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M-148 ナンタ氏族の長老達


 ナンタ氏族の島に到着して2日目の朝。朝食を終えた俺達は、桟橋を歩いていく。

 ナツミさん達はアルティ達を連れて、南の砂浜で一緒に遊ぶらしい。

 島の子供達も大勢いるようだから、結構楽しいかもしれないな。

 桟橋を下りたところで南北に別れて歩き出す。マルティが手を振ってくれたのが嬉しい限りだ。この先、長老とどんな話をするのかと思うと、少し気がめいりそうだったからね。


 昨日まで商船が停泊していた桟橋の真向かいにある小さな小屋が、ナンタ氏族の漁果を確認するための小屋のようだ。

 初老の男がのんびりとパイプを楽しんでいた。


「あんたが、アオイじゃな? 小屋の北側に小道があるぞ。それをまっすぐ歩けば長老の小屋じゃ」

「ありがとうございます。勝手が違うんでちょっと悩んでました」


 ありがたく礼を言って、小屋の中の世話役に頭を下げる。

 聖痕の保持者ということで、他を見下す者もいたのかもしれないな。俺の答えに笑みを浮かべて頷いている。


 言われた通り、小屋を過ぎると林の中に続く道があった。あの津波の被害を受けて、少しは高台に小屋を移したのかもしれない。奥行きの無い砂浜にはいくつもの小屋の土台だけがあった。


 急な坂を上ったところに小屋が作られている。奥にもいくつかの小屋や、炭焼きの小屋が作られている。皆、真新しい作りだから津波が到達しなかった場所を切り開いたに違いない。


 ナンタ氏族の長老の小屋は、トウハ氏族と同じようなログハウスだ。少し違っているのは小屋の半分に壁がないということだ。

 他に聞かれても恥ずかしい話はしないし、誰もが聞く権利を持っているということなんだろうか?

 10人ほどが小屋の中で円陣を組むように座っている。

 近づいていくと、俺に気が付いたようで手招きをしてくれた。


「トウハ氏族の聖痕の保持者、アオイ殿だな。どうぞ、こちらに」

 頷いた俺を板敷きの小屋に上がらせ、席に案内してくれた。

 縄をとぐろに巻いたような敷物が用意されている。丁度、長老達の真ん前だ。長老が、座るように合図をしてくれたから、軽く頭を下げてあぐらをかく。


「良くいらっしゃった。我等ナンタ氏族一同、トウハ氏族の来訪を歓迎したい」

「聞けば、新たな漁を教えてくれたとか。さすがはトウハ氏族の聖痕の持ち主とグリゴスが感心しておった」

「他の氏族からの移住者で少しは、ナンタ氏族の中に新風が吹いたが、漁の仕方が変わることは無かったが、昨夜の話を聞いて我等一同、驚いたものじゃ」


 長老達の話しでは、来訪を喜んでくれたようだ。

 津波のすぐ後に救助に来たかったが、俺達の島も色々とあったからな。その辺りの不満が出るかと思っていたが特にないようだから一安心する。


「あの災厄に氏族の半数以上を失ったと聞いております。さぞや長く悲しみの時を過ごしておいでのことでしょう。胸中を察しても何も長さ目の言葉が見つかりません」

「よいよい。今では過ぎた事じゃ。それに、グリゴスに火山に気を付けるようにとの言伝もあったと聞いておる。それを少しでも信じたおかげで、我等は難を逃れたともいえるじゃろう」


 俺達の話の中、世話役がワインのカップを運んでくれた。

 先ずは一献ということなんだろうな。

 改めて長老がナンタ氏族の繁栄を龍神に祈ったところで、、俺達はカップを傾ける。


「本来なら、我等氏族にアオイ殿の知る漁法をもっと教えて貰いたかったが、それはトウハ氏族の筆頭漁師達が手本を見せてくれるじゃろう。改めて、アオイ殿を呼んだ理由は、外にある」

「なんでも、大型の動力船を作っておるとか。それを使うことで他の氏族の漁場に入ることも考えておるように聞いているのじゃが……」


 トウハ氏族を中心に、ネコ族を統一しようとしているように思えるんだろうな。

 それができるなら、どれだけ容易なのか……。海人さんもそれを悩んだに違いない。

 カヌイのお婆さん達の断片的な話によると、ネコ族は、かつて大陸で戦闘民族として恐れられた存在だったようだ。そんな種族が中央集権国家を作りだしたら、海から大陸に目を向けるのは必然だろう。

 海人さんのめざしたニライカナイとは、各氏族の代表による連合国家の様なものなんだろう。

 その構想は俺も理解できるし、ナツミさんの行動もそれを目指した動きに思える。もう少し、夫なんだから俺に教えてくれても良いように思えるんだけどね。

 教えるまでもなく、理解しているということなのかな?


「少し話が長くなりますが、よろしいでしょうか?」

「ワシ等の時間は十分にある。トウハ氏族の聖痕の持ち主、その血は子供達にも及ぶようじゃ。かつてのカイト殿の逸話はワシ等の氏族にまで伝わっておるぞ」

「それでは……。先ずは、現在の状況と俺の推測ということで」


 順を追って話をすることに、長老達が頷いている。少し下がった位置にいる世話役に要点を書いておくように指示しているけど、長老達なら状況はある程度分かっていると思うんだけどね。

 

 そもそもの問題は、大陸の王国が出してきた2割の増加にある。

 明確な漁獲を把握してこなかったから、かなり混乱を招いたことは、どの氏族も同じだろう。

 どうにか、商船への売値を2割増しとすることで交渉が成立したから、各氏族が漁に励んでいたことはそれほど遠い話ではない。

 そんな矢先に、火山の爆発的な噴火による津波で、とんでもない被害を被ってしまった。


「何とか魔石の売り上げを加味させることで事なきを得ましたが、大陸の王国がサイカ氏族の漁場近くまで軍船を出してきました。

 大陸の沿岸に住む人々が、津波で流されたことから救出を図る、との理由でしたから我等がその任を担うことで手を引かせております。

 ここからは、俺の推測となりますが……」


 大陸の王国は、いまだに千の島の領土化を狙っているのではないか?

 今回の津波で海図が使えるかを確認したかったのが、軍船を出してきた理由としては納得しやすい。

 かつて、トウハ氏族が東に拠点となる島を移した時に、真っ先にやって来たのは軍船だったようだ。周辺の海域を詳しく調査して帰ったらしい。


「リーデン・マイネと2隻の砲艦をサイカ氏族の海域に派遣したことで、王国の軍船は姿を消しています。千の島の海域で1年に取れる魔石の数は2千個を越えるでしょう。それを版図にして、俺達に供出させることができる王国が現れるなら、大陸に覇を唱えることも可能でしょう」


「我等が大陸の王国に屈しなければ、我等の平和どころか大陸に無用な争いを起こさぬ、ということか。 ワシ等ネコ族の総数は1万を超える程度。かつて持っておった再度の大陸侵攻等今では考えることも出来ぬ。

 そこまでの話はわし等にも理解できるが、その状況において、トウハ氏族は族長会議での将来構想に熱心であることも確か。ワシ等には、それがネコ族を1つの国家として統一する動きに見えてならんのじゃ」


 急ぎすぎたかな?

 長老達にパイプを見せると、頷いてくれたのでタバコを詰めると世話役が運んでくれたタバコ盆の熾火で火を点けた。

 余裕を持った方が誤解を重ねることを少しは防げるだろう。


「その動きには俺も少しは噛んでいますから、その理由をこれからお話します。ナンタ氏族の長老の疑問は他の氏族の長老にも知らせて、少しでも誤解を解かねばなりません。

 俺がやろうとしていることは、かつてトウハ氏族の長老で会った海人さんの構想を具現化するための方策です……」


 千の島の海域をニライカナイと名付けたのは海人さんだ。それは俺達の住む町に橙伝わる伝承でもある。

 その名を付けた以上、海人さんはニライカナイを好戦国家とする気持ちは全くなかったはずだ。


「度重なる大陸の王国からの干渉は、リーデン・マイネなどの砲船の存在で動きを封じているのが現状です。

 なぜ、大陸側は俺達に干渉するのか? それは人口比を考えれば当然にも思われます。トウハ氏族の住人を合わせても、王国の版図内に多数ある町の人口よりも少ないですからね。そこで莫大な財源が得られるなら、何かと理由を付けて自分達の領地にしたいはずです。

 かつて、大きな干渉が2度あった時に、海人さんは王国の軍船に立ち向かえる船を作りました。

 その干渉を跳ね返して、ネコ族全体が纏まらねばならないとの意味で千の島をニライカナイと名付けたと聞いております。

 とはいえ、元々ネコ族の暮らしは氏族を中心とした暮らし。急に氏族の垣根を取り外したりしようものなら混乱するのは必定。いらぬ干渉が再び訪れないとも限りません」


「なるほどのう……。かつての騒ぎはワシ等の間にも伝わっておる。全氏族が一つになって干渉を打ち破ったということじゃった」

「だが、1つにまとまる絶好の機会では無かったのか?」

「血が騒いでいる最中にそんなことになったら、大陸に出掛けないとも限らんぞ。かつての我等の悲願は代々伝えられておるからのう」


 王国の軍船を打ち破ってのネコ族の建国を高らかに宣言したらしいけど、そこで終わったらしい。

 何とももったいない話に思えたんだけど、ナツミさんは違った目をしていたな。

 その理由は、ネコ族が好戦的な戦闘民族であったことを聞いたからだと言っていた。

「もし、その時に中央集権を行っていたら、ネコ族は滅んでいたかもしれないよ」

 そう教えてくれたけど、その意味が今になって少しずつ分かってきた。

 人口比がまるで異なる国同士が戦をしたなら、勝利するのは人口の多い方に決まっている。

 最初は有利に戦を進めても、兵站の規模が違い過ぎるからねぇ。ましてや、ネコ族の人口は2万人にも満たないのだ。結果は見えているな。


「大陸相手に攻め入ったら、1年も経たずにネコ族はこの世界から姿を消すことになったでしょう。海戦で勝利を収めたところで停戦交渉に移ったのは幸いだったと思います」

「色々と見方があるようだが、アオイ殿はそう考えるか。その時にできなかったことを今行うというのは……。まさか、再び王国の軍船が攻め入ると?」


 そこまでは考えなかったけど、それもあり得るかもしれないな。

 大陸の諸王国間に平和が訪れたとなれば、新たな王国の利権を探すのは貴族達の仕事かもしれないぞ。

 

「その時が来ても慌てないためです。それに、王国の庶民の暮らしの一部を俺達が握っていることも確かですからね。俺達が集団化することで、干渉を反らすことも容易になると考えます」

「見掛け上の集団化ではないと?」

「氏族の垣根を低くして、ニライカナイの垣根を高くすると考えております。氏族は無くすことはできないでしょう。5つの氏族は大陸にまで、その歴史があるんじゃないですか? 

 俺が目指すのは、5つの氏族の代表者が年に何回か集まるのではなく、1つの島でネコ族全体を考える場を設けることです」


「各氏族が代表者を常に出すことになるか……。それに合わせて各氏族の漁場の一部を開放するということになるであろうな。それで、大型の運搬船が必要になってくると?」

「出来れば、商会と共同で運用したいところです。それにより、一々氏族の島に漁果を運ぶ手間が省けますからね」


 王国とはあまり仲良くできないけれど、商会なら仲良くしておくべきだろう。

 先を見ることができるなら、向こうから運搬船の建造を打診してくるかもしれないな。



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