表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
186/654

M-048 ナツミさんの操船デモ


 翌日朝早く、トリティさんに引き連れられたナツミさん達が買い出しに出掛けた。

 長老から銀貨を3枚の食費を貰ったらしく、俺達の作業期間中はトリティさん達が食事を作ってくれるらしい。リジィさんと2人では到底無理な話だから、オルバスさんの船の左右に、カタマランを交代で横付けして、嫁さん達が手伝うことになったらしい。


 オルバスさんもネイザンさんを連れて商船に向かったし、俺はグリナスさんの仲間達と、目印にする竹竿を島の竹林から切り出すことになった。

 とりあえずは20本と言われたが、多い分には問題ないだろう。


「サンゴを動かすんだろう? 銛の柄になるような太い竿だっているんじゃないか?」

 グリナスさんの一言で、数本の立木まで切り取ることになったけど、これで動くのだろうか? 少し心配になって来たな。


 俺達が準備をしている間に、マリンダちゃんとラビナスがおかずを釣りに出掛けたようだ。

 ザバンで入り江の出入口付近で釣りをすると、商船から戻って来たナリッサさんが教えてくれたから、今夜は浜で宴会になりそうな雰囲気だな。

 どうにかカタマランに屋根に竹竿を乗せ終えたところで、水汲みに出掛ける。水ガメを1つ増やしておいたから、飲料水が足りなくなることはないだろう。

 3回往復して、オルバスさんのカタマランの水ガメも満杯にしておく。

 竹の水筒が6個残っていたのも助かる話だ。全部に水を入れ終えるころには、浜で焚き火が始まっていた。


「終わったの? 皆待ってるわよ」

 俺の仕事が終わるまで、ナツミさんは待っていてくれたみたいだな。

 2人で桟橋を歩いていると、焚き火を囲んでいた連中が手招きしている。早くいかないと夕飯を食べそこないそうだ。


 夕食が終わっても、焚き火の周りには何本かの串焼きが残っている。まだ足りない連中が、それを肴にココナッツジュースで割った蒸留酒を飲んでいる。

 あまり飲むと明日がきついから、進められるたびに断って1杯だけで止めておく。


「明日の朝早くに出掛けるぞ。法螺貝を合図に準備ができた船は白旗を上げてくれ。まだ整わない場合は黄色だ。全部そろったのを見計らって法螺貝を2度吹く。赤の旗を俺が出すからその後を付いてきてくれ。順番はネイザンに任せる。殿はネイザンに頼んだぞ」


 オルバスさんの言葉を聞いて、重役を仰せつかったネイザンさんは嬉しそうだな。友人から酒を注いでもらっているけど、明日はだいじょうぶなんだろうか?


「一応、邪魔になるサンゴを移動することは許しを得ている。単に破壊するのではなく、根元から折るのだぞ」


 そうなると運ぶのが大変な気がするな。ザバンの下に吊るせば少しは何とかなるかもしれない。浮力は馬鹿にならないところがあると聞いたこともあるからな。

 大まかに作業を確認したところで俺達は焚き火を後にした。


「だいじょうぶかな?」

「何とかなるんじゃない。この入り江の灯台だってみんなで作ったと聞いたわよ。結構手先の器用な民族なのかもしれないね」

 ナツミさんは前向きだな。トリティさんに達に感化されたかな?


 次の日。マリンダちゃんの朝食を告げる声に跳び起きたら、ハンモックがクルリと回って床に背中を強打してしまった。


「だいじょうぶにゃ?」

 大きな音を立てたからな。家形の扉をそっと開けて、マリンダちゃんが俺を見ている。

「だいじょうぶだ。直ぐに行くから用意しといてくれないかな」


 今日は船を進めるだけだから、Tシャツに短パンで十分だ。家形を出ると、綺麗に晴れてはいるんだが油断はできない。

 早いところ、朝食を頂いておこう。

 いつもの朝食だけど、どうやら俺が最後みたいだ。ナツミさんが鍋に分けて貰ってるのは朝食の残りご飯のようだ。昼食はチャーハンモドキにスープかな?

 どうにか朝日が昇ったところだ。それでも入り江の中ではカタマランが動き始めている。


「これにお茶が入ってるにゃ。そろそろカタマランを動かすにゃ」

 トリティさんが竹の水筒を渡してくれた。ナツミさん達はすでにお茶の時間まで終わったんだろうか。

 自分達のカタマランに戻ってみると、すでにロープが解かれていた。後はアンカーを上げるだけになっている。


「食事が終わったのね! 船首のアンカーをお願い。旗は私が上げておくわ」

 言ってる傍から、白い旗を上げている。まだ法螺貝の音がしないんだけど、家形の屋根に上って周りを見てみると何隻かのカタマランに白旗が上がっている。

 黄色の旗をなびかせてこちらに進んできたのはネイザンさんの船だな。ティーアさんもトリティさんが先導するから、張り切っているんだろうな。


 船首に到着したところでアンカーを引き上げる。ナツミさんに片手を上げて合図すると、直ぐにバウ・スラスタが動き出した。

 さて、船尾でお茶でも飲むか。船尾のベンチに腰を下ろし、竹筒を傾けてお茶を飲む。

 大きな法螺貝の音がしたけど、すでに出掛ける船は全て旗を上げてるんじゃないかな?

 そんな中、ネイザンさんのカタマランが俺達の近くを通り過ぎる。ナツミさんが操船楼から顔を出してティーアさんに手を振ってる。

 鋭い笛の音が2回聞こえると、再びオルバスさんの吹く法螺貝の音が2回聞こえてきた。

 いよいよ出発だ。総勢10隻のカタマランがゆっくりと入り江の出入り口に向かって1列に進んでいく。


「アオイの順番はあの船の後になる。後ろから2番目だが、南の調査に向かったんだから頼りにさせてもらうよ」

「あまり頼りにはならないと思いますけど、操船はだいじょうぶですよ」


 ネイザンさんがカタマランを寄せて、俺達の順番を教えてくれた。

 操船楼では、ナツミさんがティーアさんと話してるんじゃないかな。


 ネイザンさんのカタマランが後退していくと、ナツミさんが首を回して俺に出発を告げる。片手を上げて了解の合図を送ると、直ぐにカタマランが方向を変える。

 たぶん、後ろのティーアさんが首を傾げてるんじゃないかな。


 船団は、入り江を出ると速度を上げ始めた。直ぐに10ノットを越えたみたいだ。ナツミさんにしては、もうちょっと速度を上げたいところなんだろうが、船団を組んだ状態だからどうしようもないんだろうな。

 後ろを見ると、30mほどの間隔を開けてネイザンさんのカタマランが見える。パイプを楽しみながらのんびりしていよう。

 

 たまにナツミさんに代わって舵を握るんだが、直ぐに戻って舵を替わってしまう。余り俺の腕を信じてはいないように思えるんだよね。

 そんなことで、4時間ほど進んだところで昼食を取ることになった。サンゴの崖が直ぐ側だ。遠くに見えるのがロデニルを捕らえるカゴ漁の船団だな。


「バレットさんと南に行った時よりもだいぶ遅いわ。これだと、サンゴの海域に到着するには、予定通り三日目になりそうよ」

「魔石6個の魔道機関だからあまり無理ができないみたいだね。それは仕方がないよ」


 チャーハンモドキのご飯かと思ったんだけど、米粉の団子入ったスープだった。保冷庫に入れとけば、悪くならないってことなのかな?

 ココナッツジュースを飲んでいると、法螺貝の音が聞こえてきた。再び南に向かって船団が進んでいく。

 

 俺には同じような風景が続いているように思えるのだが、ナツミさんには状況が分かるみたいだ。海図を手に、休憩時間ごとに現在地を教えてくれる。

 そんな航海を続けて、3日目の昼下がりに問題の海域に到着した。


 法螺貝の合図で船団が停止すると、オルバスさんのカタマランがゆっくりと俺達のカタマランに近づいてきた。


「なるほど、とんでもない海域だ。本当にこの海域を抜けられたのか?」

「そうですね。一度見ていてください。一応水路はあるんですが、他のカタマランの操船が追従してくれるかどうかを見てくださると助かります」


 ナツミさんの話しでは、デモをするってことなんだろうな。


「分かった。ナツミの操船を見て、判断すればいいってことだな。一旦海域を越えたら戻ってくるんだぞ」


 後ろのネイザンさんのところに行くと、船団を横に並べるように伝えている。

 ナツミさんは、カタマランを問題の海域に向けて進めていった。


 ちょっとハラハラしてきたな。俺も家形の屋根に乗っていよう。日差しは強いけど帽子を被っていればそれほどでもない。空も今のところは持ってくれるだろう。


 海域の手前で9隻のカタマランが並んだ。アンカーを下ろしているようだ。皆家形の屋根に乗って、成り行きを眺めている。

 笛が鳴ったのは、操船を見せてみろと言う合図なんだろう。

 ナツミさんがいきなりカタマランの速度を上げて海域に突っ込んだ。

 どう考えても15ノットは出ているぞ。

 それでいて、カタマランを自在に操り始めた。バウ・スラスタを多用しているから横滑りするような動きさえ伴なっている。


 15分もかからずに海域を抜けると南に進みながら反転を始めた。

 反転が終わると再び高速で海域に入る。ナツミさんの操船技術があればこそなんだろうな。例えバウ・スラスタがあったとしても俺には無理だろう。


 海域を抜けた途端に速度を落とす。並んだカタマランを過ぎたところで再び進路を変更して、オルバスさんの隣にカタマランを停めた。

 急いで船首に向かいアンカーを下ろす。今日はここで休むのだろう。

 反対側には、ネイザンさんのカタマランが寄ってきて舷側を合わせて船を停める。


「まったく呆れた操船だ。あれならレミネィ達も唖然としたろうな」

「トウハ氏族で一番にゃ。私もあれはできないにゃ」

 

 俺達がオルバスさんの甲板に移った途端に、オルバスさん達がナツミさんを称賛してくれた。でも少し呆れた口調なんだよな。


「ネコ族の女性が全てナツミと同じような操船技術を持っているわけではないにゃ。呆れかえるほどの上手さにゃ」

「ナツミ達には全く問題ない海域でも、俺達にはとんでもない障害になる。やはり水路を作るかなさそうだな」


 ナツミさんに大まかな水路を描いてもらうと、トリティさんがその水路を見ながら唸っている。うねうねしてる場所もあれば直角に折れてるところもあるようだ。


「でも入り口はまっすぐですね。ここを伸ばす形で進める外に手はなさそうです」

「そうなりそうだな。長老は水路の入り口と出口にはきちんと目印を作るように言っていたが、先ずはこの入り口に目印を築かねばなるまい」


 サンゴを積み上げて作るらしい。

 全てのサンゴを破壊するわけではないから、龍神も見逃してくれるはずだと言っていたけど、かなり自分達に都合よく解釈してないか?

 だけど、岩を積むとしても材料を運ぶのは大変な作業になる。なるべく自然破壊をしないように工事を進めるしかなさそうだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ