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M-086 速いカタマランが欲しいらしい


 どうやら心配は稀有だったようだ。

 バレットさんを連れて俺達のトリマランにやって来たオルバスさんが、長老会議の中身を教えてくれた。


「すると、3王国ともにニライカナイの漁獲高の2割増しを、売値の2割増しとすることに合意してくれたということですか?」

「性格に言うと、2割増し以上で合意したということになる。魚の数ではないから少しは計算も楽になるが、長老は数を数えることは続けるとのことだ。これはアオイの疑問に対する答えを出すためだとも言っていたぞ」


 単純に売り値を2割増しにするのなら、高額取引される魚を獲ることで対応できるが、資源の枯渇が進んでいるのか否かは、それでは分からないということだろう。何も俺をだしにすることは無いと思うんだけどなぁ。


「難しい話はアオイと長老に任せるとして、月単位で目標を決めるとも言っていたな。それによっては獲物の魚種を変えることも必要だろう。サイカ氏族の連中も中型の動力船を何隻か揃えたらしい。東に2日程度離れた場所で延縄を始めたそうだ」


 とは言っても、元々が小魚をたくさん獲る漁業をしてきた氏族だ。それでも以前の漁果にまでは至らないだろう。外に大きく拡大できるトウハにホクチそれとナンタの3氏族が、今まで以上に頑張らねばいけないということになるんだろうな。


「ニライカナイ全体の漁獲はオウミ氏族で調整するとのことだ。商船が常に1隻桟橋に係留されると聞いたが、まあ、これは仕方のないことなんだろう。島に小屋を建てないのはそれだけ俺達に気を配っているようにも思える」


 問題は、収支決算をきちんと出してくれるかどうかだな。

 5つの氏族の月毎の売値の集計表を、俺達にも渡してくれるなら問題はあるまい。各氏族ごとに売値の集計は行っているのだから不正があればすぐに分かるはずだ。


「とりあえずは、落ち着くところに落ち着いて良かったです。後は俺達が漁に励めば良いだけですから。今月の集計を見て大きく落ち込んでいるようなら、氏族会議で対応を考えねばなりませんよ」

「まあ、その位は俺にも理解できる。リードル漁の連中は場所を移動するのを渋っていたが、いざ移動したら今までの倍の漁獲があったらしい。型も2周りは大きいというから、型落ちしたら、今度は早くに場所を替えるだろう。問題は俺達だな」


 中堅漁師は南に行ってるから、北と東になるんだろうな。西という手もあるがカタマランでの漁だとオウミ氏族と漁場が重なる可能性も無くはない。

 西は温存しておいた方が良いんじゃないか。


「ネイザンやグリナス達なら移動に2日を考えて漁ができるだろう。その先を俺達が狙おうと思うんだが……。アオイ、俺達のカタマランの速度を上げることができないか?」

「まさか、このトリマランと同じ構造を取ると?」


 嫁さん達を押さえられなかったか!

 嬉しそうに操船してたからなぁ。絶対に欲しがるんじゃないかと思ってたんだ。


「いや、さすがに水面から浮上するような船とはいくまい。俺達の船の魔道機関は魔石が8個だ。それを加味して次のカタマランを考えてくれんか? 大きさは幾分小さくなっても良いが、速度は2割増しを考えてくれ」

「この船を考えたのはナツミさんですから相談はしてみますけど、早くなるかどうかはやってみないと分かりませんよ」


「な~に、俺達が考えるよりは良いものが作れるだろう。なんせ水面から浮かぶ船を作るぐらいだからな」

 そう言って2人で笑ってるけど、ダメでも文句は言わないで欲しいな。

 頼んだぞ! と言って帰って行ったけど、さて困ったな。


「帰ったの?」

 ナツミさんとマリンダちゃんが甲板に出てきた。男同士の話しには女性は加わらないのが暗黙のルールみたいだけど、扉の後ろで聞いているなら、甲板に出てきてほしかったな。


「おもしろそうな話だったわね。要するに今のカタマランより少しでも速い船が欲しいってことかしら」

「簡単じゃなさそうだよ。この水中翼船を作った方が速いように思えるけどね」


 俺の話がおかしかったのか、クスリと笑みを浮かべる。


「船の速度は何で決まると思う?」

 素朴な質問だけど、かなり奥が深いんじゃないかな?


 とりあえず、エンジンの馬力、スクリューの径、スクリューの回転速度あたりじゃないのかな?

 とりあえず、そんな答えをしたらナツミさんが俺の前で人差し指を左右に振らしている。


「もう1つ、大事なことがあるのよ。流体抵抗をいかに減らすかが問題ね。トリマランは本当はもっと違った形になるんだけど、それができるかどうか分からないからカタマランの変形を考えたの」


 トリマランにすることで流体抵抗が大きくなってしまったので、水中翼を付けたらしい。だけど、水中に翼を付ける方が俺は抵抗が大きくなるような気がするんだけどね。


「オルバスさん達のカタマランはザバンを細長くしたものを並べた感じがするでしょう? 断面はかなり鈍角なの。それを鋭角にすることで少しは抵抗を減らせるわ。さらに、スクリューの径を大きくすれば効果があるんじゃないかしら? 1つ問題があるとすれば両側の船の断面を鋭角にすることで保冷庫の容積が小さくなってしまうけど、縦に長くすれば何とかなるでしょう」


 ナツミさんに任せておこう。それでも試作は必要なんじゃないかな?


「保冷庫が小さいと、すぐに一杯になってしまうにゃ」

「そうなのよねぇ。その辺りの見極めが大事かもしれないわね」


 だけど、漁船なんだよね。趣味に走ってもしょうがないように思えるのは、俺だけなんだろうか?

 トリティさんの名誉はオルバスさんの評価にもつながるのかもしれないから、少しは考えてあげるけど、ほんとにしょうがない人達だよな。

                 ・

                 ・

                 ・

 翌日の昼下がり、商船に行って釣竿を3本手に入れた。ついでにガイドとリールを呈入れる。リールには少し太めの道糸を60mほど巻いてもらったから、青物にも使えるだろう。

 釣竿をグリナスさんとラビナスにも分けて上げる。仕上げは自分達でできるだろうけど、ダメなら手伝ってあげるしかなさそうだ。

 ラビナスとマリンダちゃんの釣果を使って今夜も皆で一緒の夕食だ。

 食事の話題は、次の漁をどこで行うかになる。すでに出発は明日の朝に決まってるんだけど、東か北かで意見が分かれてるんだよな。


「東に1日が狙い目だと思うな。2ノッチで行けば1日半の距離になる。漁場は起伏のある岩場なんだ。あまりサンゴが着いてないから、潮の流れが少し速いのかもしれない」

「北のサンゴの穴は大小点在しているぞ。少し大きな穴にアンカーを入れれば夜釣りも狙える」


 途中参戦してきたネイザンさんも北がお勧めらしい。

 敗色濃厚になってきたグリナスさんが俺に同意を求めてきたけど、ここは年長者に従うべきなんじゃないかな。


「俺も北に賛成です。グリナスさんのお勧めの場所は、雨期に曳釣りをしてみたいですね。潮の流れが速ければ、大型の回遊魚が入り込みそうです」

「なるほど、雨期か……。グリナスも其れなら文句はあるまい。直ぐにリードル漁が始まる。その後は雨季だからな」


 そういうことなら仕方ないという顔をしてるけど、俺とグリナスさんだけなら東にも行ってみたいところだ。大型の回遊魚を銛で突くのは、素潜り漁を行う者達の1つの到達点だからね。


「すると、昼は素潜りで夜は根魚を釣ることになるんだな。明日は迎えに来るからな」

 ネイザンさんはさっさと自分のカタマランに帰って行った。ネイザンさんのカタマランにラビナス夫婦は同乗するらしい。グリナスさんは、トリティさんに子供を預けるのかな?

 子供が小さいと色々と大変だ。

 速いところ2番目の嫁さんを貰うしかないんだろうな。


「子供が小さいと大変だね」

「リードル漁はもっと大変よ。このトリマランでティーアさんとカリンさんの子供を預かることになるわ。トリティさんとどちらかのお母さんがお守りに残るらしいから、落ちないように網を張っておかないといけないわ」


 初耳だけど、すでに話は付いてるんだろうな。

 この船の甲板は他の船より大きいし、家形の中も広いからそんな話になったんだろう。

 となると、陸の取り仕切りはリジィさんになるんだろうか?

 女性達は4人だから、忙しそうだな。


 しかし、考えようによっては育児や家事は全て女性の仕事と割り切っているのかもしれない。一々男達に相談する内容でないということになるんだろう。

 だんだんとナツミさんも、ネコ族の女性らしくなってきたように思える今日この頃だ。

 網は、お店を担当しているおばさんに頼んであるらしいから、リードル漁には間に合うだろう。


 翌日甲板に出てみると、北の空に大きな雲がある。

 雨期が近づいているからだろうが、余り良い兆しじゃないな。豪雨に出会いそうな気がしてきた。

 それでも、周囲の連中は嬉しそうに出発の用意をしてるんだよね。

 だけど、出発は朝食を終えてからなんじゃないかな?


 朝食を終えると、お茶を飲む時間も惜しむようにアンカーを引き上げて、隣のカタマランに結んだロープを解く。

 すでに、ネイザンさんのカタマランは沖で俺達待っているし、バレットさんのカタマランも隣にいるようだ。

 俺達のトリマランがオルバスさんのカタマランから離れるのを、トリティさんが操船楼で待っているようだ。

 操船はナツミさん達の担当だから、おとなしく船尾のベンチに座っていよう。

 ゆっくりとオルバスさんのカタマランからトリマランが離れていく。直ぐにその場で方向を変えると入り江に向かって進みだす。

 トリティさんは、入り江の中で大きく舵を切ることになるのだが、これは構造上仕方がない。

 だけど、操船楼で膨れているかもしれないな。

 それもあるから、新たなカタマラン作りをオルバスさんも飲むことになったのかもしれない。

 

 法螺貝を吹いたのはバレットさんに違いない。呼応するように、後ろから鋭い笛の音が聞こえたのは、オルバスさんが船団が揃ったということを知らせる合図なんだろう。


 先頭を進むのはネイザンさんのカタマランだ。バレットさんが2番手に入り、トリマランは3番手に付く。最後尾はオルバスさんだから、今日の航行はのんびりした航海になるかもしれないな。

 


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