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M-198 大きなカタマラン(2)


 トリマランに皆が集まって、酒盛りを始める。

 新たなカタマランのカマドやトリマランのカマドで料理が次々と作られていくのは、バレットさん達の嫁さんが腕を振るってくれているからだ。


「アオイは4隻目になるが、ネイザン達はどうなんだ?」

「そろそろカタマランの大型を手に入れようと思っています。少し船尾の甲板を広くしようとは思ってますが、ここまで広くすることは考えてませんよ」


「俺も、同じだな。だけど船尾にロクロは付けようと思ってるんだ。俺達の漁では大型が出るからね。引き上げるのに結構苦労するんだよな」


 グリナスさんの話しを聞いてラビナスやネイザンさん達も頷いている。大型のフルンネやシーブルを考えているのだろう。


「曳釣りを家族で、ということなら付けた方がいいだろうな。だが、さらに大型を狙う時には数隻で行動するんだぞ」

「とりあえず今度の雨期ではマーリルは狙わないよ。南のサンゴの崖にそって曳釣りをするつもりだからね」


 一時期はカゴ漁を取り止めた場所を狙うらしい。

 カゴ漁の人達は延縄漁を併用してるけど、曳釣りはやらないんだよね。

 

「昔は、良い曳釣りの漁場だったんだ。魚が戻ってるから、皆も狙うんじゃないのか?」


 バレットさんの言葉に、ネイザンさん達が腕を組み始めた。そうなると、他の場所ということなんだろうが、直ぐには思いつかないらしい。


「東に、2日半ということではどうでしょうか? 大きな漁場ではありませんが、崖が延びてますよ」

「少し遠いから、出掛ける連中もすくないだろうな。父さんは北なんだろう?」

「北北東に移動する。同じ場所で長く漁をするのは問題だからな」


 バレットさんは南に3日を掛けて出掛けるらしい。そうなると、俺は南東ということかな?


「出発は明後日だ。一か月は長いが、連続で漁ができるからなぁ。同行する連中は毎月銀貨が余ると言っていたぞ」

「燻製船も似たようなものだ。毎月の不足分をリードル漁で補っていたのが夢に思える」


「俺達も、貯えを切り崩した話は聞かないな。どうにか、やりくりしてるのかもしれない」

「ネイザンさんだからじゃないか? 俺のところは魔石1個分は使ってるようだ」

「俺のところもです。ですが、魔石1個で済むなら十分だと思ってます」


 黒字はネイザンさんだけみたいだ。

 俺のところは、どうなんだろう? 結構色々と買い込んでるからね。低位魔石はそんな漁の必需品に消えてるんじゃないかな。


「リードル漁のたびに魔石が増えるなら問題ねぇ。減るようなら、少し考えねばならんぞ!」

「だが、動力船を手に入れるのがそれだけ遅くなる。10年を目安にしろとはそういうことだ。アオイは例外と見るべきだろうな」


「それにしても大きいな。操船楼も俺達の4倍近い大きさだ。甲板からでなく家形から入るのか?」

「濡れるのを嫌ってましたからね。大きいのは海図を広げる机でも作ったんじゃないかと思いますよ」


「それだ! 大型船には海図を広げる机が操船楼にあるんだ。おかげで、いつも船の位置を確認できるし、海図の訂正もできるぞ」

「確かに便利かもしれんな。燻製船にはそれが無い。周囲の島を記録してはいるのだが、思いのままに船団を誘導できないのだ」


 燻製船は、昔の外輪船を改造したものだからね。どうにか操船楼を付けてはいるのだが、次の船には海図を広げる場所が必要ということなんだろう。

 机ではなく、壁でも良いんじゃないかな? その辺りは、燻製船の船団を率いた者同士で考えた方がいいのだろう。たぶん改造する箇所はそれだけではないだろうからね。


「だが、新しいカタマランの甲板は俺達と比べて1FM(30cm)は高いんじゃないか? 水面に浮かぶのは確定だろうが、それなら低いままでも良いように思えるな」


 オルバスさんの言葉に、カタマランを眺めると、確かにトリマランよりも甲板位置が上にある。

 ナツミさんのことだから、大きな保冷庫でも付けたんだろうか?

 新たなギミックがその辺りにありそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 トリマランでの最後の朝食をゆっくりと頂く。

 何時もよりも少し塩加減が足りないから、トリティさんが作ってくれた漬物がたちまち無くなってしまった。

 バツが悪そうな表情をしているナツミさんだけど、大盛りのご飯をしっかりと食べていた。


「これから引っ越しよ。トリマランのザバンはトウハの子供達にプレゼントするとして、トリマランは商船の横に移動することになるわ。後部のロクロ用の魔道機関を取り外せば、燻製船の薪取り用のザバンに取り付けられるわ」

「ちょっと待ってくれ。そうすると、カタマランに新たなザバンを購入するのか?」


 それなら、昨日の内に、買い込んでくれば良かったと思うんだけどね。

 だけど、新たなカタマランの船首甲板にザバンを引き揚げるには、俺一人では無理な気がするんだよな。船体内にロクロを格納してるんだろうか? それに引き上げ用のコロも舷側に付いてないぞ。


「ザバンはすでにカタマランに積んであるわ。引っ越しが終わったら、少し走らせてみましょう。色々と改良したから、その具合も見てみたいわ」


 家形の中ってことか?

 あまり、奇を狙わないで欲しいな。

 とりあえず引っ越しが終われば見えて来るだろうと、皆で手分けして荷物を隣のカタマランに移動する。

 俺は漁の道具を担当する。オルバスさんが手伝ってくれたんだが、銛だけでも10本近い数がある。ナツミさんやマリンダちゃんまで使うからなぁ。釣り竿だけでも7ほんあるんだから、オルバスさんが呆れているんだよな。


「アオイが道具に凝るのは分かるつもりだが、それにしても数が多いな」

「専業化してしまいました。リールだけでも3種類ですからね。ある意味汎用ということもこれから考えてみないといけません」


 獲物に合った漁をするために漁具が偏ってしまう。

 獲物の大きさに合わせて銛は4種類もあるからね。その上リードル漁の4本がある。

 獲物を甲板に引き上げるためのタモ網やギャフ。それに棍棒だって大小があるからなぁ。そんな漁具の保管場所は家形の屋根裏と操船楼の下に作った漁具用の倉庫だ。仕掛けや小物は、今まで通りに甲板の後ろに作ったベンチの下の保管庫に入れる。

 トリマランの屋根裏から、数枚のザルを引き出して移動すれば、俺の担当分が終わる。


 再度トリマランの保管庫や、屋根裏をもう一度見まわして、何も残ってないことを確認した。

 カタマランの船尾のベンチに、オルバスさんと腰を下ろしてパイプに火を点ける。


「トリマランも大きかったが、このカタマランも別格だな。この帆桁もだいぶ太いようだ。マーリルを引き上げるのもわけが無いだろう」

「漁場を巡って色々と魚を突きました。皆大物でしたよ」

「さもあろう。通常のカタマランで2日半も離れると、途端に魚影が濃くなる。その内、ネイザン達が夜を徹して走らせてくるはずだ」


 ネイザンさんよりも、ラビナス達が出掛けそうだな。グリナスさんは、そこまで冒険はしないだろう。


「荷物は移動したのかにゃ? なら、トリマランを商船まで動かすにゃ」


 トリティさんがアキロンを連れて、トリマランに向かうと、カタマランの操船楼の後ろの窓から、マリンダちゃんが顔を出した。


「リマランと繋いだロープを解いて欲しいにゃ。トリマランが移動したら桟橋に着けるから、左舷側に緩衝用のカゴを落としといて欲しいにゃ」

「了解だ! アンカーを引き上げたら合図するよ」


 さて、どこから屋根に上がるんだ?

 カタマランの左手にハシゴが付いている。少し斜めに掛けてあるから、トリマランよりも上りやすいな。

 屋根に出たところで、板敷きを伝って中央に移動し、船首に向かって歩いていく。

 屋根自体は、他のカタマランとあまり変わりがない。竹を編んだゴザの様なものでかれていた。その中央部にあるぐしの部分が通り歩けるように板が敷かれている。


 船首の甲板はそれほど大きくはない。横幅は5m近いが、奥行きは1.5mも無いんじゃないかな?

 その甲板の1画に、四角い枠が作られている。ロープを引いて、アンカー代わりの石を引き上げると、その枠に入れておく。ロープは30mほどだから、ニライカナイの端に行かない限りこの長さで十分だろう。


 家形の屋根に上ったところで、操船楼の2人に片手を上げて準備が終わったことを告げる。

 舷側の緩衝ザルはオルバスさんが下ろしてくれたようだ。

 

 船尾に向かって行くと、ゆっくりとカタマランがトリマランを離れていく。

 トリマランと同様に、横に滑るような動きだから、これにもバウスラスタがとうさいされているのだろう。


 トリマランから離れると、入り江の中を大きく回って再び元の桟橋を目指す。

 トリマランは桟橋近くで回頭したのだろう。すでに商船に向かっている。トリティさんの操船は慣れたものだな。

 やがて、商船の向こう側にトリマランが消えて行った。

 長く、俺達をはぐくんでくれた動力船だったが、今度のカタマランも俺達を支えてくれるに違いない。

 

 ゆっくりと桟橋に横付けし終えると、ナツミさん達が操船楼から下りてきた。

 まだ、トリティさん達は帰って来ないけど、今度はこのカタマランで漁をすることになる。

 最初はどこに向かうんだろうな?


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