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M-060 サイカ氏族への援助


 とりあえず俺達の素性を明らかにして、その知識の出所を明確にしたつもりだ。

 長老達は、龍神が危機を知って対策が取れる人物を送り込んできたと勘違いしてるようだけど、意外とそれが当たってるのかもしれないな。

 ナツミさんの知識はかなりなものだし、俺を使ってそれを実践させているのかもしれない。

 女性の地位は低くはないんだろうけど、氏族会議のような場所での発言権はないから、ナツミさんと一緒に俺がやって来たということなんだろうか?

 まぁ、今となってはどうでもいいことだ。学校で一番の美人を嫁に出来たんだからね。


「……そのような知識があったことから、王国の漁獲高の2割増しには色々と危険な要素があったと思っています。それを防ぐ目的で第三者である商会ギルドに間に入ってもらい、現状の漁獲高をある程度明確にする必要があったわけです」


「2割高が何を示すか分からないということだったのか!」

「数なのか、重さなのか、それとも量なのか。要求事項がまるで分りません。今回は数ということで商会ギルドと調整を図りました。重さであれば一夜干しをしたり、燻製にすることで減ってしまいますし、そもそも頭を落とすことも問題になります。とはいえ、数でも問題があることは確かです。型の大小が反映されません。将来は売上金で対応を図って行きたいところです」


 この辺りまでなら、どの長老も納得して聞いてくれるだろう。

 いよいよ、漁場の話をしなければなるまい。


「各氏族の漁場は外輪船で5日の距離を取っています。これは他の氏族と漁場を取り合わない手段であると聞きました。ネコ族が平和な暮らしを望むことからすれば当然の取り決めともいえるでしょう。

 この版図の中で、漁場を探すことになれば、長期的には同じ漁場で魚を獲り続けることになります。

 回遊魚であれば、問題は大きくないのですが根魚ともなればそもそもあまり活発に動き回ることはありません。だんだんと型が小さくなり、数も減っていきます」


 100匹の魚の群れが毎年20匹の数を増やすなら、20匹までの漁に抑えなければならない。今以上に魚を獲れば、群れは消滅してしまうだろう。


「言われてみればその通り、航程3日程の距離にある漁場の数は10に満たない。現状で漁獲が減っているなら2割増しは漁場を荒らすことになりかねん」


 オウミ氏族の長老が声を絞り出している。自分達の小さな危惧として捉えていたものが、大きな危険性を孕んでいると納得してくれたようだ。


「さらに、別な要因もあります。サイカ氏族の西の漁場が、壊滅的な被害を受けております。海域に流れ込む川は豊かな漁場を形成してくれていたのですが、どうやら川の上流に金属の精錬場を作ったようです。たぶん銅の精錬場でしょう。

 この廃液が川に流入したことで、汽水域の砂泥の汚染が進行した模様です。砂泥の中の虫達が泥と一緒に金属の汚染物を取り込み、それを魚が食べると魚にどんどん金属が取り込まれます。

 そのような魚を我らが食べると、手足のしびれが始まり、頭に障害を持つことにも繋がります。現に、サイカ氏族の子供達に兆候が表れているようですから、この対策は急務となるでしょう」


 各氏族の長老達が驚いたような表情で、サイカ氏族の長老に顔を向けている。サイカ氏族の長老は、静かに頷くばかりだ。


「なら至急に止めさせることだ。それは武力に訴えることになっても構わぬのではないか?」

 ナンタ氏族の長老の1人が立ち上がって檄を飛ばしている。


「無理じゃな。その理由を相手が納得できぬじゃろう。無駄な争いになりかねん」

「知らしめることだけで我慢することになるでしょう。たぶん流域の川魚は死滅しているはずです。川漁をする者達にこの害は最初に訪れたはずです。その原因に悩んでいるはずですから。……そうですね?」


 会議場の周囲を囲む人たちの中に、商会の人がいたから、後ろを振り向いて確認してみた。


「確かに、銅の精錬場を作ってから、不思議な病が流域で発生していました。おっしゃる通り、100人以上の川漁師がいたのですが、現在は廃業している模様です。この話はギルドに伝えてよろしいのでしょうか? あの病と、川魚がいなくなったことを王国はかなり問題視していることも確かです」

「是非とも伝えて欲しい。それでよろしいかな?」


 トウハ氏族の長老の言葉に各氏族の長老が頷いている。これで王国が銅の精錬量を減らしてくれたら良いんだけどね。


「以上の事を鑑み、今後の漁獲高を上げる手立てとして考えられるのは、各氏族の漁場を少し変更することです。現在最大で3日の航程で漁をしていますが、これを5日以上に伸ばせば新たな漁場を開拓できるでしょう。

 とはいえ、サイカ氏族、オウミ氏族共に周囲を他の氏族が取り囲んだ状態でもあります。

 そこで、ホクチ、ナンタ、トウハの3氏族は、内側の航程5日を2日とし、外側に漁場を設けます。

 サイカ氏族は東に7日と2日広げ、オウミ氏族は南北、東にそれぞれ3日分を増やせば、今まで全く漁をしていなかった海域で漁をすることができるでしょう」


 基本的な漁場の海域を示した簡単な図を広げて、長老達に回しながら確認してもらう。

 これで一応の話は終えた感じだな。

 質問に答える形でしばらくはここに立っていなければなるまい。


「問題はその海域で獲れた魚の運搬じゃな」

「我等は、外輪船に燻製小屋を乗せようと考えておる。新たな漁場で獲れる魚は大型揃いじゃ。燻製にすることで、型の違い、重さ、数ではなく売り上げでの2割増しを将来的には考えておる」

 

「氏族の貯えを放出することになりそうじゃな。とはいえ、現状での打開策でもある。新たな漁場が複数見つかれば2割の増加でも魚を減らすことにはならんじゃろう」

「我等の動力船は小さい。東に新たな漁場を探すことは困難に思える」


「オウミの連中は小型の動力船を使う者が多いのではないか?」

「最初の動力船じゃからのう。それは他も同じじゃろうが、確かに多い。ん、その中古を譲ることにするのか? じゃが、元は金貨3枚の船じゃぞ」


「俺が毎年金貨を2枚送りましょう。5年で良いですか?」

「待て待て、それでは会議にならん。我等は同じネコ族、ニライカナイの国民なのじゃ。4つの氏族で毎年1隻の中古を送るぐらいは可能ではないのか?」


「我等にも貯えが無いわけではありません。小型の動力船5隻が揃えられたところで、後は氏族で何とかできると考えるしだいです」


 サイカ氏族の矜持もあるってことなんだろうな。


「だが、最初に多いに越したことはない。先ほどアオイの言ったことは、アオイにとっては容易なことでもあるのじゃ。トウハ氏族で唯一、上級魔石を得ることができる漁師だからのう」

「皆さんの矜持も理解したつもりです。では次のリードル漁で得た上級魔石1個を、トウハ氏族の分担に加えることでこのような版図の制約を提案した見返りにしたいと思います」


 小型動力船の中古は金貨1枚と言うことだ。最初から1隻が多い分には問題あるまい。

 質問が出ないことを確認したところで、再び長老の後ろに座り込んだ。

 おばさんがココナッツのカップに入った酒を渡してくれたんだけど、お茶のように飲んでたら明日はハンモックから出られないに決まってる。

 少しずつ飲んでいよう。


「……ということで、援助金は大銀貨1枚を各氏族で出すということで良いじゃろう。問題は、各氏族の版図の変更じゃが……」

 

 トウハ氏族の長老が再びラグの上に立って、俺の案の再確認をしている。

 版図とはしていても、あまり利用していなかった海域だから、大きな問題はなさそうだ。

 

「すると、トウハ氏族は、西のリードル漁場を我等に譲ってくれるのか?」

「版図の調整でそうなるのう。中級魔石までは取れる良い漁場であったが、致し方あるまい。我等は放棄して新たな漁場を探そうと思う」


 ナンタとホクチ氏族はリードル漁の漁場を変更しなくともいいようだ。小さな漁場がサイカ氏族の版図に入るようだが、そこはオウミ氏族もリードル漁をしていないようだ。群れがそこまで到達しないのかもしれないな。低級魔石は取れると言ってたから、サイカ氏族も将来的には動力船を自前で調達できるのかもしれないな。


 昼になって、会議は一時中断になる。

 今のところは問題なさそうだな。会議場を後にして、俺達のカタマランに戻るとナツミさん達が食事を用意して待っていてくれた。

 会議の出席者には食事が提供されるとのことだが、あの場で食べるのは俺には少し早いようにも思えるんだよな。

 

 会議の状況を話しながら、食事を取る俺の周りにはグリナスさん達もいつの間にか集まっている。


「すると、各氏族の漁場の変更は、大筋合意されているということなんだな?」

「まだまだ会議は続くようですから、予断は許されませんが、各氏族の長老も型落ちや数の低下を憂いているようです」


 グリナスさんの問いに答えると、トリティさん達も頷いている。やはり、現場で見ているからなんだろう。


「商会にも釘を刺しといたよ。やはり原因に悩んでたみたいだね」

「サイカ氏族に影響が出るなら、川漁師はすでにいないはずだからね。商会が動いて少しは操業を控えてくれると嬉しいんだけど」


 被害が広がっても、それは王侯貴族の生活に直結しなければ動かないんじゃないかな?

 そんな世界であることが問題ではあるんだけど、急に変わるものでもない。

 俺達に出来る範囲で、努力することで満足しなければなるまい。


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