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M-184 2隻目の大型船


 俺達の指導を嫌がることなく1年間も続けたんだから、カエナル達もさぞかし気苦労が多かったに違いない。

 さすがにリードル漁は、家族単位ということで俺達から離れたけど、それ以外は俺達3人の内の1人と常に一緒だったからね。

 

 最後の漁を終えたところで、浜辺に集まり嫁さん達と一緒に焚き火を囲むことにした。

 これで彼らも漁に戸惑うことはないだろう。

 素潜り、根魚釣り、青物や曳釣り、果てはおかず釣りまでものにできたはずだ。


「それで、カエナル達はハリオを突きに向かうんだね?」

「乾期の間に皆で行こうと思ってます。でもその前に頂いた銛先で銛を作らねばなりませんし、それを使った漁を1度は経験しておきませんと……」


 ハリオを突く銛は、今でも長老達が贈ってくれるそうだ。

 俺は親父から貰った銛先を使ったし、ラビナス達にはプレゼントした記憶もあるんだよな。

 今では、最初の嫁さんを貰った時に長老が贈ると聞いたけど、それなりの値段もするようなので、将来に向けたトウハ氏族の投資にも思えてくる。

 いつの間にか俺達の輪に、グリナスさんやラビナス達の仲間もやってきている。

 ハリオの突き方について若者達に教えているようだから、俺は黙っていた方が良いのかもしれないな。


「ところで、アルティ達には銛を作ってあげたのか?」

「12歳で銛を渡すんだろう? ちゃんと渡したよ。トリティさんがトリマランに乗ってくれる時には一緒に出掛けて漁をしてるんだ」


「あの漁果はアルティ達も絡んでるんですね? まったくの話しですが、男の子でもあれほど突けるものはいませんよ」


 ラビナスが半ば呆れるような口調で俺達の話に加わってきた。

 初めて見た時にはカエナル達も驚いていたからね。いくら神亀の甲羅の上だと海上と同じように呼吸ができるとは言っても、午前中の漁だけで背負いカゴに一杯は、常識外れも良いところだ。


「例外と諦める外にないな。俺達では真似することもできないし、神亀の甲羅に乗るなんてことが、そもそもできないことだ」

「でも子供達は、俺のところやグリナスさんのところも乗ってますよ」

「ネイザンさんのところもだ。長老が子供に限ると言ってくれたから良いようなものだけど、母さんは付き添いだと言ってるんだよな」


 まぁ、過保護なところもあるからねぇ。だけど、俺もトリティさんの個人的な好みだと思っている1人だ。

 ナツミさんはいつもトリティさんに率いられた子供達を笑顔で見送っているから、すでに達観してるのかもしれないな。


「神亀が豊漁をもたらす話は、生きていますね。あの光景を見て驚かない人はいないでしょうけど、その時の漁は必ずと言って良いほどの豊漁です」

「やる気を出したことは確実だろうが、やはり俺もそう思うな。だけど仮にも神の眷属だ。子供達と遊ぶのを邪魔するわけにはいかないし、神亀だって俺達の漁を邪魔したことは一度もないからね」


 いつの間にか、話題が神亀と子供達に移ってしまったが、再びハリオ漁に話が戻る。

 どうやらグリナスさんが今回は率いることになったらしい。

 ラビナスと一緒に拍手でグリナスさんを祝福してあげる。一緒に若者達も拍手をおくっているから、さぞかし嬉しいに違いない。顔を赤らめて嬉しそうに俺達に頷いてくれた。


「まあ、連れて行くだけだからね。俺にもできそうだが、フルンネを突かねば笑われそうだ。出掛ける前に練習してくるよ」

「なら、カエナル達も連れて行くべきだな。本番はハリオだが、先ずはブラドを確実に突けなければ話の外だし、フルンネ相手なら良い練習にもなるんじゃないか?」


 そんな話で、漁場といつ出掛けるかが話題になる。

 酒が入っているからなぁ。ラビナスの提案した漁場は南東に3日の距離なんだが、カエナル達は是非とも参加すると言っていた。

 予行演習をするなら、ハリオが突けないことにはならないだろう。

 最後にハリオを突くのは『群れが近づくのを待て!』 と教えておいた。

 ブラド相手ならこちらから銛を近づけられるんだが、ハリオはそうはいかない。サンゴに片手絡めて、銛先を上げてじっと待ち、群れが通るのを待って銛を打つのだ。

 今までとは違った銛の打ち方がちゃんとできれば良いのだが、頭で分かっていても実際にそれを行うのは難しいところがある。

 グリナスさんに付いて行って練習するのは、良い思い付きだと思うな。


 俺も行ってみたいところだが、長老との約束があるからなぁ。

 少し気落ちしながら、お開きになった宴会の場を家族と一緒にトリマランに向かう。


「何か残念そうね?」

「顔に出てたかい。グリナスさん達が若手を連れてフルンネを突きに行くらしいんだ。たぶん10日近くは帰って来ないかもしれないと思うとね」


「長老との打ち合わせがあったわね。私もカヌイの長老からお呼びがあったから、それが一段落しないとね」


 ナツミさんもカヌイのおばさん達と色々と計画を持っているからね。話を聞くと、かなり内容が煮詰まってきているらしい。

 カヌイのおばさん達の行動に、氏族の長老達は異を唱えることができるのだろうか?

 ネコ族の精神的な支えである龍神を、俺達に変わって祭ってくれているんだから、長老としては反対を口すらできないんじゃないかな?

                 ・

                 ・

                 ・

 数日後、ラビナスさん達が十数隻のカタマランを率いて入り江を出て行った。

 ちょっと残念な気持ちを押さえて、彼等の大漁を祈りながら桟橋で手を振る。

 カエナル達がフルンネを1匹だけでも突けたなら、自信も着くんじゃないかな。何度も、グリナスさんやラビナスに教えを請いながら、大物用の銛の使い方をものにしてほしいところだ。


「出掛けたか?」

 後ろからの声に驚いて振り返ると、オルバスさんが立っていた。

「出掛けました。予行演習ですから、たとえフルンネが突けなくとも、大物用の銛でブラドを10匹以上突けたなら十分でしょう」


「まあ、そんなところだろうな。長老も気にしていたが、アオイと同じようなことを言ってたぞ。さて、出掛けるか?」

「そうですね。オルバスさんも明日出掛けるんですから」


 リーデン・マイネの1か月おきの交代に合わせて、長老が族長会議に出掛けるらしい。

 そうなると予想される課題と、その対応については事前に確認してきたいということなんだろうな。


 桟橋を浜に向かって歩きながら、現状の課題を整理してみる。

 今のところは大きな問題が無いように思えるのだが、長老達が集まるといろんな課題や相談事が出てくるらしい。

 

 長老の住むログハウスに入ると、幾人かの男達も集まっている。

 トウハ氏族の情報発信源でもあるからね。何隻かを率いる立場を持つ男達なら、島に滞在している時は何度か集まることになるのだろう。


「アオイ、しばらくじゃのう。そこに座ってくれ。アオイも30の半ばを過ぎたのじゃ。できれば呼び出さずとも、島に滞在している時にはやってきて欲しいぞ」

 

 長老の指示には従うことになるから、ここは頭を下げるだけでいいだろう。毎日とは言ってなかったから、1日程度、それも午後からで十分じゃないかな。


「グリナスが若手を率いてフルンネを突きに、先ほど出掛けたところだ。大物用の銛に慣れるには良いことだろうが、ハリオ突きの予行だというのはどうかと思う」

「良いではないか。そんなことを考える若者達がいなかったことに問題があるようにも思える。ハリオを突くのは難しいことではあるが、それを考慮して事前に練習するなら良い結果を我等に見せてくれるだろう」


 オルバスさんの苦言に、長老達は彼らの行動を賛美しているようだ。

 昔からの習わしを止めるわけではない、と割り切っているのだろう。その試練を上手く行うためだと若手が考えたなら、閉鎖的なネコ族の気性を少しは改善できると思ったのかもしれない。


「まあ、オルバスの心配も分かるが、所詮、トウハ氏族の習わしでしかないのだ。トウハの銛の腕を代々伝えることにこそ意味があるというもの。銛を練習するのは何ら問題はない。それより銛の練習もせずに出掛ける方が問題だと思っている」


 婚礼の航海が、あの銛の使い初めという連中は多かったんじゃないか。

 オルバスさんも、長老の言葉に頷いているところをみると、納得したに違いない。


「まあ、これで若手航海は上手く行くに違いない。安心して島を離れられるというところじゃな。そこでアオイの考えを聞かせて貰いたいところじゃ」


 長老の話によると、大陸の王国からは今のところ何も言ってこないらしい。

 2割にだいぶこだわっていたようだが、すでに2割以上の漁獲を上げているはずだ。


「今度の会議の議題となるのは、氏族全体で運用する大型船の話と組合と考えるべきじゃろうな。次の雨期には我等の手にもたらされるじゃろう。となれば、人選も考えねばなるまい」


 大型船の船長ともいうべき人物は船団全体を統率することになる。それはトウハ氏族を除く各氏族の次期長老ということになるようだ。トウハ氏族はすでに大型船を1隻運用しているから、遠慮したということなんだろう。

 大型船に乗る連中も、トウハ氏族以外から1家族ずつということらしい。


「だが、カタマランともなれば我等も2隻を出さねばならん。一応、人選は終えているから、婚姻の航海を終えた後に発表する考えじゃ。そこまでは我等も異存はないのじゃが、この船団の漁場については紛糾しそうに思える」


 確かに、カタマラン10隻が同行して長期間漁をするとなれば漁場が荒れてしまいそうだ。紛糾の原因はそこにあるんだろう。

 俺としても、直ぐに良い考えは浮かばないけど、痛み分けということで納得させるのが一番に思えるな。


「あまり良い考えとは言えませんが、氏族の漁場の境界付近であれば、互いに漁場を譲れるのではないでしょうか?

 魚が昔ほど取れないということで、現在は各氏族ともに漁場を外側に広げています。その境界付近、オウミ氏族の漁場の外側付近を周回するなら、全ての氏族が等しく漁場を開放するようにも思えます」


 長老が後ろの箱から海図を取り出して、新たな氏族間の海域の境界を確認している。

 隣同士で囁くような声で意見を交わしているのを、俺と長老の前に座ったオルバスさん達はジッと眺めて決断を待つことにした。


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