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M-167 予定外だけど行ってみよう


 翌日は、朝から素潜りで銛の腕を競い合う。

 ガムを使わずに銛を使うとなると、青物はさすがに無理がある。

 とはいえ、根魚を見付けるのは上手いんだよな。昼までに、10匹を超えるバヌトスやバッシェを突いてきた。

 俺はブラドと中型のフルンネを主体にどうにか10匹を突いたんだが、数で負けて売値で勝ったということになりそうだ。


「さすがは聖痕の持ち主だけのことはある。我等と同じようにバヌトスなら俺達より数を出したに違いない」

「銛でフルンネをつけるなんて……」


「銛の後ろに付けたガムのおかげです。近づいたところで手を緩めれば、こんな感じで銛が飛び出しますからね」

 

 手元の銛を使って披露したから、オウミ氏族にも広がるんじゃないかな。

 彼らの銛は先端が3本になった銛だ。腕だけで突くとなれば、点で突くのではなく線で突くということになるんだろう。

 それだけ、命中率が上がることになる。

 カジキ用に作っている銛は先端を三角形に広げてあるのは、線よりも面を狙ったものだ。さらに命中率が上がるはずだ。


「今までは根魚を主体に突いたが、ブラドぐらいは何とかなりそうだな。それだけ漁獲が増えるだろう」

「氏族の海域を見直しを図りましたから、さらに漁場が広くなったはずです。東は手つかずですよ」


「リール竿を作って、銛にガムを付けてみるか。そんな連中を率いて、再度この海域で漁をすれば効果のほどが分かるだろう。実際に見ねば信用しない連中だからなぁ」

 

 グレッドさんの言葉にカルネアが頷いている。

 まあ、種族の特徴なんだろうな。何事も現実主義なところがあるからね。


「それで、ケイラ達はどうなんだ?」

「リール竿は便利にゃ。大きな魚はタモ網を使えば私達でもブラドが釣れるにゃ!」


 午前中に何匹が釣り上げたみたいだな。

 出来ればリール竿を1本渡してあげたいところだけど、余分な竿が無いのが残念なところだ。


「道具が買えるなら、俺達でも何とか作れるだろう。糸を通す金具や、糸巻きを取り付ける方法を後でじっくり見せて貰いたいな」

「良く見といてください。トウハ氏族の連中も、見よう見まねで作っていますから、何とかなると思います」


 何本かは作ってあげたけど、それ以外の女性達もリール竿を持っているんだよね。曳釣りも教えてあげたいけど、あまり急激に漁の仕方を変えるの問題がありそうだ。

 大型船に率いられたトウハ氏族のカタマランが出入りするようになれば、すぐにも伝わるのかもしれないけどね。


 皆で昼食を終えると、トリマランのアンカーを引き上げてオウミ氏族の島に帰ることにした。

 水中翼船の走りが、船底に付けた翼にあることは分かったようだが、翼の買う℃についてナツミさんは教えることが無かった。

 漁には必要ないとナツミさんも思ってるんだろうな。

 それでも、ケイラさん達は代わる代わる操船楼に上がってナツミさん達の操船を見ている。

 氏族の島の入り江に着いて、桟橋に横付けするときにトリマランが横滑りをして接岸した時には目を見開いていたからねぇ。

 操船用だけで、魔導機関を4基使っていると言ったら、グラッドさんが驚いていたから、ケイラさん達がせがんでもカタマランに搭載することは無いんじゃないかな。


 夕暮れが迫ってきたところで、獲物の売り上げを3等分して分配する。

 カルネアが恐縮していたけど、3家族で漁をしたんだから分配はそれでいいはずだ。


「明日には出掛けるのか?」

「ホクチに向かって早いところトウハの島に帰ります。雨期の漁はこの船の両側にある竿を使った釣りをするんです。3YM(90cm)以上のシーブルやフルンネが掛かりますよ」


「その竿にも興味があったが、それは次の機会に聞くこともできるだろう。サイカ氏族の連中には貰った竿を渡して使い方を教えよう。それは俺が責任を持って行うから安心してくれ」


「よろしくお願いします」と頭を下げると、俺の肩を叩いて笑みを浮かべていたから、安心して任せられそうだ。


 オウミ氏族の5人がトリマランを去っていくのを皆で見送ると、急にトリマランが静かになった。

 トリティさん達が食事の支度を始めると、ナツミさん達は子供達を家形に連れて行く。

 残った俺はベンチでのんびりとパイプを楽しむことにした。

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 オウミ氏族の島を離れる前に、再度長老達の小屋を訪ねた。

 帰ることを告げただけの簡単な挨拶だったけど、長老達は喜んでくれた。表敬訪問に近いからね。帰る時も挨拶しておかないとトウハ氏族の長老が笑われてしまいそうだ。

 皆でニライカナイの発展を祈って酒のカップを傾けた。


 トリマランに戻る途中で、浜伝いに歩いてきたナツミさんに出会った。

 カヌイのおばさん達に帰ることを伝えに行ったんだけど、帰りは俺と同じになったようだ。


「アオイ君の方も、終わったの?」

「一応ね。後はホクチだけど、サイカは行かなくても良いのかな?」


 他の氏族の島に行ってもサイカ氏族の島に行かないとなれば、後々に問題になりかねないようにも思えるんだよな。


「サイカ氏族が、一番の問題でもあるのよね。2、3日の滞在でそれを解決できるとも思えないけど、寄ってみようか!」


 ナツミさんに顔を向けて頷くことで答えたんだが、不漁の原因が原因だからなぁ……。

 早々に解決できるとは俺にも思えない。

 そんな状況下でサイカ氏族に向かうと、頼られてしまいそうだと当初は考えていたんだよな。

 だけど、ナンタ氏族の長老や、オウミ氏族の長老を見ると、俺達の訪問を心から喜んでくれている。

 足の速いトリマランがあるんだから、それほどの寄り道とも思えない。ここは行ってみるべきなんだろうな。


「サイカ氏族の島にも行くなら、長老が喜ぶにゃ。西に向かって船を進めればサイカの連中が漁をしてるから直ぐに分かるにゃ」


 トリティさんの言う長老は、トウハの長老なんだか、サイカの長老なんだかよく分からないけど、サイカ氏族の島に向かうのは賛成してくれているようだ。

 それにしても、適当な航路になりそうだな。


「それならサビキ仕掛けを渡さなくても良かったかな?」

「それはそれってことね。竿は2本ぐらい貰ってきなさい。途中で作れるでしょう?」


 航行中は、確かに俺は暇だからなぁ。

 ナツミさん達があわただしく昼食と出航の準備をしている間に、炭焼きの老人のところに出掛けて、15YM(4.5m)位の竿を2本頂いてきた。


 朝食のご飯を炒めてスープを掛けたものを頂いていると、カルネアが背負いカゴに一杯の果物を持って来てくれた。

 あれから早速、銛の柄にガムを取り付けたらしい。

 これから仲間達と出掛けるらしいから、実際に確かめてみるんだろうな。

 互いに手を振って別れたが、しばらくは合うことも無いに違いない。

 

 トリマランが桟橋を離れて入り江を出る時には、桟橋にたくさんの人達が集まって手を振ってくれた。

 あの中にがグレッドさんもいるんだろう。アルティ達も甲板から手を振っていたその時に、トリマランが浮き上がった。

 思わず操船楼の2人に目を向けたんだけど、ナツミさんは俺に首を振っている。

 

「神亀にゃ! 神亀がサイカ氏族まで乗せてくれるのかもしれないにゃ」

 

 レミネィさんの言葉はかなり自分達に都合が良く聞こえるぞ。

 トリティさんも一緒になって頷いてるけど、桟橋の連中は手を振ることも忘れたようにこちらを見ている。

 早くここを離れた方が良さそうだけど、神亀の甲羅の上ではねぇ。ザバンが動くような速度で入り江を出ると、今度は急に速さが増してきた。


「まるで水中翼船モードみたいね!」

 ナツミさん達が喜んでるのは、操船を替わって貰ったようなものだからだろう。

 神亀ならサイカ氏族の島を知っているに違いない。

 ここはのんびりと構えているしかなさそうだな。


 神亀はオウミ氏族の島を離れると、一路北に向かって進んでいく。

 完全にトリマランは甲羅の上に乗って海上に出ているんだけど、甲羅が上げる水飛沫が甲板にまで届くから豪雨の中を進んでいるようにも思えるぐらいだ。


「どう見ても40ノットは出てるんじゃないかしら? でも、私達を考えて泳ぎを押さえているようね」

「これで押さえているの? 軍船だってこんなに速度を上げられないと親父に聞いたことがあるけど」

「ヒレが4つもあるんですもの。それに龍神ならもっと速いんじゃないかしら」


 乗ってみたいような口ぶりだけど、思っているだけにしてほしいところだ。

 マリンダちゃんが上の操船楼に上って、あちこちとオペラグラスで眺めているのは、次の航海を考えてのことなんだろうけど、甲板から眺めた姿は興味本位にも見えるんだよな。

 30分ほど北に進んだところで、今度は西に向かって進む。速度も少し上がったように思える。なんとなく神亀をタクシー代わりに使っているような罪悪感を感じてしまうけど、トリティさん達は好意的なんだよな。

 昔の外輪船なら氏族間の距離は10日の距離なんだろうけど、今のカタマランでなら昼夜進めば3日も掛からない。神亀なら何日で着くんだろう。


 夕暮れに向かって進んでいる時だ。上の操船楼に上がっていたレミネィさんが前方に腕を伸ばして船団がいると教えてくれた。

 家形の屋根に上って双眼鏡で確認すると、南西方向に黒い点がいくつか見える。

 サイカ氏族の船団なんだろう。

 明日にはサイカ氏族の島に到着できそうだ。


「ここまでくればだいじょうぶだろう、と言ってるわ」

「ちゃんとお礼を伝えてくれたんだろう?」

「もちろんよ。アルティ達のお友達でもあるし」


 大きなお友達だな。

 そんなことを考えていると、トリマランがゆっくりと海面に近づき始めた。


「さて、今度は私達が操船することになるわ」

「私が手伝うにゃ。マリンダは子供達と家形の中にいるにゃ」


 嬉しそうにトリティさんが操船楼に上って行く。

 俺とナツミさんはその姿に思わず顔を見合わせてしまった。

 まったく元気なお婆ちゃんだな。

 トリマランが神亀の甲羅から離れたところで、魔導機関が動き出した。

 子供達が家形から出てきて、俺達から離れていく神亀に手を振っている。そんなことをすると明日もやって来るんじゃないか?

 神亀と仲良くするのは問題ないだろうけど、他の氏族がそれを好意的に考えてくれるとばかりは限らないんじゃないかな。

 サイカ氏族とホクチ氏族を訪問するまでは、神亀との距離を離しておくべきかもしれない。


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