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M-144 ナンタ氏族の島


 トリマランの左右後方にカタマランが接舷して、皆で夕食を囲むことになった。

 バレットさんやネイザンさん達も一緒だから、男達はオルバスさんの船で酒を酌み交わしながらの夕食だ。

 最初に夕食をたくさん食べたから、チビチビと酒を飲んでいれば良いだろう。

 オルバスさん達は美味そうに何度も酒を酌み交わしているけど、あんなに飲んでだいじょうぶなんだろうか?


「それにしても、神亀で魚を獲るとはなぁ。俺も見ていたかったぞ!」

「トリティも一緒なんだから困ったものだ。だが、神亀の甲羅の上では息苦しくないというのが不思議な話だな」


 確かにそんな話をトリティさんがしてたんだよな。それって、竜宮城に向かう亀と同じじゃないのか?

 深いところの綺麗な家には、誘われても行かないように注意しておこう。


「それにしても大漁には違いねぇ。バッシェどころかバルタックまでいやがった。20匹を越えているぞ!」

「型も良い。2YM(60cmには満たないが型が揃っているな。ケネル達が銛を教えればナンタ氏族は栄えるに違いない)


 グリナスさん達も大漁みたいで機嫌が良い。

 ネイザンさんは大きなフルンネも突いたらしい。


「確かにもったいない話だよな。俺にだって2YM近いブラドやバヌタスが突けるんだからね。そうそう、3YM(90cm)を越えたフルンネも突いたぞ」

「ブラドもいたんですか? バルタックとバヌトスが半々でした」

 

 かなり場所で魚の種類が違ってるみたいだな。

 皆が俺に視線を移したので、ケオにバルタスとバルタックと答えた。アルティ達の釣った魚もバルタックだと聞いて驚いている。


「30匹を軽く超えてるのは、ナツミがいるからだろうな。だが、ちびっ子のアルティ達にバルタックが釣れたとなると、将来が楽しみだ」

「アキロンは更に上に行くんじゃないか? ちゃんと指導しておくんだぞ。将来の筆頭候補になるだろうからな」


 そんな話で盛り上がってるけど、グリナスさん達は、アルティ達の釣竿に興味があるようだ。

 

「潜って釣りをするのが、どうも理解しにくいんだよな。一度見せてくれないか?」

「ちょっと待ってください。持ってきますから」


 宴席を立って隣のトリマランに行くと、家形の屋根裏から短い釣竿を取り出した。

 戻ってグリナスさん達に見せたんだが、バレットさん達も興味深々で覗いている。


「これでつれるのか?」

「魚の前で、餌をひらひらさせればバヌトスなら食い付きます。バルタックまで釣れるとは思いませんでしたよ」


「確かにバヌトスは悪食だからなぁ。ちびっ子達には銛より安全かもしれん。とはいっても、トウハ氏族は銛の腕を誇る氏族でもある。今まで通りに、10歳で銛を渡すのは続けた方がいいだろうな」


 伝統は守るべきだということなんだろう。俺も其れには賛成できる。だけど、10歳未満の子供や女の子には丁度良いんじゃないかな。


「ナンタ氏族に教えてやらば良いだろう。ナンタ氏族は釣りの腕を誇っている。潜る連中もいるようだが、俺達ほどの銛の腕を持つとも思えんからな」

「おもしろそうだ。グリナス達で教えてみろ。その前に、アオイと同じ仕掛けを3本は作っておくんだぞ」


 急に言われても、用意できないんじゃないかな?

 ナンタ氏族の島に着いたら、竹竿を探すことから始めればいい。せっかくナンタ氏族を訪問するんだから3日ぐらいは船を停めるだろうからね。


 深夜まで酒を飲んだところで、宴がお開きになる。

 かなり酔ったけど、世界は俺を中心に回っていないから、二日酔いにはならないんじゃないかな。


 トリマランの甲板で、ナツミさんが待っていてくれた。ココナッツのジュースを飲みながら、パイプに火を点ける。


「まさか、本当に遊びに来るとは思わなかったわ」

「神亀が来ると知ってたの?」


 俺の問いに小さく頷きながら、ココナッツジュースをゆっくり飲んでいる。


「子供達に会いに来ると言ってたんだけどね。姿を見せるだけだと思ってたの」


 トリティさんも少しは意思を交わせるのかもしれないな。海人さんの子孫なんだからね。それにアルティ達がねだったのかもしれない。

 案外、嫌とは言えない性格なのかもしれないな。

 そんな子供が大好きな神亀なら問題は無いだろう。子供を危険にさらすことは絶対無いにちがいない。


「神亀がアルティ達と仲良くなりたいなら、そっとしとくべきなんだろうな。それを停めるのもなんかありそうだよ」

「あまり得意にならないように、しつけは厳しくしとかないと……」


 そんなことを言ってるけれど、意外と子供に甘いからなぁ。どこまで厳しくできるかが問題だ。

 だけど、どの子供達も親の言うことを聞いてすくすくと育っていることも確かだ。いじめなんて言葉を聞いたことも無いからね。

 他の子供達でも危険なことをしている時は、自分の子供と同じように叱っているところを見たことがある。

 子供を育てるのは親というより氏族が行っているようにも思えるんだよな。

                 ・

                 ・

                 ・

 海面を滑るようにカタマランの船団が進む。今日は、俺達のトリマランが殿だ。

 いつもならネイザンさんやオルバスさんの役目なんだけど、たまには良いだろうと仰せつかってしまった。

 殿の役目は、船団に異常が無いことを確認し、問題のある船が出てきたら笛を吹いて知らせることにある。

 次々と、前の船に笛の音がリレーされて、先頭を進む船が速度を落とすことになるのだ。

 今回は、いつもと違って先頭のバレットさんの隣に、ナンタ氏族のカタマランが並んでいる。

 たまに、伝言ゲームみたいに状況が知らされるのだが、その時には船が接近するから少しヒヤヒヤするんだよな。


「夕暮れ前には着くと言ってるにゃ!」

「もう少しだね。どんなしまなんだろう」


 教えてくれたマリンダちゃんが首を傾げているのは、一番立派な島はトウハ氏族の島だと思ってるんだろうな。

 子供達はお昼寝の最中だから、船尾でのんびりとしていよう。

 ケネルさんは島にいるんだろうか? それも気になるな。


 どうにか日が傾き始めた時に、ナンタ氏族の島が見えてきた。

 島の北岸に沿って左回りに向かうようだが、どこにも住居が見えないんだよな。

 だけど、島の近くで数隻の外輪船が漁をしていたから、間違いなくこの辺りの島には違いないんだろうけど。


 船団が南に方向を変えた。

 島を左手に見て進んでいくと、前方に突堤の様な岬が見えてきた。

 その岬に沿うように進んでいる。

 どうやら、釣り針の様な形に湾ができているらしい。いつの間にか北に向かって進んでいる。


「あれね! トウハ氏族並みの島よ」

 ハシゴを上って前方を眺める。東西から桟橋が伸びて、20隻を越える動力船が停泊していた。


「どうやら、奥の桟橋を使わせてもらえるみたい。何人かが桟橋で手を振ってるよ」

「10隻で来たからね。一昨日の船団から誰かが知らせてくれたのかもしれないな」


 桟橋を2つも占拠してしまったことが申し訳ない。

 アンカーを下ろしていると、ナンタ氏族の男達が舷側のロープを桟橋に結んでくれた。

 桟橋に人が集まってくるのは、トリマランが珍しいんだろうな。ケネルさんが、変な話をしていなければいいんだけどね。


 ナツミさんが、トリマランを物珍しそうに眺めていた女性と話をすると、俺に留守番を頼んでマリンダちゃんと獲物を背負いカゴに入れて桟橋を歩いて行った。


「ケオがいたぞ! やはり銛の腕はトウハが一番か」

「その他もバルタックが目立つな。トウハの聖痕の持ち主となればアオイ殿だな?」


 年かさの男が、俺に話を振って来た。

 アルティ達はまだ目を覚まさないから、少し世間話をしてナツミさん達を待つことにするか。


「桟橋ではなんですから、甲板にどうぞ。確かに俺がアオイです」

 数人がトリマランの甲板に乗り込んできた。ギャフや大きなタモ網が珍しいんだろうな、ジッと眺めている者もいる。


「ファンデだ。若手を指導しているんだが、この船はかなり変わってるな?」

「子供が生まれる前に、東の果てを見てみたいと思って作ったんです。カタマランの2倍の速度が出せますが、船団を組むのは面倒なんです」


 トリマランの水中翼が問題なんだよな。カタマランなら、水深が1mもあればじゅうぶんなんだけどね。


「そうか……。千の島の果てを見たんだな」

 感慨深そうに俺を見ている。

 そんなところに、ネイザンさん達がやって来る。バレットさん達はナンタ氏族の長老に挨拶をしに出掛けたらしい。


「アオイは後で良いと言ってたぞ。ナンタ氏族の聖痕の持ち主がまだ帰らないらしい」

「グリゴス殿なら、今夜か明日には帰るはずだ。南で漁をしているからな」

 

 どうやら、カタマランで南に1日の漁場で漁をしているらしい。どれぐらいの漁果を持ち帰るのか、俺も興味がわいてきた。

 

「あら! 何も出さなかったの? ちょっと待ってね」

 カゴを担いで戻って来たナツミさんが集まった男達を見て驚いている。

 直ぐにポットに蒸留酒を入れて、ココナッツを割り始めた。

 その間に手早くマリンダちゃんが、ココナッツのカップを配ってくれる。たまに家形の中を覗いているのは、子供達が起きたのか確認しているんだろうな。

 俺達の輪の中にナツミさんが置いてくれたポットの酒を皆に注いで、先ずは乾杯だ。

 笑顔で俺達を見ていた、ナツミさん達が再び保冷庫から一夜干しの魚を背負いカゴに取り出している。

 

「それにしても、良い漁場だったな。あんたらも、東に1日の大きな溝で、銛を使うのか?」

「あの溝なら曳釣りだけだ。カマルを餌にすると漁が他のシーブルが掛かる。ケオやバルタックがいるのなら、次は根魚釣りも考えてみるべきだろうな」


 やはり、素潜り漁は余りやらないのかもしれ合いな。せっかくケネルさん達が加わったんだから、頑張ってみるのも良さそうに思えるんだが。


「銛なら確実だぞ?」

「そうは言ってもなぁ。俺達が銛を使うのは根魚と大きなヒトデ、それにリードル漁ぐらいなものだ」


 なるほどね。動きの速い獲物を狙うことはしないということなんだろう。それだけ、釣りの腕を誇りに思っているんだろうな。

 だけど、子供達なら見様見真似で銛を使いたがると思うんだけどね。


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