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M-210 ナンタ氏族の燻製船団


 氏族の島を出てから10日目。カタマランは北を目指して進む。

 ナンタ氏族の島から2、3日の距離にある漁場を調査したことがあるから、その辺りの海域に達すれば俺達の位置を特定することもできるだろう。

 かなり詳しく島の位置や特徴を海図に落としていたようだから、現在地を特定できるのはそれほど先ではないだろう。


「北西に船が見えるにゃ!」

 マリンダちゃんが、操船楼の窓から顔を出して教えてくれた。

 さて、ナツミさんは進路を変えるかな?


 ゆっくりとカタマランが北西に進路を変える。相変わらずナディが操船を行っているようだが、ナンタ氏族の桟橋は水路の奥にあるんだよな。近づいたところでマリンダちゃんが操船を換わるんだろう。

 何時もは上の操船楼にいるマリンダちゃんだけど、今日はアキロンに場所を譲っているみたいだ。


「どうやら、燻製船とその船団みたいね。10隻はいないみたいだけど」


 家形からナツミさんが甲板に出てきた。俺の隣に腰を下ろしたところをみると、どうしようかと判断に迷ってるのかな?


「挨拶は必要だろうね。半日ほど離れて漁をするなら、向こうにも迷惑を掛けることも無いんじゃないかな? それに漁の種類を聞いておくのも大事だと思うよ」

「誰が率いてるのかしら? ケネルさんなら良いんだけど……」

「ケネルさんではないと思うよ。ナンタ氏族に銛を教えるんだと張り切っていたからね。となれば、かつてのナンタの筆頭次席辺りじゃないかな」


 顔見知りなら良いのだが、氏族同士が反目しあっているわけではない。族長会議の場がオウミ氏族で常態化しているから、氏族同士の繋がりは以前よりも強くなっていると聞いている。

 

「なら、燻製船に向かうわ。お土産は酒を1ビンで良いかしら?」

「挨拶とナンタ氏族の住む島の方角を聞くだけなら、それで良いんじゃないかな。漁果を渡してあげたいけど、まだ漁はしてないからね」


 燻製船に近づくにつれ、その形が俺達で作った船にかなり似ていることが分かってきた。燻製小屋の1つから煙が風に流されている。

 俺達に気が付いたのだろう。何人かが甲板に出て手を振っている。

 

 燻製船の作業場所となる甲板は中央にある。俺達のカタマランが近づくとロープを投げてくれた。

 ロープを受け取って舷側に結ぶと、甲板の男女がロープを引いて、カタマランの横付けを手伝ってくれた。


「トウハの連中だな? こんなところまでやって来るとなれば、アオイ殿で間違いないな」

「良い噂ではなさそうですが、おっしゃる通りのアオイです」

「やはりそうか。前の船とは変わったが、相変わらずの冒険好きのようだ。かつてアオイ殿に一度会っているぞ。俺はファンデだ。こっちに来てくれ、酒位出さねば長老に叱られそうだからな」


 どこかで会ったことがあると思ってたんだよな。

 いろんな人と知り合いにはなるのだが、氏族が違えば疎遠になってしまう。ファンデさんが覚えてくれていたことに感謝したいくらいだ。


 カタマランの船首と船尾にもロープを結んだところで、俺達はナンタ氏族の燻製船の甲板に上がり込んだ。

 甲板は綺麗に手入れがされていたけど、改めてゴザのような敷物を敷いて俺達に座るように勧めてくれる。

 俺達が座ると、ファンデさん達が対面に座り、ココナッツのカップに入った酒が配られる。

 ココナッツジュースに蒸留酒を混ぜたものだ。口当たりが良いからいくらでも飲めるのだが、そうなると翌日はハンモックから出られなくなる危険な飲み物なんだよな。


「お久しぶりです。どこかでお会いしたのは覚えているのですが、生憎と……」

「ははは、アオイ殿がナンタ氏族の桟橋に船を停めた時に、言葉を交わしただけだからな。顔を覚えていてくれただけでも仲間には自慢できるだろう」


 向こうは覚えていても俺が覚えていないのは問題だと思うけど、少しずつ当時を思い出してきたぞ。確か若者を指導していると聞いたんだが。


「あれからだいぶ経っているからなぁ。今では、この船団を率いている。グリゴス殿は今でも、中堅を率いているよ。この場所からなら、俺達のカタマランなら3日で氏族の島に着くが、アオイ殿は船を替えたのだな? 今度も海に浮かぶのだろう?」

「火山島を見たいと思って、トウハの島を10日程前に出発したんです。一応、穏やかな噴煙で一安心したんですが、いつ牙を向くかは俺達では分かりませんからね。早々に北に向かって進んできたところです」


 火山島を見てきたと聞いて、彼等の表情が少し強張っている。やはり津波の記憶は未だに残っているのだろう。


「グリゴス殿も、毎年のように火山島の状況を見ているようだ。やはり聖痕の持ち主ともなれば、ネコ族全体を考えてくれるのだろう。ありがたいことだな」

「それで、ナンタ氏族の島で補給しようと考えているのですが、そうなれば手ぶらで寄港するのもはばかれます」

「トウハの銛を示すのであれば、この南が良いだろう。半日も進むと大きなサンガの穴がたくさんある。ケネル殿が我等に銛を教えてくれた場所だ。我等のように根魚を釣るには少し漁場が小さいし、今ではケネル殿は別の場所で漁をしている」


 要するに、誰も漁をしない漁場ということなんだろう。これは良いことを聞いたな。


「明日には、運搬船がやって来る。アオイ殿が近々訪れることを伝えておくぞ」

「単なる補給で、相談事があるわけではありませんから、あまり大事にならないようにお願いします」


 前回は宴会が続いてしまったからね。

 他の氏族からの珍しい客だということは理解するけど、そんなことで宴会を開いていたら、たちまち島が貧乏になってしまいそうだ。


「仲間内なら構わんさ。グリゴス殿やケネル殿には是非とも会って行って欲しい。それと長老達にもな」


「それぐらいなら……」と言葉を返して酒の礼を言うと、教えられた漁場に向けてカタマランを走らせることにした。

 この辺りの島には見覚えもあるから、かつての調査でトリマランを走らせたこともあるのだろう。

 それでもナツミさん達は周囲の島の方角を計って海図と見比べているようだ。

 ファンデさんに教えて貰った、通常のカタマランなら3日の距離から、位置を正確に割り出したみたいだ。


 夕暮までにはだいぶ間がある時間に、カタマランが速度を緩めた。

 どうやら、漁場を見付けたらしい。

 ゆっくりと円を描くようにカタマランが動いていたが、やがてスクリューを逆回転させて速度を殺した。直ぐに船首から水音が聞こえてきた。アキロンがアンカーを投げ込んだみたいだな。

 

 操船楼から、ナツミさん達が甲板に下りてくると、少し早い夕食の準備に入る。家形の屋根から下りてきたアキロンが釣竿を取り出したのはおかずを釣るためだろう。

 おかず用の竿をナディに渡して、今度は根魚用の竿を取り出している。魚の状況を探るつもりなのかな?

 後ろで見ている分にはおもしろそうだ。


「あまり大きな穴じゃないにゃ。30FM(90m)もないにゃ。深さはかなりありそうにゃ」

「だいたい5FM(15m)というところです。底は砂地みたいですよ」


 マリンダちゃんの話に、アキロンが話を続けてくれた。根魚用の錘が底に付いた感触で大まかに底の状況が分かるし、道糸を伸ばした長さで深さが分かる。

 簡単にその方法を教えたんだが、どうやら自分のものにしたみたいだな。


「掛った!」

 ナディが嬉しそうな声を上げる。

 おかずにもなるけど、今夜の釣りの餌にもなるんだから、10匹は釣り上げて欲しいところだ。

 マリンダちゃんが甲板で暴れている獲物をヒョイと摘まんで持ち上げて見せてくれたのは、30cmほどの立派なカマルだ。

 停船しているから、今夜は唐揚げが食べられそうだぞ。


 アキロン達がカマルとバヌトスを順調に釣り上げている。マリンダちゃん達は、獲物を何匹か使って調理を始めた。

 バヌトスに混じってブラドやバルタスも釣り上げているところをみると、サンゴの穴の魚影は濃いようだな。型も40cmぐらいの大きさだから、ケネルさんが銛の練習場所にこの漁場を選んでいたのも理解できる。


 夕暮れ前に夕食が始まる。久しぶりの唐揚げに御飯も進むし、焼いたバルタスなんか久しぶりに食べた気がするぞ。

 夕食が終わると、真鍮のカップでワインを楽しむ。ニライカナイの夕暮れはどこで見ても綺麗で飽きない美しさだ。

 すでにランタンを掲げてあるから、パイプを楽しみながら家族でジッと西の空を眺めることにした。


「さて、始めるよ!」


 俺の合図で、ナツミさん達は甲板の木箱の上に板を乗せる。保冷庫に氷を入れて、家形の屋根から大きなザルを取り出すとカマドのテーブルと家形の間に立て掛けている。5枚あるなら十分じゃないかな。大漁なら残りの3枚を取り出せば良いだろう。


「竿は4本で良いかしら。アキロン達とアオイ君でお願いね。私達は裏方に回るわ」

「ちょっと待ってくれ。今取り出すから」

 

 すでにアキロンが1本使っているから、残りの3本を取り出して根魚釣りを始める。

 さて、どれぐらい釣れるのだろうか?

 腰に棍棒を差し込んだマリンダちゃんが俺達に餌の切り身が入った小さなザルを渡してくれた。

 仕掛けの針にカマルの切り身をチョン掛けしたところで、投げ入れる。

 錘が底に付いたところで、素早く竿1本分の道糸を巻きとり、竿先をゆっくりと上下させる。

 さて、最初に掛かるのは何だろうな?


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