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M-201 ちゃんと暮らしていけるみたいだな


 カタマランの間からザバンが出てきたときには、誰もが驚いたようだ。

「アンカーを引き上げて!」とナツミさんに指示された時は、場所を変えるのかと思ってたんだが、まさかザバンを下ろすためだったとはね。

 

 ゆっくりと進むカタマランの甲板の位置が少し下がったんじゃないかと思っていたら、船底からきしむ音が聞こえてきた。

 何か始まるのか? と警戒してベンチにしっかりと腰を据えていると……。


「ザバンが後ろから出てきましたよ!」

「本当だ……」


 これが今回のギミックなんだろうな。カタマランの船体の下に吊り下げてたんだろう。


「アオイ君、ザバンの船首に付いたロープは船尾の金具に付けといてね。ザバンから外したら、スクリューに絡むかもしれないから」

「了解だ。だけど少し変わったザバンだね」


 窓から顔を出していたナツミさんが引っ込むと、家形から姿を現した。

 ザバンがゆっくりとカタマランの船尾に近づいてくるから、タリダンが後部の側板を外してザバンを誘導している。


「魔道機関が付いてるわ。スクリューを使ってないから安全よ」

「ひょっとして?」

「ポンプが作れたみたい。効率は悪そうだけどザバンはスピードを上げないでしょう?」


 ジェットボートと原理は同じってことか。断面が『W』字だったからね。あれじゃあ、パドルが使い難いと思ってたんだが、最初からパドルはかんがえてなkあったということなんだろう。

 

「リードル漁にも使えるの?」

「使えると思ってるけど、念の為に、通常型のザバンも搭載してるわよ」


 いやに船体が長いと思ってたんだけど、ザバンを2艘搭載するためには……、なんてことからカタマランの長さを決めたのかもしれない。

 まったく、目的よりも手段を優先するんだから困ったものだ。もっとも、その結果が良ければ問題はないんだけどね。


「私とアルティでザバンを操るにゃ。マルティとナツミはその次にゃ」

「それじゃあ、始めるぞ。獲物は中型以上だ!」


 自分の銛を持って、次々と甲板から飛び込んでいく。

 獲物の回収はマリンダちゃんに任せておけば安心だ。俺もマスクを被ると海に飛び込んだ。


 シュノーケリングをしながら海底の状況を見る。

 銛を手に海底にダイブしていくのは誰なんだろう? やみくもに潜るよりは、状況を見るのが大事だと海人さんに教えられたからな。

 

 海底で、何かがヒラを打ったようだ。鈍い銀色が一瞬見えた。

 シュノーケルで息を整えながら、銛のゴムを引いて軽く握る。

 目は獲物がいた場所から離していないから、一気にダイブして海底を目指した。


 サンゴの崖に沿って潜っていくと、崖に大きな切れ目が走っている。それほど長くはないが、見た限りでは30mは続いている。

 1mほどの割れ目の中に、そいつはいた。かなり大きなバルタスだ。

 慎重に銛を近づけ、左手を緩める。

 バルタスに銛が突き立つと同時に、柄を持って割れ目からバルタスを引き出した。

 銛はエラの頭よりにしっかりと通っている。少しぐらい乱暴に扱っても抜けることはない。

 海面に出ると、シュノーケルの水をはきだし、新鮮な空気を吸い込む。

 片手を上げて何度か振ると、ザバンが近づいてきた。


「大きいにゃ!」

「バルタスもいるのね。皆に教えないと!」


「連中はどうだい?」

「アオイが最後にゃ。次はアキロンのところにゃ」


 獲物を銛から外すと、すぐに俺から離れて行った。

 俺が最後とはねぇ……。

 どれ、ナツミさん達に恥をかかせないように頑張るか!


 素潜り漁は、近づいてくる豪雨の為に昼前で中断になってしまった。

 3時間ほどの漁だが、中型以上の獲物をも名が突いているし、獲物の数が一番少ないアキロンでさえも6匹を突いている。

 アキロンはバルタックを専門に狙ったみたいだな。

 それでも、数が揃えられるんだからタリダン達が義弟の腕を称賛していた。


「4人で潜ると1艘のザバンでは対処できないでしょうね。あの変わったザバンのおこげで海面で待つことなく獲物を回収してもらいました」

「漕いでなかったよね。あれにも魔道機関が?」

「次に潜ったら見てごらん。スクリューではない推進機関が付いている。さすがにカタマランの推進機関には出来ないみたいだけどね」


 とは言ったものの、ナツミさんのことだからなぁ。次のカタマランは水流ジェット推進を考えてるに違いない。

 変に魔道機関が発達しているから、魔道紋との組み合わせで似たような物が作られるのだろうが、今度の推進機関も特許が取られてるんじゃないか。たまに来島する商船のドワーフの爺さんともだいぶ仲良くなっているらしいからね。


「あれだけ突けるなら、ちゃんと暮らしていけるにゃ。昼食はまだだから今の内におかずを釣るにゃ!」

 

 10匹ほど釣り上げてくれるなら、おかずにもなるし、餌としても使える。

 ここはアキロン達に頑張ってもらおう。

 その間に、タリダン達に手伝ってもらい甲板にタープを張る。

 5m四方のタープを張れば、豪雨の中でも快適とはいかないまでも根魚を釣ることができるからね。


「ご苦労様。ネイザンさん達はどうかな?」

「連絡が無ければ、同じようにタープを張ってるんじゃないかな? ずぶ濡れは嫌だけど、少しぐらい濡れるのはこの季節だからねぇ」


 パイプを咥えて他のカタマランを見ていたら、いきなり豪雨が襲ってきた。

 慌ててアキロン達が竿を畳んでいるけど、ザルの中には数匹のカマルが入っているようだから、マリンダちゃんの機嫌は良さそうだな。

 豪雨の飛沫で周辺の見通しが悪くなる。先ほどまで見えていたネイザンさんのカタマランが今では全く見えない。

 薄暗くなってきたから、ナツミさんがランタンを1つ柱に掲げた。


 ナツミさん達が昼食を作り始めても俺達にはすることが無いから、ダメ元で船尾で根魚釣りを始める。

 リール竿を2本船尾に出して様子を見てるんだけど、手に持って誘うわけでもなく、パイプを咥えて成り行きを見守っているだけだ。


「場所はカタマランを再び戻したと聞いてますが、当たりがありませんね」

「向こうにだって都合はあるだろうさ。昨夜はあんなに掛かったんだからね」


 誘うという行為をしないだけで、これほど当たりが違うのだろうか?

 もっとも、棚だって怪しいところがあるんだよな。ちゃんと棚取をしているのかを、仕掛けを引き上げた時に見てみよう。

                 ・

                 ・

                 ・

 2日間の漁を終えて、豪雨の入り江に俺達は帰って来た。

 タリダン達の銛の腕も、中々のものだ。

 中型の銛で60cmを超えるフルンネを突いていたからね。雨期明けのリードル漁が終われば婚姻の航海に出掛けるのだろうが、恥をかくことはないだろう。

 アルティ達は素潜りをすることは無かったけど、根魚釣りで活躍していたから路頭に迷うような暮らしはしないで済むだろう。

 娘達の漁を見ていたナツミさんの笑みは絶えなかったが、料理の腕には少し首を捻っていたな。

 ナツミさんだって最初の頃は酷いものだったと思うけど、本人は忘れているんだろうな。


「雨が止まないと獲物を運べませんね」

「いいんじゃないか? 嫁さん達は家形でスゴロクを楽しんでるし、俺達は大漁を祝って飲んでられるんだからね」


 豪雨の中、ザルを傘代わりにしてやってきネイザンさん達も大漁だったようで、笑みを絶やすことが無い。

 船団を率いていても、今回の様な漁果は稀だと教えてくれた。


「やはり、アオイやアルティ達の加護はあるんだろうな。タリダンも不漁が無いといつも言っているぞ」

「まったくです。タリダン達の指導を始めた途端に、獲物が多くなりましたからね。将来は、タリダンとラディットを別の船団に加えるべきだと思ってます」


 それほどの加護なんだろうか? その加護があると信じて漁に勤しむからもあるんじゃないかな?


「たまたまということもあるでしょう。やはりカゴに頼らずとも漁果を上げられるようにしたいですね」

「まあ、それも道理ではあるんだが、次は船団を率いねばなるまい。東に向かうが、グリナス達は?」


「仲間と相談だが、たぶん南になるんじゃないかな? 水路の手前は良い漁場だ」

「グリナスさん達は南ですか……。そうなると、東で延縄と曳釣りをやってみましょう。アオイさんは?」

「俺か? そうだな。今回の漁場の先を狙ってみるか。だけど、このカタマランの操船も試さないといけないから、ナツミさん達と相談になりそうだ」


 低速での水中翼船モード、ザバンの船体下部収納……。それだけじゃないんじゃないか?

 見た目は大きなカタマランだから、入り江では前より目立たないのだが、この大きさだからねぇ。まだ隠してる機能があるんじゃないかな。


「俺達の船団の先で漁をするってことだな? 大型船が率いる船団の漁場については、アオイが苦労して調査してくれたが、トウハ氏族のカタマランで2日から3日先の漁場だ。その先にも漁場があるんだろうが、俺が船団に乗る時までには調べて欲しいな」


 俺達の漁が漁場を探すためだと思っているのだろう。確かにそれもあるが、俺も35を過ぎているからな。腰を落ち着けた漁で暮らしを立てたいところだ。


 雨期の豪雨は長雨だが、突然に空が晴れた。

 女性達が家形から出てくると、保冷庫の一夜干しを背負いカゴに入れ始めた。

 さて、どれぐらいの収入になるんだろうか?

 タリダン達とは、売値を3分割することで話が付いてるんだけどね。



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