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M-136 子育ては大変だ


 40cmほどのブラドを突いて、夕暮れからは青物を狙う。

 釣れるのはカマルが多いけれど、たまにはシーブルも混じる漁場だ。シメノンが釣れると聞いたんだが、群れに遭遇したのは乾期に2回だけだった。


「1か月で銀貨2枚にはなるね。低級魔石を2個売り払ったから、しばらくはこのままで十分だ」

「子育てはどこの世界も大変なのね。でも一時期でしょうから頑張りましょう」

「次の雨期が終われば、遠くに行けるにゃ!」


 カゴに寝ているアキロンの頬をアルティ達がツンツンしている。興味深々な様子だから、直ぐにお姉さんとして面倒をみてくれるんじゃないかな?

 ナツミさんに、メ! と睨まれてマリンダちゃんの背中に隠れている。


「今度のリードル漁は、トリマランに子供達が溢れる感じだね。トリティさんも手伝ってくれるだろうけど、子供だけで7人になりそうだ」

「ティーアさんも来るでしょうから、もっと増えるわよ。トリティさんだけでだいじょうぶかしら」


 その時は、カヌイのおばさんに手伝ってもらえば良いだろう。6日間で低級魔石1個で面倒をみてくれるんだから、ありがたい話だ。

 ん? 確か、1家族につき魔石1個だったかな。後でトリティさんに確認しといた方がいいな。


 リードル漁が近づいてくると、入り江のカタマランが日を追って増していく。

 明日は出発という昼下がり、グリナスさんとラビナスがたくさんのココナッツとバナナを運んできてくれた。


「いつも済みません」

「アオイの木登り下手は知ってるからね。それに子供達が世話になるんだから、これぐらいはさせてくれ」


 俺が頭を下げるのを見て、グリナスさんが笑いながらココナッツの1つを割って渡してくれた。

 ラビナスも一緒になって、3人で船尾のベンチに腰を下ろしながらジュースを楽しむ。

 リードル漁の成果が次の動力船に繋がるのだ。2人とも明日は甲板で銛を研ぐんだろうな。


「もう少しで、次の動力船を手に入れられそうだ。今度は魔石8個だから、遠くまで漁に行けるぞ」

「俺はもう少し先ですね。そのころには、子供も大きくなってるでしょうから、今の船では窮屈になってしまいます」


 グリナスさん達が作ろうとしている船は、依然オルバスさん達の乗っていたカタマランということなんだろう。魔道機関を魔石6個ではなく8個にするなら、確かに今のカタマランより速度を上げられるだろうし、家形だって二回りほど大きくなるからねぇ。


「俺は、まだまだ先だな。しばらくはこのトリマランを使えそうだ。だけどナツミさん達が次の船を考えてるんだよね。今度はどんな船になるんだろう?」

「空は飛ばないだろうし、島の上を進むわけではないから、安心しとくんだな。だけど、この船が海面に浮かぶのを見た時には驚いたぞ」


 グリナスさんの話しに、ラビナスも頷いてるから大方の感想はそうなるんだろうな。

 速さに特化した船だからねぇ。ナツミさんでもこのトリマランは操船し難いと話してくれたことがあるんだよな。

 やはり、操船しやすいことが一番だろう。トウハ氏族が動力船を持つ目的は漁業だ。

 とはいえ、どんな船になるかは実物を見るまでは安心できない。


 翌日。入り江にバレットさんの吹く法螺貝の音が響き渡る。

 法螺貝の合図で、帆柱に白い旗を掲げて、出発の準備ができていることを表示する。

 バレットさんとネイザンさんがカタマランで入り江を一巡りして黄色の旗を探している。笛の音が2つ聞こえたから、準備中であることを示す黄色の旗は無かったようだ。

 再び法螺貝の音が響き渡ると、バレットさんのカタマランが赤い吹き流しをなびかせて入り江を出て行った。次々にカタマランがその後に続く。

 俺達のトリマランは後ろから2番目だから、しばらく待たなければなるまい。

 

 だんだんと周囲からカタマランが出立していく。そろそろ頃合いだろうとアンカーを引き上げ、操船楼のナツミさんに片手を上げた。


「合図があったわ。私達も出掛けるよ!」


 操船楼から、後ろに振り向いてナツミさんが知らせてくれた。

 家形の扉に設けた柵から恨めしそうに俺を見ていたアルティ達を、甲板に出してあげると、俺を真似してベンチに腰を下ろした。

 マリンダちゃんが麦わら帽子をかぶせてくれたようだ。顎紐が結んであるから帽子を飛ばされることは無いだろう。

                 ・

                 ・

                 ・

 リードル漁を無事に終えると、雨期になる。

 今朝は晴れ渡っているけど、油断はできないな。集中豪雨のような雨が突円やって来るのが雨期だからね。


 雨期の漁は曳釣りと延縄が主流になるから、中堅の連中はバレットさんに率いられて東に向かった。

 明日には運搬船が出航するんじゃないかな。今回が初めての運用らしいからバレットさんがだいぶ気にしているようだった。


「運搬船を使うことで、漁の期間を倍に延ばせるということだが、果たして上手く行くんだろうか?」

 バレットさんに率いられた船団が入り江から出て行くのを見ていたオルバスさんが心配そうな表情で呟いている。

「上手く行くと思いますよ。漁場が広ければ役に立つんじゃないかと……。ナンタやサイカも一回り小型の運搬船を作ればそれなりに漁果を得られると思うんですけどね」


 ナンタ氏族の漁は、海域の東側にシフトしているらしい。やはり海底では火山活動が続いているんだろうな。

 そんな場所にいた魚達が、東に移動してきたのかもしれないな。

 漁場の魚が少なくなってくれば、再び西の海域で漁ができるのかもしれない。


「俺達は南東の漁場だったな。準備はできているのか?」

「すでに終わっている筈です。グリナスさんがカタマランを新調するようですから、乾期には少し遠出ができそうですね」


 ラビナスも次の雨期には新調できると言っていたな。この間のリードル漁は中級魔石を多く手に入れたと言って喜んでいたのは、早めにカタマランを新調できるからなんだろうな。


「なら、そろそろ頃合いだ。南東の海域なら昼過ぎには着けるからな。良い穴を探して根魚を釣ればいい」


 そういうことなら、知らせに行かなくちゃならないな。

 オルバスさんに軽く頭を下げて、ラビナスとグリナスさんのカタマランに向かう。

 どうやら、すでに準備を終えて出発を待つばかりでいたようだ。

 慌てて自分達のトリマランに帰ると、ナツミさんと一緒に出発の準備を始める。

 

 桟橋に結んだロープを解くころには、グリナスさん達のカタマランが桟橋を離れて入り江の出口に向かっている。


「動かすよ!」

「ちょっと待ってくれ、アンカーを引き上げるから」


 ナツミさんの声に、慌てて船首に向かった。

 アンカーを船首甲板に引き上げると同時に、トリマランの船首が桟橋を離れる。

 後はナツミさんに任せておこう。

 船尾のベンチに腰を下ろして、子供達が遊ぶ砂浜を眺めることにした。

 

 アルティ達も、砂浜で遊ぶ時間が長くなってきた。漁に出ている間は家形と船尾の甲板でしか遊べないのが残念に違いない。

 天気が良ければ、近くの島の砂浜に子供達を連れて行ってやろうかな。

 誰か1人、大人が付いていれば安心できるし、まだまだ泳ごうなんて野望はグリナスさんのところの長男でさえ持っていないだろう。


 3時間も経たずに、漁場に到着した。

 小さなサンゴの穴がたくさんあったんだけど、今は2割ほどが残っているだけになってしまった。水深もそれほどないから、根魚の大物はいないだろうが、青物の回遊は期待できそうだ。


 そんなサンゴの穴は、島の北に集中している。

 それほど高さの無い島の北の砂浜に船を寄せて停泊した。少し遅めの昼食は、トリティさん達がまとめて作ってくれた。


「ザバンで漁をするなら、その間は私が子供を預かってもいいにゃ。砂浜に下ろしておけば勝手に遊んでるにゃ」


 トリティさんも、活発な子供をカタマランに乗せておくのは問題だと思ったに違いない。リードル漁の時に、散々苦労したんだろうな。

 だけど、カリンさんやレーデル、ナツミさんにとってはありがたい話なんだろうな。

 「おねがいするにゃ」とトリティさんに頭を下げている。


「天気が持ちそうだから、ザバンを使うようなものだ。雨が近づいたらすぐに子供を回収するんだぞ」

 

 オルバスさんの言葉に、今度は皆が空を眺める。

 今のところは問題なさそうだな。先ずは雨期でも素潜りで漁をしてみよう。


 マリンダちゃんに、出掛けて来ると伝えたところで、ナツミさんがザバンにアルティ達を乗せて浜に向かった。

 背負いカゴを持ったトリティさんが浜に立って、手を振っている。

 お婆ちゃんは孫の世話が大好きみたいだな。


 戻って来たザバンに銛を持って乗り込んだ。

 ナツミさんも銛を使うのだろう、俺の小さな銛を持っている。


「ザバンの船首にアンカーがあるから、サンゴに引っ掛けておけば流されないでしょう? 獲物はちゃんと保冷庫に入れないとダメよ」

「それぐらいは分かってるさ。でもナツミさんが潜らなくても……」

「夕食のおかずぐらいは突かないとね。トリティさんも頑張ってくれてるんだし」


 両者とも、自分の楽しみということなんだろうな。

 ここは反対せずに頑張ってもらうことにしよう。


 サンゴの密集した場所を見付けて、早速海に飛び込んだ。

 驚いたブラドがあちこちのサンゴの裏から飛び出してきたから、この辺りも良い漁場に違いない。

 逃げたブラドが隠れたサンゴの裏を探るようにして、最初のブラドを突く。


 何度か獲物を運んだところで、ザバンのフロートに腰を下ろして休憩を取っていると、ナツミさんがバッシェを突いて上がって来た。

 魚を受け取って、保冷庫に入れると、だいぶ魚が溜まっているようだ。


「そろそろ終わりにしようか。日も傾いてきたみたいだし」

「そうする? なら、先に甲板に下りるからアルティ達を連れてきてくれないかな」


 砂浜を見ると、アルティ達が遊んでいるのが見えた。

 まだまだ遊び足りないかもしれないが、トリティさんも突かれてるに違いない。確かに頃合いだな。

 

 トリマランにナツミさんと獲物の入ったカゴを卸して、砂浜に向かう。

 駄々をこねるアルティ達を、どうにかザバンに乗せるとグリナスさん達もザバンで子供を連れに来たようだ。

 ラビナスのザバンにトリティさんが乗ったところで、砂浜には誰もいなくなった。明日も遊ばせることができれば良いんだけどね。


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