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M-158 水中展望台?


 銛は三又だが、横一列ではなく先端が三角になるようにすればいいはずだ。

 個々の先端部分には、大型のハリオを突く先端が外れて横に回転する銛を付けることになる。パラロープは銛の柄の先端部に金具を付けて丸環を通せば、柄の回収も容易になるはずだ。あまりロープを色々と取り付けるのも問題だろう。

 ロープはナツミさんが乗っていたヨットの予備品を使えば十分だろう。50mほどあるから十分に使える。

 銛から15mほどのところに浮きを付ける。これは延縄を仕掛けた目印用の浮きが、大きさ的には丁度いい。組紐でロープに縛っておけば早々外れることはないだろう。


 それにしても……。これを打ち込む相手がいるんだろうか?

 突きんぼと言えばカジキ相手の勇壮な漁なんだが、カジキは未だに見ていないんだよな。


「トリティさんの話しでは、日暮れ近くには回頭目安の島が見えるということよ。それって?」

 いつの間にか。ナツミさんが甲板に下りてきたようだ。

 現在操船を行っているのはマリンダちゃんに、レミネィさんということなんだろうな。

 俺が描いた銛を見て、頷いているところをみると、やはり突きんぼ漁ということになるな。


「思い出して描いてみたんだけど、ヨットにあったロープを使うよ。それと、1つ疑問なんだけど、カジキはこの海域にいるの?」

「そう思うよね。私も見たことが無いんだけど、カヌイのおばさんが大きな水面近くを泳ぐ魚を見たことがあるそうよ。背びれが見えたと言ってたわ。

 ナンタ氏族のカヌイのおばさんも似た話をしていたし、背びれの姿を詳しく教えてくれたの。間違いなく、カジキだわ」


 いることは間違いないが、極めて稀な魚ということになるんだろうか?

 遭遇したら間違いなく漁を始めそうだな。

 

「たぶん、ホクチ氏族のカヌイも同じ話をしてくれると思うの。オウミとサイカは望みが薄いわ」

「それって、氏族の外側でのみ目撃されているってことか?」

「たぶん。トウハ氏族は素潜りだけど、ナンタ氏族は釣りだからね。ホクチの漁はカゴを使うらしいけど」


 カゴ漁で何を取るんだろう? 漁の光景を見てみたいな。

 話を元に戻すと、ナツミさんもカジキがいるとは思っているようだけど、どこで漁をしたらいいか分からないみたいだ。

 とりあえず獲物の姿を見るまでは、漁の準備を終わりにしておけば良いのかもしれないな。

 とりあえず描いた銛の絵をバッグに入れておく。

 オウミ氏族の島に商船が来ていればいいんだけどね。


 今のところ新しいトリマランは順調に進んでいる。トリティさんは、高い場所にあるもう1つの操船楼に上ってご機嫌みたいだ。

 オルバスさんに作ってくれと、せがまなければ良いんだけれどね。

 

 夕暮れ近くになって、岩だらけの小さな島が見えてきた。

 どうやら、あれが回頭する目印の島になるらしい。急ぐ航海でもないから、島の近くにアンカーを下ろして船を休めることにした。


「夜も進めるけど、あまり船足を上げられないにゃ」

「日中だけで十分ですよ。昼なら交替で操船できますから」


 カマドで夕食を作り始めたトリティさんの呟きに、ナツミさんが慰めともとれる言葉を掛けている。

 まあ、そんなに早く行く必要はないからなぁ。俺もナツミさんに賛成できる。

 とりあえず、新しいトリマランに大きな問題は無さそうだ。

 今夜は、どうにか雨は降らなさそうだけど、明日も降らないで欲しいよな。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日は俺の願いが届いたのか、朝から快晴だ。暑くなりそうだけど、やはり海上はいつもこんな感じが一番だな。雨が降らないと、島での暮らしが困ってしまうが、漁をしたり船を走らせるなら快晴が一番だろう。

 とはいっても、雨期だからねぇ。今は雲なんてどこにも見えないけど、安心できない季節なんだよな。

 ナツミさん達は大喜びで、トリマランの速度を上げている。

 それも、上の操船楼を使っての操船だ。タープも甲板の前半分を覆うだけに畳んだから、ナツミさん達の様子が良く分かる。

 操船楼の周囲に枠はなく、小さな屋根があるだけだからナツミさんとレミネィさんは帽子を被ってサングラスを掛けていた。


「次は私とマリンダにゃ。操船は私がやるにゃ」

 トリティさんが俺の傍にやってきて上の2人を見上げている。

「だいじょうぶですか?」


「魔道機関の調整で向きを変えるのはカタマランの操船の基本にゃ。舵は低速で使うにゃ」

 はい! とお茶のカップを渡してくれた。

 俺の隣に座ってお茶を楽しむみたいだけど、トリティさんの目は周囲の景色を見ずに、上の2人を見てるんだよね。


 マリンダちゃん達は家形の中で、積み木遊びの最中だ。文字を教えるのは母親の勤めなのかもしれないな。マルティ達とアキロンを分け隔てることなく育ててくれているのがありがたい。

 ナツミさんも子供達をかわいがるけど、自分目線なところがあるからね。

 俺は俺で末っ子だったし、子育てには自信が無いんだよな。


 何事もなく、トリマランは西に向かって進んでいく。

 30ノット近い速度は俺の心臓に良くないけど、トリティさん達は嬉々として動き回ってるんだよね。

 上の操船楼からの眺めは格別だと話してくれたけど、それなら俺も船首のお立ち台に一度は立っておく必要があるかもしれないな。

 

 昼過ぎになって、恐る恐る船首のお立ち台に立ってみると、真鍮でできた枠が俺の腰の高さにある。枠に体重を預けてもだいじょうぶだろうかと色々と試していた時だ。

 ゆっくりとお立ち台が前方に伸びている。

 後ろを振り返ると、ナツミさんが下の操船楼から上半身を乗りりだして俺に手を振っていた。


 確か全長が3mほど伸びると言ってたけど、これのことか?

 単に前に延びるのではなくて、水面からの高さも増している。この高さだとすれば、水面までは2m近くあるんじゃないかな。広範囲に銛を打ち込めるようにとの工夫なんだろう。……それにしても、ここから銛を打つとなると銛の絵をかなり長くしなけれあなるまい。

 3mほどを考えてたんだが、4m以上欲しいところだ。


 甲板に戻ってくると、ナツミさん達がいた。マリンダちゃん達と操船を交代したんだろう。

 子供達は? と家形をみるとレミネィさんがココナッツジュースを飲ませている様子が見えた。


「驚いたよ。あれなら突けそうだけど、俺はビデオで見ただけだよ。一応、道具は揃えておくけど、期待はしないで欲しいな」

「トウハの銛に突けぬものなし! バレットさんが言ってたよ。アオイ君ならだいじょうぶだよ」


 その自信はどこから来るのか聞きたいところだ。

 だけど、オルバスさんもその言葉を教えてくれたし、それは海人さんがトウハ氏族に教えたとも話してくれた。

 海人さん並の腕があるなら良いんだけどねぇ。同じ聖痕を持つ身としては、少し肩身が狭い思いだ。


「カジキともなれば3mは越えるよ? まさか大きな保冷庫は」

「それもあるけど、このトリマランなら遠くで漁ができるでしょう? 家族で漁をするなら直ぐに満杯になるわ。一夜干し用のザルも3枚追加してあるの」


 備えあれば……、というやつなんだろうけど、獲らぬ何とかという逆の言葉だってあるんだよな。

 この場合は、どっちになるんだろうか?


 午後も同じように走らせていたのだが、突然トリマランの速度が遅くなった。まだ夕暮れには早いのだが、トラブルでもあったんだろうか?

 気になって上の操船楼を眺めると、ナツミさんとマリンダちゃんが左右を眺めている姿が見て取れた。


「きっと、明日の漁場を探してるにゃ。空荷でオウミ氏族の島に向かうのも考えてしまうにゃ」

 トリティさんの言葉に、昼寝から起きてきたレミネィさんが頷いた。

 

「この辺りで漁をしたことは無いんですけど、何が獲れるんでしょう?」

「カイト様が今の氏族の島を見付ける前は、この辺りはトウハ氏族の漁場だったにゃ。オウミ氏族も素潜りはするけど、3本銛にゃ」


 3本銛というのは、先端が3本に分かれた銛らしい。となれば狙うのは中型がいいところだろうな。

 大型は釣りで漁をするということなのかな? だとすれば、大きいのがたくさんいるように思えるな。


「アオイ君、アンカーを下ろしてくれない!」

 上から、ナツミさんの声が聞こえてきた。手を振って了解したことを告げると、急いで船首に向かい、アンカーを下ろす。

 水深は6mほどだな。すぐ隣の海の色は、サンゴの明るい色だ。サンゴの崖を見付けたということなんだろう。


 マリンダちゃんが上の操船楼から下りてくると、家形の中に入って行った。何かが動く音が聞こえてきたけど、また変な仕掛けを作ったんじゃあるまいな。


「皆、家形に入って!」

 遅れて甲板に降り立ったナツミさんが笑顔で俺達に告げたので、ナツミさんの後に続いて家形の中に入ると……。


「綺麗にゃ!」

「まるで潜っているみたいにゃ!」


 トリティさん達が感動した表情で声を上げている。

 俺は、どっちかというと呆れた表情をしているに違いない。とはいっても、そこから見える光景は、確かに綺麗だとしか表現できないんだけれど。


「水中展望台か! 箱眼鏡の応用だね」

「ドワーフのおじいさんに教えたら喜んでたわよ。これも特許らしくてこの船の値段が安くなったわ」


「水漏れはだいじょうぶかな?」

「銅の枠に厚手のガラスを張ってあるの。2重に樹脂を塗り込んだから、だいじょうぶだと教えてくれたわ。普段は真鍮の板で覆っているから、ちょっと擦ったぐらいでは壊れないそうよ」


 かなりの数の魔方陣をあちこちに彫っているんだろう。ひょっとしたら、強度を上げるために魔石まで使っている可能性もありそうだ。

 これもギミックには違いないだろうけど、こんな仕掛けをあまり付けるとトリマランの軽快性が失われるんじゃないかな?


「大きいのがいたにゃ! 明日は私が突くにゃ」

「その下にいるバッシェは私の獲物にゃ!」


 トリティさん達は、獲物の分配を始めたぞ。その隣では、マリンダちゃんもジッと覗き込んで獲物を物色している。

 それにしても、テーブルほどの大きさで海底を皆で眺められるんだから、子供達が一番喜ぶに違いない。

 生憎と、ハンモックの中でお昼寝中だけど、そろそろ起こしてあげた方が良いかもしれないな。



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