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M-183 汎用性の高い銛


 夕暮れが入り江を染めるころになって、ラビナス達の船団が帰って来た。

 直ぐに嫁さん達が獲物を運んでいるから、ラビナスの方もそれなりの漁果があったようだ。

 少し早い夕食を終えると、オルバスさんはマーリル用の銛を受け取って桟橋を歩いていく。今夜の氏族会議に出掛けるのだろう。

 入れ替わりにラビナスの嫁さん達が子供を連れてトリマランにやってきた。トリティさん達やレミネィさん達もやって来たから、俺達はラビナスさんのカタマランに場所を移すことにした。

 トリマランよりは小さいけれど、俺達3人なら十分な広さだ。


 グリナスさんが保冷庫から取り出したココナッツ酒をカップに入れてくれたところで、俺達の漁果が披露される。

 ナツミさんからカエナル達の収入を聞いといて助かった感じだな。


「すると、アオイのところが110で、ラミナスのところは95か。俺のところは80ぐらいだから、次は頑張らないとな」

「60L前後を考えてましたから、大漁ということなんでしょうね。アオイさんのところはやはり、シメノンですか?」


「ああ、群れが1度やって来たからね。素潜りの腕はそれなりだが、根魚はまだ先がありそうだな」

「手釣りの腕はまだまだですね。嫁さん達より上げた数が少なかったです」


 やはり、どこも同じのようだ。次のリードル漁で得た魔石を売って、リール竿を1つ買い込むように教えておこうかな。

 1式揃えるとそれなりの金額になるから、あまり勧めたくはないんだが……。


「次は、俺が東で、ラビナスが南西だ。アオイは北の漁場に向かってくれよ。俺達は右回りで、若者達は左回りにすれば指導する連中も変化する」

「今度はシメノン釣りを教えることになるんですね! 了解です」


 俺も異存はないから、軽く頷いておく。気の合った仲間と漁の話をしながら飲む酒は最高だな。

 長い間爺様が、漁で暮らしてきたのが良く分かるような気がしてきた。


「南西の漁場のブラドの大きさは1YM(30cm)を少し出たぐらいだったけど、北の東は?」

「1YM半というところかな。ブラドよりもバッシェを多く突いたぞ」

「俺のところもそんなところでしたね。たまに2YM近いのが突けましたよ」


 隣のトリマランからは嫁さん達の嬌声が聞こえてくる。向こうもお酒を飲んでるのだろうか? トリティさん達の笑い声も聞こえてくるんだよね。


「彼らの銛は2YMを狙うには少し小さいですね」

「それは俺も考えた。大きな魚を取り逃がしたと言ってたからな。だけど、アオイ。彼らに銛を贈ろうなんて考えないでくれよ。

俺達はアオイにだいぶ苦労を掛けてしまった。だけど父さんの話しでは、本来自分達で気が付いて自分に合った銛を作っていくと言ってたからな」


「そういう意味では、俺の厚意は問題があったのかもしれませんね。これからは自粛しますけど、頼まれれば嫌とは言えません。でも、彼らに俺の銛を見せるぐらいは構わないでしょう?」

「それぐらいなら、問題ないんじゃないか? 今回の漁でも、いくつか銛を見せてあげたぐらいだ。アオイの銛はもっと多いと教えといたぞ」


 余計なお世話というところだけど、今回は彼らに銛を見せてあげなかったのが残念だ。次の機会もあるはずあから、その時見せてあげればいいか。


「彼等だって、父親の銛を見ているはずなんですけどねぇ。まだ、最初に親から貰った銛の延長ぐらいに考えているみたいです」


 ラビナスの苦言は、俺達のように漁に夢中になるのではなく、彼等の漁の仕方をかなり見ていたということなんだろうな。

 思わずラビナスさんと顔を合わせて下を向いてしまったのは仕方がない。俺も反省しておこう。


「手回しを考えると、銛は小さい方がいい。だけど大物を突くには……。という奴だな。俺も、アオイにその辺りを教えて貰った気がするぞ」

「もっと言うなら、底物と上物の違いもありますよ。それに魚の敏捷さや泳ぐ速さも加わるんですから、そもそも万能の銛なんて無いはずです。そんなことを考えすぎると、俺のように銛の数が次々と増えてしまうんです」


 ラビナス達が腕組みして頷いている。まさしくその通りということなんだろうが、俺のそんな行動を呆れているところもあるんだろうな。


「俺は最初にアオイさんから頂いた銛を、一回り大きくして使っています。さすがに3YM(90cm)近い獲物は無理ですが、2YMを超えても十分対応でいますからね。それより大きい場合はハリオ用の銛ということになります」

「俺は、1YM半までを狙うことにしてるんだ。大きい獲物より、数を上げる方に力を入れてるぞ。2YMを超える獲物は、専用の銛になるな。だが、ラビナスの考えた銛なら、2YMまでが獲物になるんだな。良いことを聞いたぞ」


 単に銛先を変えれば良いということでもないんだけど、ヒントは貰ったはずだ。俺は早い段階で、先端が2本の銛から1本の銛に変えたから、その時に中型狙いができるようにしてあるんだよな。

 向こうの世界から持ってきたあの銛は、今ではナツミさん達専用になってるからね。


「こっちにいたのか? アオイの船に行ったんだが、早々に引き上げてきたぞ」


 俺達の輪に、オルバスさんが割って入ってきた。

 グリナスさんが酒のカップを渡すと、俺達のカップにも注いでくれる。


「氏族の漁は順調だな。アオイ達の指導も漁果を聞いて長老達が安堵していたぞ。よろしく頼むと伝言された」


 氏族に問題はないということか。となると、残った確認事項はニライカナイ全体ということになる。


「そう、先を急ぐな。バレットの方も何の問題もない。優秀な漁師達が乗っているから拠点近くで根魚を釣っているようだ。バレットは銛も持って行ったから素潜りをしてるんだろうな」


 嫁さんから離れてのんびりしてるのかもしれないな。帰ってきてからその反動を受けそうだけど、俺達にまで影響が無ければ問題はない。


「あの海域なら、銛というよりもおかず用の釣竿を持って行った方が良いかもしれませんね。それより、リーデン・マイネに保冷庫はあるんですか?」

「食料用の保冷庫だけだな。甲板に保冷用の木箱を乗せているのだろう」


 俺達の防衛艦隊だからね。

 将来は乗り込むことになるのかな? グリナスさん達も真剣な表情で聞いている。

 だけど各氏族から10人程度だし、トウハ氏族の人数枠は数人になる。狭き門なんだよな。


「あの銛を見て、長老達が驚いていたぞ。例の吻の下に飾るそうだ。長老の1人が銛を構えてみたが、首を振っていたな。あれを使える長老となると、亡くなったカイト様ぐらいなものだろうと残念そうな顔をしていたぞ」

「俺達も見ることができるんですか?」


 グリナスが身を乗り出して聞いている。

 ゆっくりとカップの酒を一口飲み終えたところでオルバスさんがグリナスに顔を向けた。


「ああ、昼ならだいじょうぶだ。あれを長老が氏族会議の部屋に置きたかったのは、若手の来所も考えてのことだろう。長くトウハ氏族の漁を支えてくれた人達だ。若手の質問には喜んで答えてくれるに違いない」

 

 ある意味、交流の場としたいということなんだろう。

 少しずつトウハ氏族の風習も変化してきたみたいだ。昔はそんなことはなかったらしい。長老と言えば氏族の統率を図る集団だからね。この島の最高の意思決定機関でもある。


「たぶん明日は、若手が大勢集まるんじゃないか? 銛を見たいなら少し遅れた方が良いかもしれんな」

「なら、明日の午後にでも行ってみるか。ところで、父さんが普段使う銛は2YMのブラドを突けるの?」


 グリナスさんの言葉に、思わず呆れた表情をしたのは俺だけではないはずだ。

 オルバスさんだって、笑顔で質問をしてきた息子に怪訝な表情をしているぐらいだからね。


「今頃、そんなことを聞いてくるとは情けないところだが、俺の銛は2YMを超えても使えるぞ。さすがにそれ以上となると別の銛を使うが、ハリオの大型となればさらに違う銛を使う」


 3種類を持っているということになる。トリティさん達には俺が作った銛があるし、リードル用の3本を加えると、カタマランの屋根裏には銛が数本積まれているようだ。

 だけど、オルバスさんの話しを聞くと、ラビナスの銛より少し太いということなんだろうな。それとも柄の先に付けた銛のシャフト部分が短いんだろうか?


 皆が一番使い込んでいる銛を見比べてみるのもおもしろそうだ。

 リードル漁の季節が来ればネイザンさん達も他の漁に出ることはないから、浜で銛を持って集まってみようかな。


「お前達の漁場には他の船団は近寄らぬと長老が言ってくれた。ある意味漁場を占有できるのだから、十分に若手を鍛えてくれよ」

「あまり期待されても困るけど、アオイがいるからだいじょうぶだろう。俺達も力にはなれるが、聖痕の保持者に教えを受けたことは奴らに一生付きまとうからね。本人達も頑張ってるよ」


 箔付けということなんだろうか? たぶんそれに近いんだろうな。ラビナスが友人達より頑張っているのは、そんなことがあるのかもしれないけど強迫観念を抱かせるようでは問題だろうな。

 グリナスさんのように、自然体で行きたいところだ。

 もっともグリナスさんのところは、カリンさんがそれを気にしてグリナスさんをけしかけているようにも見えるんだけどね。



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