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M-103 漁を始めよう


「近場の漁場を探ると?」

「最初から遠方は無理でしょう。だいぶ落ち着いたとはいえ、流木もあるようです。氏族の島から1日以内で漁を始め、漁場が以前のままに魚が戻っていることを確認することが大事でしょう」


 オルバスさんが一回り回ってくれたんだけど、漁場によってはサンゴが崩れて見る影もないと言っていた。

 となれば、前と同じように根魚を釣ることもできないだろう。


「行くとなれば、東と北になるか……。北の方が荒れが少ないということだから、北に向かう船が多そうだ」

「東に向かう者はおらんのか?」

 ケネルさんの呟きに、長老が珍しく大声を出して小屋に集まった連中を眺めている。


「ほう、アオイも北を目指すか?」

 おもしろそうな表情で長老に1人が俺に言葉を掛けてきた。

「俺は、南に向かおうと思っています。南の漁場はかなり荒れているということですが、サンゴの崖の状態いかんではロデニル漁の新たな場所探しをしなければなりませんし、神亀に手伝っていただいた水路も気になるところです」


「漁は二の次になりそうじゃな。しかも時間も掛かりそうじゃ」

「とりあえず水路は見てくるつもりです。帰りに漁をすれば少しは漁果を得られるでしょう」


「アオイを南に行かせて、俺が北を目指したならバレット達に何を言われるかわかったもんじゃねぇ。俺が東に行こう。もう1隻連れて行くが、東はそれで十分だ」


 ケネルさんが、長老に文句を言うように、声を上げた。一緒に行くのは、ネイザンさん辺りになりそうだな。

 西は、俺達は漁をすることが無いから、これで今まで通りに漁果を得ることができるかどうかが分かるだろう。

 満足そうな表情で長老もパイプを咥えている。


「出来ればアオイに同行できる動力船があれば良いのじゃが、そうもいくまい。南の漁場が使えるなら、漁獲高を何とかできそうじゃな」

 

 大陸の王国からの干渉となる原因は作りたくないということだろう。

 とはいえ、2割増しは一方的だったからね。

 だが、それを了承した以上、約束は守らねばならない。 

 魔石も漁で得たものであるということで、漁獲の不足分を魔石で補ったんだが、以前の魔石の取引高は無視したようだ。

 それに同意しなければ、魔石を得られないと判断したのだろう。大陸の沿岸にはいくつもの王国があるようだ。


「大陸との付き合いは難しいのう。間に商会ギルドを挟むことで、カイト様が今の関係を築いてくれたが、王国としては御し難い連中ぐらいに思っているのじゃろう」

「それでいいんじゃないですか? 友人にはなれないでしょう。千の島に入って来られても困りますからね」


「なるほど、付き合いにくければ互いに疎遠となるのは道理じゃな。となると、商会ギルドは仕方なく間を取り持ってくれるということになるのう」

「本来なら俺達がやらねばならないことを、かなり商会ギルドが代替してくれているようです。海人さんの狙いは今のところ上手く行っていますね。これだけの被害を受けてもリーデン・マイネの出動で納まるなら、今後も安心できるでしょう」


 海人さんの行動は、ネコ族の将来をきちんと考えている。

 問題があるとすれば、ネコ族の総人口が少ないことと、ギルドに頼りすぎているところもあるのだが、ギルドは世襲制ではなく能力主義だ。

 付き合うなら、ギルドと海人さんは考えたんだろうな。


 氏族会議が終わって、ザバンで帰ろうとしていると俺の肩がポンと叩かれた。

 振り返ると、ケネルさんが立っていた。


「まあ、ちょっと付き合え。あそこだ」

 ケネルさんが腕を伸ばした先には、焚き火を囲む数人の男がいた。

 オルバスさん達の友人の1人だからね。筆頭は運が悪くて逃がしたというぐらいだ。トウハ氏族の漁師の内でも上位にいることは間違いない。


 黙って付いて行くと、焚き火を囲む男達の輪に加わった。

 初めて見る連中だ。一緒に漁をしたこともあるんだろうけど、俺が覚えていないだけなのかもしれない。


「連れてきたぞ。まったくカイト様の再来とも言っていいだろうな。だが、銛の腕はまだまだだ」

「アオイです。オルバスさんの指導を受けて漁をしております」


 ケネルさんの紹介が紹介だったから、まだ若輩ということを暗に匂わせた自己紹介をすると、輪の男達が笑い声を上げている。


「ケネルがそんなことを言うからだ。銛の腕はバレットを越えるだろうよ。なにせ、あのガルナックを突いたんだからな」

「違えねぇ。とっくにケネルや俺達を越えてるぞ」


 そんなことを言いながら、俺に酒のカップを手渡してくれた。

 とりあえず一口飲んで、パイプを取り出して火を点けたけど、この集まりは何なんだろう?


「アオイは1隻で南に行くそうだ。俺はネイザンを連れて東に向かうつもりだが、誰か一緒に付き合わないか?」

「お前だけに任せられんだろう。俺が行くぞ!」

「待て待て、そんなおもしろいことを、ケネルにだけ持って行かれるのも問題だ。ケネルは船団を率いて北に向かえ。俺達が東に行く」


 どうやら、ケネルさんの友人らしい。

 オルバスさん達も色々と競い合っているけど、ケネルさん達も競い合う仲間がいるってことだな。

 

「まあ、長老にはもう1隻と言っていたから、行くのは俺ともう1隻だ。後に残ったとしても北への船団を率いるから楽ではないぞ。それより、アオイを連れてきた。確か要望があると聞いたんだが?」

「俺が頼んだのをよく覚えてたな。実は……」


 男が話してくれたことを要約すると、母船と小型の漁船という考え方になるのだろう。南の燻製船をより大型にすると、そんなことになるんだろうか。

 だが、考え方は悪くないと思うな。漁場を次々に回りながら漁が続けられる。だけどその母船は、かなり大きくなってしまうだろう。集まる魚も大量だから、氏族の島への輸送船も別に考えないといけないだろうな。

 さらには、漁船への補給物資の輸送も問題が出てくる。


「燻製船と輸送船の考え方を発展させると、今の話になりますね。確かに似た漁業についての知識はあるんですが、その前提になるのは母船の位置をどのように把握するかということです」

「移動する母船の位置が分からねば補給船が辿り着けないってことになるのか……。確かに問題だな。補給が続かねば漁を続けることもできんぞ」


 俺をこの場に呼んだのは、それが理由だったのか。想像力があるネコ族の人もいるんだな。だけど、そんな発想が生まれるんだから大型の燻製船を作ったのは間違いでは無さそうだ。

 待てよ。サイカ氏族や、ナンタ氏族の島にもそのような船団が魚を下ろせれば、それなりの利益をその氏族の島に還元することもできるだろう。

 他の氏族の領域で漁ができるならそれぐらいの還元は可能にも思える。場合によってはトウハ氏族の1割上納ではなく、2割の上納でも良いんじゃないかな。


「前の世界にも似たようなことをやっていた人達がいます。その辺りを纏めて氏族会議に掛けるのは問題がないでしょう。ですが、これを行うのはかなりの資金が必要になりますし、他の氏族の協力も必要ですよ」


 俺の話を聞いて、先ほど説明してくれた男が嬉しそうに頷いてくれた。

 アイデアを出せても、それをどのように形にするかを知らなかったんだろうな。そもそも燻製船の考え方は、母船を使った漁そのものを簡易化したものだからね。

 氏族の人達にも理解しやすいだろうな。

 

 カップの酒を飲み終えたところで、トリマランに帰ることにした。明日は漁の準備をしなければならない。

 明後日には南に向かって出発だ。


 だいぶ遅くなってしまったけど、ナツミさんが俺を待っていてくれた。

 マリンダちゃん達は、双子を寝かしつけながら一緒に眠ってしまったらしい。

 2人で船尾のベンチに腰を下ろしてワインを飲む。

 氏族会議での漁の行先と、先ほどの母船を利用した漁についての話をすると、ナツミさんに笑みが浮かぶ。


「分かる人もいたということなんでしょうね。それがアオイ君以外から出されたというのも長老が喜びそうだけど、システム全体は私達で考えてあげないと難しそうよ」

「現状での問題は2つ。それとおもしろそうなアイデアが1つだ。何と言っても母船の大きさが問題になると思う。小さな商船ほどは必要じゃないかな?

 それと補給船を兼ねた運搬船と母船との会合方法を考えなくちゃならない。でないと母船を探すのに時間が掛かってしまう。

 最後に、他の氏族の領海での漁ができると、その漁果を該当する氏族の島に届けることもできるんじゃないかな? さすがに1割上納よりは高くなると思うけどね」


 俺の話をワインの入ったカップに口も付けずに聞き入っている。ナツミさんの脳裏では凄い速さで、母船を使った漁業システムが構築されているに違いない。

 今は話しかけない方が良いかな?

 カマド近くに置いてあるタバコ盆を取ってきてパイプに火を点けると、ワインをゆっくりと飲むことにした。

 

「商船が必要ね。しかも積み下ろしに桟橋を使えないから、かなり改造しなければならないわ。商船がやってきたら、一度ドワーフのおじさんに相談してからということになるわ」


 突然、ナツミさんが俺に顔を向けて話し出した。

 今までずっと考えていたんだろうけど、どれぐらい深く全体のシステムを考えていたんだろう?


「商船だけじゃないと思うんだけどね。でも、最初は商船ってことになるのかな?」

「商船の次は、輸送船だけど、それは余り問題にならないと思うの。トリマランで魔道機関を3基搭載すればかなり速度も上げられるし、積み荷の量もかなりのものよ」


 このトリマランとは、また違った構造になるんだろう。保冷庫をかなり大型化しなければならないし、その積み下ろしの場所も考えないといけないだろうな。

 だけど、かなり長時間考えていたようだから、その辺りの事もすでに考えたということなんだろうか?

 子守をしながら、概念図を描く日々が続きそうだけど、ナツミさんにしかできないことだから、俺は明後日からの漁に専念していれば良いだろう。

 さて、夜も更けてきたからそろそろ家形に入るとするか……。


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