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M-099 無事な仲間を探さねば


 トリマランで子供達を預かり、ナツミさんとマリンダちゃん、それにラビナスの嫁さんであるレーデルちゃんが世話をしている。トリティさんはちょっと不安そうな表情をしてたから、もう1人ぐらい増えるかもしれないな。

 子供達を一カ所に集めているから、俺達は安心して入り江内に浮かんでいる邪魔者を撤去し始めた。

 砂浜の方はティーアさん達が輪会嫁さん達と一緒に掃除をするようだ。


「簡単に思っていたけど、量が多くないか?」

「まだ始めたばかりですよ」


 ザバンを2艘並べて前後を丸太で繋いだカタマランは、丸太の上に竹を渡した簡単な荷台を作ってある。

 初めて30分もしない内に、たちまち荷台が山のように浮遊物が積まれた。

 砂浜に下ろせば、この天気だから直ぐに乾いてしまうだろう。今夜は盛大に焚き火を作れそうだ。


 俺とグリナスさん、それにラビナスの3人でチームを組んでいるのだが、すぐにグリナスさんが嘆いている。

 まだまだ先が長いんだから、今から嘆いていても始まらないんだよな。

 とりあえず、2回目のゴミを浜に運ぶことにした。

 途中、大きなココナッツの木を運んでいるネイザンさんと合流する。向こうも大変みたいだな。3艘のザバンでココナツの木を曳いている。


 何度か入り江と砂浜を往復したところで、カリンさんが昼食を知らせてくれた。

 お腹がぺこぺこになってるけど、お代わり禁止らしい。

 リゾットに燻製の魚が炙られて乗っていた。料理は美味しいんだけどね。量が少ないんだよな。


 食事を終えると、お茶を飲みながらパイプを使う。

 北の浜ではバレットさん達が石の桟橋の補修を続けているようだ。


「バレットさん達も苦労してるな」

 グリナスさんが北に顔を向けながら呟く。

「こっちも大変だけどなぁ。オルバスさん達はもっと大変じゃないか?」

 ネイザンさんの言葉に、俺も頷いた。朝早くに、近くの漁場を目指して出掛けたんだが、あちこちに津波で押し流された木や葉が浮かんでいる。

 上手く回避しながら進むことになるんだろうから、果たして夕暮れまでに帰って来られるだろうか?

 下手操船だと遭難しそうだ。一応2隻で出掛けたらしいんだけどね。

 トリティさんも同行するのかと思ったら、ケネルさんの嫁さんで十分ということだった。


「ゆっくり進むならそれほど危険はないにゃ。なら、ケネルの嫁さんで十分にゃ」

「時間が掛かるんじゃないですか?」

「ゆっくり行くとオルバスが言ってたにゃ。私が操船しなくてもだいじょうぶにゃ」


 そんな会話をトリティさんと今朝方交わしたんだよね。

 速度が出せないなら、行かないってことかな? 結構わがままなところもあるから、オルバスさんも苦労してるんじゃないかな。


 そんな話をしながら午後も入り江の掃除を続ける。

 これで3日で終わるんだろうか? 

 日が傾いたところで今日の仕事を終わりにして、高く積まれた木切れや木の枝を眺めながら夕食を待つ。

 

「ちゃんと燃えるのかな?」

「明日にはカラカラに乾くんじゃないか? 丁度乾期なのも都合がいい」

 

 ラビナスの独り言に、ネイザンさんが答えてるけど、俺も疑問に思っている1人なんだよな。

 太い木は桟橋用にネイザンさん達が砂浜の一角に積み上げているが、20本を超えていそうだ。

 案外、桟橋作りは容易かもしれないぞ。


 夕食を入れた鍋を持って、トリマランに向かう。

 すでに、カリンさん達が先にやってきて子供達を引き取って行ったから、船には七海さんと双子の3人だけだった。

 炭を熾してマリンダちゃんが鍋を温める。

 魚の肉団子と米粉の団子スープだから、やはり温かい方が食欲も増すからね。


「大変だったでしょう?」

 ナツミさんが錫のカップにワインを入れて俺達に渡してくれた。


「かなり面倒なことは間違いないけど、少しずつ入り江は綺麗になってるはずだ」

「砂浜を往復してゴミを集めたにゃ。しばらくは焚き木に困らないと母さんが言ってたにゃ」


 物事全て前向きに考えるお人だからねぇ。

 思わず、ナツミさんといっしょに苦笑いを浮かべてしまう。


 ワインを頂いたところで、俺達の夕食が始まる。浜で食事をしている人達も大勢いるようだ。

 暗くなると浜で焚き火がいくつも焚かれる。まだ島に帰って来ない氏族の者達だっているようだからね。

 浜の焚き火を見れば、帰って来たんだと喜びが沸いてくるだろう。


「ちょっと竿を出してみるか」

 屋根裏からおかず用の釣竿を取り出すと、船尾で竿を出す。

 相変わらず、全く当たりが無い。

 やはり魚の群れは危険を察知して遥か北に向かってしまったのだろうか……。


「それほど心配は無いと思うわよ。まだ海が安定してないのよ。魚は音や水質に敏感だからね」

「すでに火山活動は終わってると思うんだけど?」

「急には収まらないわよ。ゆっくりと沈静化していくんでしょうけど、地球にとってのゆっくりは、私達のゆっくりとかなり異なるんじゃないかしら」


 人類は100万年ほどの歴史だけど、地球は45億年というやつか?

 となると、魚が戻るにしても早くて10日以上かかりそうだな。1カ月過ぎてどの程度回復するかが問題だろう。

 オルバスさん達の漁場の調査は、あまり期待できそうもなさそうだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 入り江に浮かぶ津波が運んできた残骸を3日間掃除したけど、まだまだ小さいのが浮かんでいる。

 さらに入り江の掃除を2日間追加することになった。

 2日後にはどうにか見られるほどにはなったけど、渚にはまだまだ残骸が打寄せられている。

 夕暮れにはまだ間がある時間だけど、一仕事を終えたという充実感に浸りながら、俺達が入り江を眺めていると3隻のカタマランが入り江に入って来た。

 よく見ると、1隻のカタマランはロープに曳かれているようだ。家形もかなり損傷を受けているのが浜からでも見えるから、津波で転覆したのかもしれないな。


「だいぶやられてるな。だけど上手く見つけて貰えたようだ」

「今回よりも一回り遠くを一度見た方が良いのかもしれませんね」


 オルバスさん達が帰って来たとなれば、今夜は氏族会議が開かれそうだ。次のフェーズを皆で考えねばなるまい。


 トリマランでいつものように夕食を食べていると、オルバスさんがやって来た。

 やはり氏族会議が行われるらしい。


「あれから7日目だ。状況の確認をせねばなるまい。今後の事もある。アオイも来てくれよ」

「了解です。ちょっと遅れますけど、ちゃんと出席します」


 オルバスさんがザバンの上から俺に頷くと、そのまま浜に向かって行く。

 とりあえず夕食を終えると、お茶を飲みながらナツミさんと次の作業について話し合った。

 やはり、船を動かせずにいるトウハ氏族の人達を探すことが急務というところは一致したけど、ナツミさんはオウミ氏族と連絡を取ることを勧めてくれた。


「向こうも大変でしょうけど、ナンタ氏族とサイカ氏族の状況はオウミ氏族で分かるかもしれないわ。ギルドの支店があるぐらいだから」

「ギルドの調査網で広い範囲の状況を教えってもらうってこと? そうなると、ギルドよりも大陸の王国の方が気になるけど」


 これ幸いに、ニライカナイを版図にしようと考える王国が出てこないとも限らない。

 それもオウミ氏族と連絡をすることで少しは見えて来るかな。


 ザバンに乗って、島に渡ると砂浜にザバンを引き上げておく。それほど干満の差がないとはいえ、ながされてしまったら面倒だ。

 氏族会議の小屋に向かうと騒がしい話声が外まで聞こえてくる。

 建設的な議論であることを期待して中に入り、一礼をすると皆が俺に顔を向けた。


「やって来たのう。そこに座ってくれ。アオイが来たところで再度先ほどまでの話を確認しようぞ。騒いでいるうちに本筋から離れてしまっては問題じゃ」


 どうやら、最初の3つの計画について状況を確認していたようだ。最後にオルバスさんが漁場の状況を伝えたことで、小屋の外にまで聞こえるような騒ぎになったらしい。

 ある意味、想定内というところだから今の状況では問題はない。


「まあ、そんな状況じゃ。何とかなったのはネイザン達若者に任せた入り江の掃除じゃな。石の桟橋の進捗は2割にも見たないし、オルバスは漁場が荒れているどころか、魚がいないと報告してくれた」

「当初の予定通りと想定の範囲ということですね。バレットさんの石積みの桟橋は石を固定する材料が足りないということでしょう。商船の接岸ができるようなものを別途作ることになります。材料入手までは石の桟橋は諦めなければなりませんね」


 それに代わる案として、浮き桟橋を提案する。

 カゴを編んで大きなイカダを組み上げ、上面に丸太を並べれば、立派な浮き桟橋になる。一旦荷物を浮き桟橋に下ろせれば、島への移送をザバンを連結した台船で行えば良い。それなら10日も掛からないだろう。


「幸いなことに、入り江の掃除があらかた終わりましたから、ネイザンさん達に作ってもらえば良いでしょう。問題はオルバスさんの調査です。魚は音や水質の変化に敏感ですから一時的に海域から離れているのだと推測します。一か月経過しても魚が寄り付かなければ問題ですが、神亀や龍神の兆しもありませんから、現状では気にせずにいた方がよろしいかと……」


 それよりは、難破したカタマランをオルバスさんが見つけた方が問題だと説明する。カタマランが破損して島に戻れない連中がいるのかもしれない。


「不安に過ごしている氏族の者がいないとも限りません。一度、津波の時にどの海域に誰が漁に行ったか、その船は戻っているかを調査する必要があります。それが終わってから、オルバスさん達には再度、少し遠くまで漁場を一巡りして頂きたいと思っています」


 氏族の男達、長老までもが俺の話を聞き漏らすまいと、ジッと耳を傾けてくれる。

 ここまでが、今までの対応と基本的には同じ対応となる。


「最後に、バレットさんにお願いがあります。オウミ氏族の島に行って、ナンタ氏族とサイカ氏族、それに大陸の王国の様子を聞いてきていただきたい。できれば、ギルドの連中の今後の対応も聞いてもらえると助かります」


「向こうも大変だろうな。確かに、現状でオウミ氏族の島に行けるのはそれほどいねぇだろう。3隻で出掛けるぞ。商船が来てるなら食料も買い込んでくる」


 バレットさんが胸を叩いて頷いている。自分にふさわしい仕事だと思ってくれたのかな?

 20日ぐらいは掛かるんだろうか?

 途中の海の様子次第だけど、なるべく早くに戻ってきて欲しいな。


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