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M-129 氏族よりもニライカナイを考える


 雨期の漁は釣りが多くなるのは仕方がないところだ。

 ザバンを使って広く漁ができないのが問題なんだよな。どうせ濡れるんだから、潜っているほうは気にしないんだけど、ザバンがまるでお風呂のように水が溜まってしまう。


 そんなわけで、帰ってから2日後に出掛けた南の水路の手前での漁は、根魚釣りと延縄漁になってしまった。

 漁を始めて2日目の夜に、シメノンの群れが南からやって来た時には、豪雨の中で餌木を躍らせることになってしまった。

 タープと麦わら帽子のおかげでそれほど豪雨は気にはならなかったが、2時間ほどのシメノン漁が終わった時には、双子以外は全員ずぶ濡れになってしまった。


「雨の漁を少しでも快適にしようと思ったんだけど、甲板の真ん中に作った穴は余り役に立ってないね」


 ナツミさんが残念そうに呟いてるけど、根魚だけを狙うんならそれなりの効果はあるんだよな。

 シメノンが来た! と皆でタープから身を出したのがずぶ濡れの原因だからね。


「のんびり夜釣をするなら丁度良いにゃ。次の船にもつけると良いにゃ」

 マリンダちゃんは気に入ったらしい。人一倍濡れるのを嫌がるからかな?


「でも、まだまだこの船を使うだろう? 子供達が大きくなってから出良いんじゃないかな」

「その時に慌てないように、今から考えるのよ。色々と不便なところがあるから、その対応も考えないとね」


 俺には不便なところが見当たら無いんだけど、ナツミさん達にはあるようだ。マリンダちゃんも頷いている。

 あまり奇抜な船は作らないで欲しいけど、きっと変った船になるんだろうな。

 バウ・スラスタに水中翼。もうこれ以上は無いと思いたい。まさか潜水艦を作ろうなんて考えてはいないと思うけど、油断はできないな。


 雨期が終わると、燻製船と随伴するカタマランが帰って来る。

 氏族の動力船が入り江に勢ぞろいするのも久しぶりな気がするな。

 商船が2隻もやって来たのは、来るべきリードル漁を前に俺達の漁具や野菜を販売するためなんだろう。

 新しい具具を見れば、少しは漁のやる気も出てくるということなんだろうな。

 

 バレットさんの法螺貝の合図で、俺達は船団を組んで東の漁場に向かう。

 往復に4日、漁が3日のリードル漁の成果は、上級魔石が4つに中級が7つ、低級魔石は3個になった。

 津波の被害は、まだまだ癒えてはいない。

 他氏族への支援もあるから、上級魔石1個と中級魔石を3個をオルバスさんに渡すことにした。

 

「俺達は中級魔石を2個なんだが……」

「まだまだ他氏族の動力船が足りません。少しは援助してあげませんと」


「すまんな」と言いながら、オルバスが受け取ってくれた。

 女性達には低級魔石を1個ということだからトリティさんに渡しておく。ナツミさんやマリンダさんにも分配されるはずだ。

 残った魔石の売買は、いつも通りナツミさんが行ってくれる。でも低級魔石を1個渡してくれたから、これは俺のお小遣いということで良いんだろうな。

 直ぐにワインに化けてしまいそうだ。


「乾期だからな。素潜りってことになるんだが」

「そうなると狙い目は東ですね。他の連中はどうなんでしょう?」

「近くなら、俺も一緒で良いですよね?」


 トリマランに集まったのはグリナスさんとラビナスだ。

 お茶を飲みながらの漁の相談だけど、マリンダちゃんのお腹がだいぶ大きくなってきたから、出掛けるとしてもオルバスさんと同行したいんだよな。大きなお腹では、元気に動き回る双子に目を回しそうだ。


「そうだな。できれば家族ともども厄介になりたいところだ。カリンのお腹が大きくなってきたからね」


 上の子はアルティ達より1つ上なんだよな。そうなると、早めに甲板の周囲を囲っておくか。島のおばさん達にマリンダちゃんが頼んでくれたんだよな。

 

「甲板の周囲に網を張れば、少しは安心できます。たぶん今夜にでもオルバスさんが来るでしょうから、漁の同行をお願いしてみます」


 夕食は、隣に船を停めている時には一緒の時が多いからね。食事をしながら頼んでみよう。

 その夜。食事が終わったところで、オルバスさんに次の漁について聞いてみると、さすがは年長だけのことはある。俺達のことを考えてくれていた。


「アオイのところやグリナスもそうだろう。リジィがラビナスのところもそうだと言っていたからな。みんなで一緒に漁をするなら、トリティ達をアオイの船に多くことができる。子供達も大勢だから、お腹が大きい嫁さん達だけでは手に負えまい」

「子供が多い方が楽しいにゃ。アオイの船は家形も甲板も大きいから子供達も喜ぶにゃ」


 とは言っても、3人だからねぇ。その上、お腹の大きな嫁さんも3人になるんだよな。


「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」

「「お願いします(するにゃ)」」


 俺の言葉に続いて、ナツミさん達もトリティさん達に頭を下げる。


「まあ、困ったときはお互い様だ。ところで、どこに向かうんだ?」

 夕食の後片づけをさっさと済ませて、引っ越しの準備を始めたトリティさんを見ながら、オルバスさんが呟いた。


「季節的に素潜りですから、東に向かおうと皆で話していました」

「東か……。明日にでも、氏族会議で教えておこう。俺の船は置いていくことになりそうだな。明後日には出発したい。グリナス達にココナッツを集めるように伝えてくれ」


 翌日。ナツミさんが運んできた網をトリマランの甲板の周囲に張り巡らしていると、グリナスさん達がやって来た。

 ココナッツを頼まれたと言ったら、お茶も飲まずにラビナスと一緒に出掛けて行ったけど、俺を誘ってくれなかったんだよな。

 木登りが下手なのは周知の事実だけど、リップサービスも大事に思える。


 どうにか、網を張り巡らせた時には、昼食時を過ぎていたようだ。

 ナツミさんが「もう少し待って」と隣のカタマランから教えてくれたんだが、まだオルバスさんが帰っていないんだろうか?


 パイプを咥えながら待っていると、バレットさんを伴って帰って来た。

 食事はたっぷりあるらしいから問題は無いのだろうが、バレットさんが一緒というのが気になるところだ。

 団子スープを頂きながら、オルバスさんの話しを聞くことになったのだが、どうやら長老と一緒にオウミ氏族の島に向かうことになったらしい。


「バレットも一緒だ。バレットの船で向かうことになったから、トリティ達を頼んだぞ」

「急な話ですね?」

「なぁに、アオイの船を教えに行くことになっただけだ。サイカ氏族は必要なさそうだが、ナンタとホクチ氏族にとってはありがたい話だと思うぞ。ついでに、商船の話を商会と他の氏族に話すことにした。保冷庫を大型にした運搬船の話しも、俺達だけとはいかねぇだろうな」


 トウハ氏族だけで独占するのはよろしくない、ということなんだろう。

 漁場が広がったことで、同じような悩みを持っているのかもしれないな。


「どの氏族も2割増しの漁獲高に苦労してるはずだ。そもそもが王国の庶民の食を支えるのが目的だから、いつまでも魔石の売り上げを加味させるのも問題だと、長老が言っていた」

 

 オルバスさんが、酒のカップに口を付けながら呟く。バレットさんも頷いているから、長老の話に2人とも同意しているのだろう。

 それは俺も同じだが、急に増やせるものでもない。まして、あの災厄の後だからなぁ。


「あまり、急ぐのも問題ですよ。5つの氏族とも、その氏族に会った漁を今までしてきたんですからね」

「言われずとも分かっているさ。だが、ケネルがナンタ氏族に、トウハ氏族の漁を教えていることも確かだ。長老は、氏族で考えずに、ニライカナイとして考えろ、と言っていたぞ」


 一歩下がって全体を見て考えろということなんだろう。それを各氏族の長老に伝えるために、長老も同行すると思うと、頭が下がるな。

 そうなると、一緒に行くのは3隻になりそうだ。

 

 バレットさんが帰ると、トリティさんがオルバスさんの荷物を背負いカゴに詰め込んでいる。そんなに荷物は無いと思うんだけどね。


「少し長引くかもしれん。アオイ達ものんびりと漁をしてくるが良い。まぁ、遅くなったとしても10日は掛からんはずだ」

「早く付けると思いますが、会議はもめそうだと?」

「漁の実演をしてくるつもりだ。曳釣りと延縄は教えねばなるまい」


 そういうことか……。となると、1隻で足りるんだろうか?

 俺の渋い顔を見て、苦笑いを浮かべている。

 氏族の筆頭漁師と次席漁師だからねぇ。大役だけど、大事なことだから上手く行って欲しいところだ。


「早くに、他の者達に筆頭を渡したいとバレットがボヤいてたな。まぁ、それも分かるつもりだが、ネイザン達の仲間には荷が重いだろう。アオイが10歳ほど年を取っていれば良かったのだが」

「まだまだ若輩ですよ。漁果を嫁さん達に手伝ってもらってますからね」


 海人さん並に腕があるなら良いのだが、まだまだ銛の腕は向上の余地があるのが自分でもわかるつもりだ。

 ネイザンさん達と比べて、漁果が多いのはシュノーケルと広い視野のマスク、それに海中で速く動けるフィンを持っているからだと思っている。

 だいぶ傷んではきたが、もうしばらくは使って行けるだろう。この道具がなくなった時、初めてトウハ氏族の他の漁師との腕比べが始まるのだ。


「長老は期待しているぞ。漁の腕ではなく、氏族いやニライカナイに住まう者の導き手にふさわしいとまで俺達に話してくれた」

「俺よりも、ふさわしい人物がいるとは思うんですが、長老の期待に応えるよう精進していきます」


 うんうんと頷きながら、オルバスさんが酒を注いでくれた。

 我が意を得たりという感じなんだけど、俺よりはナツミさんがふさわしく思うんだよな。


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