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M-069 南の水路工事はまだ終わらない


 雨期の半ばに入ること、どうやら俺達に水路工事の順番が回ってきたようだ。

 オルバスさんに率いられた俺達のカタマランが一路南に向かって進んでいく。ティーアさんが一緒だから、マリンダちゃんはネイザンさんの船に乗船しているようだ。子守を頼まれたのかな?

 工事期間内は、トリティさんとリジィさんが食事作りの指揮をするから、ナツミさんも積極的に参加している。

 若い嫁さん達が多いから、ちょっとした料理教室でもあるようだ。

 

 3日目の昼近くに到着したから、前回よりも船足は早かったのだろう。あまり変わりがないように思えたんだけどね。

 工事をしていたバレットさんがやってきて、とオルバスさんが作業の引継をしたところで、10隻のカタマランを率いて帰って行った。

 かなり捗ったとは言ってたが、具体的な説明が無かったんだよな。

 ザバンを下ろして、状況確認をオルバスさんに仰せつかってしまった。


 水路そのものは1.5kmほどの長さだ。東側に沿って南に向かい、西側を戻れば問題あるまい。

 水路の幅は、グリナスさん達が仲間とロープを使って調べるようだ。簡単なコンパスを持っているから、斜めに測ることは無いだろうと思いたいな。


「私達は水深を確認するのね」

「前に使った、組紐と小石で良いんじゃないかな。1YM(30cm)ごとに目印を10個付けてあるし、目標の8YM(2.4m)は赤い糸が巻いてある」


 ベンチの蓋を開けて、道具箱から前回使った組紐を取り出すと、ナツミさんが漕いできたザバンに乗る。

 アウトリガーの付いたザバンは水路に向かって進んでいき、水路入り口の両側にある小さな塔の傍を通り抜ける。


「サンゴを積んだのね」

「俺の身長ほどじゃないけど、ちゃんと組んであるね。セメントみたいなのが塗ってあるよ」

 魔法だって使える世界だからねぇ。俺達の暮らした世界とは違う便利な代物があるんだろうな。

 10mほど進んだところで、組紐に結んだ小石を沈めて水深を測った。赤い目印が海中にまで沈んだが、次の目印は水面の上にある。

 水深2.5mと言ったところかな。干満の差があることを考慮すれば、これで十分だろう。

 コンパスで水路の端を見る限り、真っ直ぐに南に延びている。最初に工事を始めた俺達が水路の方向をしっかり目印を付けておいたからに違いない。

 準備がきちんとできていれば、完成度も高くなるってことが良く分かる。この水路を通る子供達に誇れるようにしておきたいものだ。


 無作為に水深を計ったけれど、一応満足できる深さだ。水路を抜けたところで反転して、今度は水路の西側に沿って進めようとしたところで、いきなり水深が浅くなった。


「この辺りは1.5mほどだね。水路の南出口付近はまだまだということなんだろうな」

「出入り口の塔も完成してないわ。それと、途中の水路境界を示す小さな塔も東側は半分ほどで終わってたわよ」


 ナツミさんの言葉に、水路の北を眺めた。西側はそんな目印が見えないな。北の端の方にはいくつかあるんだろうけど、南側はまだ作られていないようだ。

 北上しながら、水深を測っていくと300mほど進んだ場所から急に深くなってきた。

 水路の端も、きちんと垂直に切り落としてあるようだ。ここまで作業が終わったということなんだろう。

 適当に水深を測りながら北上していくが、後はどこもきちんと水深が守られている。

 残り300mほどで完成するということか。

 これほど早くに工事が終わるとは夢にも思わなかったが、やはり神亀の力は偉大だということなんだろうな。


 俺達のカタマランに男達が集まって、夕食を取りながら明日からの工事の段取りを話し合う。

 グリナスさん達が測った水路の横幅は8FM(24m)ほどらしい。当初の予定よりも広い分には問題なさそうだ。

 俺が水路の西側が出口前で作業が中断していることを伝えると、ネイザンさんが水路の位置を示す目印が設置途中であることも話してくれた。


「俺とネイザンの仲間で目印を作って行こう。樽を3つ積んできたから、かなり捗るんじゃないか。グリナス達は水路の南のサンゴを撤去すればいいだろう。すでにカタマランが真直ぐ進める状態にはなっているようだ。カタマランにザバンを結んで曳いていくんだな」


 10日間の工事でどれだけ作業が進められるかだな。

 俺達が今期の工事の最後の組だから、残った作業は次の雨期になる。とはいっても、すでにカタマランが水路を通れるぐらいだから、実質的な工事は終わって、残った工事は水路の完成度を増すためと、安全を保つための工事になるはずだ。

 長老達が燻製小屋を持った大型のカタマランを発注したのも、作業の進捗を考慮した上でのことに違いない。

 そうなると、俺達のカタマランを早くに払い下げないといけないだろうな。小型の台船の事もあるし、トリマランの到着が待ち遠しくなる。


 翌日は、俺達のカタマランの船尾からロープを伸ばして数隻のザバンを曳いて工事個所に向かう。

 カタマランが一緒だと、安心して休憩ができるし、何より温かいお茶が飲める。

 熱帯だが、やはり長く水中にいると体が冷えるのかもしれないな。

 休憩には暑いお茶が一番に思える。

 

 作業そのものは、前と同じようにサンゴを根元から切り離して水路の中の小さな穴に埋めることになる。

 最初は移動していたんだけど、神亀の体当たりによるサンゴ礁の破壊を見てしまうとね。それでも、なるべく新しい場所で育つようにと、大きく破壊することは避けている。海で暮らす民である以上、なるべく自然を破壊しないという暗黙のルールが体に刻み込まれているのかも知れないな。

 俺とナツミさんも、そんな感情がネコ族にあることは十分に理解しているし、それに共感を持っていることも確かだ。

 長老が言っていた、ネコ族と俺達の血の繋がりがあるのかもしれないな。


 2時間ほどサンゴを除ける作業をしたところで、カタマランの甲板に上がって休憩を取る。ここならパイプを使えるのもありがたいことだ。


「かなり捗るな。最初の時のようにサンゴを運ぶ距離が各段に近いからだろう」

「水路に小さな穴があるからな。穴を塞ぐにも都合がいい」


 確かに見た目は良くなるんだが、そこに住んでいた魚たちはちゃんと逃げ出せたんだろうか? もっとも一気に埋め立てるようなことはしていないから、彼等も危険を感じて避難しているに違いない。


「ネイザンさん達がサンゴを欲しがってたぞ。死んだサンゴを大きなカゴに入れて運んでいたな」

「目印作りも大変だろうな。やはり今期では終わりにできないようだ」


 作業を始めて、残った区間のサンゴを取り除く作業にかなりの時間が掛かることに気が付いた。たぶん半分も進まずに作業を終えることになるだろう。

 だが次の雨期には確実に終える。いよいよ南の漁場がトウハ氏族の前に広がるのだ。


 作業開始3日目は、豪雨の中の作業になる。

 ザバンが水没しそうな激しい雨だから、カタマランを近場に寄せての作業になった。水中でサンゴを移動するのが面倒この上ない。近場で切ってきた竹でイカダを組んでの作業になってしまった。


「まあ、雨期だからなぁ。明日は晴れるんじゃないか?」

 そんなのんびりした会話をしながらの作業だ。嫁さん達も水着で移動を手伝ってくれる。そんな中でナツミさんのビキニは目立つんだよね。

 女性達もジッと見ているぐらいだ。ひょっとして自作しようなんて野望を持っているのかもしれない。


「このビキニを商船で扱っているのかと聞いてくるんで困っちゃった。氏族に入る前に持ってたものだと言ったんだけど、1セット商船に持って行って頼んでみようかしら?

マリンダちゃんも欲しがってるのよね」

「材質的にどうなんだろう? 俺もサーフパンツがだいぶ傷んできたからどうしようかと考えてたんだけどね」


 一度相談してみるとナツミさんが言ってたけど、さて結果はどうなるんだろう? カタマランですら何とかするぐらいだから、案外似た水着を作れるかもしれないな。


 そんなこともあった水路工事の期間が過ぎると、最後にオルバスさんがネイザンさんを連れて最終確認に向かった。

 今期の工事がここまでだとすれば、次は俺達が最初の工事を始めることになるはずだ。

 それでも、長老達への報告をきちんと行いたいってことなんだろうな。


 その翌日。水路工事を終えた俺達は北に向かってカタマランを進める。

 氏族の島に戻れば、再び漁を始めなければなるまい。雨期の漁果は少ないからね。いくらリードル漁の魔石があるとは言え、なるべく使わずに置きたいところだ。


「今度はどこに行こうか?」

「西は問題外でしょう? なら南が有望じゃない。水路を使ってグルリンの群れが北に移動してたわよ」


 あの水路は魚道としても役立つってことか。幸いにもこのカタマランは魔石8個を使う魔道機関が搭載されている。グリナスさん達よりも行動半径は5割増しを見込めるだろう。


「曳釣りだと、もう1家族が欲しいな。グリナスさんのところはかなりお腹が大きくなってるから……」

「マリンダちゃんとラビナス君を乗せてこうよ。あの2人なら十分に一人前よ」


 ラビナスがどれぐらい腕を上げたか分からないけど、甲板作業を手伝ってくれるだけでも助かるな。

 帰ったら誘ってみるか。


 途中で漁をすることも無く、真っ直ぐに氏族の島に到着する。

 3日目の昼近くだったから、船足は早かったんだろうな。桟橋にカタマランを泊めたところで、ほっとした表情のナツミさんが操船楼から下りてきた。


 しばらく桟橋を留守にしてたからと、おかず釣りの竿を取り出して桟橋に向かう。

 のんびりとパイプを楽しんでいると直ぐに当たりがきた。

 取り込んだカマルの型も良い。やはり漁場を休ませることも考えなければいけないな。


「釣れたか?」

「良い型でしたよ。グリナスさんも?」

「カリンが唐揚げが食べたいってね。応えてやるのが男ってもんだ」

 

 そんなものかな? 分からなくもないけど、男気とは違う気がするな。それはグリナスさんが優しい性格だからだろう。ちょっと腕は頼りないけど、カリンさんはグリナスさんのやさしさに引かれたんだろうな。



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