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M-215 大漁とは?


 水路の西で見つけたサンゴの穴で漁をする。

 俺とアキロンで素潜り漁をすることになったのだが、ナディはザバンの操船だ。途中、何度かアキロンと換わっているけど、俺と同じぐらいに魚を突いている。

 

「母さん達はカタマランで根魚を釣ってるのかな?」

「じっとしてるのは嫌いな2人だからね。ブラドが濃い場所だから、案外根魚釣りでも数を出してるかもしれないぞ」


 ザバンから浮きを取り出して、それに掴まりながら一休み。

 ナディが渡してくれたココナッツのカップには冷たいお茶が入っていた。ずっと素潜りをしていたから、お茶が甘く感じられる。


「次は私の番!」

「交代か? 良いよ。右手の方が大きいのがいるぞ」


 次はナディの番ってことかな? 俺の交代は無いようだから、もう少し頑張るか。


 昼を過ぎたところで素潜り漁を終えてカタマランに帰ると、ナツミさんがブラドを捌いている最中だった。

 やはり、根魚釣りでも数が出たんだろう。


「お帰り。たっぷり釣れたわよ。午後はアオイ君達に任せるわ」

「だいぶ突いてきたにゃ! 午後は忙しいにゃ」


 他のザバンの2倍はありそうな大きな保冷庫から、マリンダちゃんとナディがカゴに獲物を放り込んでいる。これで何個目なんだろう? 一段落しないと昼食にはなりそうもないな。

 少し離れた船尾のベンチに腰を下ろして、パイプを取り出した。

 大漁だから、気分も良い。いつもこのぐらいの漁を皆が出来れば良いのだが、人様々だからなぁ。

 なるべく差が出ないように、いくつかの船団を組んで漁をしているのだが、それでも漁で得た収入に差が出るようだ。

 ネイザンさんは「その差が2倍にならないように調整している」と言っているけど、上手い下手の個人差はあるし、運不運もあるからな。

 そう上手く調整は出来ないということなんだろう。


 それを長老達も憂いているのだろう。若手の指導をラビナスに任せているし、次のリードル漁からは、ヒヨッコ達をグリナスさんが指導する体制を考えたみたいだ。

 幼友達同士で競い合うのも良いけれど、ちゃんとした指導も必要と判断したに違いない。

 その結果が表に現れるまでには月日が必要だろうけど、上手く行けば他の氏族にも教えてあげるべきだろう。


「昼食、出来たよ!」


 ナツミさんの嬉しそうな声で、カマドに顔を向けるとマリンダちゃんが深皿に出来た料理を盛っている最中だった。

 アキロンが運んだ木箱に、マリンダちゃんから深皿を受け取ったナディが運んでいる。

 数年前まではアルティ達がそんなことをしてたんだよね。


 木箱の前に腰を下ろして、深皿を見ると美味しそうな焼き飯にスープを掛けたリゾット風のご飯だ。

 皆が揃ったところで、「「頂きます」」の声と共に食事を取る。

 昼食が美味しく感じるのは、大漁のせいだけではないだろう。ナツミさん達の料理の腕が上がっているんだろうなぁ。


「こんなに獲れるとは思わなかったね。ラビナス君に教えてあげないと」

「南の水路を前に横に逸れる船団はいないんだろうな。大型を目指して水路を抜けるのがほとんどだと思うよ」

「中型にゃ。でも1YM半(45cm)はあるにゃ」


 ある意味、料理に丁度良い大きさだ。

 銛を自慢する連中は、どうしても大型を突きたくはなるが、料理をする女性達にすれば2YM(60cm)を越える魚を調理するのは面倒かもしれないな。それだけ肉厚になるから火加減だって気にしないといけないだろう。


「夕食までは、根魚を釣りますか? 3人で行えば10匹以上にはなるかもしれません」

「それで良いだろう。ナツミさん、ザルの数は足りるのかな?」

「8つあるはずだから、十分じゃないかしら? 俎板代わりの板も使えるはずよ」


 さすがにそれは無理だろう。保冷庫に入れて明日の朝から陰干しで良いんじゃないかな。

 

 食事が終わってお茶を頂くと、俺達は根魚釣りを始める。

 ブラドが豊富だから棚を浅くとるのだが、最初のブラドを釣り上げたのはナディだった。ちょっと出遅れたな。アキロンと顔を見合わせて小さく頷く。俺達だって舞えるわけにはいかないのだ。


「夕食は唐揚げを作りたいから、カマルをお願い!」

「カマルは私が……」


 ナディがリール竿をしまい込んで、アキロンのおかず用の竿を取りだした。

 これで、俺とアキロンだけの漁になってしまったが、ぽつりぽつりと当たりが出る。しっかりと取り込んでいるから、それなりの数に放ってるんだろうな。

 マリンダちゃんが、釣り上げたブラドを棍棒で大人しくさせてナツミさんのところに運んでいるから、いくつ釣り上げたかさっぱり分からない。

 ナディは、良型のカマルを数匹釣りあげたところで竿をしまって、ナツミさん達の手伝いをしている。


 夕日が沈む前に、一端根魚釣りを止めて一息入れることにした。

 ナツミさん達もどうやら魚を捌く仕事が一段落したようで、俺達の様子を見て親の用意を始めている。


「ご苦労様。やはり良い漁場ね。もう1日漁をすれば、大漁旗を立てて氏族の島に帰れるわよ」

「さすがに大漁旗はこの世界に無いようだ。だけど作ってもおもしろそうだね」

「う~ん、どうしようかな? あの旗って、染め物なんだよね。作れるかどうか確認しないといけないし、大漁ってどうやって判断するの?」


 大漁の判断ねぇ……。確かに微妙なんだろうな。いつもより多く魚が獲れれば、それだけで大漁と言えるんだろうか?

 魚をたくさん獲っても、バヌトスではあまり売り上げにならないんじゃないかな?

 それを考えると、銀貨1枚以上の売り上げが期待できる漁果となるのだが……。面倒だから誰も船の上でそんなことは考えないだろう。

 それを考えると、気分で上げれば良いようにも思えるけど、そうなると勘違いする連中も出てきそうだ。


「長老にでも考えて貰おうよ。とはいえ、旗ができるかどうかぐらいは、ナツミさんが商船に行った時にでも聞いてくれないかな」

「だよねぇ……。もう少し、漁師のおじさん達やお父さんに聞いておけば良かったな」


 反省してるみたいだけど、俺も爺様に聞いとけば良かったと思う。

 聞けば、ちゃんと答えてくれる爺様だったからなぁ。たまに、爺様と長老が被る時があるんだけど、俺もそれだけネコ族として過ごした年月が長くなったということに違いない。


 夕食は、ナツミさんの宣言通り、カマルの唐揚げだった。

 ぶつ切りにして素揚げにしたところに魚醤を掛けただけなんだけど、海の上で食べる味は格別だからね。

 大漁だから、夜釣はせずに保冷庫から浅いザルに魚を並べて家形の屋根に干す。空は満点の星だ。雨が降る心配はさらさらない。

 作業が終わったところで、皆でワインを頂きハンモックに入る。


 翌日は、前日と同じように素潜り漁を行うことになったけど、アキロン達をカタマランに残して、ナツミさん達がザバンと素潜りで挑むことになったようだ。

 アキロン達はカタマランでのんびりと根魚を狙うと言ってたが、ナディは釣りも得意だからな。俺達より数を上げるとなれば俺達の矜持が辛いことになりそうだ。

 ナツミさんが銛を片手に先行して潜っていく。その後を俺も急いで追い掛けた。


「3人で20は突いたにゃ。大物もいるにゃ」

 ザバンで休憩しているとマリンダちゃんが嬉しそうに呟いた。


「まだまだ、時間はあるわ。少し深いところにバルタスもいたのよ。次はあのバルタスを突かなくちゃ」

「無理はしないでくれよ。競争してるわけじゃないんだからね。生活の糧を手に入れれば十分だ。足りなければリードル漁で何とでもなる」


 俺の言葉に2人がフルフルと首を振っている。

 魔石は別の用途があるってことなんだろうけど、まだカタマランを新調したばかりじゃないのか?


「常に1隻分を用意しておかないとね。津波があったぐらいだもの、どんな災難がやってこないとも限らないわ。それに貯えがあれば氏族の安心にも繋がるし」

「それを考えるなら、ニライカナイの完全独立化を目指したいところだけど、なつみさんは、どう考えてるの?」


「そうねぇ……。現状維持で十分じゃないかしら。とりあえず漁獲の2割増しは何とかなってるはずよ。それ以上の要求をする時には、対策を考えなくちゃならないけど、砲船外交は現状の数を維持できれば十分でしょうね。アルティ達やナディがネコ族として暮らしているなら、神亀を使って脅すことだってできるのよ」

「神亀を戦の道具にはしたくないけどね」


 神が俺達の戦に関与するなら、圧勝になるに違いない。だけどそれをした時の後始末が飛んでも無いことにならないかな。

 場合によっては龍神が俺達から離れることだって考えなくちゃならないだろう。

 精々、姿を見せるぐらいに止めておく必要があるだろう。


「ゆっくりと考えなくちゃならないだろうね。できればそのような事態は防ぎたいところだ」

「大陸の食糧事情の一端を握っているから、向こうもあまり手荒な真似はしてこないと思うけど、万が一は想定しておいた方が良いわ」


 万が一か……。俺達が魚を獲ることを止めたら、困るのは王国の領民だからね。安く大量の魚を大陸に運んでいる間は、そんなことが起こらないということなんだろうな。


 昼過ぎまで素潜り漁を続けて、カタマランに帰る。

 明日はトウハ氏族の島に帰ろう。ここからなら2日は掛からないはずだ。


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