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M-092 2隻目は魔石8個の魔道機関?


 北東に走る溝で漁をして3日目。俺達は氏族の島に帰島する。

 普段よりも、1日ほど東に向かうだけで獲物の形が途端に大きくなるな。

 保冷庫に納められた一夜干しを眺めたマリンダちゃんが笑みを浮かべているのも理解できる。


「トリマランならもっと東に行けるにゃ。いつも大漁にゃ!」

「私達には、ここでも遠いにゃ……。2日掛かってしまうにゃ」


 昼食を作っていたマリンダちゃんにナリッサさんが答えると、俺の隣でパイプを咥えていたヤグルさんが頷いて、呟いた。

 

「魔道機関の魔石が6個だからなぁ。あの漁場に1日で行くには、ほとんど3ノッチ近くで走るようだ。長距離を無理に進むのは問題だな」


 氏族の船をカタマランにしているのはトウハ氏族だけらしい。他の氏族はいまだに外輪船を使い続けているようだ。

 外輪船から比べれば、ヤグルさんのカタマランも十分に速いとはいえるんだけどね。


「それに、速ければ良いということで片付けるのも問題だろうな。漁場での細かな操船があるんだから、ナリッサの腕が伴わなければ何にもならないからね」

「やはり近場の小さな漁場を探した方が良いと?」

「俺達には、それが合っているように思えるな。それで操船の腕を上げれば次の船は魔石8個を目指せるだろう」


 行く行くは……。ということなんだろう。決して無理をせずに自分達の漁を心掛けるなら、それで十分に思える。

 ナリッサさんの旦那は、中々できた人物のようだ。


「だが、たまに誘って欲しい。この船なら無理なく遠方の漁場に行けるからな」

「いつでも歓迎しますよ」


 家形も大きいからね。3家族でも何とかなるんじゃないかな?

 昼食をナツミさん達が交代で取るのは、ちょっと申し訳ない気持ちだけど、このまま進めば日が落ちた頃合いに氏族の島に帰れるようだ。


 入り江の岩礁に作った灯台を過ぎたところで船団を解き、いつもの桟橋にトリマランを停める。と言っても、オルバスさんのカタマランの外側になるんだが、この場所もそれなりに気に入ってる。皆が釣りをする桟橋から離れているから、自分だけの釣り場としておかず釣りができるんだからね。


 俺がアンカーを下ろして甲板に戻って来た時には、ナツミさん達が夕食の準備をオルバスさんのカタマランで始めていた。

 トリマランの甲板には男達だけが集まって、釣果を確認し合っている。

 オルバスさん達の船も、結構数を上げたらしい。


「結局ハリオは2匹だけだったが、グルリンの良形がかなり出た。たぶんバレットやケネルも大漁だったはずだ」

「何だ何だ、誰が大漁だって?」


 大声を上げながらやって来たのはバレットさんに、ネイザンさん、それにケネルさんとラビナスだ。たぶん嫁さん達もやって来たに違いない。

 ナツミさんが、俺達に頭を下げながら家形に入って行くと、すぐにポットとココナッツのカップに入ったカゴを持ってきた。


「カマドの傍にある籠にココナッツが入ってるわ。4つほど中に入れてくれない?」

「後は俺達でやれるよ。皆で作ってるんだろう?」


 俺の肩をポンっと叩いて、笑顔で頷くとオルバスさんの船に出掛けて行った。かなり嫁さん達の数がいるけど、2つのカマドで足りるんだろうか?

 ココナッツを割ってポットに中身を入れていく。終わったところで皆のところに戻ると、すでにカップを手にしている。

 ここは年長者から……、半分ほど注いで、とりあえず全員のカップに酒を満たす。


「この季節で、あれだけ釣果があれば十分だ。乾期に素潜りをしても良さそうな場所だな」

「俺達の船では確実に2日は掛かりそうです。それでも行きたい場所ではありますね」


 バレットさんの話しを聞いて、ネイザンさんが感想を話してくれた。

 グリナスさんやヤグルさん達も頷いているから、今度は彼らの仲間を誘って出掛けるかもしれないな。


「2日の航程だと、鮮魚を持ち帰るのが苦労するな。多めに氷を入れておくか、一夜星にするほかなさそうだぞ」

「今回も一夜干しですから、それほど苦にはなりません。ですが、あの漁場で曳釣りをするなら2家族がいなければ話の外というのが……」


 たぶん一番の問題だろう。

 最低限、2人目の嫁さんを貰わないと、タモ網を使う人がいないからね。


「片道2日で3日の漁をするのは、小型のカタマランではキツイとかもしれんな」

 バレットさんは手酌で飲み始めたけど、俺達は、この1杯で我慢しておこう。もう直ぐに美味しそうな料理が出てくるんだから。


「延縄と根魚釣りで我慢するんだな。そうすれば2人で漁ができる。もっとも、向こうで1隻に2家族が乗り込むことだってできるんじゃないか?」


 ケネルさんの提案にグリナスさん達が考え始めたぞ。確かにその方法もある。船を盗むような連中がいない海域だし、そもそも正直者ばかりのネコ族に泥棒はいない。


「色々考えられそうだな。仲間内と相談してみよう。獲物の形が良くて数が揃うんだから」

「カタマランで2日の距離は俺達が探してやる。1日半の近場はお前達で探せばいい。速度の出せるカタマランを手に入れた時には、俺達が漁場を教えてやる」

「近場の漁場を、初めてカタマランを手にした連中に教えます!」


 オルバスさん達の話に、大きな声でネイザンさんが答えていた。

 温厚な人だから、後輩の世話を焼くには適任だな。

 

「俺はもう少し外側の漁場を探します。十字を浜に記した島を起点に探せば、将来に繋がりますね」

「そうしてくれるとありがたい。長老も2隻目の燻製船の製作には乗り気だからな。それが稼働すれば、サイカ氏族の漁果の低下を補えるとも言っていたぞ」


 乾期と雨期に2回ずつの各氏族の会合では、ニライカナイ全体の漁獲と総売り上げがどうなってるか分からないんじゃないか?

 少なくとも、1か月おきぐらいに頻度を上げるべきだろうな。


「これで、ネコ族全体の動きが少しは分かるようになってきたが、アオイの考えではさらに頻度を上げるのか?」

「頻度を上げれば、それだけ漁獲の推移が分かります。急に魚を獲れと言われても、出来かねますからね」


「氏族会議で、提案してみよう。たぶん長老の事だから、薄々は感じているかもしれんな」

「まあ、それは長老達に任せえばいい。俺達は積極的に魚を獲るのか、それともいいつも通りで良いのかが分かれば十分だ」


 バレットさんは我関せずという感じに思えるけど、本当なら筆頭漁師の考えることなんじゃないかな。バレットさんの采配なら氏族の漁師達がそれに従うからね。

 長老からの指示をバレットさんを通して行うことになるんだから、少しは深入りして欲しいところだ。


「ところで、ネイザンはそろそろ次の船を作れるんじゃねえか?」

「次は是非とも魔道機関の魔石を8個にしたいですから、次の雨期を考えてます」


 バレットさんがネイザンさんの話しを聞いて、オルバスさんに視線を向ける。

 視線に気が付いたオルバスさんが頷いているから、何かあるんだろうか?


「氏族会議で話題にすることになりそうだ。少なくとも来年のリードル漁開けを目標に調整せねばなるまい」


 俺達が頭に「?」マークを揺らしてオルバスさん達の会話を聞いているのだが、何とも理解しがたい話だな。

 思わず、何の話か聞いてみようとしたとき、マリンダちゃんの「夕食にゃ!」の声で聴きそびれてしまった。


 大きな獲物がそのままの姿で焼かれて出てくる。とは言っても半身ずつだ。さすがに開いた姿ではカマドで焼くことができなかったようだな。

 炊き込みご飯のような物やピラフ風のご飯。それにスープが2種類もある。

 だいぶ話し込んでいたからな。

 並べられた料理が無くなるまでにそれほど時間は掛からなかった。

 食事が終わったところで、嫁さん連中も一緒になって酒を頂く。大漁だったから、皆笑顔で飲んでいた。


 翌日、甲板に出てみると北の桟橋に商船が停泊していた。

 ナツミさん達がいないから、獲物を持って出かけたのかな? カマドの端に置いてあったポットからカップにお茶を注ぐと、船尾のベンチに座って頂く。

 飲みすぎたから、食欲は無いんだよね。朝食は昼食と兼用しよう。


 そういえば、延縄の組紐をもう少し太くしといた方が良いだろうな。

 出漁は明後日だろうから、その間に新しい延縄の仕掛けを作っておくか。浮きも、もう少し大きく作りたいところだ。枝針のハリス近くに付ける小さな浮きも、今よりは大きい方が良いんじゃないかな。

 ハリスの長さも一律ではなく、50cmほどの長短を付けてみるのもおもしろそうだ。


 先ずは、浮きを手に入れねばならない。

 オルバスさん達は自分で作るんだけど、生憎と俺には出来ないし嫁さん達にもちょっと荷が重そうだ。

 となれば、ベンチから腰を上げて島に向かって桟橋を歩いていく。

 目指すは、炭焼きの老人達だ。いろんなカゴを編んでるんだよね。作り置きもあるけど、依頼もこなしてくれる。


「おはようございます!」

「アオイじゃないか! 今頃、「おはよう」というのは、お前さんぐらいじゃ。ワシらなら「こんにちは」じゃ。それで、何を作って欲しいんじゃ?」


 相変わらず口は悪いけど、俺の曖昧な言い方でも、きちんと作ってくれるんだよな。


「実は、延縄の浮きなんですが、獲物の形が良いんで一回り大きくしたいんです。それに、今の浮きは見付けるのに苦労しますんで」

「どれぐらいのが掛かるんじゃ?」


 4YMのハリオが掛かったと言ったら、目を丸くしている。


「それなら、仕方がないのう。仕掛けの組紐を太くしたいんじゃろう。前後の大きい奴を2つに、小さい奴を10個で良いか?」

「小さいのは15個ほど作ってくれませんか?」


 俺の言葉を聞いて、笑みを浮かべている。やろうとしてるのが分かるんだろうか?

 明日の昼前に取に来いと言ってたから、これから商船に向かおう。カゴを頼んだ時には、タバコの包2個が暗黙の了解事項だからね。



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