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M-137 津波から5年が過ぎて


 津波の被害から5年が経った。

 俺達も、そろそろ20台を終えようとしている。バレットさん達は、50歳を超えたようだけど、まだまだ現役を退く様子は無さそうだ。

 漁獲高2割の約束は、サイカ氏族のカゴ漁とナンタ氏族の曳釣りと延縄によって、どうにかなっているようだ。

 トウハ氏族もかつての漁場より外側で漁をしているのも、かなり寄与しているに違いない。

 

 俺達は相変わらず素潜りを中心に漁をしているが、バレットさん達に言わせると、昔よりは釣りに比重が移っているとのことらしい。

 素潜り漁が盛んなのは、かつてのように男だけが銛を使うわけではなく、近頃は女性達も銛を使い始めたのも原因になっているらしい。

 トリティさん達にも、俺が銛を作ってあげたぐらいだ。

 ナツミさんやマリンダちゃんも専用の銛が欲しいとのことで、身長ほどの柄を持つ銛を作ってあげたんだが、意外と腕が良いんだよな。

 たまに大物を突いて、皆に自慢しているぐらいだ。


 アルティ達も、この頃は砂浜ではなく少し深場に行って素潜りの真似事をするようになってきた。

 一緒にアキロンも潜ろうとしているから、案外早く素潜りができるようになるかもしれないな。


「中々商船の改造が進まぬようだな」

「外輪船ではなく、スクリューにしましたからね。魔石12個の魔道機関が2基ですから、カタマランモドキ並みに速度を出せるかもしれません」

 

 漁から帰ると、中2日の休養を取る。

 氏族会議に出る頻度が、近頃増えてきたようにも思えるんだよな。

 帰島した翌日から、オルバスさん達は出掛けるようだけど、俺も1日は顔を出せと長老に言われてしまった。

 氏族会議を終えて、夕食までの時間をオルバスさんとのんびりパイプを楽しんでいたのだが、話題はこの間のリードル漁を終えたところで発注した大型の母船ともいえる改造商船の話になってしまった。


 全長は80YM(24m)、横幅はアウトリガーのように併設した全長15mの船体を使うことで、15mを越えている。

 3階層構造の船体内の階層は、魔道機関と貯水槽、それに食糧庫になっている。

 甲板と階を同じくした2階は、2つの大型保冷庫と生鮮野菜用の保冷庫だ。3階部分に操船室と、居住用の部屋があるんだけど、4家族が住めるらしい。

 広い甲板の前後には荷下ろし用の帆柱と帆桁が設けられ、カタマランはアウトリガー側の船体に横付けできるように作られている。


「金貨40枚というのも凄い金額だが、あれを同行するなら長期間にわたって漁が行えそうだ」

「試験航海は、南東の遥か彼方に向かいたいですね。少なくとも片道3日は進みたいところです」

「大型を狙うのか? それなら俺達は参加だな」


 将来を考えると楽しくなるな。

 漁もそんな感じだが、氏族間の繋がりは前にも増した感じもする。

 ナンタ氏族の受けた被害は甚大だったけど、他の氏族からの移民者が思った以上に多かったらしい。

 オウミ氏族が2つの氏族に別れたほどだったから、ある意味氏族間の人口格差が狭まったようにも思える。


「それにしても、乾期と雨期に10日間の族長会議を行うようになるとはなぁ。最初に決めたのがニライカナイ水軍構想とは、バレットも驚いていたようだ」

「ネコ族の代表が常に集まっている方がいいんですけど、前から比べればだいぶ風通しが良くなると思いますよ。水軍は、大陸の王国がいまだにニライカナイの権益を諦めきれないようですからねぇ。間に商会ギルドを挟んでいなければと思うとぞっとしますよ。さすがは海人さんだと思います」


 魔石は、金鉱脈と同じに見えるんだろうな。

 魔道機関に無くてはないらないものだけに、それが採れる場所を巡って大陸内部の王国では争いが絶えないらしい。

 ・

「5年後の創設は俺達の楽しみだが、そうなるとリーデン・マイネの新造も視野に入れねばなるまい。ホクチとナンタも1隻ずつ作るそうだ。その定位置はトウハ氏族の入り江になる予定だと長老が話してくれたぞ」


 隠匿場所は、使わないということなんだろう。晴れて水軍を作るのであれば、利便性を第一に考えるべきだ。

 トリティさん達は、どうするのかな?

 今のカタマランを住処として暮らすんだろうか。それとも、グリナスさんのカタマランに厄介になるのかな?


「食料自給ができない以上、漁で生活をしていくことになるんでしょうが、上手く大陸と付き合いたいですね」

「まったくだ。俺達の不幸にかこつけて、軍船を出してくるような連中だからな。常に1隻はサイカ氏族の西を航海することになりそうだ」


 津波の影響で、海底の地形が変ってしまったけど、それは俺達に有利に働くだろう。軍船の喫水はかなり深いということだから、千の島の海域を安心して走らせることはできないんじゃないかな。


「それで、次はどこに向かいんだ?」

「今夜にでも決めましょう。ネイザンさんもやって来るとラビナスが教えてくれました」


 うんうんと嬉しそうな表情で頷いている。

 ネイザンさんも今は4人の子供を持っている。グリナスさんやラビナス、それに俺の子供を合わせると15人ほどにもなるんだよな。

 男が5人だから少し考えてしまうけど、ネコ族に女性が多いということが良く分かる結果なんだろうな。


「浮き桟橋を、他の氏族も採用したらしいぞ。上部が広いということを重視したんだろう。この入り江も、商船用に石の桟橋を作ったのだが、いまだに浮き桟橋を使っているんだからな」

「簡易な割には丈夫ですからね。南の漁場にも作ろうと、だいぶ浮きを運んでましたが、出来たんでしょうか?」

「子の桟橋の先にあるものと同じぐらいの大きさらしい。桟橋との間にカゴを挟まずに接岸できるから荷下ろしが格段にしやすいそうだ」


 津波で破損した桟橋の代用品だったけど、結構気に入ったらしい。古くなった浮き桟橋は、使える浮きだけを用いて、子供達の遊び場になっている。

 

「何はともあれ中堅だな。それでいて、氏族会議の席を持っているのだから、俺達が西に向かってもトウハ氏族をよろしく頼むぞ」

「トウハに限らずニライカナイを考えるようにします。カヌイの集会ではおばさん達が涙を流していましたから」


 おかげで、トウハ氏族の島にカヌイのおばさん達が、族長会議の日程に合わせて集まることになったらしい。

 その席に、ナツミさんを担ぎ出したいらしいが、本人は上手く言い逃れているようだ。

 現時点ではトウハ氏族のカヌイの集まりに不定期に参加することにしたようだけど、将来はカヌイの長老になるのは間違いないと、トリティさんが話してくれた。


「上手い具合に、アオイとナツミがそれぞれに関わっている。ネコ族の将来を託すことになるだろうな」

「海人さんを目指してはいますが、中々海人さんのようには考えをめぐらせません」


 急にオルバスさんが俺に顔を向けると、笑みを浮かべて肩をがっしりと掴んだ。


「カイト様はカイト様だ。だが、アオイが常にカイト様を意識して俺達の暮らしを考えているなら、俺達はそれで十分だ」


 いつの間にか飲んでしまったワインのカップにオルバスさんが並々と酒を注いでくれた。

 ココナッツジュースに蒸留酒を混ぜたものだから、口当たりは良いんだけど度数が高いんだよな。これで終わりなら何とかなるだろうけど、2杯も飲んだら、明日はハンモックから出られないんじゃないか?


「やってるな! それで、どこに行くんだ?」


 バレットさんがネイザンさんと一緒にやって来た。

 その後ろに、グリナスさん達の姿が見える。少し早いけど漁の相談が始まりそうだ。

 男達が集まったのを知って、ナツミさんが家形から出てくる。

 ココナッツを割ってポットに入れるのも、いつの間にか慣れたみたいだな。ココナッツの殻で作ったカップの入ったカゴとお酒のポットを俺達に渡したところで、俺達に軽く頭を下げると家形の中に戻って行った。


「ネイザンは中堅を率いて南に向かうのではなかったのか?」

「あれは、仲間に頼みました。いつも俺が率いるとなると仲間に恨まれてしまいます」

「だろうな。俺も散々オルバスやケネルに嫌味を言われたもんだ。だが、なるべくなら仲間を上手く使って船団を組む練習をしておくんだぞ」


 将来の筆頭と次席を見極めようってことかな? 俺は筆頭にはなれそうもないけど、次席の次辺りになれればいいんだけどね。


「アオイ達もいるんだ。アオイが船団を率いてくれればと仲間も言っているよ」

「次席ねらいってこと? 俺も、頑張らないとなぁ」


 グリナスさんも、野望を持っているようだ。隣で頷いているルビナスも目標を持っているってことかな?


「俺達が氏族を背負うのはまだまだ先でしょう。バレットさんも数年は筆頭を渡すとは思えません。それはかなり先の話しですが、とりあえずは明後日の話をしませんか?」


「確かにそうだ。集まった連中は魔石8個の魔道機関を持った奴ばかりだからなぁ。どこにでも行けるぞ」

「6隻ともなれば、場所が限られるな。北は運搬船と共に10隻が向かったはずだ。南は燻製船と一緒に若手と俺達の世代が20隻だ」


 西はさすがに無さそうだ。カタマランを手に入れたばかりの連中が東に向かったんだよな。となると、狙いは南東ということになるんじゃないか?


「アオイは南西に向かったところでケネルに会ったんだよな?」

「はい。だいぶ前のことですけど、曳釣りをしてましたよ」


 ナンタ氏族の連中は、曳釣りができるようになったのかな?

 俺の仕掛けを目を見開いて見ていたけど、たった半日だけ漁に付き合ってもらっただけなのも、何となく気になるところだ。


「どうだ。ケネルに会いに行ってみるか。ナンタ氏族の島を見ておくのも、お前達には役立ちそうに思えるんだがなぁ」

「ナンタ氏族の島!」

「確か、遠くに火を噴く島があるってことだぞ!」


 急に騒がしくなった。

 若い連中も一緒にナンタ氏族にむかったから、ネイザンさんやグリナスさんの友人もいたのかもしれないな。

 となれば、曳釣りの仕掛けをお土産に作っておこうか。

 少なくとも4日以上は掛かりそうだからね。途中で漁をして、ナンタ氏族の島に下ろすこともできるということだから、俺達がそれを行う初めての漁師になっても良いんじゃないか。


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