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M-163 使う銛の違い

 翌朝、目が覚めた時には雨が納まっていた。

 強い日差しをタープで避けながら、海水で顔を洗う。

 天気が良い割には、トリマランの速度を落としているのが気になるところだ。


「はい。もう少ししたら南に回頭するみたいよ」

 ナツミさんから受け取ったお茶を飲みながら、周囲を見る。

 代わり映えしない風景なんだけど、この辺りはオウミ氏族の漁場になるんだよな。


「ありがとう。ところで動力船は見えた?」

「朝早くに、3隻とすれ違ったの。このトリマランを見て驚いていたから、トリティさん達が少し速度を下げてるみたい」


 なるほどね。水中翼船モードにならないギリギリの速度で航行してるんだろう。

 だけど、これでも十分に速いと思うんだけど、トリティさん達は満足できないのかもしれない。

 

 少し遅めの朝食は、昼食と兼用なんだろうな。

 食事が終わったところで、ナツミさん達が操船を替わり、トリティさん達の食事が始まる。


「先に頂きました。申し訳ありません」

「いいにゃ。後1つ、北の島を越えれば南に進路を変えるにゃ。このままだと昼を過ぎてしまうにゃ」


 操船楼を見上げると、マリンダちゃんが俺達の様子を見ている。

 トリティさん達の食事が終わるのを待って、速度を上げるんだろうか?

 目標の島を過ぎたころには、トリティさん達の食事も終わっている。のんびりとお茶を飲みながら後片付けをしていたら、大きく円を描いてトリマランの進路が変わった。


「ちょっと、大回り過ぎるにゃ。魔道機関で進路を変えたに違いないにゃ」

「海面に浮いてたら舵は余り効かないにゃ。これでも小回りと言えるにゃ」

 

 トリティさんとレミネィさんが言い合いをしながら家形に入って行った。

 さっきから、マルティ達が甲板の様子をうかがっていたから、子供達と遊ぶんだろうな。そう言う意味では良いおばあちゃんになるんだろう。

 さて、オウミ氏族の島は、ここからどれぐらい離れているんだろう。


「見えてきたにゃ!」

 マリンダちゃんの声に、家形の屋根に上って前方を見た。

 トウハ氏族の島をそのまま小さくしたような姿の島が見える。

 家形から子供達を連れて出てきたトリティさん達も、その島を眺めて頷いているところをみると、まさしくあの島がオウミ氏族の島ということになるんだろう。


「予定よりだいぶ遅れたにゃ。でも、1日は遅れなかったにゃ」

「島の西に入り江があるにゃ。近づいたら速度を落とすにゃ」


 家形の上に立っていると、物笑いの種にされそうだ。甲板に下りて、近づく島を眺めることにした。

 島の林がはっきりと見えてきたところで、ナツミさんが島よりに進路を変える。そのまま南に進んで、300mほどの砂浜を持った奥行150mほどの入り江にゆっくりとトリマランを進めていく。


 一番長い桟橋の突端で、男が腕を伸ばして停泊場所を教えてくれたのだが、その場所は、男の立っている隣の桟橋のようだ。


「商船が2隻も来てるにゃ」

「北の商船は、トウハ氏族にやって来る商船と少し違ってるにゃ」


 長い桟橋の両側に商船が停泊していたのだが、北側の商船は確かに変わっている。一回り小さいし、いくつも窓が開いている。

 ひょっとして、商会ギルドの代表が暮らす船宿なのかな?

 上陸したら、色々と分かるに違いない。


 隣の桟橋の長さは岸から50mほどもある。桟橋にトリマランを停めたところで、アンカーを下ろし、桟橋の杭に船首と船尾のロープを結んでおく。桟橋と船体の間に、干渉用のカゴを3つ下ろしてあるから、船体を破損することは無いだろう。


「さて、獲物を運ぶにゃ!」

 トリティさんの指図で獲物を背負いカゴに入れると、ナツミさんとマリンダxハンデ運び始めた。

 俺も一応挨拶しておいた方が良いだろう。ついでに商船で銛を作れるかもしれない。


 子供達をトリティさんに頼んで、桟橋を歩き始める。

 林の奥から、真っ直ぐに俺の方に向かってくる男は、長老の使いなんだろうか?


「どこの船かと思ったが、バレットに聞いた船と同じだからトウハ氏族のアオイということだろう。よく来てくれた」


 砂浜で男に呼び止められたが、俺の名を知ってるということは一度あったことがあるんだろうか?


「途中で漁をしてきましたんで、オウミ氏族の島に下ろさせてください。明日には出発しますから、船をこのまま停めさせてくださると助かります」

 俺の言葉に、笑みを浮かべると男が島の奥を指差した。

「そう慌てることもあるまい。今夜は氏族会議に顔を出してくれ。明日は、噂に聞くトウハの銛をオウミの若者に見せて欲しいところだ」


 それぐらいは構わないだろう。

 日が沈んだ頃に、トリマランに向かいを出すと言って男が去って行った。

 まだ、日が沈むまでにはだいぶありそうだ。

 今の内に、銛を作ってもらおう。


 銛をドワーフの職人に頼んで、トリマランを停泊した桟橋に戻ってくると、ナツミさん達が背負いカゴを担いで桟橋を歩いてきた。


「2回目?」

「そうよ。これで終わりかな? お酒を何本か買い込んでおくね」


 確かに、誰か尋ねて来るかもしれない。

 背中の荷は重そうだけど、それだけ獲物が多いということでもあるから、2人とも笑顔で商船に向かって運んで行った。


 数隻の船団が入り江に入ってくると、思い思いの桟橋に動力船を停めている。ほとんどがカタマランだが、大きくはないようだ。

 魔道機関も6個の魔石を使ったものだろう。とはいえ、外輪船よりは遥かに船足を速められる。


「お茶とお酒は用意してあるにゃ。誰が来ても準備は出来てるにゃ」

「済みません。俺の方は、今夜氏族会議に出ることになりました」

「トウハ氏族の聖痕の持ち主にゃ。自信をもって出掛けるにゃ」


 トリティさんが励ましてくれるけど、オウミ氏族に困った問題はないんじゃないかな? 単なる顔見せだと思ってるんだけど。

 

「大きなカタマランだな。トウハ氏族の者か?」

 桟橋からネイザンさんと同じ年頃の男が訊ねてくる。その後ろに3人ほど男がいるし、いつの間にかこの桟橋にもカタマランが停泊していた。

 見慣れない船だから、声を掛けてきたんだろう。


「トウハ氏族のアオイという者です。北東の海域で漁を終えたのでオウミ氏族の島に立ち寄った次第です」

 アオイという言葉を聞いて4人の表情が変わった。不審者を見る目から驚きに代わっている。


「トウハ氏族のアオイであれば、聖痕の持ち主の1人。漁の話を聞かせて欲しいが、構わんか?」

「参考になるかは分かりませんが、どうぞこちらに」


 4人を招き入れようとしたら、1人が桟橋を走って行った。

 残り3人が甲板に乗り込んできたところで、ベンチを取り出して勧める。

 真ん中に、小さな木箱を持ってくると、トリティさん達が、ココナッツの椀に酒を入れて持って来てくれた。


「子供達は達で見てあげるにゃ。アオイはオウミの中堅と話をするにゃ」

「申し訳ありません」と頭を下げると、ニコリと笑顔を見せて家形の中に入って行った。


 どうやら、彼等も銛を使うらしい。

 1人が桟橋の反対側に停めたカタマランから銛を持って来て見せてくれた。

 銛先が1本物で、返しが小さい。全体の長さは3mほどだろうが、これにはガムを付けていないようだ。

 となれば、青物を突くのは絶望的だろうし、バルタックやブラドも難しい相手になるだろうな。


「狙いはバヌトスですか?」

 膝の上で銛の柄を転がしながら銛先のの狂いの具合を確かめてみる。

 少し、狂ってるな。これだと柄ではなく、銛の鉄の柄を直さねばなるまい。


「さすがは聖痕の保持者だ。俺達はその銛でバヌトスを狙うのだが、1日で20を上げるのは中々に難しい」

「俺の銛もお見せしましょう。この銛に一番近いのはこれになるんですが、少し変わってるでしょう?」


 銛を彼らに戻したところで、屋根裏から穂先が1本物の銛を取り出した。

 彼らの銛から比べれば少し短いが、ガムが柄尻に付いているから、それを手に取って調べている。

 ちょっと、使い方をレクチャーしないといけないのかもしれないな。


「あなた方の銛と比べると大きく3つの違いがあります。柄を膝に乗せて回してみてください。銛先がぐるぐると動いてますよね。俺の銛はほとんど動かないはずです。それと、銛の柄の長さ、最後に後ろに付いてるガムの束ですね」


「この銛で、どれほど突くんだ?」

「1日掛ければバルタックを15以上は何とかなります。ハリオやフルンネなら10匹というところです」


 オオォォ! ちょっとしたどよめきが起こったけど、それほど大げさなことじゃないと思うんだけどねぇ。


「あら、お客さん?」

「近くのカタマランから来た人達だ。銛の話をしてたんだ」

「私達は中にいるね。オウミ氏族の世話役さんも2割で良いと言ってくれたわ」


 他氏族で獲物を下ろした時は2割という上納が定着してるということだろう。それなら、大型船の漁も上手く行きそうだ。


「これでバルタックを突けるんですか? それよりも、ハリオやフルンネを突くことができるとは思えないんですが」

「腕の力では無理だと思う。だけど、この銛は腕の力で突くわけではないんだ」


 ガムを伸ばして左手で柄と一緒に掴み、握りを緩めると勢いよく銛が伸びることを見せてあげる。

 びっくりして眺めていたが、原理は理解したようだ。


「ガムを伸ばして、それが戻る力を利用すると?」

「単純だけど、結構使えるぞ。その時に問題になるのが銛先の狂いになる。さっき見せて貰った銛と俺の銛の先端の動きを見てくれたか? それぐらいに真っ直ぐにしておけば狙いを外れることは無い」


 いつの間にか聴衆が増えている。最初は4人だったはずだが、今では甲板に腰を下ろしている若者達もいるんだよな。

 ナツミさんがカップと酒のポットを持って来てくれていたんだけど、数が足りなくなりそうだ。


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