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M-122 ニライカナイ全体の漁獲が気になる


「保冷船は、私達の使っていたということではないのね?」

 ナツミさんにバレットさん達の依頼の話をすると、最初のカタマランの話が出てきた。

 魔石を8個使ったカタマランは燻製小屋の乗った台船と氏族の島を結んで、今でも活躍中だ。

 広い甲板を利用して大きな箱型の保冷庫を搭載している。あれも使えそうだけど、「バレットさん達が考えているのはその保冷庫よりも遥かに大型のものになる。


「あれの2倍、出来れば3倍は欲しいな。船団に遅れて到着して、先行した船団の漁果を集めて一足先に氏族の島に帰るってことなんだ。他の氏族の使っている外輪船では遅すぎるし、かといってカタマランにはあまり荷を詰めないだろう?」

「おもしろそうな課題よね。そうなると……、これなんか、どうかしら?」


 ナツミさんがメモ帳をぱらぱらとめくって俺に見せてくれたのは、かなり風変わりな船だった。

 2隻を繋いで大きな甲板を作っているのは、カタマランのようにも見えるけど、左右の船の大きさが全く異なる。

 左側が右側の2倍はあるんじゃないか?


「左の船の船倉を丸々保冷庫にするの。右手に小屋を作って操船をすることになるわ」

「これで、ちゃんと操船できるの?」

「もちろんよ。アウトリガーの考えを発展させたものだもの。魔道機関は1つで良いけど、魔石は8個もしくは10個の者が欲しいわね」


 大型魔道機関を使って走らせるというのは、予備を持たないということでもある。途中で故障したらと考えてしまったが、直ぐにそれはあまり気にせずに済むことが分かった。予定日に、保冷船が現れなかったら、同じ航路を辿って島に帰れば済むことだ。途中で故障した保冷船を見付けて島に曳いてくることができるだろう。帰りも一足先に帰島するんだからね。


「舵で無理やり直進させる感じだね」

「ヨットと同じようにキールを付ければ済むことよ。操船は慣れるしかなさそうだけどね」


 やはり、直進性を補間するものが必要ということなんだろうな。

 だけど、大型の動力船とカタマランの片方の船を使えばできるようだ。小屋が右に偏るのは、保冷庫の運用を考えたことになるんだろう。これだと大型船の三分の二近い場所を保冷庫にできそうだ。

 

「貰っていいかな?」

「いいわよ。これだと、カタマランの値段で買えるんじゃないかしら」


 魔道機関が1個だし、漁船に使用するための改造点も無い。だけど、それほど安くはならないと思うけどね。商船がやってきたら、およその値段を聞いてみるか。


「次はどこに行くにゃ?」

 マリンダちゃんが双子を引き連れて家形から出てくる。

 ナツミさんに直ぐに抱き着いたのはアルティだ。マルティはマリンダちゃんの尻尾をいたずらしているから、マリンダちゃんに頭をポンポンと叩かれている。


「南に行ってみようか? ずっと行ってなかったよね」

「燻製船が活躍してるのよね。ちょっと見てみたいかも!」

「なら、野菜を届けてあげるにゃ!」


 果物なら、近くの島から採れるだろうけど、野菜はそうもいかないだろう。保冷庫に入れておけばたくさん運べそうだ。

 出掛けるとしたら、明後日になりそうだ。もう1日ぐらいは、島でのんびり過ごそう。


 その夜。オルバスさんに誘われて、一緒に氏族会議に出掛けることになった。

 やはり、豊漁時の対応は早期に解決を図ることになったようだ。


「すまんのう。あちこちから豊漁との嬉しい知らせが来ておる。トウハの島にカタマランが100隻を越えた時代なら、皆で酒を飲んで祝うところじゃ」


 そんな、前置きをして長老が話してくれたのは、やはり2割増しの漁獲だ。前と比べてカタマランを持つ漁師は20隻以上減っている。その上、ケネルさん達がナンタ氏族に行ってしまったからねぇ。

 豊漁でも、2割増しには到底届かないということらしい。


「アオイが寄付してくれたカタマランは、南の漁場の燻製船との間を往復している。十数隻が同行している以上、他の漁場に派遣することも出来んじゃろうな」

「あのカタマランを作ったとしても、保冷庫の大きさはそれほど大きくはない。この間のように魚が獲れたら積みきれんぞ」


 魔石8個のカタマランは、積み荷の少なさを速度でカバーしてるんだよな。燻製小屋を乗せた台船に大きな保冷庫があるのも役立っているはずだ。

 バレットさんが長老に続いて話してくれたのは、数隻の保冷庫に中身を一度に運ぶには不足していると会議で一致したのだろう。俺だってそう思うからね。


「あれから少し考えてはみたんですが、こんな船ならと……」

 ナツミさんに貰ったメモを広げて長老に渡すと、興味深そうに眺めている。

 トウハ氏族でもかつて使っていた動力船を使うのは、直ぐに分かったんだろう。隣の長老達メモを覗いて懐かしそうに表情を崩している。


「確かに、この船を使うならバレットが話してくれた漁果であれば数隻まとめて運べるに違いない。だが、水車ではなくスクリューを使うのだな? 外輪船よりは遥かに速度を出せるじゃろうが、カタマランには及ばんな」

「一緒に漁場に到着する必要はありません。2日程遅れるなら丁度良さそうです。漁船より先行して島に戻れば到着は同じころになると思いますが?」


「都合、2日ほど余分に漁ができるということじゃな? 外輪船なら、今でも他の氏族が使っておる。となれば、さほど値段は高くないということになる。後々、商船を手に入れてもこの船は使えそうじゃな」

 

 保冷庫の塊みたいな船だからね。商船との往復に使っても良いんじゃないかな。

 長老が、俺達の会話をジッと聞いていたバレットさん達にメモを渡すと、すぐに周囲の男達がバレットさんを取り囲むようにしてメモを覗き込んでいる。


「外輪船を丸々保冷庫にするってことか! 船尾に魔道機関を乗せてもそれほど場所は取らねえな。家形は、こっちの船に乗せるなら甲板を広く使えるぞ。荷の出し入れ用の柱も付けるってことか、これなら1家族で十分だ。荷を下ろすカタマランの連中にも手伝ってもらえるからな」


 オルバスさんの話しを、長老達が頷きながら聞いている。

 どうやら、懸案事項が解決したってことなんだろう。後は任せて失礼するか。


「長老の悩みはこれで、一段落と?」

「そういうことになるのう。アオイには色々と助けられておる。やはり聖痕は漁の腕を上げるというわけではないのじゃろうな。後はバレット達で十分じゃ、ところで次はどこに向かうのじゃ?」


「しばらく南に行ってませんから、たまには行ってみようかと。ついでに燻製船の様子を見てこようと思っています」

「アオイならば、その場で漁をしている者よりも気が付くこともあるじゃろう。商船の方はワシらで別途商会と相談中じゃ。商会の方も、他国の商会と諍いを避けるためにも有効だと言っておったぞ」


 それなら、少しは安くしてくれるかな? 長老達も微笑んでいるところをみると、流れは俺達に有利に動いているようだ。

 バレットさん達は、いまだにメモを見ながら男達と話し合っている。長老に頭を下げて小屋を出ることにした。


 トリマランに帰ると、ナツミさん達が涼しくなった甲板で涼んでいた。

 双子が見えないところをみると、すでに夢の中らしい。

 俺が帰って来るのを待っていたようで、マリンダちゃんがワインのカップを配ってくれた。


「一応、メモを渡しといたよ。後は、バレットさん達が商船と交渉するんじゃないかな? 意外だったのは、長老達は商会と商船を買うための交渉をしているらしい。商会の方も乗り気らしいよ」

「氏族間での漁獲量が平均化するでしょうからね。3王国への魚の供給が安定すると判断したということかしら」

「商船が氏族の所有になるなんて……」


 マリンダちゃんは大きな船を操ってみたいのかな?

 だけど、速度は出せないと思うんだよね。


 翌日は、双子を俺に預けて、ナツミさん達はザバンに乗って島に向かった。丁度商船がやって来たみたいだから、買い出しに出掛けたみたいだ。

 隣の甲板から様子を見ていたトリティさん達が、俺がお守りをするのを見ていられないようで、リジィさんと一緒にやって来た。

 アルティ達も懐いているからありがたい話だ。

 そんな俺のホッとした様子を見たんだろう。オルバスさんが手招きしている。


 カタマランの甲板に飛び乗って、オルバスさんの隣に腰を下ろすと、ココナッツの実を割って渡してくれた。

 ちらりと双子をみると、トリティさんがココナッツを割っている最中だった。


「子供はトリティ達に任せておくんだな。アオイだと片方を海に落としかねない。昨夜は済まなかった。早速、バレットが商船に出掛けたはずだ」

「あれを作ると?」


 俺の問いに頷きながら、パイプにタバコを詰めている。タバコ盆の熾火で火を点けると、あの後の話を聞かせてくれた。


「俺達の漁場に2日遅れなら丁度良いと皆が言っていたぞ。だが、魔道機関は魔石10個にするようだ。少し遠くまで足を延ばせれば、それに越したことは無い。運搬船で2日の距離が俺達の漁の目安になるな」

「夜も走らせられればカタマランで3日も可能でしょうね」


 さすがに夜の航行はそれほど速度を上げることはできないだろうが、外輪船の速度を遥かに上回ることは確かだからね。


「明日は俺達も猟に向かうつもりだ。北には向かったが、北東に向かったカタマランは数えるほどしかない。グリナスとラビナスが一緒だ。今日は果物を採りに行っているから、お前達の分も運んでくれるだろう」

「次は同行したいですね。俺も北東にはあまり出掛けたことがありませんから」


 3隻で向かうなら、漁場の様子も詳しく分かるに違いない。

 せっかく作る保冷船だから、魚群の濃い場所に向かわせたいものだ。


「雨期が終われば、リードル漁です。その前にニライカナイ全体の漁獲の状況を確認しなければなりませんね」

「長老も気にしていたな。前は魔石を使って不足分を補ったが、あまりその手は使いたくないとも言っていた」


 津波被害を王国側も知っているから、あまり無理なことは言わないんだろうが、それが何時までも続くとなれば問題だということなんだろう。

 サイカとナンタ氏族の漁獲高を残った3氏族がどこまで補完できるかということになる。

 その結果によっては、釣るのではなく、一網打尽にする漁も考えなければならないんだろうか?

 だけど、この海域で網を使った漁をすれば、せっかく回復基調にある資源を一気に枯渇しかねないんだよな。


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