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M-088 巨大なハタ


 それにしてもでかい魚体だ。

 胴回りは俺より太いし、たまに口を開けるんだが子供を丸のみにできそうだ。

 姿を確認したところで、一端海上に出て周囲の島との位置関係を確認する。トリマランからは50mほど離れているようだ。

 一端、船に戻って銛を変えることにした。


「何も突いてこなかったの?」

 ナツミさんが不思議そうな表情を俺に向ける。

「マリンダちゃんはどの辺りで漁をしてるの?」

「トリマランから東で漁をしてるわ。30cmほどのブラドが群れているそうよ」


 サンゴの穴は魚がいないと割り切ったのだろう。方向は反対だから俺の漁に巻き込むことも無いはずだ。

 あんなハタがいたら、片足ぐらいガブリとやられそうだ。


「いたよ。大きな奴だ」

「突けるの?」

「やはり、こっちの銛を使うしかなさそうだ」


 リードル漁の銛は、返しが小さいけれど人差し指ほどの太さを持つ銛先だからな。ゴムの力で打ち込むことはできないが、泳ぐ力と腕の力を足せば何とかなるだろう。

 3mを越える銛を手に海に飛び込むと、島の位置関係を確認する。

 

 何とか場所を特定したところで海中にダイブした。

 サンゴの隙間に悠然と俺を見つめるハタを再び見付けたところで、銛を打つ位置を探す。

 銛を打つ場所はどこでもよいと言う人達もいるけど、俺に銛を教えてくれた海人さんは、狙うなら鰓の斜め上だと教えてくれた。

『魚の急所だな。頭に近い方なら理想的だ。だが、大型の場合はそうもいかないぞ。俺の爺さんがクエを突いた時には、その位置で銛を弾かれたそうだ。大型の場合は鰓の斜め右上だ!』


 俺の身長を越える魚体であっても、銛を突く場所は極めて小さな範囲だ。

 胴を突いた方が良いのかもしれないけど、それだと魚体が痛むからね。値打ちが下がるような突き方はするなとも教えられたんだが……。

 

 左上から銛を突き立てるしかなさそうだな。再度銛を打つ場所を確認して海上に戻る。

 息を整えながら頭の中で銛を打つシミュレーションを何度か行なったところで、意を決して海中にダイブした。


 サンゴの割れ目の位置はしっかりと分かっているし、その場所でハタが体を出しているのも分かっている。

 5mほど潜ったところで銛を構えると、フィンを使って速度を上げる。

 

 ぶつかった瞬間、リードルを突いた時に似た感触が腕に伝わって来た。

 途端に暴れだしたハタだが、銛をさらに深く突き通す。

 周囲にサンゴの破片が飛び散り、突き通した銛の傷穴から水流のように血が流れて周囲に拡散していく。

 このまま、動きが鈍くなってくれれば良いのだが、息苦しくなってきたので一度水上に出て息継ぎをする。


 シュノーケルから噴き出す海水で俺を見付けたんだろう。トリマランからナツミさんが手を振っている。

 ナツミさんに向かって、銛を構える姿を見せて腕を振った。

 銛をもう1本と伝えたつもりだが、ナツミさんが頷いてるから分かったのかもしれない。

 直ぐに、屋根裏から銛を引き出しているのが見えた。


 海中を覗いてみると、盛んに暴れているようだ。銛は貫通してるんだが、致命傷には至らなかったらしい。

 やはり弱るのを待つしかなさそうだな。


「持ってきたよ! で、突いたの?」

「海中を見てくれよ。銛は貫通してるんだけど、未だに暴れている。トリマランに戻ったら、こっちに移動してくれないかな? この銛1本で勝負がつかなければあるだけ銛を撃ち込んでみるつもりだ」

 

 俺に向かって力強く頷くと、ナツミさんはトリマランに向かって泳いでいった。

 さて、次の銛だがどこに打てばいい?

 上から狙いたいところだが、盛んに体を捻っているから外れそうだな。やはり横から打ち込むことがベターということになるか……。


 狙う場所は鰓にした。鰓蓋の中に撃ち込めばその後ろはハタの脳がある場所だ。突き通すことはできないだろうが、損傷させることはできる。脳の損傷はすなわち即死となるはずだ。

 息を整えて海中に潜る。

 だいぶ動きが鈍くなってきたが、時折体を激しく動かしている。

 ある意味、断末魔ともいうべき状況なんだろうけど、早めに引導を渡してやるのが銛を持つ者の勤めだろうな。

 

 体のほとんどをサンゴの切れ目から出しているから、後方から鰓の中に向かって銛を打つのは易しそうだが、持っている銛が問題だ。運んできてくれたのはリードル用の大型だから銛の長さが3mを越える。周囲のサンゴに柄が引っ掛かり

正確な狙いを付け難いのだ。

 一度、浮上して息を整えると再度ハタの傍で銛を構える。

 ハタが体を動かしているから、俺の方に向かって鰓蓋を開いた瞬間を待つことにした。


 ジッと待つ。こんな時には海人さんの潜水能力が欲しいところだ。この頃は少し長くなったけど、2分を越えることはできないからね。

 魚体から数十cmほど銛先を離して待ち続ける。やがてハタが俺から首を振って頭を遠ざけた。銛の先に鰓蓋が開いたその時、全身の力を使って銛を撃ち込んだ。


 直ぐに海上に浮上して息を整える。

 海中を覗いてみると、あれほど暴れていたハタの動きが止まって見えた。

 どうにか急所を捕らえたようだな。

 20mほど先にトリマランを停めて、俺の様子を見ていたナツミさん達に手を振る。


「やったの?」

「どうにかだ。ロープを取ってくれないかな」


 投げて貰ったロープを手に、海中に潜っていく。

 ハタの鰓から口にロープを通し、銛を回収して海上に向かう。

 

 トリマランの甲板に戻ったところで銛を屋根裏に戻して、帆桁に被せたタープを家形の方向に纏めておいた。帆桁の先に付けた滑車にロープを通して、3人で引き始める。

 引いてはみたが、あまり動かないんだよな。

 俺達3人の体重よりも、ハタの方があるんじゃないかな。魚が近づいてくるというよりも、トリマランが魚に近づいているように思える。


「父さん達を呼ぶにゃ!」

 マリンダちゃんが家形の屋根に上って行くと、笛を力強く吹いた。

 ピイィィィーと海上に響いた笛の音に、他の連中がこちらに注目しているのが分かる。

 マリンダちゃんが何度も笛を吹いたから、何らかの異変があったと思ったに違いない。3隻のカタマランがこちらに向かってきた。


「どうしたどうした、何があった!」

 バレットさんがカタマランからトリマランの甲板に飛び移って聞いてきた。

 直ぐ後からオルバスさんも飛び乗って来た。


「大きな奴を突いたんですが、あまりに大きくて引き上げられません」

「何だと! このロープの先だな?」


 バレットさんが甲板から海に飛び込んで原因を見に行った。

 直ぐに、海上にぽっかりと浮かんできたんだが、俺を見る目が今までとまるで違ってる。


「ガルナックだ。間違えねぇ。……俺達が小さいころに見た奴よりもでかいぞ。やはり、聖痕の加護は偉大だ」

「本当か? なら3人で動かすのは無理かもしれんな。ネイザン達を呼んでくるぞ」


 男達が6人掛かりでロープを引く。女性達は周囲のカタマランで成り行きを見守っているのだろうが、その視線は海中に延びるロープの先にあるようだ。


「だいぶ近づいてきたな。まだハラワタは取ってねえ筈だ。俺が開いてくる。少しは軽くなるんじゃねえか?」

「大物を上げる時の要領は教えて貰わなかったからな。こんな時の引き上げ方も昔は分かってたんだろうな」


「まあ、仕方がねえことだ。だが、これからは何度かあるんじゃねぇか? ネイザンやグリナスが今回同行してたのは氏族にとって良かったと思うぞ」


 6人で引くとそれなりに、近づいてくる。

 バレットさんが海中でハタのハラワタを取り去ったから、何となくそれまでとは軽くなった気もするな。


 最後は、女性達にも手伝ってもらってロープを引いた。

 船尾の開口部から姿を現したハタは、全長は2.5mほどもあるようだ。海中で見た時には後ろが隠れてたから小さく見えたんだろうな。


「長老が驚くに違えねぇ。これでトウハの銛の伝統は続くことになりそうだな」

「トリマランの保冷庫が大きかったのも都合が良かった。これからは保冷庫を大きくする必要がありそうだぞ」


 保冷庫にハタを入れて氷をたっぷりと乗せておいた。これで3日は持つらしい。ガルナックが獲れたなら、早く氏族の連中に見せてやりたいと、俺達は船団を組んで南に進んでいる。

 男衆はトリマランの甲板で機嫌よく酒を飲んでいる。

 ナツミさん達も、最初にポット2つに酒を用意してくれたところで操船楼に上がってしまった。

 酔っ払いの世話は焼きたくないということなんだろう。


「それにしてもリードル漁の銛を使うとはな。俺にはそこまでの機転はできないだろうな」

「俺達の大物用は精々が4YM(1.2m)ほどのハリオ狙いだ。だが、ガルナックの大きさを考えるとリードル用の銛の選択は間違ってねえぞ」


 オルバスさんとバレットさんの話しは、次に突くのは俺達だということになるんだろうな。

 グリナスさんが困った父さん達だという目をして、呆れている。


「それにしても、銛の傷は1カ所だけ。あれでガルナックをおとなしくできたのか?」

「銛は2本使ったんです。鰓の右上に撃ち込んだ銛は貫通したんですが、大暴れを始めました。2本目の銛は、鰓穴を突いたんです」


 ネイザンさんの質問に答えたんだが、その話を聞いてオルバスさん達が再び感動しているようだ。機嫌よく互いのカップに酒を注いでいる。


「確かに暴れるだろうな。魚を突く場所は鰓頭よりの場所だ。急所だからそれほど大暴れをしないだろう。だが、アオイの突いた場所はそうじゃねぇ。中型ならそれでも力づくで引き上げられるがな」


 バレットさんがネイザンさん達に銛で狙う場所を教え始めた。基本は商品価値を落とさない銛の突き方になるようだ。


「だが、大型のガルナックとなるとそんな場所を狙えねえ。カイト様でさえ3本の銛を使ったらしい。ガルナックの頭部は銛を跳ね返すほど固いからな。カイト様は止めの銛を口の中に打ち込んだと聞いたぞ。アオイは鰓を狙ったんだな……」


 それを知ってたら俺も口を狙ったろうな。鰓よりも遥かに狙いやすいんじゃないか? 何と言っても、あの大きな口だからなぁ。


「だけど、良く見つけたな。俺が漁をしていたサンゴの穴にもいたんだろうか?」

「昨夜は釣りをしてたんですが、突然まったく当たりが無くなったんです。その原因は何かと探っていたら、あのガルナックを見付けました」

「そういえば、こんな話があるぞ。『ガルナックがいる場所はフルンネさえ身を隠す』とな。ガルナックは悪食だ。動くものは何でも食べる」


 オルバスさんの言葉にグリナスさん達が頷いている。次は俺達だと考えているのかな?



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