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M-108 ハリオを突きに行こう


 グリナスさん達が大きな船団と共に帰って来たのは、俺達が氏族の島に帰った2日後の事だった。

 まだバレットさん達は帰って来ないけど、その役目はケネルさんがしっかりとこなしている。ケネルさんの友人が氏族の船団を率いて行ったらしいけど、それができる人達なんだよな。

 さすが、バレットさん達と筆頭を競っただけのことはある。


 大形の浮き桟橋に商船が接岸していたから、入り江に入ったカタマランが1隻ずつ浮き桟橋に接岸して漁果を商船に運んでいる。

 浮き桟橋を大きくしておいて良かったな。世話役も麦わら帽子を被って、若いカヌイのおばさんと共に、漁果の記帳を行っているようだ。


「浮き桟橋は便利に使えるね。できればちょっとしたテントを作っておけば良かったかな?」

「風で飛ばされかねないわ。記帳なら商船の中でやっても良いんじゃないかな。だけど、石の桟橋を再建するんだから、先端部は大きく作ったほうが良いかもしれないわね」


 その桟橋はどうにか半分ほどまで伸びたようだ。商船が今回運んできた板材やコンクリートモドキが、船外機の付いた台船で浜に運ばれている。石の桟橋以外の木製桟橋の足場が広くなれば良いんだけどね。

 そういえば、いつの間にか船外機の付いた台船が2隻になっている。

 便利に使えることが分かったから、新たに作ったのかもしれないな。


 トリマランに並んで、グリナスさんとラビナスのカタマランが停泊する。

 入り江に入ってからかなり時間が掛かったのは、漁果を商船に運んだり、カタマランを失った家族を台船で浜に送ったりしていたからだろう。

 中型のカタマランを持っている者は2家族を受け入れたらしいから、さぞや賑やかな航海だったに違いない。


「ご苦労様。それで?」

 トリマランにやって来たグリナスさん夫婦やラビナス夫婦で一気ににぎやかになってきた。グリナスさんが抱えてきた子供をカリンさんが受け取ると、トリティさんの手招きで家形の中に入って行く。

 たちまち、にゃあ、にゃあと賑やかな声が甲板に聞こえてきた。家形の中なら子供達も安心できるから、久しぶりの女子会を楽しんでいるんだろう。


「いつも賑やかだな。まあ、嫁さん達はあれで良いのかもしれないけどね。漁は、まずまずってところだ。かなり漁場が壊れてるが、形は残っている。夜の根魚釣りも、昔と変わらないように思えたよ」

「ブラドも数が揃いました。初めてフルンネを突きましたよ。これぐらいの形でしたが、もう少し銛を大きくしといた方が良さそうです」


 グリナスさんもラビナスも嬉しそうに話してくれる。やはりネコ族は漁をしてのネコ族なんだろうな。

 ココナッツを割って蒸留酒を混ぜると、ココナッツのカップに注いでとりあえずは乾杯だ。

 そんな俺達のところにマリンダちゃんがやってきて、急いでココナッツを割るように頼まれた。

 あれだけ話し込んでるんだから、口が乾いたということなんだろうな。グリナスさんが割ったココナッツのジュースをポットに入れて持って行った。


「明日は、ココナッツを集めて来るか? 背負いカゴに2つもあれば十分だろう」

「そうですね。まだ少し残ってますけど、次の漁もありますからね」


 ラビナスがグリナスさんの言葉に賛成している。一応、義理の兄になるんだろうな。漁の腕はいまいちという評価だけど、人間的には良くできた人物だ。

 俺だって、グリナスさんの言葉には一目置く時があるからね。

 そんな俺達を統率するのがネイザンさんなんだが、ケネルさんが指導しているようだ。

 バレットさん達がいない間は、俺がやってやるという考えなんだろう。

 あの3人組の信頼関係が良く分かるな。


「南も有望なんだな。だが延縄と銛は相手が大型だ。それを用意しておかないといけないのは問題だぞ」

 

 俺の話を聞いたグリナスさんが、ラビナスに同意を求めている。

 2人とも大型を想定した漁具を持っていないということなんだろう。


「銛は頑丈な物なら何とかなんるでしょう。先端が外れる銛なら4YM(1.2m)でも突けますよ。延縄はこれが基本です」


 家形の屋根裏からカゴを取り出して、2人に仕掛けを作る上で考慮しないといけない部分を説明する。

 2人とも、頷いてくれたから理解できたんだろうか? 引き上げには必ずグンテをするように付け加えたんだけどな。


「銛はハリオを突いた銛があるから、延縄だけ作ればいい。ラビナスはどうなんだ?」

「一応作っておきます。それにしても大仕掛けですね。それに仕掛けが長くありませんか?」

「5割増しだ。枝針の数も15本。ハリスの長さを長短にしているからね。どうも、グルリンとシーブルは棚が違うみたいなんだ。これで両方を狙えるぞ」


 微妙な違いに気が付くのはラビナスの方なんだよな。

 だけど、グリナスさんがいる前で、そんな質問をするから、グリナスさんもザルからハリスを引き出して調べているようだ。

 兄を助ける弟という感じだな。これもカリンさんを嫁にした効果ということなんだろうか?


「商船が来てるなら、道具を買い込んでおくか。まだ南には行けないだろうけど、父さん達が帰ったなら、誘われることもあるだろうし」

「そうですね。延縄は必要でしょう。俺も準備しときます」


 大型を突ける銛を持っていないのは、ラビナスが婚礼の旅をしていなかったせいなんだろう。いろんな出来事がたて続けに起こっているから、昔からのしきたりも省略されてしまったに違いない。

 だけど、そうなるとラビナスの持つ銛が中型までになってしまいそうだし、ハリオの突き方を学ぶチャンスも無くなってしまう。

 一度連れて行ってやるか。 それも、義理の兄の勤めになりそうだ。


 ナツミさんに商船に出掛けると言ったら、リストを渡されてしまった。明日にでも出かけるつもりだったんだろうか?

 背負いカゴを持つと、3人でザバンを漕いで沖の浮き桟橋に向かう。

 グリナスさん達は延縄仕掛けの道具を吟味しているようだ。その間に、リストを持って店内を回り、商品をカゴに入れていく。最後に店員にカゴの中身を清算してもらう。


「職人さんはいるんでしょうか?」

「銛の制作ですね。一般的な銛は棚に並んでますが、それ以外の銛も注文に応じられます。ちょっとお待ちください」


 ドワーフの職人さんは、顔中髭で覆われてるから、誰も同じに見えるんだよな。顎鬚を三つ編みにした先端のリボンで見分けるらしいのだが、俺にはいまだにできないんだよね。


「何じゃ、前に会ったことがあるのう。それで?」

 やって来たドワーフは一度顔を合わせたことがあるらしい。何を頼んだかが思い出せないけど、丸棒と銛先のスケッチを見せて、作ってもらうことにした。


「まったく、前は船外機というおもしろい代物を注文したが、これもおもしろいのう。銛が外れるということは、ワシには無駄にも思えるが漁をする連中には、それが大きな意味を持つのじゃろう。銀貨1枚で十分じゃ。明日の昼前に取に来い」


 これで、ラビナスにハリオ突きをさせられる。

 お願いしますと、礼を言ってグリナスさん達とトリマランに戻ることにした。


 翌日。炭焼きの老人達のところに出掛けて、銛の柄にできそうな棒を強請ると、「これが良いじゃろう」と言って3m近い棒を持って来てくれた。

 何を突く銛か分かるんだろうか? 少し長いが、かなり真っ直ぐな代物だ。これなら十分に銛の柄にすることができるぞ。


 商船によって銛先と丸棒を受け取り、トリマランに戻る前に浜の焚き火で棒を真っ直ぐに調整する。

 真っ直ぐに見えても、微妙な曲がりがあるからね。これを補正しないと銛が真直ぐに突き出せない。

 小型を相手にするなら竹でも良いんだが、大型ともなれば木の棒が一番だ。


 パイプを咥えて、のんびりそんな仕事をしていると、マリンダちゃんが迎えに来てくれた。ふと入り江を見ると夕日に染まっている。

 半日以上、この作業をしてたのか? 思わず時間を忘れていたことに気が付いた。


 トリマランに戻ると、すでに夕食ができている。

 3家族が一緒だから賑やかな夕食だ。おかずの唐揚げはラビナスが釣ったのかな?


「夕食には帰って来るにゃ。だいぶ熱心に柄を作っていたにゃ」

 

 トリティさんの小言は、俺を非難する者では無さそうだ。どちらかというと、グリナスさんを間接的に避難しているようにも思える。話の最後はグリナスさんに顔を向けてたからね。


「柄を作っていただと? アオイは更に銛の数を増やすのか?」


 興味を持ったんだろう。グリナスさんが質問してきた。

 トリティさんの話しは、グリナスさんに伝わらなかったようだな。がっかりした表情でトリティさんが首を振っている。


「あれは、ラビナスに渡す銛ですよ。自分の銛なら、その銛の癖を知ってますから、たまに炙って補正すればいいんですが、人に渡すとなれば真っ直ぐな方がいいですからね。相手がハリオとなれば、ブラドよりも離れた位置で銛を撃つことになります」


 今度は、ラビナスが驚いている。半日以上掛けて作っていた物が、自分に渡される銛の柄だとは思わなかったんだろうな。


「あんなに入念に作るんですか?」

「ハリオはブラドとは違うぞ。グリナスさん達は婚礼の航海で突いてきたけど、ラビナスは行ってなかったろう? 実は俺達も行ってない。ラビナスを連れて思う存分、ハリオを突こうと思ってるんだ」


 目を輝かせたのはラビナスだけじゃなかった。嫁さんのレーデルも一緒になって目を輝かせている。そんな妹に姉さんのカリンさんが「良かったにゃ」と言っているから、やはり婚礼の航海に行けなかったのが負い目になっていたのかもしれない。


「俺の仲間も行ってないんです。彼らを誘っても良いでしょうか?」


 ラビナスがおずおずと聞いてきたが、考えてみると他にも行ってない連中がいるんだろうな。この際だから全員連れて行ってやるか。

 ナツミさんに視線を移すと、嬉しそうな顔をしてマリンダちゃんと話をしてるから、頭の中ではすでに婚礼の航海に出掛けてるんだろうな。


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