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M-152 先ずは材料集めから


 トウハ氏族の島に帰って来た時には、すっかり夜になっていた。バレットさんの思惑通りということなんだろう。

 いつもの桟橋にトリマランを停めると、トリティさん達が大鍋を用意している。皆で遅くなった夕食を頂くことになりそうだ。この場合は夜食なんだろうけどね。


「手伝ってくるね。マリンダちゃんがアキロン達をお願い!」

 ナツミさんが隣のカタマランに飛び乗って、トリティさん達の応援に向かった。昔と違ってこの頃はトリティさんも安心できるんだろうな。


「やはり、トウハの島が一番にゃ。次はどこの漁場に向かうにゃ?」

「バレットさん達の誘いが無ければ、東がいいね。2YM(60cm)のブラドも良いけれど、やはり3YM(90cm)を越えるシーブルや、フルンネが突きたいよ」


 俺の話を嬉しそうな表情で、ベンチに腰を下ろしたアルティ達と一緒になって聞いている。

 アルティ達もマリンダちゃんと一緒に目を輝かせているけど、また神亀と一緒に漁をしようなんて考えてないだろうな?

 ネコ族の畏敬の対象なんだから、本当はそっとしておきたいところなんだけど、神亀もアルティ達と一緒になって漁をするのが好きなようだとナツミさんが教えてくれたんだよな。

 小さい子と遊ぶのが好きなんだろう。長寿によって知能を得たんだろうが、その知能が子供達と同じぐらいなんだろう。


「どいてどいて! 夕食を運んできたよ」

 ナツミさんが大きな鍋を持ってきた。直ぐに次を運んでくるかと思ったら、トリマランのカマドにポットを乗せている。お茶の準備かな? 今からなら食事を終えるころには出来上がっているはずだ。

 続いてトリティさんとリジィさんがカゴを運んでくる。最後にやって来たオルバスさんはココナッツのカゴを持ってきた。


「もう直ぐ、グリナスとラビナス達もやってくるはずだ。トリマランの甲板は広いが、俺達は食事を終えたら、俺のカタマランに行くぞ」

「まあ、たまにですから良いんじゃないですか? これより大きいと台船になってしまいます」


 ラビナス達がやって来ると、子供達を一時家形の中に押し込んで、俺達だけで先に食事を取る。

 子供が多い家族もいると聞いたけど、どんな食事風景になるんだろう? ちょっと想像できないんだよね。

 夕食を掻き込んで、食器をカマド近くのザルに入れると、隣のオルバスさんのカタマランの甲板に向かう。

 ランプが家形の入り口に掲げられているから、甲板は十分に明るい。

 甲板にあぐらをかいて座ると、オルバスさんがココナッツのカップを配ってくれた。それが終わると大きなポットを俺達の真ん中に置いたから、後は手酌で飲めと言うことなんだろう。


「ナンタ氏族の連中も頑張っていたな。ケネル達も元気で漁をしているのを見て、安心したぞ」

「ナンタ氏族の長老がサイカ氏族を心配してました。比較的津波の被害を受けなかったホクチ氏族と、俺達が頑張らねばなりませんね」

「大きな魚を獲るのは何とか出来ても、小魚はどうしようもありません」


 ラビナスの残念そうな口調に、オルバスさんも頷いている。

 グリナスさんは我関せずの表情だ。他の氏族のことだと割り切っているのだろう。たぶん、昔のネコ族なら氏族中心主義だからそれでも良いんだろうけど、同じネコ族として少しは気にした方が良いと思うんだけどなぁ。


「ちょっと変わった仕掛けを思いついたんで、試してみます。とりあえず、グリナスさんや、ラビナスのところの子供達の分も作るんで、手伝ってくださいよ」

「ん? あの海中で釣る仕掛けじゃないのか?」

「今度は甲板で釣りますから、俺達も安心できます。潜るとなると、神亀で漁に出ないとも限りませんからね」


 確かに……。なんてオルバスさんが頷いている。

 グリナスさん達が首を傾げているのは、想像できないんだろうな。


「小魚を釣る仕掛けですよ。大きいのも掛かるかもしれませんが、どちらかと言えば小魚狙いです」

「小魚だと、商船が引き取ってくれないんじゃないか?」

「明日には分かりますよ。だいぶ釣り上げましたからね。一応、一夜干しにしたんですが、出来ればハラワタを抜いただけで引き取ってもらいたいところです」


 ナツミさん達が魚を運んだ時に交渉してくれるだろう。

 値段は安くても、子供達にとってはうれしいんじゃないかな? 将来に備えても良いし、自分でおもちゃを買うのもありなんじゃないか。


2杯ほどお酒を飲んだところで、嫁さん達の夕食も終わったようだ。酒盛りをお開きにして、トリマランに戻る。

 竹竿はグリナスさん達が運んでくると言っていたから、俺は釣り針を買ってくれば良さそうだ。


 トリマランに戻ると、トリティさん達に抱っこされたアルティ達がリジィさんの昔話に聞き入っている。

 話の内容は、勇敢なネコ族の若者が魔物を退治する話のようだ。

 ナツミさんまで真剣な表情で聞き入っているのは、そんな経験を持ってなかったんだろうか?


「もう少しで終わりにゃ。それまで、ジュースを飲んでるにゃ」

 渡してくれたカップを片手に、風下でパイプを楽しむ。

 聞けてくる昔話は、なんだか桃太郎みたいだな。家来が、狼とクジャクにパンダとしか思えないような獣だ。

 あの話が、日本に伝わって桃太郎になるのかもしれない。

 一応、勧善懲悪の話しのようだけど、ネコ族の男は鬼を前にしても恐れないと力説している。

 勇ましい男の子に育てるための、古い物語かもしれないな。


「また、話してあげるにゃ!」

「きっとよ!」


 アルティ達に手を振って、トリティさん達がオルバスさんのカタマランに帰って行った。

「さぁ、もう遅いんだからね」

 ナツミさんが子供達を家形の中に追い込んでいく。直ぐに出てきたからおとなしくハンモックに入ったんだろうな。


「トリティさんのお話を聞いた?」

「聞いたよ。あれって、桃太郎じゃないのかな?」

「だよねぇ。私も不思議な感じで聞いてたんだ」


「グレットンの話を聞いたことがあるのかにゃ?」

「うん。私達の世界にも似た話があるの。きっと千の島から離れた先人が伝えたんじゃないかしら」


 となると、浦島太郎だってあるんじゃないかな?

 長老が海人さんと俺がそれほど違わない時代に住んでいたことを、あまり不思議にも思っていなかったのは、それを知っていた可能性もありそうだ。

 それを考えると、俺達のルーツは案外、この場所かもしれない。歴史の先生が日本人はどこからやって来たか、いまだに良く分からないと言っていたのを思い出してしまった。


 改めて3人が揃ったところで、小さな真鍮のカップでワインを頂く。

 明日は色々とありそうだ。


 翌日。朝食を終えるとナツミさん達は背負いカゴに一夜干しを入れて商船に向かった。俺はアルティ達を連れて浜に向かう。帽子を被せておけばだいじょうぶだろう。砂山でも作ってナツミさん達が替わってくれるまで待つことにする。


「小さな開きも運んでみるね」

「まとめての値段でも良いんじゃないかな。終わったら俺も商船に向かいたいんだ」

「なら、これを渡しておくね」


 銀貨3枚を渡してくれた。さすがにここまでは必要ないと思うけど、ありがたく頂いておく。

 子供達を連れて浜に向かう。釣竿を持って行くと神亀がやってきそうだから手ぶらが一番だろう。

 いつものように波打ち際で遊んでいると、年代が同じ子供達が集まってくる。そうなるとアルティ達とアキロンは別のグループになってしまうのだが、これは仕方のないことなんだろうな。

 アルティ達は海に入って行くから直ぐにびしょびしょになってしまう。その点、アキロン達のグループは砂山をどうやって大きく作るかを思案中だ。


「ご苦労様。後は私達が見るわ」

 後ろを振り返ると、ナツミさん達が小さなカゴを持って立っていた。

 タオルと飲み物を用意してきたんだろう。


「アルティ達は海に入ってる。アキロンはあの砂山だ」

 腕を伸ばして、子供達の場所を教えると、その都度頷いてくれた。

 ナツミさんに後を任せて、商船に向かう。小さな釣り針があれば良いんだけどね。


 石の桟橋から竹の橋が伸びている。その先に浮き桟橋があるんだが、どうやら石の桟橋を昔に戻す気はないようだ。浮き桟橋が大きいから便利に使えるのに満足しているんだろう。

 浮き桟橋から商船に入ると、船首に向かって商品棚が並んでいる。

 10人程の男女が棚を見ながら品定め中だ。迷っている客がいると直ぐに店員がやってきて相談に乗ってくれるからありがたいんだよな。

 客の邪魔にならないように立っていた店員に、釣り針を探していると言ったら、すぐにコーナーの一角に案内してくれた。


「トウハ氏族なら大物狙いということになるでしょう。この辺りなら、4YM(1.2m)ほどの獲物でも十分に思えますが」

「実は子供達に釣りを教えようと、小さな釣り針を探してるんだ。サイカ氏族なら小魚を釣ると聞いたことがあるんだが」

「ちょっとお待ちください。……これになりますね。昔はこのような小さな釣り針でしたが、今ではこちらを使っています」


 棚の下にある引き出しから木製の小箱を取り出して、中に入った釣り針を見せてくれた。

 なるほど、結構小さな釣り針だ。これなら使えそうだぞ。


「20本ほど貰いたい。ところで、小鳥の羽根を置いてあるかな?」

「近頃需要があるので用意してありますよ。こちらです」


 案内してくれた場所には色とりどりのルアーが飾ってあった。鳥の羽をルアーにつけているのかな? それなら毛ばりを最初から作れば良いように思えるんだけどね。

 とはいえ、色々と工夫を凝らしているんだろうな。それが自作ルアーの良いところでもある。


「大きな羽から、小さな羽までいろいろ取り揃えています」

 紙箱を開いて見せてくれた。

 その中から、薄いピンクの羽根を10枚ほど購入する。細い絹糸ときつめの洗濯バサミを3個に、接着剤を1ビン。最後にタバコの包を2つ手に入れたところで、支払いは銀貨1枚でお釣りがきた。

 紙袋に商品を入れて貰い、一足先にトリマランに戻ることにする。


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