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M-170 ガルナックを突くだって!


「ほう! サイカの島にも寄ってきたのじゃな?」

「これですべての島を一通り回ることができました。各氏族の島の位置も海図に記載しましたから、次はまっすぐに進めます」


「アオイの動力船は、ニライカナイで一番の速さじゃからのう。事あらば、頼むことも出来よう。それで、各氏族の長老達は?」

「氏族の垣根を低くしてニライカナイの垣根を高くすることに理解を得てきました。大型の動力船についても興味を持ってくれたようです」


「さもあろう。となれば、運用について各氏族にも参入を求めることで良かろう。すでに、実績を持っておる。単独で行動するよりは、遥かに多くの漁獲を得ることができるようじゃ」

「それで、ついでと言ってなんですが、大型船であれば、漁に携わらない者も多いはず、彼等にサビキ竿を渡せば、小魚の漁ができるように思えるのですが?」


「それもおもしろそうじゃな。とはいえ、その収入はそれほどの額ではないはずじゃ。サビキ釣りに関しての氏族の取り分は無くしても良かろう」

 

 これで、さらに小魚の漁獲が増えるはずだ。

 サイカ氏族の小魚の漁獲低減は、他の氏族の協力で何とかなるかもしれないな。


「雨期が終わればリードル漁じゃ。その後で、オウミ氏族に長老達が集まるが、何か提言することはないか?」

「時期は少し早いと思いますが、ニライカナイの備えについて考えてみるべきかと。

 すでにリーデン・マイネを始めとする砲艦と大型クロスボウを放つ軍船があります。それ以上の強化は我等のためにもならないでしょうが、サイカ氏族の西の海を哨戒することは必要と考えます」


「理由は、新たな要求の排除というところじゃろう。そうなると、乗組員の交代も視野に入れねばなるまい」

「艦隊の停泊地もです。さすがにオウミ氏族の島ということになできないでしょう」


 長老達が頷いている。

 5つの氏族の島には商船も行き来しているのだ。艦隊の停泊地が分かったら、それが大陸の王国に知れるのは時間の問題になる。

 我等の爪を隠す場所。それが一番の問題だろう。


「商船の航路から外れた場所にある島が候補地ではあるが、他の氏族にも心当たりの島があるじゃろうな。まあ、それは何とかなりそうじゃ」


「ところで、共同購入、共同販売ということも一度話し合っていただきたいところです」

「ほう。個別に商船に持ち込むのではなく、氏族単位でということかな?」

「行く行くは、ニライカナイと商会ということまで考えて頂ければと」


 詳細を、今の状況で説明することは難しいだろうな。

 俺達が古老の漁師となったころには何とかしたいところだ。少しずつ布石を打って対応しておけばいい。

 最初は大原則である共同購入、共同販売を長老達に議論してもらえば十分だ。


「アオイのことじゃ。長い期間を掛けようとしておるようじゃな。カイト様もそんなところがあったようじゃ。初めは急いでおったようじゃが、我等と暮らすうちに、少しずつ急ぐことをせぬようになったと言われておる」

「じゃが、我等にとっては好都合。集まって酒を汲むだけでは、御先祖に申し訳が立たんわい」


 そんな言葉に、長老達が笑い声を上げている。

 俺の考えなど、お見通しということなんだろう。俺の考える最終形態には、いくつかの段階があると感じているようだ。

 間違ってはいないから、頭を下げておく。

 長老達が笑みを浮かべて頷いているから、俺の提言は長老達が族長会議で議題として出してくれるに違いない。


 長老達の住む小屋を後にして、炭焼きの老人達のところに向かった。

 子供達から大人まで、老人達が片手間に仕上げる竹細工や竹竿、それに銛の柄などを作ってくれるんだよな。

 値段は格安なんだけど、物によってはタバコの包を用意しなければならない。一応,2個用意してあるんだけど、果たして俺の求める物があるかどうか……。


「アオイじゃないか! 今度の動力船も変わっとると聞いたぞ。前の動力船はカヌイの婆さん達が手に入れたようじゃが、今度の船は誰になるのかのう」


 顔見知りの老人が目ざとく俺を見付けて歩み寄って来た。

 口は悪いんだけど親切なんだよな。


「実は銛の柄が欲しいんです。太さはリードル漁の銛より細く、長さは10YM(3m)というところなんですが」

「中途半端な長さじゃな。大物用ということなんじゃろうが、水中での取り回しが面倒じゃないのか?」


 今は炭焼きをしてるけど、かつてはトウハ氏族の銛を誇った人達だから、俺の要求する銛の柄の矛盾にすぐ気が付いたようだ。

 

「使うのは甲板からです。たまに大物が出るんですけどギャフよりは銛が使い良いかと考えました」

「アオイ殿はクロスボウまで使ったらしいぞ。色々と試してみるのおもしろそうじゃな。上手く行けば氏族にも広がるじゃろう。待っておれよ」


 休憩所の裏手に行って、銛の柄になるような長い棒を探してくれるようだ。しばらくして担いできてくれたのは、少し歪はあるようだが俺の目的には丁度いい。

 ありがたく受け取って、代金を聞くとタバコ1包で良いと言ってくれた。そんなときの準備もしておいてよかったぞ。

 言われるままに、タバコを1包渡したところで、蒸留酒のビンを1つ取り出した。


「いつもお世話になってますから、これは受け取ってください」

 老人に無理やり酒を押し付けたところで、後ろも見ないで棒を担いで帰ることにした。


「あら、銛はできたんじゃないの?」

「あれで引き上げられるとは思えないんだ。近寄ったところをもう1度これで刺す。銛先はこれになる。長さ15cmの回転する銛先だから、最後はこれに付けたロープを引いて引き上げることになるだろうね」


 船尾のベンチの蓋を開けて、大きな銛先を取り出した。

 大きく目を見開いて銛先をナツミさんが見ているけど、突きんぼ漁は簡単じゃないんだよな。


 甲板で銛の柄を回しながら歪を確認して印を付けていく。ついでに、柄のでこぼこした部分をナイフで削りながらの作業だ。

 地味な仕事だけど、必要な仕事には違いない。

 どうにか終わったところで、砂浜で小さな焚き火を作り柄の狂いを直していく。


「長い柄だな。またガルナックを突くのか?」

 そんな言葉を俺に掛けたところで、焚き火の傍に腰を下ろしたのはネイザンさんと友人達数人だった。


「ネイザンから、銛を作るにも手抜きをしない男だと聞いたが、なるほどと感心してしまうぞ」

「俺達は、そんなことはあまりしないからなあ。それが獲物の数になって現れるということか」

「バレット殿でさえ、腕が8つで銛が2つだと言ってたぞ。最後には銛がやはり重要だということだ」


 直ぐにココナッツのカップが配られ、酒が注がれる。

 とりあえず狂いは直してあるから、パイプを咥えながら皆と話を楽しもう。


「そういえば、グリナス達が新たに銛を作ったらしい。狙いはガルナックということなんだろうが、アオイの銛もガルナックというところじゃないのか?」

「ガルナックは前に突きましたよ。その時使ったのはリードル漁の銛です。やはりあの大きさですからねえ。ガムの力ではちょっと不足を感じました」


 ネイザンさんの仲間達が頷いている。その時に一緒にいた連中もいるんだろうけど、改めてガルナックを突く難しさを思い知ったということになるのだろう。

 

「俺も、グリナス達にはリードル用の銛を使えと教えてはいるんだが、生きてるガルナックを前に怖気づかねば十分だろう」

「あの口だからなぁ。人を飲み込むという話にも頷けるんだよな」


 そんな話をしているということは、ネイザンさん達もガルナックを突こうと考えているんだろうか?

 だけど、カジキを突くよりは容易なはずだ。

 ガルナックはトウハ氏族の銛打ちに何度も突かれて氏族の島に運ばれている。

 ガルナックのいるところは、フルンネさえ身を潜める。ガルナックの頭は銛さえ跳ね返す等と、格言も色々とあるんだからね。

 だけど俺は、昔見たというあいまいな情報で漁をすることになるんだよな。


 急に空が暗くなってきたので、急いでトリマランに戻ることにした。

 自分の船に戻ろうと足を速める人が、桟橋を棒を担いでいる俺を追い越していく。

 豪雨が襲ってきたのは、トリマランの手前10mほどになった時だった。

 ずぶ濡れでタープのしたん駆け込んで、銛の柄を手早くぼろきれで水分を拭き取り、屋根裏に入れると家形に入って着替えをする。


「だいぶ濡れたわね。この紐に掛けておくね」

 ナツミさんが【クリル】の魔法で衣服の汚れを落とすと、部屋の端に張った紐に引っ掛けてくれた。


「ありがとう。ちょっと砂浜でネイザンさん達と話し込んでしまった。どうやら、ガルナックを突きに向かうみたいだよ」

「そうそう、それに似た話をカリンさんもしてたわよ。ということは、2組でガルナックを突きに出掛けるのね?」


 おもしろそうな口調で教えてくれた。ネイザンさんもその話をしていたな。やはり2組で張り合うつもりなんだろうか?

 ということは、ラビナス達も考えるところがありそうだ。

 隣にカタマランを泊めているんだから、今夜にでも来るかもしれないな。


 タープの下にベンチを持って来てパイプに火を点けると、マリンダちゃんがお茶を入れてくれた。

 子供達は、遊び疲れて寝ているらしい。

 

「昼前にラビナス達が訊ねてきたにゃ。アオイがいないのを知ってがっかりして帰ったにゃ」

「やはりねぇ。どうやら、若手と中堅でガルナックを突こうと競うみたいなんだ。ラビナスはそれで来たんじゃないかな」


「突けると良いにゃ」

「グリナスさん達も考えてるみたいだよ。それにネイザンさんもね」


 マリンダちゃんが目を大きく開いて驚いている。

 心情的にはラビナス達を応援したいんだろうけど、兄さんと姉さんの旦那さんが張り合ってるんだからね。

 ある意味、兄弟達の競争にも見えなくはない。バレットさんの長女をグリナスさんは貰ってるし、その妹はラビナスの嫁さんだからね。


「皆が1匹ずつ突けると良いにゃ!」

「そうだね、俺もそう思うよ」

「でも、ある意味良かったかもしれないわ。私達がカジキを突きに行かなければ、その競争に加わってるんじゃないかしら」


 確かにナツミさんの言う通りだ。

 ここは全員の無事だけを願った方が良いかもしれないな。それよりも俺達にカジキが突けますようにと先ずは祈るべきだろう。



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