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M-047 新たな漁場のために


 グリナスさんと一緒に2日の漁を行って帰って来た。氏族の島から東に1日の漁場での漁獲はそれほど多くは無かったが、シメノンを釣り上げたおかげでそれなりの報酬を得ることができたようだ。

 トリティさんは、ナツミさんが三分の一の報酬を遠慮していたけど、無理に受け取ってもらった。残った三分の二を3等分したから、マリンダちゃんも喜んでたな。3人で協力して釣りをしたんだから分配は当然だろう。

 上手い具合に商船が来てたから、ナツミさん達はカゴを背負って出掛けて行った。

 まだたくさんお米が残ってると言ってたけど、遠征時にどれだけ買い込んだんだろう。


「中々の漁獲じゃないか。東の海か?」

「ええそうです。シメノンの群れに当たりましたから、それなりの報酬を得ることができました。今夜はシメノンですよ」

 トリティさんに3匹進呈したら喜んでくれた。夕食が楽しみなところだ。

 

 こっちに来いと、オルバスさんが手招きしてるから、隣に座るとトリティさんがワインのカップを渡してくれた。

 まだ夕食には間があるんだけど、今から飲んでたら出来上がってしまいそうだ。


「どうやら、長老達も決断してくれたぞ。アオイの案を使うと言っていた。雨期に1度はその仕事をしなければならん。その割り振りをバレットが今頃悩んでいるはずだ」

「あの海域に水路を作るということですね。そうなると、もう1つは?」

「水路ができる寸前で十分だろうということになった。かつての大型船を3隻並べて作ればそれほどの金額にもならんだろうと言っていたぞ」


 かつての大型船ということは外輪船ということなんだろう。速度は5ノット程度なんだろうが、移動できると言うことが最大の利点になる。


「1隻の大きさが、4FM(12m)にもなる船だ。横幅も1FM半(4.5m)はあるぞ」

 自慢げに話してくれたけど、それを3隻並べた甲板の大きさは15m×15mほどになるんじゃないか? 小さな燻製小屋なら2つは十分に乗せることができそうだな。

 その船をあの海域に航行させるんだから、水路の横幅は20m以上必要になるだろう。かなりの大工事になりそうだ。


「カヌイの婆さん達も、曲がった水路を真っ直ぐにするだけだ、と了承してくれたらしい。とはいえ、サンゴの一部はそこでの命が終わることも確かだ。水路を切り開く前には龍神に祈れと言っていたぞ」

「俺には、どのように祈れば良いかが分かりませんが?」

「俺達が酒を捧げる時に頭を下げれば良い。感謝の気持ちがあれば十分だ」


 かなり好意的な神なんだな。それぐらいはできそうだ。でも、あの海域に海人さんの遺灰があるなんてことはないんだろうな? 俺の心配はそれだけだ。


「ネコ族のしきたりでは、遺灰をサンゴの穴に入れると聞きましたが?」

「あの海域まで行くような酔狂な奴はいないはずだ。一応、確認はしておくが、アオイの心配はカイト様ということだろう?」


 海人さんの遺灰は3人の妻と一緒ということらしいが、その場所をおおよそのところでトウハ氏族の者達は知っているらしい。

 海人さんは龍神や神亀と出会っている。となれば、その縁の地ということになるのだろう。


「カタマランで水中を泳ぐ龍神を見たのが、この島の東。神亀と子供達が遊んだ場所は、南のサンゴの崖になる。最後に、龍神がその姿を現して妻の難産を救った場所は、東にある島の入り江だ。その島の存在を知る者は、それほど多くはない。トウハ氏族の軍船を隠蔽している島だからな。俺はその入り江のどこかと思っている」


 そういえば、ニライカナイには軍船が何隻かあると聞いたが、未だに見たことが無い。その時に備えて隠蔽しているのは、海人さんの考えなんだろう。

 この時代に大砲を乗せた船を作ったんだから、海人さんの知識は半端じゃないな。


「二か月も過ぎたらリードル漁ですよ。工事はその後ということですね」

「そうなるな。たぶんアオイ達は最初の組になるだろう。バレットの相談に乗ってやってくれ」


 どれだけ協力できるかは分からないけど、出来る範囲でということで頷いておく。

 そうなると、工事の方法も考えないといけないな。

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 オルバスさん達は頻繁に長老達の元に通っている。

 そんなことだから、あまり遠くに行かずに漁を行うことになってしまうのだが、乾季の漁としてはまずまずの成果だと、トリティさんが褒めてくれた。


「グリナスの方は、あまり安定しないにゃ。でもアオイなら十分に中堅の腕があるにゃ」

「もう、教えることもないにゃ。リードル漁が終わったなら、ナツミと2人でも十分にやっていけるにゃ」


 2人のご婦人が俺達の腕を認めてくれたということかな?

 航海ではリジィさんにも色々と助けて貰えたけど、今度はナツミさんだけになってしまう。かなり心労が溜まりそうだな。

 そんな心配の目でナツミさんを見たら、嬉しそうな表情で胸を張っていた。余りストレスを貯めない性格なんだろうか? 物事は全て前向きに捕らえてるし。


「そうそう、頼まれたものができましたよ。こっちが竿で、これが仕掛けです。仕掛けは根魚用と上物用です。浮きがあるから分かりますよね」

 仕掛けと一緒に手作りの餌木も渡しておく。

 どこに嫁に行くか分からないけど、少しは旦那を助けることができるに違いない。


「あまり教えられなかったけど、ありがとうにゃ」

 リジィさんが嬉しそうに俺から品物を受け取り、家形の中に持って行った。少しずつ準備してるんだろうな。次はマリンダちゃんになるのかな?


「独り立ちできると言っても、リードル漁は俺達だけではできません。今まで通り、オルバスさんの焚き火を使わせていただきたいんですが?」

「アオイ達は家族にゃ。リードル漁は家族で行うにゃ」


 トリティさんの言葉を聞いて、ナツミさんが抱き着いてるぞ。氏族は助け合うと言っても、家族同然に付き合ってくれるということではないからね。

「将来はラビナスも加わるにゃ。今年も焚き火は大きく作るにゃ!」


 あの島に植林するということはできないからなぁ。たっぷりと焚き木を運ばねばなるまい。

 

 何度か近場に出漁していると、リードル漁の時期がやってくる。

 事前に集めた焚き木の束を甲板に積んで、船団を組んで出掛ける。

 海人さんの残してくれた銛を研ぐたびに、だんだんと気分が高揚してくるんだよな。まだまだ海人さんの腕には達してないと思うんだが、親父のくれたあの銛で思う存分大物を突きたくなってしまう。

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 今回のリードル漁は、中日に午後から豪雨に襲われた。

 事前にカタマランに避難することができたが、リードルの渡りが日中にも行われると初めて知った漁だった。

 それもあって、中位魔石と低位魔石の数はいつもよりも減ったが上位魔石は4個手に入れたから、全体としてはまずまずといった感じだ。

 氏族への上納とトリティさんに魔石を渡した後で、ナツミさんが今までのお礼だと言って、リジィさんに魔石を1個手渡している。ナリッサさんの嫁入りに使ってもらいたいところだ。


「ヤグルが昨夜やって来た。本来ならリジィということになるんだろうが、叔父だから構わんだろう。これで、雨期の半ばには新たな夫婦の誕生になるな」

「ヤグルの母さんは良く知ってるにゃ。私より2つ年下でいつも姉さんと呼ばれてたにゃ」

 

 トリティさんを姉さんと呼ぶぐらいなら問題はあるまい。グリナスさんも顔見知りのようだ。となると、俺達と一緒に漁に出掛けることもあるってことになる。


「今夜の集まりで最初の工事をいつ始めるかと、顔ぶれが決まるぞ。必要な品は明日にでも揃えておくことだ。アオイ達は2日で現場に到着できるようだが、小型のカタマランともなれば3日は見ておかねばなるまい」


 往復で6日。工事も同じ具来の期間を想定しておけばいいか。そうなると、15日程度の食料を確保しておくことになる。乾季の遠征と同じと思えばいいのかな。


 翌日、ナツミさんはトリティさん達と商船に買い物に出掛けた。朝からオルバスさんの姿が見えないのは、バレットさん達と作業の調整でもしてるんだろう。早めに、俺達の作業時期を教えて貰わないと出漁もできないんだよな。


 暇つぶしに餌木を作っていると、グリナスさんがやって来た。やはり手持無沙汰ということなんだろう。


「餌木を作ってるのか? 相変わらず器用だなぁ」

「1個進呈しますよ。尾の針を商船のドワーフに作ってもらいましたから、これなら途中でばらすことも少ないと思いますよ」

 

 何と言っても、外周に12本の針が2段になって付いてるからね。ナツミさんの持っていた餌木を参考に持って行ったらドワーフの職人がやる気を出して作ってくれたんだよな。


「ありがたく頂くよ。カリンも結構使えるんだ。シメノン釣りは俺より上手いぐらいだ」

「投げ込んで直ぐに引いてはダメですよ。そうですねぇ、俺は5つ数えてから引き始めます。ナツミさんは数を色々変えて引いてますよ」


 驚いたような表情で俺を見てるから、今まではそんなことはしなかったということなんだろう。

 ルアー釣りの初歩なんだけどなぁ。いかに棚を合わせるか、一番簡単な方法は沈む深さをアズを数えて知ることだ。


「ひょっとして、ナツミが大きなシーブルを釣るのも似たやり方なのか?」

「あの竿ですからねぇ。結構遠くまでルアーを飛ばせるんです。その日の天候でルアーの色や深さを変えるらしいんですけど、俺は餌釣りですから」


 ルアーがいいのか、餌釣りが良いのかは判断に困るところだ。とはいえ、俺にルアー釣りができるとは思えないし、専用の竿もないからなんだけどね。

 

「ここにいたか! 決まったぞ。最初は、俺とアオイにネイザンとその仲間だ。都合10隻になるが、向こうで10日の仕事をする……」


 カタマランの甲板に隣の船からオルバスさんが飛び移って来ると、サンゴの海での作業の話が始まった。

 俺は最初の組か。食料は15日と予想してたんだけどオルバスさんの告げた量は20日間だった。たぶん余分の食料は、帰った時に商船が来ていないことを想定しての事だろう。商船がまだ桟橋に停泊しているから、早めにナツミさんに教えておかないと。


「出発は?」

「用意する品もあるだろう。明後日の朝になる」


 今日と明日で準備ってことじゃないか。となると、先ずは水汲みからだな。竹の水筒もたくさん作ったから、それも使えそうだ。

 


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