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M-145 水中での釣りをやってみよう


 オルバスさん達が帰ってきて、今夜の宴会の話を伝えてくれた。場所は島の南らしい。

 どうやって行くのかと考えてたら、南の突き出した岬に、10mほどのトンネルが浜の近くに作られているとのことだ。

桟橋が並んだ浜はそれほど広くはないから、皆で宴会をするときはどこでやるのか不思議だったんだが、これで分かったぞ。

 バレットさんが俺達がトリマランを停めた桟橋までやってきて、出掛けようと誘ってくれた。


「ギリギリで、グリゴスが帰って来たらしい。アオイが来ていると聞いて喜んでいたぞ」

「ナンタ氏族の漁果を憂いていましたが、現状はどうなんでしょう? その辺りを聞いてみたいと思ってます」

「俺達は、久しぶりにケネルと酒を酌み交わせる。嫁さん連中も喜んでいたな」


 ナツミさんがアルティ達の手を引いて、俺がアキロンを背中におぶっていく。

 トリティさん達は、酒やワインの入った手カゴをリジィさんと2人で持って行くようだ。かなり飲まされそうだな。少しは遠慮しておかないと、明日に残りそうだ。


「トンネルよ!」

 ナツミさんが俺達を振り返ってはしゃいでいる。

 確かに、人の手でくり貫いたトンネルなんて、この世界では初めて見る代物だ。直径2mほどのトンネルだけど、10mほど掘りぬいてあるんだよな。どれぐらいの期間を掛けて作ったんだろう。


 トンネルを抜けた先は広い砂浜だった。

 大きな焚き火が2つ作られているから、男女別に輪を作ることになるんだろう。アキロンを砂浜に下ろすと、直ぐにトリティさんと手を繋いでいる。


「だいじょうぶにゃ。アキロンは皆が見たいはずにゃ」

「あまり期待を持たせるのも……」

「間違いなく聖印の上にゃ。でも、よくわからないにゃ」


 それって、身内を贔屓する典型じゃないか?

 ここはナツミさんに任せといた方が良さそうだ。


「アオイ! こっちだ」

 オルバスさんの呼び声に、焚き火を囲む輪に目を向けると片手を上げている姿があった。

 ナツミさん達と別れて、オルバスさん達のところに向かうと、席が用意されていた。

 隣を見ると、グリゴスさんが座っている。

 俺に、ココナッツのカップを渡してくれたんだが、夕食前から飲むんだろうか?


「よく来てくれた。ナンタ氏族の筆頭にはなるが、トウハの筆頭はケネルと話をしたがっていたからな。最初は俺達同士で良いだろう」

「はあ、まだ筆頭にも慣れない身ですから、対等というわけにはいきませんが、同じ聖痕を持つ身として、少し漁について考えてみましょうか」


 グリゴスさんの話しでは、氏族の貯えと他の氏族からの支援でどうにか50隻近い動力船を持てるようになったらしい。

 それでも、津波で氏族が三分の一近くに減ってしまったらしいから、他の氏族から新たに氏族への参入をしてもらったらしいのだが……。


「やはり、各氏族の得意な漁を始めている。相互に他の氏族を混ぜて漁をするように努力しているところだ。だが、その甲斐はあったぞ。漁果は津波の前近くにまで伸びているからな」

「東の割れ目で素潜りをしてきました。かなりの漁果でしたよ。やはりナンタ氏族は銛をあまり使わないようですね」


 グリゴスさんが頷いて、その理由を話してくれた。

 一番の原因は、獲物が大きいということらしい。銛先はリードル漁の銛とさほど変わらないということだから、返しの部分が小さいということなんだろうな。

 それに手で銛を打つというのも問題なのかもしれない。

 トウハ氏族も、かつては手で銛を打っていたらしいが、海人さんがガムと呼ばれる魔道機関のパッキンの様なものがゴムと同じように伸縮することに気が付いたらしい。

 ガムの伸縮力を使っているのはトウハ氏族だけということなんだろうな。

 ケネルさん達は使ってるはずだけど、誰もそれを木にしていないんだろうか?


「それにだ。同じブラドでも、銛の傷があるものと無いものでは、売値にも差が出る。せいぜいが2Dほどだが、数が多ければその差も無視できんからな」

「5Dが7Dになるんでは、そうなるでしょうね。トウハ氏族はその2Dを諦めたということなのかもしれません」


 そうなると、漁果を得るには今まで通りの方法になってしまいそうだ。せいぜい、延縄を使うくらいだろう。

 あれだけバルタスがいるんだから、ちょっともったいない気もするな。


「とはいえ、若者の中にはトウハ氏族の銛を習おうとするものがいないわけではない。だが、素潜りはある程度下地が必要だ。急に初めてもトウハ氏族の腕を持つことはできないだろうな」


 素潜りをする者達もいるんだよな。リードル漁は素潜り漁になるから、ある程度の下地はあるんじゃないかな。

 トウハ氏族並みに銛を使えないなら、それに代わる漁をすれば良いだろう。アルティ達にもバルタスが釣れたぐらいだから、同じように釣ることができるんじゃないか?

 魚との駆け引きも必要だけど、それは根魚釣りで培った腕を試してみれば良いだろう。


「1つ、おもしろい漁の仕方を教えましょうか? 子供の漁みたいですが、大型となると子供の手に負えるものではありません。指より少し太い竹竿を数本頂けませんか」

「子供では手に負えぬ大きさなら、我等の漁にもなるだろうが、そんな細い竿では折れてしまうんじゃないか?」


 ちょっと頭を捻っていたけど、竹竿は準備してくれるようだ。

 グリゴスさんを連れて、近場で漁をしてこよう。

 トリマランの速度なら、俺達が漁をした溝の西端には日帰りで行ってこれるだろう。


 急に、焚き火を囲んだ男達から歓声が上がった。

 長老達がやって来たらしい。バレットさんとグリゴスさんが立ち上がって挨拶を始める。

 女性達が囲んだ焚き火の方でも、大きな歓声が上がった。カヌイのおばさん達がやって来たのかな?

 向こうは向こうで色々とあるんだろう。

 そんな中、料理が運ばれてきた。そう言えば、酒だけ飲んでいたんだよな。

 塩焼きの魚をバナナの葉に取り分け、炊き込みご飯をその隣に乗せる。バナナの葉を両手で持って、そのまま口に運んで頂いた。

 ナツミさんは、こんな食べ方ができるのかな? ちょっと心配になって隣の焚き火に目を向けた。

 

 食事が終わると、少しずつ焚き火の輪を囲む男達が減っていく。

 最後まで残ったのはトウハとナンタ氏族の筆頭と次席、それに10人ほどの男達だ。

 まだバレットさん達は酒を飲んでいるけど、俺はパイプを使い始めた。


「すると、アオイはアルティ達の漁をグリゴスに教えるというんだな?」

「銛と釣りの中間の様な漁法です。ナンタ氏族が急に銛を使えるようになるとは思えませんが、釣りの変形なら今までの腕を十分に発揮できるでしょう。アルティにもできる漁法ですが大物となれば、それなりの腕が必要です」


「単に子供の遊びとは括れんということだな。まぁ、アルティの歳で1Dを越えるバルトスを上げるのも難しいとは思っていたんだが、2Dともなれば十分に大人の漁法と言えるんじゃないか」

「トウハでは、誰もやらんだろうな。同じネコ族同士、漁果を上げることができるなら教えた方がいいだろう」


 バレットさん達は、子供の遊びと考えているようだ。

 だけど専門に行えば、銛と同じように大型を得ることができるに違いない。


「アオイの船で行くなら、グリゴス以外にも家族を乗せられそうだな」

「そうですね。もう1家族を誘ってください。道具は途中で作りますから、竹竿だけをお願いします」


 ネイザンさんの言葉に俺が答えると、バレットさん達が頷いている。

 バレットさん達は何を教えるつもりなんだろうな?


「俺達は、延縄だ。ナンタ氏族も延縄を使うが少しやり方が違うようだ。同じ場所に仕掛けて見て漁果を比べてみようということになってな。アオイがいないのが残念だが、延縄にはバルタスは食い付かんからなぁ」


 そんなことを言いながら笑い声を上げている。

 だけど、ナンタ氏族が水中での釣りをものにしたら、トウハ氏族の銛を凌ぐんじゃないかな?


 たき火の傍から腰を上げて、皆で桟橋に戻って来た。

 トリマランには、ナツミさんとマリンダちゃんがお茶を飲みながら俺の帰りを待っていてくれた。


「やはり、明日は出漁するの?」

「グリゴスさんを含めて2家族がやって来る。アルティ達のやった、水中での釣りを教えるつもりなんだ」

「ザバンは1艘だから、トリマランから直接になりそうね。食料はたっぷりあるから、心配いらないわ。でも、水を汲んできて欲しいな」


 水場は明日にでも教えて貰おう。

 どんな結果になるかわからないけど、最低でも子供の遊びは1つ出来るからね。

 あまり気負いしないで行けばいいだろう。


 翌日。食後のお茶を飲んでいると桟橋を渡ってくる1団があった。グリゴスさんとグリゴスさんの嫁さん達、それにもう1家族はラビナスと同年代なんじゃないか? アルティよりも少し小さな女の子を連れている。


「やって来たぞ。申し訳ないが、新たな漁を教えて欲しい」

「どうぞ、上がってください。甲板は広いですから適当に座ってください」


「これが、竹竿だが……。こんなもので良いのか?」

「十分です。今から向かえば昼前には漁場に着くでしょうから、それまでに仕掛けを作ります」


「溝の西端はここから半日以上かかるぞ!」

 一緒にやって来た若い男が、驚いたような口調で声を出した。


「レグロス、相手はトウハ氏族の聖痕の保持者だ。嘘は言わんぞ。それにこの変わったカタマランを見るがいい。俺達のカタマランよりも遥かに大型だ。それだけ魔道機関を強化しているに違いない」


 それだけじゃないんだけどね。直ぐに分かるだろうから、とりあえず座てもらったところで、マリンダちゃんが桟橋に繋いだロープを解き、俺は船首に走ってアンカーを引き上げた。


「出航するよ!」

 操船楼に上がったナツミさんが、甲板に顔を向けて教えてくれた。

 俺が頷いたことを確認して、トリマランを桟橋から動かし始める。


「カタマランで、こんな操船ができるんですか!」

「舵の効きが異常だな。まるで桟橋で誰かがこの船を押しているようだ」


 バウ・スラスタの原理はナンタ氏族には伝わっていないみたいだな。もっともトウハ氏族でさえ、ナツミさんの操船の腕があるからだと思っているぐらいだからね。



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