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M-156 見た目は余り変わらない


 操船楼が2つあるように見えるトリマランは小さなカタマランの2倍近くあるように見える。

 おかげで目立つことこの上ないが、バレットさん達に言わせるとこれで十分だと頷いていた。


「トウハ氏族の聖痕の持ち主で、その娘と息子は聖印と聖姿を持っているのだ。やはり、これぐらい目立てねばならないだろう」

「ナンタ氏族のグリゴスのカタマランもナンタ氏族で一番大きいと聞いたぞ。俺もバレットの話に頷ける」


 そんなことを言いながら、お披露目の酒を美味そうに飲んでいる。

 嫁さん達はあちこちと見学してたところで、今は家形のリビングで女子会の最中らしい。俺よりもトリティさんの方がこの船に詳しいんじゃないか?


「試験航行を兼ねて、3つの氏族を一回りしてこようと思っているんですが?」

「それなら、トリティを連れて行ってくれ」

「レミネィも頼んだぞ。一度乗せれば満足するんだろう。もっとも、アオイの様な羽を船底に付けてくれと、今でも言ってるんだ」

「まったく困ったものだ」


 オルバスさんのところも、トリティさんが騒いでいるってことなんだろうな。まったく困ったおばさん達だ。同情してしまうところだけど、ナツミさんとマリンダちゃんも似たところがあるからね。

 おしとやかな女性というのはネコ族にはいないんだろうか?

 強いて言うなら、リジィさんになるんだけど、この間は素潜りをしていたからな。操船だって、速度を落としたことは無かったように思える。


「俺達も行ってみたいけど、この船の速度には付いていけないだろうな。前のトリマランよりも速度は上なのか?」

「それは走らせてみないと分かりません。どうやら水中翼も付けてあるようですから、それほど速度は変らないかと……」


 魔道機関の数を聞かれたから、正直に6つと答えたんだけど、どこに付けた! と問いただされてしまった。

 たぶん操船を容易にするためだと答えてみたものの、俺にだって良く分からないんだよね。


「船を知り尽くしていると思わねばならんな。たぶん、もう1度は作るだろうが、俺達には想像も出来んぞ」

「案外、振りだしに戻ったりするんじゃないか? 近場の漁をするなら、カタマランで十分の筈だ」


 そんな話で盛り上がるんだから困ったものだ。

 トリティさん達を連れて行くのはナツミさんに確認した方がいいだろうな。何と言っても、トリティさんとレミネィさんだからね。

 酒盛りの席を中座して、家形の扉の所から、マルティにナツミさんを呼んでもらった。

 やって来たナツミさんに訳を話すと、ニコリと笑みを浮かべてくれたけど、さてどうなるんだろう。


「絶対行くにゃ! 前の船が浮かんだくらいだから、今度は空を飛ぶかもしれないにゃ!」

「前のトリマランも操船させてもらったにゃ。今度も操船してみたいにゃ!」


 2人の大声が聞こえてきた。良く分かったぞ。

 俺に視線を向けてナツミさんが頷いているから、交渉成立ということなんだろう。

 酒盛りの席に戻ると、バレットさんに顔を向けた。


「ここまで聞こえてきたぞ。まったく年甲斐もなく困った嫁達だ」

 オルバスさんも頷いているし、グリナスさん達は苦笑いを浮かべている。


「となると、出発は早くて明後日か?」

「そうなるでしょうね。食料も買い込まねばなりません」


「なら、俺達で果物を採って来るよ。俺達もネイザンさんが誘ってくれたからな。明後日には出掛けるんだ」

「ネイザンと一緒なら、あまり遠くには行けんだろうな。その間に、お前達で次の航海を考えるといいだろう」


 やはり大型船は、ネイザンさんを中核にしようと考えているようだ。

 そうなると、次期長老が大型船の指揮を執り、ネイザンさんとネイザンさんの仲間に小型船での漁の指揮を任せることになるんだろう。

 長老達がオウミ氏族の島で会合を持っているらしいが、基本的には売値の2割を魚を卸した氏族の島に上納することで了解が得られている。その細則を決めるのだろう。


「出来れば、各氏族の漁をしている場所近くで、神亀を見せてやってくれ。神亀を見ずに漁を終える連中が殆どだからな」

「その辺りは、ナツミさんに話しておきます。ですが、相手あってのことですから……」


 俺の答えに、無言で肩を叩いてくれた。分かっているということなんだろう。

 場合によっては、トウハ氏族の示威行為にもとらわれかねない。

 神亀に乗って遊んでいる子供達を見たら、驚くだけでは済まないように思えるんだよな。


 お披露目の宴会が終わったところで、恐る恐る家形の中に入ってみた。

 前のカタマランではどうにか立つことができたけど、今度のカタマランは天井の高さに余裕がある。

 そのためなんだろうな。部屋が広くなったように思えないんだよね。

 

「リビングを広くしたの。子供達のハンモックも間を広くしてあるのよ」

「過ごしやすいのが一番だからね。船首は、前と同じなのかな?」

「ちょっと変えてあるわ。ナンタ氏族の海にいると聞いたの。何としても突きたいわ」


 何がいたんだか分からないけど、その内に教えてくれるだろう。船首でも銛を打てるようにしたってことなんだろうからね。

 

「あまり変わってないけど、そうなると左右の船に大型魔道機関を搭載して、真ん中にはバウ・スラスタってことだよね。船首と船尾に付けたの?」

「バウ・スラスタは船首だけよ。船尾には可変スラスタを設けたわ。もう1つの魔道機関はギミック用だから、その時に教えるね」


 ギミックって、なんだ?

 思わずナツミさんの嬉しそうな表情を見てしまった。

 だいたいにおいてギミックなんて言う代物は、あまり役に立たないってのが定番じゃなかったか?

 それに、前のトリマランでさえ水中翼を持っていた。これ以上の改造なんてないように思えるんだけど……。

 

 とりあえず今夜は寝ることにしよう。操船はナツミさんなんだから、ナツミさんが使いやすい船にすれば問題はないはずだからね。


 翌日は、船首を眺めてみた。船首部分に真鍮製の枠が作られている。航行中にここに立って両腕を広げるのかな? あの映画が好きだと言ってたのを思い出した。

 ザバンの搭載位置は同じだし、トイレ位置も同じだな。

 家形の屋根を移動しながら船尾の甲板に向かう。

 操船櫓が左に偏っているけど、その上にあるもう1つの操船櫓は軸船上に設けたようだ。家形の船尾右位置にカマドが作られているから、そうなってしまうようだな。前のトリマランと同じような調理台も作ってあるようだ。

 甲板の両側に保冷庫が設けられている。保冷庫の大きさは横90cm、深さは60cmだけど長さは3mほどもある。両方同じ大きさかと思っていたら、左舷の保冷庫は長さが4mほどもある。いったい何を釣ろうというのだろうか?

 確か、ナンタ氏族の海にいる何かを聞いたって話してたから、それを入れるためってことなんだろうか?

 とりあえずは枠で区切って、野菜や果物を入れとくんだろうな。


 操船楼の下に作った漁具の保管庫、家形の屋根裏の銛の保管場所は前のトリマランと同じだな。

 左右に作られた曳釣り用の竿の取り付け金具も同じように作られているし、竹竿も前のトリマランから取り外して付けられていた。


 朝食は、オルバスさん達と一緒に頂く。

 作ったのはリジィさんだから、久しぶりに美味しい朝食だ。ナツミさん達も、一緒に暮らし始めたころから比べると格段に腕を上げてはいるんだけど、やはり微妙な味付けがまだなんだよね。


「朝食を終えたら、商船で食料を仕入れるにゃ。マリンダは子供達を浜で遊ばせておくにゃ」

「アオイ君は、水汲みをお願いするわ。トリマラン並に水ガメが大きいから、何度も往復することになってしまうけど」

「それぐらいは何でもないさ。ワインとタバコをお願いしたいな」


 朝食を食べながら、役割を分担する。オルバスさんもマリンダちゃんと一緒に浜に向かうらしい。

 リジィさんが、オルバスさんの家形を掃除するって言ってたから、追い出される前に孫と遊ぶつもりなのかもしれない。


 何度も往復して水を運ぶ。水の運搬容器を両手に持って背負いカゴにも1個入れているから、一度に30ℓ近く運べるんだろうけど、船体内に置かれた真鍮製の水ガメの容量は120ℓ以上ありそうだ。最後に、カマド近くに運搬用の容器に満杯にしたところで作業を終えることにした。

 

 丁度、ナツミさん達が食料を買い込んで帰って来たから、リジィさんを交えてお茶を飲む。


「明日は、この船で出掛けられるにゃ。操船もさせて欲しいにゃ」

「良いですよ。舵よりも方向を変えられる装置を付けましたから、出港したらその使い方も教えますね」


 真ん中の船の船尾に付けた可変スラスタってことなんだろう。

 船首のバウ・スラスタと上手く使えば、船を横滑りさせることもできるんだろうな。サンゴの穴に正確な横付けを狙ったんだろうか?


 昼を過ぎたころに、子供達を引き連れてマリンダちゃん達が帰って来た。

 リジィさんの作った昼食を皆で美味しく頂きながら、この船の試験航行を兼ねた他氏族の島への訪問に話が弾む。


「長老が一緒ではないし、託された言葉もない。近くで漁をした帰りという立ち位置だから気兼ねをすることも無いぞ。まあ、長老に招かれることがあれば、族長会議に顔を出せばいい。向こうにとってもトウハ氏族の聖痕の持ち主を長老全員が見たわけではないからな」

「顔見世ってことですね。了解です。それと、トウハ氏族の大型船の話が出た時にはナンタ氏族と同じことを話すつもりです」

「それでいい。ナンタ氏族を訪問してから、オウミ氏族の島に長老達が1度集まっている。トウハ氏族に対する疑問は、払拭しているとは思うのだが」


 それならかえって好都合だ。

 あまり長居せずに、各氏族の島を回ってこよう。


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