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M-083 竿の強度を上げるには


 ふと目を覚ましたところで、周囲を確認すると心地よい揺れだけが伝わって来た。寝る前には、水中翼が海面を切り裂く甲高い音が聞こえてきたんだが、今はそれも聞こえてこない。

 とりあえず衣服を整えて家形を出ると、ナツミさん達が夕食を作っている最中だった。

 隣にはオルバスさんのカタマランが泊まっているし、その後ろにはグリナスさんのカタマランが桟橋に繋がれている。

 予想通り、いつの間にか氏族の島に帰っていたようだ。


「おはよう。良く寝てたわよ」

「明日まで寝てても良かったにゃ」


 そんな言葉を嫁さん達が掛けてくれる。

 苦笑いで答えたところで、船尾のベンチに腰を下ろしたら、マリンダちゃんがお茶のカップを渡してくれた。

 一口飲んでみたら、かなり苦い。でも飲むにつれて頭がだんだんはっきりするのが分かってくる。


「ありがとう。だいぶ昼寝をさせて貰ったよ。ところでいつ着いたの?」

「昼過ぎにゃ。獲物はナツミと一緒に運んであるにゃ。帰りにワインを買って来たにゃ」


 お茶のカップを受けとりながらマリンダちゃんが教えてくれた。

 お酒は今夜の宴会用かな?

 オルバスさんが漁から戻ってるなら、ある程度宴会は確実だ。

 

「何だ、起きたのか?」

 噂をすれば、というやつなんだろうな。マリンダちゃんの後ろからオルバスさんが現れた。俺のタクマランに乗り込んでくると、俺の隣に腰を下ろす。


「マリンダ達のカゴを見たが、大漁だったようだな」

「後で、海図をお渡しできると思いますが、かなり有望な場所です。俺としてはブラドばかりが目に付いて、他の魚種が少ないのが気になるところでした」


「まあ、そう言うな。グリナス達もそこそこの漁をしてきたようだ。やはりカタマランで2日を越えれば、未だに豊漁を望めるということになるのだろう。俺も次のカタマランは魔石を8個搭載した魔道機関にするつもりだ」

「ということは、バレットさんもそうですね?」


 まったく困った人達だな。たぶん互いに嫁さん達の圧力があるんじゃないかな?

 さすがにバウ・スラスタは付けないだろうけど、他のカタマランよりは5割近く速度が上がるからな。

 

「仕方あるまい。どちらもナツミの操船を見ているからな。まあ、今度の船はさすがに欲しいとは言わないが、一度乗せてやってくれないか?」

「操船させてもらえると思いますよ。今度の航海では俺も舵を握りましたが、あまり長く操船したいとは思いませんね。何と言っても速度が速すぎます」


 互いの顔を見て溜息を吐く。お互い過激な嫁さんを貰った同士だからね。バレットさんがいたら、3人で溜息を吐いていただろうな。


「どうした? 2人揃ってしけた顔をしてるじゃないか」

 噂をすれば、が重複した感じだな。今度はグリナスさんとバレットさんがやって来た。

 バレットさんに船尾のベンチを譲り、家形の壁に押し付けてあった小型のベンチを持ち出してグリナスさんと腰を下ろす。


 マリンダちゃんが皿に乗せた焼いたカマルを持ってくると、ナツミさんが俺達にココナッツのカップを配ってくれる。配り終えたところで、ポットから酒を注いでくれたんだが、ココナッツジュースに蒸留酒を混ぜた奴だ。飲み口が良いからついつい深酒をしてしまうんだよな。


「ほう、型の良いカマルじゃねぇか。確か東だったな?」

「ナツミさん、海図を渡してくれないかな? 1つ族長会議に渡すんだろう?」

 

 説明するなら、海図があった方がいい。直ぐにナツミさんが持って来てくれた紙を甲板に広げて皿やカップで押さえておく。

 

「氏族の島を離れて、1日半の距離でグリナスさん達は漁場を探しました。かなりの速度で行きましたから、通常なら2日以上と思います」

「大きな島があったんだよな。浜辺に三角の形を石を運んで作っておいたから、あれが目印になるぞ」


 グリナスさんの方はちゃんと海図を描いたんだろうか? 俺達の海図はその目印のある島から、全速で1日にある島を起点にして描いている。

 

「俺達は浜に十字を描きました。遠浅の島でしたから島の森の木を倒して十字を描いてます。底から南にゆっくりと海域を巡りながら漁場を探した結果がこれです。帰島する前に夜釣りと素潜りを行った結果が、オルバスさんの見た漁果です。漁場はここを選びました」

 

 俺の話を真剣に聞きながら海図を見ている。

 漁場と周囲の島の方向をきちんと書いてあるから、現場での山立てはそれほど難しくは無いだろう。


「グリナス達も、この海図を見習うんだな。真っ直ぐ南に下がるとしても、東西の島をいくつ超えたかが分かれば、自分の位置を知ることができる。俺達も似た海図を作ったが漁場の山立てまではしていない。氏族会議でやり方を教えねばなるまい」

「まったく面倒な話だな。だが、無駄な仕事ではない。新たな漁場を氏族の持つ海図にどんどん描いていくことは俺も賛成だ」


 場所が多ければ、一カ所にカタマランが集まることはない。広く分散することで漁場の資源の枯渇を避けることもできるはずだ。

 

 いつの間にか、ラビナスも俺達の隣に座っている。晴れてカタマランを手に入れて独立したんだが、船はどこに留めたんだろう?

 マリンダちゃんより幼く見える娘さんがラビナスのお相手になるのかな? ナツミさんが興味深々に眺めているぞ。


「お酒を一時中断して食事にするにゃ!」

 トリティさんの一言で俺達は会話の輪を広げる。その輪の中に、料理が次々と運ばれてきた。

 カリンさんも男の子を抱いてやってきたから、ナツミさんが早速抱かせてもらっている。ネコ族だけあって、小さい子はネコの子のように可愛いみたいだ。


「ブラドがこの辺りより、二回りは大きいぞ!」

「シメノンまで釣って来たのか! これは東にも台船を派遣せねばならんな」


 バレットさんとオルバスさんは頷きあいながら皿のシメノンを先割れスプーンで取り分けている。

 ナツミさん達は宴会用に少し漁果を残しておいたみたいだな。

 調査が主目的だったけど、売り上げはいくらになったんだろう? 少しは食費の足しになれば良いんだけどね。


「竿がもう少し固いと良いにゃ。釣り上げるのに苦労したにゃ」

「これぐらい大きなバヌトスなら、アオイの作った竿では柔らかすぎるかもしれんな。手釣りなら問題はないのだが……」


 マリンダちゃんの訴えに、バレットさんが同意しているから、皆の目が俺を向くんだよね。

 嫁さん連中も竿を使って根魚を釣る人は多いようだ。商船の棚に並んだリールやガイドを物色している女性を結構見掛ける時もある。


「竹竿をそのまま使うなら、あまり固い竿はできないんですが、方法が無くはありません。俺の船で曳釣りをするときに左右に張り出す竿ですが、あれは中空じゃないんです」

「おいおい、竹竿だろう? 竹は中空だからいろんな用途に使えるんだぞ」


 バレットさんがパエリアのような料理を食べながら俺に問いかけてくる。

 まあ、作っていたところを見てたのはオルバスさん位のものだからねぇ。


「いや、アオイの竿は確かに中空部分が無いんだ。あれは竹を切り裂いて、細い棒をたくさん作ったものを竹のテープで巻いてある。かなり面倒な作りだから、あまり長さもないようだ」

「何だと!」


 バレットさんが立ち上がって舷側に向かうと、取り付けてある竹竿を見ている。

 やがて、元の席に戻ってくると溜息を1つ。その後は顔を俺に向けた。


「確かに節がねえな。まったくその見えねえ知恵者ってことになる。全部竹で出来ているならかなり腰が強い竿になるな」

「商船のドワーフに作れるかを確認してみます。多少高値にはなるでしょうが、腰の強い竿ができるでしょう」


 獲物が大型になれば、それなりに道具を変えねばならない。

 銛もその中に入るはずなんだが、結構無頓着なんだよな。柄の歪んだ銛を平気で使う者もいるぐらいだからね。


「それで、次はどこに向かうんだ?」

「今度は、目印を付けた島から来たに向かおうと思っています。南も良い漁場がありましたから北にだってあるでしょう」


「そうなると俺達はもう1日先に向かっても良さそうだな」

「うむ。だが、氏族会議の話を聞いてからだ。氏族全体が動いている。その動きに合わせるのも筆頭の仕事だぞ!」


 オルバスさんがバレットさんをやんわりと注意している。確かに大きく動いていることは確かだ。俺達が氏族の外周部に広がる漁場を調査しているのもその一環なんだよな。興味本位で動いていると大局を見逃しかねない。

 次の漁場を探しに行くのは、氏族会議の話を聞いてからでも遅くはあるまい。


 いつしかポットの酒が無くなったところで宴会がお開きになる。

 かなり酔いが回ってるけど、前みたいに酷いことにはならないんじゃないかな? 少しセーブすることを覚えたみたいだ。


 翌日。いつものような頭痛にまでは行かなかったが、それでも頭が重いことは確かだ。

 朝食は食べずに、ナツミさんに濃いお茶を入れて貰う。

 

「今日は商船に行くんでしょう?」

「例の竿を作ってもらおうと考えてるんだけど、午後になったからで良いよね」


 どうやらナツミさん達も買う物があるらしい。食料品は昨日買い込んでいるようだから、嗜好品か何かかな。ついでにタバコの包を頼んでおくことにした。

 お茶を飲み終えたところで、カゴを背負って桟橋に向かう。炭が少なくなっているらしいから老人達から買い込まなければなるまい。

 お土産にタバコの包が1つ。これは暗黙の了解事項らしい。

 

「なんじゃ、アオイじゃないか! 炭は1カゴで良いのか?」

「出来れば2カゴをお願いします。東の漁場を探してますんで」


 そんな話をすると、老人達のたまり場に招かれてしまった。東の漁場に付いて聞きたいんだろうけど、今更漁に出ようなんて考えていないだろうな?

 お茶を頂きながら、パイプ片手に話をすると、皆が真剣な表情で聞いてくれる。若い時分にはその近くまで出掛けて漁をしたんだろう。


「ワシの若いころにはカタマランは半数ほどじゃったな。ワシも仲間達より遅れてカタマランを持ったんじゃ。外輪船で2日掛かる距離を1日で行けるんじゃからな。だがそんなに遠くまでは行かんかったよ」

「船で5日の距離がトウハ氏族の漁場じゃからな。カタマランなら3日も掛からんが、そこまで行かずとも漁場はたくさんあるからのう」


 やはり昔と比べて、魚が減っているんだろうか?

 漁具と船の性能が上がったこともあるのだろうが、それ以外の要素が無いかを考えなければなるまい。サイカ氏族の公害問題だって起きているぐらいだからな。



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