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M-176 新筆頭はネイザンさん


 マーリルの商船への積み込みは、商船との間に渡した足場板の強度が足りないということで、起重機を使うことになってしまった。

 せっかく十数人で担ぎ上げたんだけどねぇ。

 売値は銀貨14枚ということになったけど、長く伸びた吻をノコギリで切った後の全長が14FM(4.2m)だから、1FM銀貨1枚ということになるらしい。

 3家族で漁をしたということで、2割を氏族に上納して、350Lずつ分けることにしたんだけど、残ったお金で酒を買って振舞うらしいから、もう少し出してあげても良いんじゃないかな。


「雨期の10日で銀貨3枚以上とはな。グリナス達もガルナックの外の獲物を合わせれば銀貨2枚を超えたに違いない。どうにか中堅というところだな」

「十分に中堅だ。俺達が漁を離れることになってもトウハ氏族の銛の腕を誇れるに違いねぇ」


 バレットさん達はすでに酒を飲み始めている。

 今夜は砂浜で大宴会ということらしいけど、だいじょうぶなんだろうか?


「ところで、その嘴はどうするの?」

「嘴じゃなくて吻というんだけどね。家形に置いておいても邪魔だから長老に上納しようと思うんだけど」


 俺の言葉にナツミさんが笑みを浮かべた。1m近い槍の様な形だからね。子供達がいたずらしたら怪我しそうだ。


「氏族に寄付するのか? さぞかし長老が喜ぶだろう」

「ガルナックなら、突きに行こうと考えるかもしれんが、マーリルは別格だ。氏族会議で皆に見せられるのも丁度いい」


 長老はかつての筆頭や次席クラスだと聞いたことがあるから、今でも銛の腕はそれなりにあるってことなのかな?

 だけど、年寄りの冷や水という言葉もあるくらいだ。島で後輩達の育成に努めてくれた方が、俺達が心配しないで済みそうだけどね。


 夕暮れ前にトリティさん達が、浜に出掛けて行った。

 ナツミさん達は、子供達と料理が出来上がってから来るように言われたらしい。料理自慢のおばさん達が腕を競うってことなのかな?

 ちょっと楽しみだけど、ナツミさんとマリンダちゃんは残念そうな表情だ。


「後10年もすれば、ナツミ達が浜の宴会料理を仕切ることになるんだろうな。それまではトリティ達に任せておけば十分だ」

「そうだ! ココナツ酒を作って持って行けばいい。トリティ達も作るだろうが、すぐに足りなくなりそうだ。嫁さん連中で飲めるように、ワインも持って行くんだな」


 そうなると、子供達の為にココナツジュースも作っておいた方がいいだろうと、ナツミさんとマリンダちゃんでココナッツを割り始めた。

 竹で作った水筒があるから、それに入れて持って行くんだろう。飲み終えたら焚き火に放り込めばゴミも出さずに済むだろう。


 すっかり日が落ち、浜の焚き火が赤々と燃えているのが良く見えるようになった。

 バレットさん達に促されて、俺達も子供を連れて浜に出掛ける。

 すっかりお腹が空いてしまったからね。とりあえず何か食べないと……。


「今夜はごちそうだね! トリティおばさんの唐揚げがあるといいんだけど」

「だいじょうぶにゃ。たくさん食べられるにゃ」


 マリンダちゃんがマルティの頭を撫でながら希望的な話をしているけど、無かったらどうするんだろう?

 その時はどうやってなだめようかと考えていたら、唐揚げの入ったザルを持ってトリティさんが俺達を手招きしている。

 直ぐに子供達が駆けだしたのは仕方がないことだろう。俺だって一緒に走りだしたかったからね。


 獲物をバナナの葉に取り分けて貰っていると、ネイザンさんが俺の名を呼びながら手招きしている。


「行ってきなさい。私はマリンダちゃんやカリンさんと一緒にいるから」

「これも付き合いなのかな?」


 ぼやく俺に、ナツミさんが笑みを浮かべる。

「それじゃあ!」とナツミさんに告げたところで、ネイザンさん達のところに向かい、焚き火の周囲に置いてある丸太に腰を下ろした。


「あれ? ルビナス達も帰ってたんだ!」

「生憎とガルナックは無理でしたが、グリナスさんが帰った後を追いました。もう1日とは思ったんですが、漁には諦めることも大切です」


 深い話を、ラビナスから聞けるとは思わなかったな。

 俺が頷いていると、グリナスさんは首を傾げているから、まだまだ漁の奥深さを理解しているとは思えないところだ。


「まあ、それも大切だろう。だけど、探そうという気概も必要だぞ」

 

 ネイザンさんの言葉も確かに言えることなんだよな。ちゃんと頷いているラビナスはそれを知った上で、諦めたということになる。

 なら、十分じゃないかな? 十分に立派な漁師に育ってくれたと感心してしまう。


「その2つは矛盾してないかい? どちらかというと気概が大事だと父さんに言われそうだけど」

「そうですね。俺もグリナスさんの話しの通りだと思います。要するに『ここまでやった。それでもダメなら……』と自分で納得することが大事なんだとね」

「だな。でないといつも中途半端になってしまいそうだ。さっき気概とは言ったが、それは俺達なら皆持ってるはずだからな」


 ネイザンさんが話をしながら俺達に酒のカップを配ってくれた。

 ネイザンさんの音頭で、カップをあおり互いに顔を見合わせる。思わず笑みを浮かべてしまうのは仕方がないことだろう。

 

 そんな中、急に場が静まると、長老の挨拶が始まった。

 今回はガルナックを2匹とマーリルを運んできたからね。

 長老の挨拶は、俺達をほめたたえてくれるばかりだから、ちょっと恥ずかしくなってしまう。


「……と、言うことじゃ。我等トウハの銛の腕は大陸にまで届くじゃろうな。まして、マーリル等、その姿を見た長老は我等が初めてじゃろう。さらに腕を上げて2匹目のマーリルを我等にもせてもらいたいものじゃ」


 長い長老の挨拶でカップの酒が無くなってしまった。

 改めて竹の水筒から酒を酌み交わす。今夜はいくら飲んでも、ナツミさん達は許してくれるんじゃないかな。


「それにしてもマーリルは大きいな。全長がガルナックの2倍を超えるとは想像すらできなかった」

「俺達にも突けるんでしょうか?」


 グリナスさんの話しを受けて、ラビナスが俺に問いかけてきた。

 ネイザンさんも興味深々でこっちを向いてるし、近くの男達もカップを片手に俺達の座った丸太を遠巻きにしている。


「たぶん銛では無理じゃないかと思います。俺の動力船の様な特殊な構造を持つ必要があるかと。保冷庫ですら、あの大きさに見合う者でなければなりませんよ。

 ですが、保冷庫の問題を解決できるなら、マーリルを釣りあげるという方法を使えば何とかなるんじゃないかと……」


「釣り上げるだと!」

「そんなことができるんですか!」


 一応、曳釣りなら針掛かりはするだろう。その後の措置が勝負になるんだろうな。


「あのマーリルを突いたのは昼前でした。船首に立って背中に銛を打ち込んだんですが、トリマランを引いて泳いでましたよ。ロープを引き寄せて、2度目の銛を打ち込み、最後は大きな棍棒で頭を叩いて甲板に引き上げたんです。

 大物ですから、バレットさん達の手を借りても引き上げるのができませんでしたので、魔導機関のウインチというロープの巻き取り具を使って引き上げました」


「大きな保冷庫とウインチがあればなんとかなるということか……。もっとも、曳釣り仕掛けも大きくすることになるんだろうが、リールがもtかどうか心配だな」

「リールは使わずに手釣りです。リールではマーリルの引きに耐えられません。グンテを2重にして手で引き出される道糸を押さえることになると思います」


 グンテよりは皮手の方がいいだろう。少なくとも手のひら側には皮を張っておかないと、大怪我をしてしまいそうだ。


「そうなると、次のカタマランでそれを備えれば良いか。あの大きさだからなぁ。俺達のカタマランの保冷庫ではガルナックでさえどうにかというところだ」


 ネイザンさんはやってみるつもりのようだ。グリナスさんとラビナスが顔を見合わせて頷いている。彼らもチャレンジしたいということなんだろうが、それほど釣れるとも思えないな。

 氏族に割り当てられた漁獲を越えてから、マーリル漁に出掛けて欲しいところだけどね。


 突いたマーリルの噂で、しばらくは氏族の島が賑わう。

 そんな噂も5日もすればだいぶ下火になっったのだが、南の海域から大型船に率いられた船団が帰って来ると再燃してしまったのは仕方のないことだろう。

 リードル漁が直ぐそこだからなぁ。

 その準備をトリマランに集まって相談していると、オルバスさんとバレットさんがやって来た。


 甲板で輪になっていた俺達は少し後ろに下がって2人に座ってもらい、ラビナスがココナッツのカップに酒を注いで2人に手渡した。


「明後日にはリードル漁だ。準備はできただろうが、今回のリードル漁が終わったところで、俺とオルバスが交代でリーデン・マイネの指揮を執ることになる」

「筆頭の地位を譲るのか?」

 

 グリナスさんが驚いてバレットさんに聞いている。

 ちょっと尊敬の念が無い問い掛けだけど、バレットさんは気にしてないようだ。


「そういうことだ。次席のオルバスも引き継げねぇし、ケネルはナンタ氏族に行ったからなぁ。大型船の方は長老心得の爺さんに任せておけば十分だから、この島での漁だけに気を配ればいいだろう。ネイザン、お前に任せるからな」


 今度はネイザンさんが吃驚する番だった。

 もう少し年上の人がいるんだろうと、俺達も思ってたからねぇ。ちょっと意外な人選に俺達もバレットさん達に顔を向けることになった。


「あれだけのガルナックを突けるなら、十分に筆頭と言えるだろう。アオイを押す者も多かったが、長老は首を縦に振らなかった」

「その理由は、アオイの方が知ってるはずだと言ってたなぁ。まぁ、言わずとも俺達には分かったぞ」


「アオイがネコ族ではないという奴がいるとでも?」

「まったく、困った連中だな。アオイはお前達の仲間だろう? 長老はネコ族の一員として迎え入れた以上、どんな姿をしていてもアオイはネコ族の一員だ。

 いいか。アオイをトウハ氏族の筆頭としなかったのは、アオイをネコ族全体のまとめ役としたいと長老達が願っているからだ。トウハ氏族だけではない。サイカ、オウミ、ホクチにナンタ全ての氏族の長老の願いでもある」


 そんな大げさな話になったら俺が困ってしまう。

 これは早めに辞退しておくに限るな。


「アオイの同意は無くとも、これは族長会議で決まったことらしい。だが、しばらくは今まで通りにトウハ氏族の長老の補佐とするそうだ」


 俺が口を開く前に、オルバスさんに申し渡されてしまった。

 補佐と言っても、あまりたいしたことはしていないはずだから、このままのスタンスでいれば良いのかな? 今夜にでもナツミさん達と相談してみよう。


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