表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
285/654

M-147 神亀に乗った娘なら


 昼過ぎまでに、各人が10匹以上釣り上げたところで漁を終える。

 少し遅くなったけど、ナツミさん達が昼食を作っていてくれたようだ。

 マリンダちゃんは、どうやら神亀と一緒らしい。たくさん釣れたら困るだろうと、カゴを背負って乗り込んだようだ。

 そろそろ、お腹を空かせて帰って来るんじゃないかな?

 ナツミさんが、ジッと海を見つめているからね。神亀と交信できると言っていたから、その最中なんだろう。


「神亀だ!」

 トリマランのすぐ横に、子供達を乗せた神亀が突然浮上してきた。

 レグロスさん達が驚いているけど、俺達にとってはそれほどではない。それだけ神亀との出会いは、ある意味日常的ともいえるのかもしれないな。


 甲羅が舷側にピタリと寄せられたところで、子供達がとことこと甲羅から移動してきた。最後は俺に抱きかかえられて下ろして貰ってるんだが、マリンダちゃんは自分で下りられると思うんだけどなぁ。

 立ち止まって、俺を見てるから、ヨイショと下ろしてあげる。


「ありがとうにゃ。大漁だったにゃ!」

 そんなことを言って神亀の背から、先ほど下ろした背負いカゴを甲板に下ろした。

 三分の一ほどまで、魚が入っているぞ。

 どうやったら、こんなに釣れるんだろうか?


「またお願いね!」

 ナツミさんの声に神亀のいた海を見たら、ゆっくりと神亀がトリマランを離れていくところだった。

 そんな光景を、茫然としてグリゴスさん達が見ているんだよね。

 やはり神亀は畏敬の対象なんだろうか?


「まったく驚かされる。かつてトウハ氏族にいたカイト殿の娘達は、神亀といつも遊んでいたとカヌイの婆さん達に聞かされたものだが、アオイの娘達も同じということなんだな」

「でも、相手は神亀ですよ。俺は初めて見ました。長老のように、海底を動く陰ではなく、実際に甲羅を見ましたし、娘のキラネムはその背中に乗って海中にまで行っています」

「良い経験ができたじゃないか。キラネムを嫁に欲しがる男達がたくさん出て来るぞ。豊漁を呼ぶ神亀に乗った娘なら、それだけの恩寵も期待できるだろうからな」


 少し落ち着いてきたところで、昼食を皆で取ったんだけど、話題は神亀のことで一杯だ。今回の漁については、もう少し後になって話題になるんだろうな。

 

 昼食を終えたところでザバンを引き揚げ、アンカーを上げる。

 帰りの操船はマリンダちゃんが担当するみたいだ。レグロスさんの嫁さんと一緒に操船楼に上がって行った。


「この旋回なら、カタマランと同じだ。氏族の島で行った、あの操船にはやはり秘密があるのか?」

「トリマランの船底を見ましたか? 水中に突き出た翼と船首部分にもう1つ魔道機関が設けられているんです。船首部分に付けた魔道機関の推進方向は、船の前後で覇無くて左右なんですよ」


 俺の説明を聞いて残念そうな顔をしてるのは、トリマランの船底をもっとよく見ておきたかったということなんだろうな。


「この異常な速度と船体が海面から離れるのもそうなのか?」

「接触面積が少なければそれだけ速度を上げられますからね。船底の翼の角度と位置が重要なんです」


 真似をしようなんて考えてないだろうな。

 速度を上げるだけなら、バレットさん達のカタマランでも十分だと思うんだけどね。

 食事を終えたところで、俺達は船尾のベンチに座ってパイプを楽しむ。

 ナツミさん達はグリゴスさんの嫁さん達に手伝ってもらって、俺達の釣果を捌き始めた。


「シーブルはアオイが釣ったのか?」

「いえ、バルタックだけです。あれはアルティ達が釣り上げたんじゃないですか」

「シーブルも釣れるのか!」

「俺達と違って、息継ぎはしてないでしょうし、神亀の背中に乗って広く釣りをしてたんでしょうね。シーブルの群れに入っても神亀と一緒ならシーブルが散らなかったということなんでしょうが……」


 神亀は魚を連れてくると言われている。魚も神亀を敵とは思っていないいだろうな。そんな関係が成り立っているところで釣りをするなら、大漁間違いなしだ。だけど、あまりそんな漁をしてると神亀から魚が遠ざかるかもしれないぞ。


「子供達だけで20匹以上らしい。まったくどこの氏族の男達もアオイの娘を欲しがりそうだ」

「それは本人次第ですね。親が探すよりも良い相手を見付けるんじゃないかと思ってます」


「俺も娘がいるからなぁ。例え、ナンタ氏族で一番釣りが下手でも、互いを思いやれるならそれで十分だ。この釣りを教えてやろう。海上で釣るよりも遥かに釣果が増える」

「だが、ザバンが必要だ。1回の釣りを行える時間はそれほど多くない。それに、体力の消耗が激しいからな。数匹釣り上げたら、ザバンで休憩を取ることになる」


 ナンタ氏族は、リードル漁以外ではあまりザバンを使わないらしい。

 結構小回りが利くから便利なんだけどね。


「島に戻ったら仲間に教えますよ。族長会議には?」

「俺の方から説明しよう。アオイ、この釣竿は貰っていいか? 現物が無いと、何とも信用しない種族だからな」

「どうぞ、持ち帰ってください。俺の氏族では、銛を使わないとひんしゅくものですから」


 互いに顔を見合わせて苦笑いを作る。

 自分達の氏族の漁ということにこだわるところがあるからなぁ。グリゴスさんも、そのことをつくづく考えているんだろう。


 夕暮れ前に、氏族の島の水路に入ると、慎重にマリンダちゃんが操船を行っている。

 桟橋に並んだカタマランを見ると、俺達と一緒にやって来たカタマランの数が減っている。ナンタ氏族と一緒に漁に出掛けたんだろう。一緒に漁をして学ぶところがあれば良いんだけどね。


 桟橋に接岸して魔道機関が止まると、アンカーを下ろしに船首に向かった。

 桟橋の杭にロープを結んでくれたのはグリゴスさん達だ。

 終わってホッとした俺達にマリンダちゃんがお茶のカップを渡してくれる。


「獲物を運んでくるにゃ!」

 てきぱきと背負いカゴに保冷庫から魚を取り出しているけど、背負いカゴに3つ分ありそうだな。どれだけ釣ったのかと俺達が互いに顔を見合わせていると、マリンダちゃん達がカゴを背負って桟橋を歩いて行った。


「手伝ってもらい、申し訳ありません」

「あれぐらいは構わん話だ。それより、子供達の釣り上げた分まで俺達の分配の対象にしていいのか?」

「まだ半人前にもなりません。14歳を過ぎたら分配をしてあげますよ」


 とは言っても、今でこれだからな。12歳辺りからナツミさんが内緒で分配してあげそうだな。


「帰って来たな!」

 大きな声に桟橋に目を向けると、バレットさんとオルバスさんがワインのビンを持って俺達を見ていた。

 自分の船のようにトリマランに上がってくると、近くのカゴに入っているココナッツのカップを取り出した。家形の入り口近くに置いてあるベンチを持ち出して腰を下ろすと、俺達にワインを配ってくれた。


「グリゴス、おもしろい漁ができたんじゃないか?」

「ナンタ氏族なら問題なく広がるだろうな。こいつは直ぐに仲間に教えると言っていたし、今夜の氏族会議で俺も報告するつもりだ」


 バレットさん達が嬉しそうな表情でグリゴスさん達を見ている。少しはやって来た甲斐があったと思ってるんだろう。


「長老がアオイと話をしたがっていたぞ。明日はオルバスと一緒に銛を教えるつもりだ。釣りでは大物は獲れんからなぁ」

「確かに、無理があるな。ケネルの銛を見せて貰ったが、トウハ氏族筆頭の銛を見るのは俺も楽しみだ。何人か誘っても良いだろうか?」


 グリゴスさんの言葉にバレットさんが頷いているから、最初から数人を想定しているのかもしれない。

 となると、ケネルさんも同行するんだろうな。久しぶりにトウハ氏族の3人が銛を競うことになるのかもしれないぞ。ちょっと見てみたい気もするな。


「商船に運んだにゃ! 全部で340D、68Dを世話人に渡した残りを90Dずつ分けたにゃ。余った2Dに3Dずつ加えてお菓子を買って子供達に分けたにゃ」

「それは、貰い過ぎだ! 子供達で釣った魚だけでも3割を超えてるぞ」

「はは……、貰っとくんだな。確かに半人前だから分配の対象外だ。頑張ってもらったようだが、お菓子で十分だろう」


 オルバスさんが笑っているから、分配に問題は無いということなんだろう。

 ナンタ氏族の2人が黙って俺に頭を下げてくれたから、この話題はこれで終わりになる。


「だが、アオイの子供達の将来はよくよく考えるのだな。普段から神亀を乗り回して漁をするなど、たとえカヌイの婆さん達が話してくれたとしても信じられないことだ」

「見たのか? おかげで、トウハ氏族にカヌイの婆さん達が定期的に集まるようなことになってしまった。娘達に聖印があり、息子には聖姿だからな。成人したらどんな漁師になるか、俺も楽しみではあるんだが……」


 至って普通の子供かもしれないぞ。

 少しは銛の腕を上げなければ氏族の間からも呆れそうだけど、その辺りは俺が頑張って教えることになるんだろうな。


 ナンタ氏族の人達が帰ったところで、夕食の支度が始まる。

 バレットさんは自分のカタマランに帰って行ったけど、俺のトリマランにはトリティさん達がやってきて食事を手伝ってくれている。

 まだ、夕食には間があるようだ。


「オルバスさん。ナンタ氏族の長老の用事は何なんでしょうか?」

「ん? そうだな。単に顔を見たいということではないだろう。となれば、例の大型船を使った氏族間の垣根を越える構想なんじゃないか? 賛成を表明してはいるようだが、それなりに考えるところがあるということだろう」


 氏族間の垣根を低くして、ニライカナイの垣根を高くする。

 それによって、氏族からネコ族という同族意識を高めれば、大陸の王国からの干渉に、容易に応えることができるということは理解できているのだろうか?

 氏族にこだわるようでは、この構想は構想で終わってしまうんだが、ニライカナイの言葉を教えたのが海人さんだということだから、海人さんもそれを目指していたに違いない。

 それでも、布石は打ってくれたようだ。最初から反対をすることが無いんだからね。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ