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M-131 生まれた!


 速度を上げて航行したおかげで、昼を少し過ぎたころに漁場に到着できた。

 ザバンを下ろす時間も、もどかしいのだろうか?

 トリマランに子供とお腹の大きな嫁さんを預けたところで、思い思いの場所で素潜り漁を始めている。


 ザバンにアウトリガーを取り付けて甲板に向かうと、ナツミさんとトリティさんの姿が見えない。

 甲板にロープで繋いで銛を取り出していると、ナツミさんがブラドが付いた銛を持って後部のハシゴを上って来た。


「大きいのがいるよ。トリティさんがこのぐらいのバルタスを追い掛けてたわ」

 

 マスクを外すと、両手でこのぐらいとやっている。50cmというところだな。さて、ちゃんと突けるんだろうか?


「ザバンをお願いしたいんだけど……」

「いいよ。あの辺りに岩が重なってるの。色々いるみたい」


 早々と1匹突いて満足したらしい。銛を片付けて、装備を倉庫のカゴに入れている。

 ナツミさんが教えてくれた場所を確認したところで、銛を手に海に飛び込んだ。

 トリティさんはどの辺りにいるのだろう? 気にはなるけど、姿を見掛けないなら銛を使うことに躊躇しないで済む。


 海面付近をシューケルを使って泳ぎ、海底の様子を探る。

 その時、海底に岩が積み重なったように見える場所が見えた。ナツミさんが教えてくれたのは、これのことなんだろう。

 水深は5m以上ありそうだから、船の上からではあまり気付くこともないだろうな。魚が岩の間から顔を出している。あれなら、簡単に突けそうだ。


 息を整えながらゴムを引いて左手で握る。目標をもう一度確認したところで、一気にダイブした。

 岩の重なりから少し離れて、隙間を探す。

 大きなブラドがすぐ目の前にいた。ちょっと後退しながら銛を突く距離を取る。

 再度銛先をゆっくりとブラドのエラ近くに動かして、左手を緩める。

 50cmに満たない距離だ。銛の柄を握って岩の間からブラドを引きずりだして海面に向かった。


 片手を上げて合図すると、なつみさんがザバンを動かしてきた。

 銛からブラドを外してザバンの中に投げ込むと、再び先ほどの場所に移動する。


 6匹目を突いたところで、漕湯の素潜りを終えることにした。

 トリマランの甲板に戻った時には、トリティさんもベンチでお茶を飲んでいたから、俺より前に今日の漁を終えたのだろう。

 ナツミさんにザバンからカゴを移動するように言われて、ザバンの保冷庫を開けたんだけど、結構たくさん入っている。

 俺は7匹だったはずだ。それ以上に入っているから、トリティさんもたくさん突いたみたいだな。

 

「ここに置いて頂戴。捌かないといけないから」

 すでにナツミさんは台を組み立てて待っていたようだ。慣れた手さばきで魚を捌いていく。

 それを見ているトリティさんの表情にも笑みが浮かんでいるから、どうやらトリティさんの要求する腕には達したんだろう。


「お茶が入ってるにゃ。この辺りも魚が濃いにゃ」

「そうですね。明日が楽しみです」


 俺の言葉に頷いているところをみると、明日も潜るんだろうか?

 

「明日は、3人で交替しながら魚を突くにゃ。誰か1人はトリマランに着いているから、そんなに心配しないでもだいじょうぶにゃ」


 顔に出てたのかな? そうなるとかなりの獲物になるんじゃないか?

 グリナスさん達は、それなりに突けたんだろうか? 数匹だとしたら、トリティさんの機嫌が悪くなるかもしれないな。


 ナツミさんの作業が終わったところで、船尾で根魚釣りを始める。

 すでに夕暮れが近いから、ランプの灯りは灯っているようだ。


 しばらくして竿先に当たりが出た。少し道糸を送り込んだところで竿を立てて合わせる。強い引きが左腕に伝わって来たから、針掛かりはしたようだ。

 隣でトリティさんがタモ網を持っているから、ちょっとしたプレッシャーになるな。

 やがて、魚体が見えたところで、ゆっくりとトリティさんがタモ網を沈めた。

 タモ網に魚体を誘導すると、「えい!」と大声を上げてトリティさんがタモ網を引き上げる。甲板でバタバタしているところに、棍棒が振るわれた。

 魚から釣り針を外したところで、仕掛けを帰してくれたから、釣り針に切り身を付けて直ぐに放り込んだ。


「バヌトスにゃ。2YM(6cm)までは無かったにゃ」

「次はもっと大きいのをつりあげますから」


 ナツミさんのところに持って行くのかな? と思ってカマドを見たら、いつのまにかリジィさんと交替していたようだ。


「おかずが獲れたにゃ!」

「大きいにゃ。何にしようかにゃ」


 2人で料理を考え始めたようだ。

 その間に、たくさん釣らないとね。


 夕食時には、再びカタマランが両舷に甲板を寄せる。

 大きなバヌトスは炊き込みとスープになったようだ。炊き込みご飯に野菜を入れて再度軽く炒めてあるから、香ばしさがいつもの炊き込みご飯とは違うんだよな。

 リジィさんは相変わらずの料理上手だ。

 嫁さん達も、リジィさんに作り方を教えて貰っている。


「素潜りでブラドを7匹突いたぞ」

「俺は6匹でした。でも、ここに来るまでの間に根魚を4匹上げましたよ」

「俺は延縄を仕掛けたんだよな。シーブルが3匹獲れたよ」


 延縄か……。それは考えなかったな。明日の昼過ぎに、俺も仕掛けてみるか。

                 ・

                 ・

                 ・

 正味3日の漁を終えるころには、保冷庫の中が魚で一杯になっていた。

 満足して島に帰ることになったのだが、早く着くようにと、夜も船を進めることになった。

 島に到着したのは、翌日の夕暮れ前だった。

 浮き桟橋に船を付けると、獲物を嫁さん達が運んで行く。

 ナツミさんの話しでは売値は460Dになったらしい。2割を守り役に渡した残りを4等分して92Dずつに分配する。


「孫達と遊べたし、楽しめたから1人分で良いにゃ。食費と酒代に使うにゃ」

 トリティさんがそんなことを言って、ナツミさんを困らせているのはいつものことだ。

 たまに、自分本位に行動してみたいんだろうな。

 グリナスさんの船でも良いんだろうけど、どうしてもグリナスさんを叱りたくなるみたいだ。

 まあ、それだけグリナスさんをかわいいと思っているに違いない。


 まだオルバスさん達は帰って来ないし、月もだんだんと丸くなっている。

 次の漁には出掛けずに、マリンダちゃんの出産を待つことになりそうだ。


 数日後、昼頃からマリンダちゃんが産気づいたから、双子を連れて海岸で待つことになった。日中の日差しは暑いんだけど、アルティ達には気にならないらしい。それでも麦わら帽子だけは被せてあるし、手カゴの中の水筒で、お茶をたまに飲ませている。

 熱中症になった人の話は聞いたことも無いけど、初めてのケースにすることも無い。


 ほとんど波が無いから、2人で砂の山を作って遊んでいる。

 もう少し大きな子供達は、海に入って泳ぎを覚えようと頑張っているけど、俺の子供達は膝から上の場所にはいかないようだ。

 それでもたまに、海に腰を下ろして水を掛け合っている。


 安産だと良いんだけどね。

 たまに、トリマランに目を向けるんだが動きはないみたいだな。


「何だ? こんなところで」

 俺の肩を叩いて横に腰を下ろしたのはネイザンさんだった。

 一緒の子供は、タリダン君だったな。ネイザンさんに向かって海を指差している。

 ネイザンさんが頷くと、嬉しそうに海に入って行った。


「マリンダちゃんが出産なんです。トリマランを双子と一緒に追い出されました」

「まぁ、俺達が手伝えることは無いからな。それでも数時間はいらんだろう。ここでゆっくりと待つんだな」


 ネイザンさんがパイプを取り出して、マッチみたいな代物で火を点けた。

 俺もパイプは持って来てるんだけど、火種が無くてがまんしていたところだ。ネイザンさんにパイプを借りて自分のパイプに火を点ける。

 これでしばらくは楽しめそうだ。


「一昨日、北から戻ってきたところだ。相変わらずの豊漁だが、アオイの方はどうなんだ?」

「昨日戻りました。向かったのは東に2日の漁場です。競い合って行ったようなものですから、1日半で到着しましたよ。同じく豊漁です。いったいどこから来たのかと思ってしまいますね。それに型も良いですから」

「5つの氏族全てが豊漁なら良いんだけどなぁ。俺には他の氏族の漁場から魚が移ってきたようにすら思えるんだ」


 思わず、ネイザンさんの顔を見てしまった。

 その考えは無かったな。


「オウミ氏族の島で長老達が集まるそうですから、それで状況が少しは見えるでしょう。俺達は、いつも通りに漁に勤しめば良いと思っています」

「漁獲高の2割増しは約束だからな。確かに頑張らねばなるまい。だが、子供が生まれたらあまり無理はできないな」

「近場で、釣りをしますよ。小さい子供が3人ともなれば、遠出も出来ませんからね」


 再び俺の肩を叩いて、ネイザンさんは腰を上げた。

 渚で双子と一緒に遊んでいた子供を呼び寄せて、砂浜を北に向かって歩いていく。

 たまたま通りかかったら、俺がいたのに気が付いたんだろう。

 入り江をみると、泳いでいた子供達はすでに姿を消している。夕暮れが近づいているから、砂浜で遊んでいるのはそれほどいないようだ。


 突然、双子が同時に頭を向けた方向にトリマランがあったのは偶然なんだろうか?

 トリマランの家形から誰かが出てきたようだ。姿から判断するとナツミさんのようだが、俺達に両手を振っている。

 そして帰って来るように毛で合図を出しているから、片方の手でカゴを持ち、もう一方の手でアルティの手を握る。アルティの片手はマルティがしっかり握っているはずだ。

 ゆっくり歩けば桟橋で落ちることも無いだろう。

 俺達の歩みがもどかしいのだろう。桟橋をナツミさんが走って来た。


「生まれたよ! 今度は男の子。早く行ってあげて」

 双子をナツミさんに託して、カゴを持ってトリマランに走った。


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