいじゃないかな?

 延縄の仕掛けは予備があるから、それを渡しても良さそうだ。曳釣りはカタマランを見ないと何とも言えないな。場合によっては手釣りで曳釣りをしても良さそうだ。

 グリナスさんを連れて、明日にでもヒヨッコ達のカタマランを眺めて来るか。ひょっとして竿受けすらないかもしれないからね。


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