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M-062 おめでたが続くようだ


 どうにか昼過ぎまでにブラドを十匹ほど突いたところで、今日の素潜り漁を終えることにした。

 やはり、一回り以上型が良くなっている。この辺りも良い漁場になりそうだな。


「昼食はもう少し待ってね。だいぶ型が良いね」

「銛を変えるか迷う大きさだ。さらに大きいと先端の外れる銛が良いんだけど」


 何度か銛を交換しようかと思ってたけど、今日は通常の銛を最後まで使ってしまった。明日は、銛を交換してみようかな。


「夜釣りの餌があるから、昼食後は根魚を狙ってみようと思うんだ」

「なら、私も手伝えるわよ。この辺りにはシメノンは来ないのかしらね」


 シメノンの群れは結構動いているからねぇ。上手くやってくれば、それだけで十分に稼げるんだけどね。


「まあ、たまに水面を見ていれば十分じゃないかな。ナツミさんは青物を狙ってみたら?」


 ナツミさんの竿は根魚用じゃないからね。それなら、青物を狙ってもいいんじゃないかな? シーブルが釣れるんなら、仕掛けを変えて狙ってみよう。


 昼食は、歯ごたえの良い青菜が入ったチャーハンのようなものに、酸味の強いスープになる。少し辛いのは、食欲を増すための工夫なんだろうな。

 食事が終わると、食器を纏めて【クリル】も魔法で汚れを落とす。食器をナツミさんが仕舞っている間にココナッツを割って、ジュースをカップに分けた。


 周囲には、全く船も人もいないけど、ここはれっきとしたトウハ氏族の漁場だ。安心して漁ができる。

 

 一休みしたところで、俺が根魚をナツミさんが青物を釣ることになった。

 直ぐに当たりが来るから、誰も竿を下ろしたことが無いんだろうな。

 掛った魚は内臓を取り去って、保冷庫に入れておく。後でまとめてナツミさんが捌くと言ってたけど、夜釣はしないのかな?


 夕暮れが近づいたところでナツミさんが夕食を作り始め、俺だけがバヌトスを釣る音になった。

 さすがに夕食時は釣りを止めたけど、ナツミさんの料理を頂きながら夕暮れを2人で眺められるんだから、俺は幸せ者なんじゃないかな?


 夜遅くに屋形の屋根に開いた獲物を入れたザルを並べる。

 時計を見ると10時を回っている。やはりシメノンは姿を見せなかったようだ。ちょっとナツミさんが残念そうな表情をしているけど、明日もあるんだからね。


「並べ終えたよ」

「明日も頑張らないとね!」


 家形の中で、ゴザのような敷物の上で俺達は横になる。

 ハンモックも良いけど、こうしてナツミさんを抱いて寝られるんだから、床の上もいいんじゃないかな。

 

 翌日は、向こうの世界から持ってきた銛を使って漁をする。

 大物でも安心できるのは良いのだが、一々先端が外れてしまうのも問題があるな。さらに大物を相手にするなら都合がいいが、せいぜい50から60cm程度では、今までの銛を少し太くして銛先を開くぐらいで十分なのかもしれない。

 商船に行ったら、ドワーフの職人に頼んでみるか。


 午後の釣りは、シーブルの群れに遭遇して急いで仕掛けを変えての釣りになってしまったが、20以上を数を上げたのはナツミさんの腕が良いからでもある。

 3日目は、素潜り漁だけを行って、トウハ氏族の島に戻ることにした。昼過ぎにカタマランを動かし始めたから帰島は明日の夜中になってしまいそうだ。


 昼ご飯をたっぷり作ったから、夜も走らせるつもりなんだろうか? 満月で光る海面を俺達のカタマランが矢のように進んでいく。

                 ・

                 ・

                 ・

 どうにかトウハ氏族の島に帰島したのは、予定通り深夜になってからの事だった。

 いつもの桟橋に向かうと、グリナスさんのカタマランが停泊している。オルバスさんはまだオウミ氏族の島から戻ってないようだな。

 筆頭次席の辛いところなのかもしれない。


 グリナスさんの後ろにカタマランを停めると、アンカーを下ろして、桟橋の杭にロープを結んだ。


「まだトリティさん達は帰って来ないみたいね」

「何と言っても、漁場の再編だからね。色々とやることがあるんじゃないかな。商船が来てるみたいだから、明日は手伝うよ」

 俺の提案に、ナツミさんが首を振る。

「それは、やらない方がいいわよ。荷を運ぶのは女性の仕事みたい。明日は炭を買い込んどいて欲しいわ。残りがあまり無いの」


 帰り着いた安心感で、ワインを飲みながらの相談だ。

 大漁と言っても良いほどだから、俺達の会話は弾むことになる。

 先ほど、家形の屋根から入り江を眺めた限りでは、カタマランの数は30にも満たない。皆、がんばって漁に出ているんだろう。

 明日は帰って来る船もあるんだろうが、俺達同様に大漁であることを祈りたいところだ。


「雨が来るのかしら?」

 ナツミさんの呟きに耳を澄ますと、ゴォ~という音が遠くから聞こえてくる。下弦の月が空にあるから、南に湧き上がる黒雲がやけにはっきりと見えてくる。


 2人で家形に避難してすぐに、屋根を叩く雨音で俺達の会話ができないくらいになってきた。

 今夜は、もう寝た方が良いのだろう。直ぐに止むだろうけど、そうすれば涼しい風が吹いてくるはずだ


 次の日、ハンモックから起き上がると、隣のハンモックは空だった。

 衣服を整えて甲板に出ると、ナツミさんが朝食を作り始めている。2人でおはようの挨拶をすると、ナツミさんがお茶を入れてくれた。


「カレンさん達もそれなりに獲物が獲れたそうよ。夕方に島に戻ったんですって!」

「次は一緒に行きたいね。やはり素潜り漁なんだろう?」

「そうみたい。グリナスさんもかなりの腕よね」


 釣りは今一だけど、銛はそれなりってことかな? その辺りの話を今日は聞かせて貰おう。

 簡単な朝食を終えると、ナツミさんが保冷庫から一夜干しの獲物をカゴに入れている。

 かなり量があるから、2回は往復することになりそうだ。

 こんな重労働をさせて申し訳ないと思うが、氏族の役割分担はある程度守らないと、奇異な目で見られてしまうからね。


 一服を終えたところで、俺も腰を上げることにした。先ずは、炭焼きの老人達のところに行って炭を買わないと。

 5Dの支払いで、手カゴに山盛りの炭を入れてくれた。

 そんな御老人達に、炭にする焚き木の中から、銛の柄に丁度いいサイズのものを強請ると、タバコ1包で譲ってくれた。案外こっちの方が高い気がするなぁ。


 銛の柄を肩に担いでカタマランに戻ってくると、荷物を置いて商船に向かった。

 1回の店にいた店員に、少し太めの銛を作って貰いたいと話すと、直ぐにドワーフの職人が現れた。


「銛先なら、鉄棒をお前達が加工するんじゃが、変わった銛を作りたのか?」

「変ってるというか……、こんな銛なんですけど」


 銛先の返しを可動式にいる。突いたところで手前に引くか、獲物が逃げようとすれば返しが開く構造だ。

 獲物を取り外す時には手で戻さなければならないが、バネ仕掛けというわけではないからそれほど面倒ではない。


「鋼で良いじゃろう。値段は50Dほどになりそうじゃな」

「これでお願いします。いつ頃出来上がりますか?」


 ドワーフの職人が告げた時刻は昼過ぎだった。

 まだ朝早いんだよな。昼食を食べたら取りにこよう。

 店でタバコの包を2個と紐状のゴムを買い込む。銛の柄にゴムを取り付ける細い紐はまだ道具箱に残っていたはずだ。


 カタマランに戻ると、ナツミさんとグリナスさん夫婦がお茶を飲んでいた。

 ナツミさんの隣に腰を下ろすと、直ぐにお茶のカップを渡してくれる。


「東に行ったんだって? かなりの大漁だったらしいな」

「東に3日というところです。2ノッチ以上に魔道機関の出力を上げましたから、カタマランを走らせたのは1日半でしたよ」


「そういうことか。やはりアオイの言うように、俺達の漁場の周辺は魚が濃いってことだな」

「それだけじゃありません。型も大きいですよ。とはいっても、ハリオ用の銛では少し大きいですから、銛先を作ってもらってるところです」


 グリナスさんが納得したような表情で、甲板に転がっていた棒を見た。


「直ぐに銛を変えようとは思わなかったな。だが、俺達が突いたブラドも航程2日程の場所だから、型はいつもより大きかったことも確かだ。氏族の漁場が外に広がるとなると……、俺も作るべきかな?」


 隣のカレンさんに聞いてるけど、カレンさんに判断できるのかな?

 グリナスさんに顔を向けてカレンさんが頷いているから、作るってことなんだろうけど、あれは尻に敷かれてるってことじゃないか?


「そうそう、実はティーア姉さんところが生まれそうなんだ!」

 グリナスさんの言葉に、俺達は思わず腰を上げてしまった。

 互いにハグして喜びを分かち合う。


「ねぇ、ねぇ、それでいつ?」

「分からないけど、ネイザンさんなら、あそこにいるよ」


 桟橋越しに砂浜を見ると、遠くで砂浜をうろついている人物が目に付いた。あの人がたぶんネイザンさんなんだろうな。

 男なんて、出産で助けることもできないから、いらいらしながら砂浜を歩いているに違いない。

 となると、俺の興味は男か女かということになるんだが、この世界ではお雛様や鯉のぼりの習慣はないみたいだ。ナツミさんがリジィさんに出産のお祝いを聞いていると言ってたから、すでに準備が出来てるのかもしれないな。


「ティーアさんはもうすぐだけど、グリナスさん達はいつになるのかな?」


 何気ない冗談だったんだけど、途端にカリンさんの顔が赤くなった。

 これはひょっとすると?

 隣のナツミさんを見ると、ニヤニヤと目を細めてカリンさんを見ている。


「良くわかったな? 俺も昨夜知ったところだったんだ。次の乾期には俺も父親だ」

「おめでとうございます。良いワインを用意しときますよ」


 ナツミさんも嬉しそうに頷いていたんだが、急に立ち上がって浜辺を見ている。

 

「ネイザンさんの姿が見えないわ!」

「てことは……、生まれたってことだ! ちょっと様子を見て来るよ」


 グリナスさんが桟橋を走って行った。たった一人のお姉さんだからね。ずっと気にしてたんだろうな。


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