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M-180 南西に1日半


 いつもと違う入り江の波の動きで目が覚めた。

 どうにか日が昇り始めたところだけど、入り江の中が慌ただしい。家形から外に出ると、何隻ものカタマランが入り江の沖に集結を始めているようだ。ネイザンさん達が中堅を率いて出掛けるのだろうか?

 だが、少し動きがぎごちない感じだ。それにカタマランが真新しい。

 ひょっとして、いつでも出掛けられるように準備してるのか?


「だいぶ早い連中にゃ。アオイはゆっくりと朝食を取ればいいにゃ」

 隣のカタマランからリジィさんがお茶のカップを手わしてくれた。わざわざ桟橋を渡ってきてくれたんだけど、リジィさんは若者達の動きよりもラビナスが気になったのかもしれないな。


「いつの間にか大きくなったにゃ。色々とアオイ達に世話になったにゃ」

「ラビナスが努力家だからですよ。次の筆頭を狙えるんじゃないですか」


 俺の話を聞いて小さく首を振ったのは、まだまだ父親を超えられないと思っているんだろうか?

 俺の目には同世代の連中よりも1歩抜きん出ているように思えるんだけどなぁ。

 

「皆早いねぇ」

 そんな言葉を言ったところで、リジィさんに気が付き「お早うございます」と挨拶してるのはナツミさんだ。マリンダちゃんはまだ寝てるのかな?


「それじゃあ、頑張って朝食を作らないとね。その前に、お茶を沸かしておかないと……」

 ナツミさんが早速ポットをカマドにかけている。朝食は御飯だろうけど、おかず釣りをしていなかったからなぁ。スープ掛けご飯になりそうだぞ。

 俺に頭を下げたリジィさんが桟橋を歩いていく。ラビナスの船に行って状況を確認するんだろうか?

 そうなると、グリナスさんのところにはトリティさんが向かいそうだぞ。そろそろ掟朝食の準備を始めてればいいんだけどね。


 ナツミさんの朝食作りが終わったところで、子供達をマリンダちゃんが起こしに行った。

 今日は1日中航海だから、アルティ達には退屈かもしれないな。夕暮れになってトリマランを停船させた時には、少し夜釣をやらせてあげるか。


 甲板に朝食を並べて家族一緒に頂けるのは幸せに違いない。

 アルティ達はもう直ぐ10歳だから最初の銛を今度の航海の合間に作ることになる。だけどその前に、若者達4人におかず用の竿を作ることが先決だろうな。


 朝食が終わったところで、お茶を飲みながら沖合のカタマランを眺める。

 その左端の4隻は黄色の旗を出しているから、あれがカエナル達だな。ナツミさんに黄色の船が俺達の担当だと教えたところで、トリマランを固定したロープを解いた。そのまま船首で待機して、ナツミさんが操船楼に上がるのを、パイプを咥えながら待つことにした。


「出掛けるのか? あまり気負いをせぬことだ」

「ありがとうございます。グリナスさん達は?」


「ラビナスがそろそろ出航するんじゃないか? グリナスはトルティが尻を叩いているようだ」

 

 オルバスさんも気になっているのかな? 桟橋で俺と立ち話をしながらパイプを楽しんでいる。


「素潜り漁ですからね。あまり教えることはないんじゃないかと」

「それでも聖痕の保持者と一緒に漁ができるんだ。かなり気合が入ってると思うぞ」

 

 あまりやる気を出してもねぇ。マイペースが一番だと俺は思うんだけどなぁ。

 

「準備OKよ! アンカーを引き上げて」

 ナツミさんが操船楼の横から身を乗り出して伝えてくれた。

 オルバスさんに、軽く頭を下げると片手を上げて答えてくれる。急いでアンカーを引き上げ、石を木枠の中に入れると操船楼に向かって片手を上げた。

 トリマランが横滑りするように桟橋から離れる。

 改めてオルバスさんに体を向けると、トリティさんとリジィさんが一緒に並んで俺達に手を振ってくれた。

「行ってきます!」と挨拶すると、船尾の甲板に急ぐ。

 甲板ではマリンダちゃんとアルティ達が桟橋の3人に手を振っている。

 ひょっとしてトリティさん達は俺に手を振ったんじゃなくてアルティ達に手を振ってくれたのかな?


 桟橋から離れたところで、沖の黄色の旗を目印にトリマランが向きを変えた。

 入り江の中だからゆっくりした船の動きだ。

 丁度、ラビナスが若手のカタマランを率いて入り江を出るところだった。率いる船の数は俺と同じ4隻だ。

 まだグリナスさんは手間取っているのかな? 俺達よりだいぶ遅れたりしたら、トリティさんの一言があるんじゃないかな。


 すでに黄色の旗を上げたカタマランは入り江の出口に向かって並んでいる。最後尾はカエナルだな。


「だいぶ待たせてしまった。直ぐに出港できるか?」

「「だいじょうぶです!」」


 俺の声に操船楼から若い娘さんの声が聞こえてきた。


「それじゃあ、出発するぞ。カエナルは殿で船団を見ていてくれ。何かあれば白の旗を上げて笛を吹いてくれよ」

「任せてください!」


 カエナルの声に大きく頷いて、列の前に向かう。

 操船楼からナツミさんがカタマランごとに、操船楼の娘さんに手を振っているようだ。

 嬉しそうに操船楼から身を乗り出して娘さん達が手を振っている。


 列の先頭になって少し進むと、後ろのカタマランが後に続いて動き出した。

 桟橋を見ると、グリナスさんのカタマランがようやく動き出したみたいだな。桟橋から大勢の人が手を振ってくれる。俺達も手を振りながら入り江を出て行った。


 入り江から真っ直ぐに1kmほど進んだところで、トリマランが速度を上げ始める。

 いつもなら直ぐに船体が浮くんだけど、今回はそんなことがないから10ノット近くで船団の様子を見るということなんだろう。

 このまましばらく進んで何事も無ければさらに速度を上げるんだろうな。


 1時間ほど進んだところで、ナツミさんからマリンダちゃんに操船が替わる。

 甲板に戻って来たナツミさんが、子供達を連れて家形に入って行った。日差しが強いからなぁ。タープの下よりも家形の中の方が涼しいのかもしれないな。


 子供達が甲板を去ったところで、おかず用の竿を作り始める。

 すでに竹竿の長さを揃えてあるから道糸を付けて仕掛けを付ければ良いだけだ。それほど時間は掛からないだろうが、ちょっとした暇つぶしにはなるだろう。


 どうにか昼食までに4本のおかず用の竿を作ったところで、子供達と一緒に昼食を取る。

 朝食のご飯を軽く炒めてスープを掛けたものだから、それほど時間が掛からないのが良いところだ。香辛料の効いたスープで頂くから食欲も出る。

 早めに昼食を終えたところで、ナツミさんと操船を交代した。

 トリティさん達が一緒だと舵を握らせてもらえないんだよね。マリンダちゃんが昼食を終える間の一時が俺が舵を握れる時間だ。


 魔道機関のノッチを見ると、1ノッチに固定しているようだ。これでも速度は15ノット近く出るから、若者達が最初に買うカタマランの魔道機関では2ノッチにレバーを上げているんだろうな。

 もう少し速度を上げられるんだろうけど、これぐらいが俺には丁度良い。


「後は、私がやるにゃ!」

 操船楼に上がって来たマリンダちゃんに舵を渡す。

 正味30分に満たない時間だったな。午後はアルティ達の銛でも作るとするか。


 夕暮れが近づいたところで、近くの島に船団を停める。

 4隻のカタマランの舷側を並べて停めたから、一番端のカタマランからも他のカタマランの甲板を伝ってトリマランにやって来れるみたいだ。

 嫁さん達が夕食を作る間、トリマランに男達が集まって簡単に状況を確認する。


「特に魔道機関には問題がないということだな?」

「2ノッチで1日走り続けましたけど、問題はありません。もう少し速度を速めては?」


「2ノッチで十分だ。それでも明日の夕暮れ前には目的地に着けるだろう。今朝は皆早かったな。明日の出発は日が昇って水平線から拳1個分を目標にしたい。それまでに朝食を済ませてくれ。最後に帰る時にこれを1本ずつ持って行ってくれ。夕暮れ時に船尾で竿を降ろせばおかず位釣れるんじゃないかな」


 嬉しそうな表情で持ち帰り、早速船尾で釣りを始める者もいるようだ。俺もおかずを釣っておくか。明日の根魚釣りの餌にもなりそうだからね。

 改めて、屋根裏からおかず用の釣竿を出した。途中でアルティ達の竿も持ち出す羽目になったけど、何とか10匹近いカマルを釣り上げる。

 大きいものはおかずになるし、小さなカマルは三枚に下ろして保冷庫の餌用のザルに入れておいた。

 

 夕食は米団子のスープだった。カマルの切り身も入っているからちょっと嬉しくなるな。


「予定より進んでいるわ。漁場には明日の昼過ぎには着けるんじゃないかしら?」

「あまり無理はしないでくれよ。明日は根魚釣りだけだからね。場所はなるべく崖に近い場所がいいな。若い連中が場所を決めてからでも十分だ」


 どこに仕掛けを下ろしても釣れるには違いないだろうが、俺達は漁師だからね。数を上げたいところでもある。となれば、夜になってサンゴの下から抜け出した根魚をものにできるように溝の崖に近い場所が最適だ。

 とはいっても、大物に仕掛けを絡まれてしまう危険性もあるから、10YM(3m)は崖から離せと教えてあるんだが……。

 

 夕食を終えたところで再度おかず用の竿を出す。数匹を釣り上げ、明日の餌を追加したところで俺達は眠ることにした。


 翌朝、朝日が出る前に起きて甲板に出る。

 開始ウを汲んで顔を洗うと、他のカタマランの様子を見に出かけた。

 すでに朝食を作っている嫁さんもいるようだ。昨夜手渡したおかず用の竿を出しているのは、今夜の夜釣りの餌を確保しようというのだろうか?

 一番端のカエナルのカタマランに来たところで、昨日の労をねぎらい今日の予定を話す。


「まあ、そんなことだから昼過ぎには到着するだろう。早めに根魚釣り用の餌を確保するんだぞ。それと、着いたらザバンを下ろしてくれないか? 俺のザバンと2艘あれば皆をトリマランに集められる」


 カエナルの「了解」の声を聞いたところで、トリマランに戻る。

 グリナスさん達との漁ならば阿吽の呼吸で行えることも、初めての連中となるとそうもいかない。

 グリナスさん達はどうしてるかな?

 ラビナスはあの性分だからあまり心配はしないんだけど、グリナスさんの場合は俺もちょっと心配になってくる。


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