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M-084 ご婦人方を乗せて行こう


 夕食後にお茶を飲んでいると、オルバスさんがバレットさんを連れてトリマランにやって来た。直ぐグリナスさんもラビナスを連れてやってきそうだ。


 とりあえず、あらかじめ作って冷やしておいたココナッツの酒をカップに注いで渡すと、美味しそうに飲んでいる。

 2人でやって来たということは、氏族会議の決め事に何か問題でもあったんだろうか?


「……オウミ氏族の島に各氏族の長老が集まって商会ギルドと調整を図るということだ。例の2割増しを漁獲の売値を使うというアオイの案だが、商会の内部調整はできたということらしい」

「それなら、何の問題もなさそうですが?」


「3王国の反応が良くないということだ。特に、銅の精錬施設を川に作った王国の担当者が問題らしい」


 既得権益がサイカ氏族の漁果にあったのかな? 

 だが、そもそもそれを台無しにしてる王国が文句を言うことではないんだけどね。


「銅の精錬をしている河口で獲れた魚を、たっぷりと渡すことにしてはどうですか? 数年も続ければ悲惨な結果が出るでしょうけど、それは俺達の知らぬこと。王国の銅の精錬が及ぼす結果だと分からせることも必要でしょう。とはいえ、かなり気の毒な人達が出ることになります。気の毒を通り越して、家族にとっては地獄になりかねません」


「毒の蓄積ということだな? アオイが地獄というからにはかなり悲惨な状態になるってことなんだろう。反対する担当者に食べさせることにするか。それを自国の国民に食べさせるのであれば、先ずは自ら試すべきだな」


 2人で顔を見合わせて笑みを浮かべてるけど、本当に悲惨な結果になるんだよな。

 ある程度脅かすことで、相手が賛意を示してくれれば良いんだけどね。


「そうなると、次の問題だ。現状で昨年並みの漁獲高らしい。アオイ達にも積極的に漁に励んでもらいたいところだ」

「調査ではなく、漁を優先ということですね」


 雨期から乾期に掛けて、あまり漁をしていなかったようにも思えるな。

 やはり、本業をしっかりやれということなんだろう。となると短期に多くの獲物で現在は良いはずだから、釣りをすることになるのかな?


「東の海域に行ってみます。型も良いんですが、何と言っても釣りで数を出せますからね。延縄も試してみたいところです」

「アオイの船は高速船だからなぁ。近場はグリナス達に任せればいい。俺達は北で延縄を試すつもりだ」


「次は延縄ってこと!」

 グリナスさんがラビナスを連れてやってきた。奥さん連中は家形の中に入って行ったけど、皆でスゴロクでもするのかな?


「獲物をたくさんってことだ。延縄だけで数は取れんぞ」

 困ったやつだ、という目でオルバスさんが息子を見ている。


 延縄を仕掛けて、素潜りをやればそれなりだと思うな。その上で夜釣りをすれば十分だろう。


「ネイザンさん達も延縄を使うと言ってたけど、まだ乾期なんだよな」

「例の2割増しが効いている。少しは漁果を増やさねばなるまい」


 バレットさんの言葉を聞いてもグリナスさんは余り緊迫感が無い。悪く言えば他人事だけど、人様々だからね。

 自分で出来る範囲で努力するで良いんじゃないかな? とはいえ、その分は俺達でカバーしなければならないことも確かなんだけど。


「そういえば、毎年のようにカタマランが増えていきますけど、漁を止めた御老人は新たな若者よりも少ないんじゃありませんか?」

「それを長老が気にしていた。漁師の数が増えているならその分氏族全体の漁果が増えるはずだからな。ところがそうでもねぇ。横ばいだそうだ」


 思わずバレットさんに顔を向けてしまった。

 それは、資源の枯渇を暗示してるんじゃないか!


「だから、俺達は外に漁場を見付けようとしている。南に向かった連中もかなりの豊漁が続いているらしい。6日毎に大型保冷庫に入りきれないほどの燻製を運んでくるぞ」

「同じ船をもう1隻作ろうということになった。何と言っても昼夜兼行で走らせれば2日で帰って来れるんだからな」


 南の漁は順調らしい。あのひょうたん島を起点として2日程度の範囲で漁を続けてるんだろうな。

 東に船を向かわせられるのは、まだ先になるんだろうが水中翼船を運搬用に考えるべきなんだろうか?

 それなら燻製にせずとも、だいじょうぶだ。なにせ、1日半で帰島できるからね。


「アオイのこの船を取り上げることはしねぇ。そんな心配そうな顔をするな」

 バレットさんが俺に笑いながら言ったけど、それも手ではあるんだろうな。何と言っても氏族会議には従うことになるんだから。


「冗談はさておき、高速船は考えねばなるまい。だが、この船のように海面に浮かんで進むのは船とは言えんだろうな」

「早いとは聞いてるが、実のところどれぐらい出るんだ? レミネィが気にしてるんだ」


 トリティさんの永遠のライバルなんだろうな。速い船という存在に、皆が憧れているのかもしれない。


「カリンさんのお母さんなんでしょう? 一度、漁にお誘いしましょうか?」

 ポットの酒が尽きたので、ワインのビンを持って来てくれたナツミさんがバレットさんに話をしている。


「そうなると、グレミナと喧嘩になりそうだな。できれば交互に2回乗船させてくれないか。一度乗れば納得するに違えねえ筈だ」

「ちょっと待つにゃ! 私が最初にゃ」


 トリティさんがやって来た。これだと収拾がつかなくなりそうだ。


「いっそのこと、近場に3人乗せていけ! 向こうで漁を1日すれば、それなりに漁果はあるだろう」

「片道1日で、漁を2日。4日目に帰って来るということで」


 妥協案にバレットさんやオルバスさんも、申し訳ない目で俺に小さく頭を下げてくれた。なんとなくカタマラン内の力関係が分かるけど、1度乗って納得してくれるなら、それで良いんじゃないか? 何と言っても水中翼船なんてこの世界初めての乗り物だからね。


 出発は明後日ということで、朝早くに3人の御婦人方がやって来るらしい。とりあえずハンモックは用意してくるようだから、まあ何とかなるだろう。

 翌日の昼過ぎには、ココナッツをたくさんグリナスさんが届けてくれた。

 バレットさんとオルバスさんはワインを届けてくれたし、ナツミさん達は食料の在庫を確認して、島のお店で不足している野菜を購入してきたようだ。


「乗ってみたいのは分かるけど、欲しがらないかな?」

「漁をするんだったら、この船は必要ないわ。東の端を見たかったからなんだけど」


 確かに、速さは漁には直接関係はしないだろうが、現状ではそれが効果を持つ。

 誰もが漁をしない場所で漁をすることができるんだからね。

                 ・

                 ・

                 ・

 東に向かって水しぶきを高く上げながら、トリマランが海面を滑走していく。

 家形の屋根にはマリンダちゃんがいつもは乗っているんだが、今日は3人の御婦人方に場所を譲っているようだ。

 俺の隣で、屋根の上のお母さんを恨めしそうな目で見てるんだよな。


「東に向かってからずっと降りてこないにゃ。そろそろ昼食の支度を始めないといけないにゃ」

「やはり、珍しいからじゃないかな? その内に飽きると思うんだけど」


 何やら、ナツミさんとお婦人方が話をしているようだ。

 屋根の3人が頷いているようだけど、何らかの合意に達したということかな?

 嬉しそうな表情でレミネィさんとグレミナさんがハシゴを下りてきた。次に下りてきたのはナツミさんだったから、慌ててマリンダちゃんが屋根に上って操船楼のトリティさんと窓越しに話をしている。


「トリティさんに任せてきたよ。氏族で1、2位を争う操船の腕なんだから、安心だよね」

「少しは違うんじゃないかと思うけど、基本は真っ直ぐってことかな?」

「かなり手前でないと曲がれないことは教えてあるわ。それに魔道機関を1ノッチに下げればカタマランの2ノッチ走行と変わりはないはずよ」


 そういうものかな? ちょっと疑問は残るけど、ナツミさんが言うことで間違いは無いんだろう。

 ナツミさんはバレットさんの嫁さん達と仲良く昼食作りを始めたけど、また違ったお袋の味を楽しめそうだな。


 昼食時はマリンダちゃんが操船をしている。

 少し辛みが強いスープにはコメの団子がよく合うな。トリティさんの味付けよりも少し酸味が少ない感じだ。

 美味しく頂いた後は、お茶を飲みながら一服を楽しむ。

 このまま進めば、グリナスさん達が漁をした場所よりも先になるだろうが、俺達が漁をした場所よりは手前になる。果たして良い漁場があるかが問題だな。


「次は私達が操船するにゃ」

「意外と簡単にゃ。1ノッチ半に出力を落として、それから2ノッチに上げるのがおもしろいにゃ!」


 それって、水中翼船モードに変わる時がおもしろいってことか?

 だいじょうぶかな? と3人のご婦人がハシゴを上る姿を見送る。

 直ぐに、追い出させるようにしてマリンダちゃんがハシゴを下りてきた。


「気に入ってくれたみたい。でも欲しがることは無いと思うわよ。速いことは認めてくれたけど、それだと操船の腕を見せられないでしょう?」

「漁場を探す時には通常モードに変わるし、場所を固定するまではバウ・スラスタで位置を調整するでしょう? あれは欲しがるんじゃないかな」


 桟橋への接近も容易なんだよね。横滑りするような動きに、初めて見る人は目を見開いて驚いてる。


 日が傾くまで、3人の御婦人方が水中翼船モードでの航行を楽しんだところで、いよいよ漁場を探すことになる。

 偏向レンズ付きのサングラスを掛けて、家形の上に仁王立ちしたマリンダちゃんが周囲の海を監視している。

 サンゴで水中翼を破損しないように微妙に舵を操作しているのはナツミさんだ。

 3人の御婦人方は、船尾のベンチに腰を下ろしてココナッツジュースを飲みながら操船を眺めている。


「中々の腕にゃ。私らが漁を止めたら氏族で一番にゃ」

 中々自分が1番という考えを捨てられないらしい。

「南の海では驚いたけど、船の性能に助けれれてるにゃ」


 そんなバレットさんの嫁さん達の会話に、トリティさんも頷いているんだよね。

 負け惜しみが強い性格なのかな?

 旦那達もそうだけど、嫁さん連中も少女時代そのままの心を今でも持っているんじゃないかな。



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