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M-098 何から始める?


 夕暮れ前に戻って来たマリンダちゃんが、トリマランの食料をザバンに積み込んで再び浜に向かった。

 やはり食料が足りないってことなんだろうな。3人で10日分はあるはずなんだが、氏族全体で見れば2食分にも満たないんじゃないか?


「動力船ごとに集めれば、それなりの量になるわ。ついでに一夜干しも持って行ってもらったわよ」

「困ったときは、お互いさまってことだね。そうなると、食事は浜で一緒ということになりそうだ。ナツミさんの分は運んでくるよ」


 せめて赤ちゃんが3か月を過ぎてればねぇ。まだ首もうまく座っていないから、あまり長く抱っこして動くのは問題がありそうだ。

 夕暮れ近くになって迎えに来たマリンダちゃんと一緒に、コッヘルを持って浜に向かった。

 トルティさんにナツミさんの分を分けて貰って、すぐにトリマランに取って返す。

 俺達が食事を取るのはその後で十分だ。


 リゾットのような夕食を食べながらお茶を飲む。水源に問題が無かったのが幸いだ。

 一服を始めようとしたところで、オルバスさんが俺の肩を叩いた。


「済まんが氏族会議に同席してくれ。アオイの意見なら長老も重く受け取るはずだ」

「若輩もいいところですよ?」

「族長会議の実績もあるし、前もって食料備蓄を提言もしている。それにアオイは聖痕の保持者だからな」


 俺を保険代わりに使いたいのかな?

 それで、喧騒が納まるなら、それはそれで良いのかもしれないな。

 マリンダちゃんに、先に戻るように伝えたところで、オルバスさんの後について林の奥に新たに作られた小屋に入る。


 前のログハウスより小さくなったのは仕方のないことなんだろう。

奥に座った長老はベンチに腰を下ろしているし、オルバスさん達は丸太を横にして椅子代わりにしている。

 真ん中の炉は、前と同じだ。その横手にある小さなベンチに座らせられたところで、長老が口を開いた。


「アオイが無事で良かったぞ。だいぶ仲間が亡くなったが、最初の荼毘は終えておる。とはいえ、さらに何人かは亡くなってしまうじゃろうな」

「それでも、我等はここで暮らせばならん。龍神が我等にお下げくださった島じゃ。その御利益があったからこそ死者をあまり出さずに済んでおる」


 長老が、津波を受けてから4日目の状況を皆に教えてくれた。オルバスさんやバレットさんが集めた情報を整理して皆に説明してくれたに違いない。

 海辺のログハウスは流されてしまったけど、少し奥に入った場所に立てたログハウスは流されなかったようだ。1mほどの高さの違いなんだが、水の力は恐ろしいものだな。


「まぁ、そんな状況ではある。まだ氏族の島に帰らぬ者達もいるじゃろう。無事であれば良いのだが……」

 長老の1人もなくなっているからなあ。いつもの元気な老人という感じはどこにもない。


「どうにか雨を防ぐ小屋を建てた。後はゆっくりと建てれば良いのだろうが、桟橋が全て破壊されているぞ」

「ワシらで再建するとしても、何を優先すべきかも分からぬ状況じゃ。ネコ族の唯一の欠点じゃろうな。だが、アオイが帰ってきてくれた」


 俺に視線向けた長老は、初めて笑顔を見せたぞ。

 まさか、俺に仕切れというわけじゃないよな?


「そういえば、火山の噴火をアオイは予想していたな。備蓄した食料の半分が流されてしまったが、それでも半分残っている。無事だったカタマランも5日以上の食料を持っていたから、半月は今まで通りに食べて行けるだろう」

「南の漁場から早めに引き揚げたおかげで、中堅の多くが助かったようなものだ」


 オルバスさんとバレットさんも、俺の提言のおかげだと思ってるようだ。


「アオイよ。バレットは漁師の筆頭じゃが、復興にはあまり役に立たんじゃろう。アオイが復興を考えてくれぬか。アオイの指示でバレット達は動くじゃろう。もし上手く行かずともワシらは誰もアオイを恨まんぞ」

 

 長老の言葉に土間に座った連中が頷いている。ひょっとして、俺が帰ってくる前に全て調整が取れてたんじゃないのか?

 絶対に、欠席裁判に違いないぞ。

 だけど……。世話になった恩を返すチャンスかもしれないな。途方に暮れてた俺達2人を氏族に迎えてくれ、一人前の漁師に育ててくれた恩は軽くはない。


「最初だけですよ。上手く作業が進んできたら長老に引き渡しますからね」

「それでよい。復興の順序だてをどうするかが我等には思いも付かんからのう」


「それでは、3つ同時に進めましょう。入り江の桟橋は急務です。先ずは石の桟橋を復旧して、次に少し長めの桟橋を作ります。カタマランの荷下ろしは格段に良くなるはずです。3つ目の桟橋は、雨期に少しずつ作れば良いでしょう」


「それは俺が責任を持とう。後の2つは?」

 バレットさんがパイプを取り出しながら大声を上げた。


「2つ目は、入り江に浮かんだ流木の回収です。一所に積み上げておけば家の材料、桟橋の材料と使い道はあるでしょう」

「若い連中でもできそうだな。ネイザンに任せるか?」


 バレットさんの言葉に周囲の男達が頷いている。確かにそれほど面倒ではないんだけど、結構重労働ではあるぞ。


「最後は、漁場の確認です。少なくともサンゴの崖と島から1日程度の漁場については調査する必要がありそうです。津波が去った後で、おかず用の竿を出したのですが、全く釣れません」


 今度は小屋の男達が一斉に俺に顔を向けた。オルバスさんでさえ、口を開けて呆然とした表情を俺に見せている。


「昨夜は?」

「やはり釣れませんでした。魚がいまだに怯えているだけなら、いずれ前と同じように釣れるでしょうけど、いなくなったとなれば問題どころではありません」


「俺とヤグルで確認する。周辺をくまなく調べるつもりだ」

「そうなるな。でないと、別な島を探さねばならん。カイト様が龍神から受け取った島だ。単に怯えているだけなんだろうが、しっかりと調べてくれ」


 これは大変なことになったと、男達が隣と話を始めたから、途端に小屋の中が騒がしくなってきた。


「さすがじゃのう。だが、それだけなのか?」

「先ずは氏族を優先しましょう。自分の船と隣の船が同時に燃えた時に最初に消すのは自分の船です」


 申し訳ないが他の氏族への協力は、少し後になってしまいそうだ。

 先ずは自分達の生活基盤に目途を立てたところで、他の氏族の状況を確認することになる。千の島の海域に流木が流れている以上、他の氏族の島に無事に行くこと自体難しいことになってしまうのも一因ではあるのだが。


「それでは、アオイの案で行くぞ。アオイには悪いが、ネイザンの手伝いとその後の事も考えてくれ。桟橋は時間が掛かりそうだが、オルバスとネイザン達の仕事はそれほど時間が掛からんはずだ」


 バレットさんの言葉に、長老が頷いているから小屋の男達も話を中断して頷いている。これから誰をどこに配属させるかを決めるんだろうが、俺はネイザンさんと一緒だから一足先に帰るとするか。

 長老に断って、腰を上げると浜に向かった。

 誰かいればザバンに乗せてくれるだろう。


「アオイ、こっちだ!」

 グリナスさんが俺に手を振っている。月は出てるけど、よくも俺に気が付いたものだ。やはりネコ族だけあって夜間視力が高いんだろうか?


「だいぶ早かったな?」

「オルバスさん達は、まだ話し合ってますよ。俺達若手の仕事が決まったんで、抜け出してきたんです」


 概略の話をすると、グリナスさんは俺を急いでザバンに乗せた。

 沖に漕ぎ出したんだけど、ザバンの進む方向が俺達の船とは違ってるぞ?

 入り江を北に進み、3隻ほど固まって泊めてあったカタマランに近づいた。


「ネイザンさんはいるか!」

 大声でグリナスさんが呼び掛けると、ネイザンさんが家形から顔を出した。


「グリナスじゃないか! どうした?」

「俺達の仕事が決まったらしい。できれば一緒に来て欲しいんだ」

「何だと!」


 グリナスさんが驚いて俺達に顔を向けた。どうやら俺に気が付いたようだ。頷くと、隣のカタマランに声を掛けている。どうやら友人達と一所に船を停めていたようだ。


「アオイが帰ったのか。直ぐに行くからな」

 ザバンを用意しているところを見ると、友人達を乗せて来るのかもしれないな。

 その後にラビナスの船やグリナスさんの友人の船にもよって集まるように連絡している。

 かなりの人数が集まるんじゃないか? 俺達の船に向かってザバンを漕ぐグリナスさんを見ながらちょっと考えてしまった。


 トリマランに戻ると、とりあえずココナッツを割って蒸留酒を混ぜた酒を造っておく。10人近く来るんじゃないかな? ココナッツのカップはそれぐらいカゴに入っているから、足り開ければグリナスさんのところから借りてこよう。


「入り江のお掃除ってこと?」

 俺の説明を聞いたナツミさんが、マリンダちゃんと顔を見合わせながら笑い声で言ってるけど、それは大事なことだと思うんだけどね。


「一言で言えばそうなるね。かなり流木や草が浮いてるから、スクリューに絡まったり、カタマランにぶつかっては問題だろう?」

「そうね。大事なことよ。それが終わったところで、入り江の出入り口も確認した方がいいわよ。前と比べて少し崩れてるもの」


 そういえば、入り口の灯台が崩れてた。

 バレットさん達は桟橋担当だから、入り江の掃除が終わったところで直さねばならないだろうな。


「アオイ、やって来たぞ!」

 最初にやって来たのはネイザンさんと友人の3人だった。その後に、グリナスさんが友人を乗せてザバンを寄せてきている。

 友人が友人を誘って、若手がどんどん集まってくる。広い甲板だと思ったけど、12人も座ると狭く感じるな。

 足りないだろうとグリナスさんが持って来てくれたココナッツのカップも使って、全員に酒を振舞う。

 商船がしばらくは来ないだろうから、酒は貴重品になるんだろうな。美味そうに少しずつ飲み始めた。


「今夜の氏族会議で、復旧に向けてトウハ氏族を3つに分けて作業を進めることにしました……」

 状況と、3つの作業を急いでする理由を説明すると皆が一様に頷いてくれる。もっとも、入り江で魚が釣れないと言ったら驚いてたけどね。

 

「そうなると、明日から始めねばならんな。浜に集合でいいだろう。浜は嫁さん達に片付けて貰うとしても、大物は動かせないだろうし、確かに入り江には色々と浮かんでるからなぁ」

「漁に出られるまでにはしばらく掛かりそうだ。そうなると、ザバンを2艘繋いで台船にした方が作業がしやすいかもしれないぞ」


 夜遅くまで作業の段取りを確認し合う。

 目標は3日ということになったけど、入り江は見かけ以上に広いからね。果たして目標通りに行くかどうかは誰にも分からないんだけど、なぜか3日という期限に反対する者はいないんだよな。


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