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M-043 バレットさんとの合流


 真蒼の空の下、青と緑の複雑なグラジエーションを見せる海をカタマランは北西に向かって進む。東に向かっていた時に比べて倍近い速度を出しているのは、約束の時間にひょうたん島に戻るためなんだろう。


 操船はナツミさんが行って、操船楼の少しに前の家形の屋根にマリンダちゃんが乗って周囲を監視している。

 まだひょうたん島を発見してはいないようだな。


「バレットの方はちゃんと見つかったかにゃ?」

「東にも有望な漁場があるくらいですから、西にだってあると思いますよ。そろそろ昼近くになりますが、まだ見つからないようですね」


 俺の言葉に、リジィさんが心配そうな顔をして、北の島を見ている。

 近くにある島はお饅頭のような形で、小さなものばかりだからひょうたん島ではなさそうだ。

 三角形の斜辺を航行しているようなものだから、距離はかなりあるんじゃないかな?

昨日から北西に向かっているけど、それほど速度を出してはいなかったからね。


 リジィさんが朝に沸かしたお茶を、保冷庫から出してカップに注いでくれた。冷たいお茶が火照った体に染み入るようだ。

 マリンダちゃんを呼んで、お茶のポットを渡しているのはナツミさんとマリンダちゃんにも飲むようにとのことだろう。

 屋根の上で暑くないんだろうか? 熱中症にでもなったらと気になってしまう。


「見付けたにゃ! ようやく帰って来れたにゃ」

 オペラグラスで前方を見ていたマリンダちゃんが家形の屋根に立ち上がり、前方に腕を伸ばして教えてくれた。

 舷側から身を乗り出して前を見たけど、この位置ではまだ見えないようだ。

 ナツミさんも双眼鏡を片手に持って頷いているから、高い位置なら見えるってことかな? となると、到着にはまだ時間が掛かるってことになる。


「バレットは先に来てるかにゃ?」

「そこまでは分からないにゃ。でも、この速さなら直ぐに分かるにゃ」


 確かに、バレットさんが先に着いてると、一言ありそうだな。できれば俺達より少し遅れて欲しいところだ。

 しばらくすると、俺の目にも特徴ある島が見えてきた。どうやらバレットさんはまだ見たいだから、ホッとしたところでパイプに火を点けて船尾のベンチに腰を下ろした。


「もうすぐ島に着くにゃ。昼食は船が停まってからでいいにゃ」

「そうですね。周囲の海で夕食用の獲物も獲れそうです」


 あまり銛を使ていないのも問題かもしれない。氏族の島がもう少し近ければ、大量の獲物を持ち帰られるのだが……。


「あれって、バレットさんのカタマランよね。向こうも帰って来たみたい」

 ナツミさんが南西の方向に腕を伸ばして教えてくれた。

 距離にして3kmほどじゃないかな。ほとんど同じ時刻に帰ってきた感じだ。


 ココナッツを3個持ってきたから、穴を開けてあげたんだけど、リジィさんは中身のジュースをポットに入れている。最後に蒸留酒をカップに2杯を入れたってことは、皆で酒盛りってことかな?

 

 やがてひょうたん島の渚近くでカタマランを停めると、急いでアンカーを下ろす。

 南に目を向けると、こちらに一直線に向かってくるカタマランが見えた。10分ほどで到着するだろう。


 今の内に行ってくるかと、銛を持って海に飛び込んだ。

 それほど大きな砂浜ではないから、直ぐにサンゴの海が俺の前に広がって来た。水深は5mほどある。南に向かって急に落ち込んでいる感じだ。

 俺の姿に驚いたブラドが慌ててサンゴの裏に隠れたから、最初の獲物にしようと息を整えてダイブする。

 銛を近づけてもジッとしているのはそれだけスレていないってことなんだろう。ほとんど魚体に触れる近さで左手を緩める。

 銛は狙いたがわず、頭に近い鰓の上部に突き刺さった。

 急所だから、暴れることもない。ゆっくりとサンゴの下から引き出して海面に向かう。

 

 カタマランの甲板に獲物を乗せると、バレットさんのカタマランが隣に停泊していた。

 俺の獲物を見て指を3本広げたから、もう2匹突いてこないといけないってことかな?


 とりあえず、バレットさんに頷くと、再び沖を目指して泳ぐ。

 カタマランを往復する漁は広範囲に素潜り漁ができないのが難点だ。

 それでも、目標より1匹多い4匹を突いたところで、カタマランに戻った。


 装備を外すと、後ろからココナッツのカップがぬ~っと横に現れた。

 カップを受け取って顔を向けると、笑みを浮かべたバレットさんがいた。


「良い型だな。やはり素潜りも期待できる」

 後ろのベンチに顎を向けているのは、そこに座れってことなんだろう。ナツミさん達は2隻のカマドを使って夕食の準備を始めたようだ。マリンダちゃんもおかず用の竿で、何かを釣ったらしく、ナツミさんが包丁を振るっている。

 売るに出すわけではないから、リジィさんが後ろにいなくともだいじょうぶということなんだろうけど、豪快に包丁を魚に叩きつけてるぞ。


「西の方はかなり期待できる。南も同様だな」

「東もサンゴの崖や、長く伸びた砂地もありました。ロデナスも期待できますよ」


 俺の言葉に頷きながら、ココナッツジュースで割った蒸留酒を飲んでいる。

 それだけなら笑顔となるんだろうが、バレットさんの表情はそれほど明るいものではない。

 タバコ盆の熾火でパイプに火を点けたところで、ゆっくりと煙を吐く。

 夕暮れが迫っているから、ひょうたん島が赤く彩られてきた。


「ひょっとして、あの海域ですか?」

「あれさえなければ……。と妻達も言っていたな。ナツミ並みに海を読んで操船ができるものはトウハ氏族にいないだろう。妻達が羨んでいたからな」


 やはり、思った通りか。

 偏向サングラスとバウ・スラスタが無ければ、ナツミさんにだって無理だったに違いない。だが、その先に豊穣の海があるとなると、諦めるのはもったいないということになるんだろう。


「迂回しようとは考えないんですよね」

「それは俺も考えたが、迂回すれば半日は余分に掛かるだろう。氏族の島から離れているから、たとえ半日と言えども魚を傷めてしまうことになりかねない」


 このひょうたん島を拠点に漁をすれば、燻製を氏族の島に運ぶことになるんだろう。燻製なら半日ほどの時間が問題になることもないんじゃないかな。


「手がないこともないんです。あの海域に水路を作るのはどうでしょうか? 船の進行に邪魔になるサンゴは別な場所に運ぶことになるでしょうけど……」

 バレットさんが、ドキッとしたような表情で俺を見る。

 しばらく口を開けてジッと俺を見ていたが、手に持ったカップを口に持って行くと一息で飲んでしまった。


「その考えが浮かばなかったな。確かに、水路があれば簡単に航行できるだろう。作るのは面倒だが、出来ねぇわけじゃない。帰ったら氏族会議に諮る必要もあるだろうな。場合によってはカヌイの婆さん達の助言も得る必要があるだろう」


 後はバレットさんに任せられそうだ。

 俺からオルバスさんに言うのも気が引けたんだよね。


「後で、東の海図をお渡しします。それとバレットさんの調査を合わせれば一応、終了になるでしょう」

「そうだな。あの面倒な海域を越えたら1日漁をして帰るか。獲物を持たずに帰るのもちょっとなぁ……」


 そんなんバレットさんに顔を向けて、笑顔で頷くと俺も肩をガシ! と掴んで笑顔を浮かべる。根っからの銛漁師だ。

 大型の魚はあの辺りにもたくさんいたからね。1日もザバンで漁をすれば大型のブラドを10匹以上は突けるに違いない。それに、あの海域からはカタマランで飛ばせば2日で氏族の島に帰れる。


 夕食は、ブラドの焼き魚を解してご飯に混ぜたものと、カマルの唐揚げ、それにブラドのアラを使ったスープだった。未成熟のマンゴーが一夜漬けになって出て来る。これも俺の好物なんだよな。


 食後はワインを飲みながら東西の漁場を話し合う。

 西の海域ではたくさんのシメノンの群れがいたらしい。

 雨期でもそれなりに収入がられるんじゃないか? 2割増しの漁獲を考えると、やはり今までよりも離れた場所で魚を獲ることになりそうだな。


 翌日は早めにひょうたん島を出航して、北に向かって進む。

 サンゴ礁が発達した海域に入ると、俺達のカタマランが先行して進む。自転車程度の速度を出し進む俺達の直ぐ後方をバレットさんのカタマランが付いてくるけど、レミネイさん達の操船だってナツミさんに負けてはいないと思うな。

 俺達のカタマランが海面に付ける航跡をきちんと辿って付いてきている。


 1時間も掛からずに海域を抜けると、今度はバレットさんのカタマランが先行する。

 明日の漁を考えてるはずだから、どんな場所にカタマランを停めるんだろう? そんなことを考えながら船尾のベンチに腰を下ろしてパイプを楽しむ。


 夕暮れにはまだ早い時間にバレットさんがカタマランを停船させた。

 北東から南西に延びるサンゴの崖のすぐ傍だ。これなら夜釣で根魚も狙えるんじゃないか?

 直ぐにおかず釣りの竿を出すと、良い型のカマルを数匹釣り上げることができた。1匹はおかずになるようだけど、残った3匹をナツミさんが餌にするため三枚に開いて身を短冊にしている。アラは昨日と同じようにスープになるのかな?


 夕暮れにはだいぶ間があるけど、早めに食べて夜釣りを始める。と言っても、まだ日が落ちるまでには時間がありそうだけどね。

 

 サンゴの崖からは数mほど離れているから、根魚だけとは限らないんじゃないかな?

 仕掛けを落とすと直ぐに当たりが来る。

 グイグイと魚特有の引きが竿に伝わるけど、ハリスは5号を使っているからそう簡単に切れるものではない。しばらくドラグを絞って耐えていると少しずつ引きが弱まってくる。

 リールを巻いて、リジィさんが持つタモ網に魚体を導くと、「今にゃ!」と言いながらリジィさんがタモ網を引き上げる。

 バタバタと甲板で暴れるバヌトスの頭を、ナツミさんが棍棒でポカリと叩く。

 先ずは一匹だ。大きさが50cm近い魚体だ。こんな型が揃うんなら、直ぐに皆がやってくるんじゃないか?


「次は私にゃ!」

「引き上げるのは私が先よ!」


 ナツミさんがマリンダちゃんと張り合っているけど、さてどちらが先になるのかな?

 餌を付け替えた仕掛けを投げたところで、パイプに火を点けて2人の魚との闘いを見守ることにした。



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