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M-089 凱旋


 氏族の島に戻ったのは深夜になってからだったが、翌日はお祭り騒ぎになってしまった。

 バレットさん達が若者を集めて来ると、丸太を組みわせて作ったイカダのような代物にガルナックを乗せて商船に運んで行く。

 重さで桟橋が軋む音が、まるで悲鳴をあげているように思えるほどだ。

 運び終えたところで、男達が集まりトリマランの甲板で酒盛りが始まる。

 長老達もやって来たところを見ると、やはりガルナックの水揚げは久しぶりの事なんだろうな。


「さすがは聖痕の保持者ということじゃな。どう見ても8YM(2.4m)を越えておる。かつてのカイト様でさえ8YMであったということじゃ」

「しとめるのに使った銛はリードル用の銛ということだ。咄嗟にあの銛を持ち出せるんだから状況をよく見ることができるということだろう」


 とりあえず、皆が喜んでくれたのは確かなようだ。

 久しぶりの大物を見て、皆が自分の事のように祝ってくれる。明日は二日酔い確定だけど、たまにはいいんじゃないかな?

 ナツミさん達も隣のカタマランで御婦人方と一緒にワインを飲んでいるみたいだしね。


「型が小さくなっているとは言っても、大物もいるってことだな。リードル漁が終われば俺達も頑張らねばなるまい」

「お前にガルナックが突けるのか?」

「アオイやカイト様なら1人で突けるかもしれんが、やはり数人で突くことを考えねばなるまい。突いた後を考えればなおさらだ」


 酔っているのか、すでに次のガルナックを突く相談が始まっている。

 長老達はそんな漁師の会話を聞いて目を細めるばかりだ。無理だとは言わないが、難しいと思ってるのかもしれないな。


「まあ、ガルナックに出会うことが無いとは言い切れん。やはり船団を組んで漁をすべきだろうな。とはいえ、リードル漁が終われば雨期が始まる。あまり銛の出番はねえと思うぞ」


 バレットさんが呆れた口調で皆に話をしている。

 相槌を打っているのは熟練の漁師達だ。それでもわいわい騒いでいる若者をみて、オルバスさん達と顔を見合わせている。

 

「あの大きさを見た以上は仕方が無いだろうな。次の乾期にはその先に行ってみるか?」

「今度は俺達ってことか? それもおもしろそうだ」

 ケネルさんまでオルバスさんの言葉に頷いているぞ。きっとトルティさん達も同じような話をしてるんだろうな。


「それにしてもナツミが銛を使えるとはな。腕は確かなようだから、アオイもうかうかできんな」

「マリンダちゃんも突いてましたよ。確かにナツミさんの方が数を出してますけど、ここに来る前は本職と一緒に潜ったこともあるらしいです」


 ところ変われば、女性が潜るのか? なんて話が始まってしまった。

 そういえば、日本で昔から行われていた素潜りは女性の海女さんが行ってたんだよな。一部では男性が行っていたらしいけど、大多数は女性だと爺様が教えてくれたな。

 その理由は教えてくれなかったけど、海女さんの中には2分を越える潜水時間を誇る人もいたらしい。


「嫁が潜ることもたまにはあるようだ。となると、アオイの嫁は俺達並に獲物を獲れるってことになるぞ」

「そうなるでしょうが、俺の立場もありますからね。聖痕の保持者以上に獲物を突く嫁というのはちょっと……」


 俺の言葉に皆が大笑いをしている。

 立場的には、あまり潜らせたくないというのが分かったみたいだな。


「まあ、分からなくもねえ。だが、例の2割増しの話しもある。中堅並の腕を持っているんだからな」


 バレットさんの話しは、場合によっては助けて貰え、ということなんだろう。それぐらいは黙っていてもやってくれそうだ。


 夕暮れまで続いた宴会が終わると、そのまま家形のハンモックに直行して横になる。

 たっぷり飲んで食べたから、夕食はいらないな。それより世界が回っているのが問題だ。


 翌日は、ガンガンする頭を押さえて甲板に出ると、呆れた表情をしながらもマリンダちゃんが濃いお茶を渡してくれた。


「飲みすぎにゃ! でも、父さんもまだ起きてこないにゃ」

「昨日は、だいぶ盛り上がってたからなぁ。次は気を付けるよ」


 俺にスープを渡してくれたナツミさんは笑顔だったけど、この世界の暮らしに馴染んでるだけなんだろうか?


「振らつくようなら、家形の中で横になってればいいわ。次の漁は控えてリードル漁に備えないとね」

「出発はいつなんだろう?」

「トリティさんによれば3日後らしいわ」


 確かに出漁は控えるべきだな。

 銛でも磨いて暇をつぶすか……。

 もう1杯、濃いお茶を頂いてハンモックで横になる。まだ頭がガンガンするからしばらく寝てないといけないのかもしれない。


 結局、体が元通りになったのは宴会の2日後の事だった。

 さすがに飲みすぎたと俺達は反省しているんだが、バレットさんとオルバスさんは迎え酒を飲んでるんだよね。

 グリナスさんととばっちりに合わないようにお茶を飲みながら、リードル漁後の漁について話を弾ませる。


「やはり曳釣りだな。ちび助がいるから、ティーア姉さん達と一緒に行おうと考えてるんだ」

「ラビナス達は俺の船ということですね?」


「ちょっと待って! ラビナス君達はオルバスさんの船に同行すると言ってたわよ。それで人手が足りなくなりそうだから、ナリッサさんに話をしといたけど」

 改めてお茶を注いでくれたナツミさんが教えてくれた。

 リジィさんがいるからラビナス達も安心だろうな。ナリッサさんとはしばらく会っていないけどヤグルさんと仲良く暮らしてるんだろうか?

 俺達と同行するなら、リジィさんも嬉しいに違いない。


「来てくれるかな? 後で俺も確認しとくよ」

 ナツミさんが、嬉しそうに頷いて家形の中に入って行った。

「ヤグル達は俺達より年下だから、別なグループで漁をしてるんだ。アオイの誘いなら喜んでやって来るんじゃないか」


 曳釣りなら、教えてあげられることもあるんじゃないかな?

 2人で頷きながら、海図を出して漁場を確認していると、少し酔いの回った2人が俺達に話を振ってきた。


「何だ? リードル漁の次を考えてるってことか。曳釣りを東でやるなら2家族が協力することになるが……。オルバスは誰を乗せるんだ?」

「ラビナスを考えてるんだが」

「俺も、誰かを乗せねばならんな……。リードル漁をしながら考えてみるか」


 バレットさんの事だから、新しく船を作った連中の中から選ぶに違いない。曳釣りを効果的に始めたのは海人さんらしいが、そのやり方が正しく伝わったかというとかなり怪しくもある。

 とはいえ、道具が伝わっているからまるっきりの坊主ではないんだが、ネコ族の人達は余り工夫するということをしないんだよね。

 その日の天候に合わせてプラグを変えることもしないし、ハリスの長さは判で押したように20YM(6m)だからな。

 

 リードル漁に出発する前日。入り江にはたくさんのカタマランが停泊している。商船も1隻桟橋に停泊しているけど、5日後にはさらに1隻増えるのは確実だろう。

 ナツミさん達が夕食の支度を始めた時、ラビナスと一緒に桟橋を歩き始めた。俺にはどれがヤグルさんのカタマランなのか分からないから、ラビナスを誘ったら嬉しそうに頷いてくれた。たった一人の姉さんだからねぇ。久しぶりに会って見たかったのかな?


「石の桟橋から南へ最初の桟橋だと聞きました。10隻以上停泊してますけど、桟橋の中間あたりに、いつも停めるそうです」

「その中で新しいカタマランということは……、あれかな?」


 桟橋の手前から見ても、真新しいカタマランは1隻だけだから、たぶんあれがそうなんだろう。

 近くに行くと、丁度桟橋に足を踏み出した娘さんがいた。ラビナスが駆けだしたから、間違いなくナリッサさんに違いない。

 俺に気が付くと、丁寧に頭を下げて挨拶してくれた。


「ヤグルさんはいるかな? ちょっとお願いがあってやって来たんだけど」

「銛を研いでるにゃ。こっちにゃ」


 ナリッサさんが俺達を連れてきたので、少し驚いているようだったが、俺の頼みを聞くと嬉しそうに頷いてくれた。


「こっちからお願いに上がるのが筋だが、アオイ様の頼みなら何でも応えねばならん。一声かけてくれるだけで十分だ」

「そうは言ってもねぇ。リードル漁が終わって2日は休養したい。3日目の朝に出発することで良いかな? 荷物は着替えとハンモックだけで良い。食料は俺達で持つから、ココナッツを何とかしてくれないか? 俺は木登りが苦手なんだ」


 俺の話を聞いて笑みを浮かべながらラビナスを見ている。ラビナスを連れて、前日に出掛けるってことかな?

 

「それぐらいは訳はない。それにしてもアオイ様の腕を真近で見られるんだからな。仲間内にも自慢できる!」

「それほどの腕は無いよ。だけど、曳釣りはどうしても人数が欲しい。待ってるからよろしく頼んだよ」


 俺達が桟橋を歩いて行くのを、夫婦で見送ってくれた。中々感じのいい漁師じゃ無いか。あれならリジィさんも安心できるに違いない。


 翌日。俺達は船団を組んでリードル漁に出掛けた。

 遅いと文句を言ってる2人だけど、外輪船を使っていたころには2日掛けて島に行ったらしい。今では1日なんだから十分に速くなったと思うんだけどね。

 

 3日間のリードル量は、中日が豪雨ということで、普段よりも得られた魔石が少ないようだ。

 それでも1人当たり十数個を得ているんだから、トウハ氏族だけで魔石の数は千個を超えているはずだ。

 上級魔石は3個手に入れたから、1個を氏族に渡さねばならない。サイカ氏族の動力船購入は急務だからね。

 外輪船を使って、氏族の西の漁場を開拓しているらしいが、状況はどうなのだろう?

 あまり芳しくない場合は、別の漁法を教えなければなるまい。


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