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M-216 漁の指導者達が決まった


 ほとんど1カ月近く氏族の島を留守にした感じだ。

 到着したところで漁果をナツミさん達が背負いカゴに入れて運んで行った。その後は、カヌイのおばさん達に挨拶に行くのだろう。マリンダちゃん達は、グリナスさんのカタマランが桟橋に泊めてあったから、ナディを連れて遊びに行くと言っていた。アキロンは先にグリナスさんのところに向かったようだ。

 俺も、早めに長老のところから帰って合流しよう。

 

 砂浜の店から島の奥に続く道を歩き、長老の住むログハウスに着いた時には、小さな広場のココナッツの木陰にあるベンチに座って汗を拭った。


 この広場も、ナンタ氏族の広場と似た感じだな。小さな広場だけど、南に向かう道の先には野菜畑があるし、途中には老人達が暇をつぶしている炭焼き小屋や燻製小屋がある。

 東に続く道の先には十数戸の小さなログハウスが作られ、漁で暮らしを立てない人達が暮らしているのだ。

 食料や、燻製品を納めた倉庫はこの広場に面した東側に建っている。

 配置は少し異なるけど、物流は活発らしい。背負いカゴで荷を運ぶ女性達がさっきから俺に軽く頭を下げて行き来してるから、俺も軽く頭を下げて挨拶する。

 俺達の島にもリフトが必要かもしれないな。ナンタ氏族ほどではないが、津波前から比べると、可能な限り内陸に施設を移しているからね。


 長老達の暮らすログハウスに入ると、長老達に頭を下げていつもの席に腰を下ろす。

 ネイザンさんが来ていたのには驚いたけど、今では立派な筆頭だからね。漁に出ない時にはなるべくここにいる状況になっているのだろう。


「長旅じゃったな。それでどうであった?」

「南の島ほどの距離まで近づいて見てきました。相変わらず噴煙を上げてはいましたが、俺には穏やかに感じました。大型のハリオが回遊してましたが、さすがに漁をすることはできませんでした」


「しばらくは安心できるということじゃな。とはいえ、油断は出来ぬ。昔のように渚近くに小屋を建てるにはいかんじゃろう」

「船で暮らすのなら一緒に流されるだけじゃ。転覆しない限り問題はあるまい。あの津波が入り江の岩場を越えた時には呆然と見ていただけじゃったが、カタマランの多くがそのまま島の奥に流されただけじゃったからのう」


 それでも、被害はあったのだ。

 それを考えれば多少の不便は我慢することになるんだろうが、荷運びをする女性達に不満は無いんだろうか? ナツミさん達は浜の店まで漁果を運ぶだけだからなぁ。前と同じ何だろうけど、そこから先の荷役は大変だと思うんだけどねぇ。


「ナンタ氏族は浜から高い場所に居を移しています。それは分かるんですが、かなりの坂を上った先に施設を作ってました。不便を解消するために、リフトという物を教えてきたのですが、俺達の島にも使えそうです」


 ロープを輪にして、途中にフックを繋ぎ、ろくろでロープを回転させる。途中のロープを支える柱の構造が少し面倒だが、図面を描いてナンタ氏族に渡してあるから商船のドワーフ達なら容易に形にしてくれるだろう。

 一通りの説明をすると、長老の顔に笑みが浮かぶ。


「おもしろそうな仕掛けじゃな。ナンタ氏族で上手く使えたなら、我等の島に取り入れても良さそうじゃ。カヌイの婆さん達が広場までの荷役を猟師の嫁に任せるように言ってきておる。やはり荷役の労力は大変なのじゃろう。それを分散させるとなれば、今度は筆頭から文句が出そうじゃったからのう」

「店で荷をフックに吊るせば、広場まで移動できるのか? さらに別のリフトを作って、燻製小屋と倉庫を結ぶことになるんだな?」


 ネイザンさんの質問に頷くことで答えたが、いくつリフトを作るのかはじっくり考えて欲しいところだ。

 便利ならば、畑の一角にまでリフトを伸ばすことも視野に入れるべきだろうし、桟橋から浜の店までの運搬も考えなければなるまい。


「一月もすれば、リードル漁目当ての商船も来るはずじゃ。昔と違って商船の品数も増えたようじゃな」

「食料や、魚を運搬する船が別になっているようです。嫁達も昔と違って衣類の品数が増えたと喜んでいます」


 ネイザンさんの後ろの男が話をする。顔は覚えているんだが名前が出てこないな。確かネイザンさんの友人の筈だ。


「それより、リードル漁が終われば、小型のカタマランが増えることになります。指導は、リードル漁前に帰って来るグリナスということでよろしいですね?」

「グリナスなら問題なかろう。グリナスに2年ほど指導をさせた後に、ラビナスに受け継がせる。ラビナスが2年指導すれば、トウハ氏族の漁師として十分な腕を持つことができるだろう。その後は、小さな船団を自由に作らせればいい。その指導はネイザンに頼むことになりそうじゃ」


 とはいっても、グリナスさん1人では荷が重そうだな。ラビナスも友人に手伝ってもらっているから、グリナスさんも友人の協力を得ることになるのだろう。となると俺の役目は?


「バレット達もそろそろ素潜りから足を洗うのじゃろう。じゃが、釣りなら十分に漁果を得られるはずじゃ。ラビナスの指導を離れて、漁果が思わしくない若者の指導は彼らに任せることになるじゃろうが、それにアオイも加わってほしい。素潜りを教えてくれれば十分じゃ」

「バレットさんと一緒なら、あまり役に立ちそうにも思えませんが?」

「まだまだ他の役を押し付けるわけにもいくまい? バレット達のお守りが役目じゃな」


 まだまだ元気だから、島に常駐なんて出来ないだろうってことか。不満を上手く受け止めなくちゃならないのが問題だ。


「バレットさん達の采配で動けば良いんですね?」

「そういうことじゃ。中堅の腕を持たせてほしい。バレット達にはワシ等からも伝えておくが、本音は先ほどの言葉じゃよ」


 本人が聞いたら怒り出すだろうけど、ここにはいないだろうし告げ口をするような人物も思い浮かばない。

 ちゃんと手綱を握れるかが問題だが、俺を評価してくれる人達だ。相談に乗るスタンスを保っていれば良いのかもしれない。


「そうそう、忘れるところでした。南の水路の西側にも良い漁場があります。およそ1日の航程に、2つほど漁場を見付けました。サンゴの穴と溝のようなものでしたが、2日の漁で背負いカゴ3つ分ほどの漁果を得ることが出来ました」


 長老が取り出した海図に、おおよその場所記すことで、ネイザンさん達も位置を知ることができるだろう。

 頷きながら海図を眺めているから、早速出掛けることを考えているに違いない。


「南の水路で左右に向かう連中はいないからなぁ。水路を越えれば大型がいると皆が考えているが、越えなくとも中型が揃うなら中堅の連中に喜ばれるだろう」

「アオイのおかげでトウハ氏族の島を中心とした漁場の位置がかなり特定できておる。かつてのように一カ所に集中せずに漁を行えば魚が小さくなることもなかろうよ。他の氏族もアオイを真似て漁場を探っているようじゃが、我等の海図が一番正確じゃな」


 ナツミさんがコンパスを使って島立てをしているからねぇ。目標となる島も特徴をかき込んでいるから、初めての漁場でも迷うことは少ないだろう。

 他の氏族はどんな形で自分達の漁場を押さえているのか、ちょっと興味もあるけれど、長老が性格だというぐらいだから、色々と問題があるのだろう。


「来月にはリードル漁が始まるぞ。銛を研いでバレット達の帰還を待てば良い。ネイザンにはラビナスの指導を頼んだぞ」


 そろそろ伝えるべきことは伝えたから退散するかな。

 だけど、ラビナスを指導するとはどういうことだろう? 今では若手を指導しているのだから、いまさらに思える。

 皆に頭を下げて、長老の部屋を出るとカタマランに足を向ける。

 ナツミさん達も帰ってるんじゃないかな。


 カタマランで俺を待っていたのは、グリナスさんとグリナスさんの友人達だった。

 すでに酒を飲んでるみたいで、帰った俺に酒のカップが直ぐに渡される。


「ナツミさんとマリンダは俺の船に行ってるよ。これを渡されてお前の帰りを待つように言われたぞ」

「申し訳ありませんでした。長老に挨拶してきたところです。次のリードル漁が終わればグリナスさんの指導が始まると言ってましたよ」

「それでお前のところに来たんだ。到底、俺1人じゃ無理だからこいつらに協力してもらう。もっともどちらかは大型船団に組み込まれることになっているが、まだ長老が悩んでるみたいなんだ」


 グリナスさんよりは腕が上だからどちらを選んでも問題は無いはずだ。家庭の事情で決まるかもしれないな。


「俺はバレットさん達と、ラビナスの後を引き継ぐことになります。引き継ぐと言っても、中堅にはちょっと腕が伴わないという連中を相手にすることになるんでしょうが」


 3人がうんうんと頷いている。いくら指導をしても落ちこぼれが出るのは致し方ない。今までは他の船団で面倒を見ていたのだが、他者と比べて明らかに腕が劣っているなら、一緒に出掛けても漁果がそれほどでないからなぁ。

 卑屈にはならない人達だけど、心の中でのもやもやぐらいはあるんだろう。そんな連中を纏めてバレットさん達で面倒をみることになるのであれば、比較的容易に獲物が得られる漁場が望ましい。そんな漁場はグリナスさんやラビナス達の指導の場でもあるんだよな。


「お前が前に言ってた、底辺に位置する連中だな? 俺もお前と一緒に漁をすることが無かったなら、その位置だろうな。カリンと一緒になれたかどうかも怪しいところだ」

「そんなことは無いですよ。俺もグリナスさんには色々と世話になってきましたからね。長老もそれをかってグリナスさんにヒヨッコを任せるんだと思います」


「昔は、良い漁師に弟子入りして腕を磨いたらしい。そんな風習が廃れたからこんなことになったんだろうけどな。だけど今思えばラビナスはアオイに弟子入りしたようなものじゃなかったか? 俺も早々に嫁を貰わずにアオイと一緒に船に乗っていたらもう少しマシになってたかもしれないと思うんだよな」


 今更の話だから、どうしようもないことだ。

 だけど、昔は個人指導を受けることができたんだ。なぜに廃れたのか分からないけど、俺には良い教育手段に思えるけどねぇ。


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