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M-040 5日の距離を3日で進め!


 バレットさんのカタマラン左後方に位置する形で、ナツミさんは船を進めるようだ。

 直線距離で50mも離れていないけど、横には20m以上離れているから急に舵を切っても衝突することはないだろう。それに俺達のカタマランにはバウ・スラスタがあるから小回り半径が極めて小さい。


「バレットの船には2人の妻と男女の子供が乗ってるにゃ。このまま夜になっても何の問題もないにゃ」


 そんなことを言いながら、コメ団子の入ったスープを朝食に出してくれた。

 ナツミさんは俺達の後になってしまうのは仕方がないところだ。俺が代わってあげてもいいんだが、次はマリンダちゃんが操船するらしい。

 操船は女性の仕事と役割分担ができているらしく、操船楼に上った男性をまだ見てないんだよな。俺が操船したことをグリナスさんに話したら驚いていたぐらいだ。


「じゃあ、代わるね!」

 早々と食事を終えたマリンダちゃんがハシゴを上っていく。直ぐにナツミさんが降りてきたから、ちゃんと引き継げたようだ。

 お団子スープを入れた真鍮の深皿を受け取って嬉しそうに、先割れスプーンで団子を食べている。


「現在の速度は2ノッチよ。バレットさんのカタマランも魔道機関を強化しているみたい。12ノットは出てるんじゃないかしら」

「そんなに出してるの? 普段とあまり変わらない気がするけど」

「たぶん、グレミナが操船してるにゃ。トリティがいたら競争が始まるところにゃ」

 

 リジィさんが困った人達だというように、うつむいて首を振っている。

 面倒見の良いトリティさんの困った一面なんだろうな。ということは、トリティさんとグレミナさんも昔からライバルだったということか!

 そういえば、婚礼の航海の獲物は2番だったが、帰島したのは1番だったと言ってたな。


「幼馴染同士で結婚したんですね。そうすると、いつまでたっても競い合いは続くんじゃないですか? それはそれで楽しいことかもしれません」

「そうは言ってもあの通りにゃ。カリンをグリナスの妻にすることで少しは納まるかと思ってたにゃ」


 気になるのはマレットさんとオルバスさん達の関係だ。意外と、バレットさんやケネルさんと取り合う仲だったのかもしれないな。

 その辺りは色々とあるだろうから、あまり詮索しないでおこう。


「となると……」

「トリティとカリンなら競争が始まるにゃ」


 なるほど、いつもトリティさんの後ろを航行してたからね。今回の探索はその辺りも加味して長老達が決めたんだろうな。

 なら、マリンダちゃんだって?

 操船楼に目を向けると、しっかりと舵を握ったマリンダちゃんの後ろ姿がみえた。右前方を走るバレットさんのカタマランをあまり意識してないようだから、問題はないみたいだな。


「マリンダはマレットの子供にゃ。問題はないにゃ」

 俺が操船楼を見上げたのがおかしかったのか、リジィさんが口に手を当てて笑いを堪えながら教えてくれた。

 親同士のライバル心を子供達にまで伝えるのはどうかとおもうけどねぇ。魔ぁ、それだけ平和な暮らしということなんだろうな。

 

 雨期が明けたから、周囲は眩しいぐらいだ。

 俺達はサングラスをしているんだけど、リジィさんやマリンダちゃんもサングラスをしている。水中眼鏡のような形をしたサングラスは、アキトさんが考え出したと教えてくれたんだけど、上下に枠のないゴーグルみたいな代物だ。黒く着色された薄いガラスが使われている。


「昔は、素潜りで使う眼鏡のようなものだったにゃ。これなら周囲が良く見えるにゃ」

「これだけ明るいと、目に悪そうですからね」


 俺のスポーツサングラスは表面コーティングで鏡のように見えるから、最初は皆が驚いたんだよね。ナツミさんはネコ族と同じような着色したガラスのように見えるサングラスだから皆の興味もないみたいだな。

 サングラスはもう1つあるけど、使える間はこれを使おう。

 食後の片付けを終えたリジィさんが梯子を上っていく。今度はリジィさんが操船するのかな?


 およそ2時間を目安にして3人が操船を交代しているけど、俺は暇以外の何ものでもない。

 ゆっくり進むなら海底を見ることも出来るだろうけど、この速度ではそれも無理だ。

 家形に入って友人のバッグの中身を見てみることにした。どうせ俺と同じで碌な物は入ってないんだろうけどね。

 タオル2枚に、Tシャツが2枚とラッシュガードの新品。短パンは学校指定の奴だな。ビニル袋に入っていたのは値札の付いたサーフパンツだ。俺と体形が一緒だからこれはありがたいな。プラスチックのタックルボックスはプラグと小物が入っている。10号ハリスはうれしくなる。

 後は……、丸めたタオルを開いてみると、アーミーナイフにオペラグラス? こんなのをバッグの底に入れても意味はないんじゃないかな?

 小さなプラケースにアーミーナイフを入れて、俺の棚にあるタックルボックスの上に乗せておく。今のところは衣類に不足はないから、これは将来に残しておけばいい。オペラグラスは周囲を眺めるのに良さそうだな。

 操船楼にナツミさんが双眼鏡を持っていったから、甲板用にこれを置いておこう。


 甲板のベンチでオペラグラスを使って周囲の島を眺める。

 倍率は3倍ぐらいじゃないかな? それでも真近に島の様子が分かるし、倍率が低いから手持ちでも揺れを気にせずに済む。何と言っても軽いのがありがたいところだ。

 

「それ、何にゃ?」

 オペラグラスから声を方向に顔を向けると、マリンダちゃんが興味深々の目をして俺の左手を見ている。

 双眼鏡は何度か覗いてたけど、これは見るのが初めての筈だ。


「オペラグラス、っていうんだ。双眼鏡と一緒なんだよ。こっちから覗いてごらん」

 簡単に説明をしたところで渡したら、直ぐに虜になってしまったようだ。

 甲板を歩きながらあっちこっちと眺めているんで、ベンチに腰を下ろして見るように注意しておく。でないと、甲板から落ちそうな感じだ。


 マリンダちゃんにオペラグラスを取られてしまったから、仕方なしに餌木でも削ることにした。餌木に使えそうな流木をいくつか集めていたから、暇つぶしには丁度良さそうだ。


 夕暮れが近づいたころに、マリンダちゃんが操船を担当する。降りてきたナツミさんとリジィさんが夕食の準備を始めた。

 リジィさんによれば、すでに1日以上の距離を航行しているらしい。簡単な海図を広げて現在の位置を教えてくれた。

 たくさんの島があるんだけど、特徴のある島だけがこの海図には記載いているんだよな。俺には意味がないように思えるんだけど、漁場がたくさん記載されている。


「昼過ぎに通ったカゴ漁の船はこの位置にゃ。サンゴの崖と言われている東西に長く伸びた崖があるにゃ」

「マリンダちゃんに代わる前に左手に見えた団子岩がこの島ですか?」

「そうにゃ。このまま夜通し進むか、それともこの島の湾に入るかにゃ」


 少し南に離れた島には南側に丸印が付いている。丸印が湾の位置なんだろうな。団子岩のある島には三角印で串団子の印が付いていた。串団子があるなら食べてみたいな。


「この点線が1日で進むおよその距離なんですね。となると、頑張れば2日の距離を深夜で越えられるわ」

「バレットの事にゃ。無理せずに一旦カタマランを停めるはずにゃ。早ければこの島、遅くなればこの島にゃ」


 どちらにしても停船するのは夜になるってことじゃないかな? 月明かりがあるから航行に問題はないってことなのかも知れない。

 この世界にやってきてから、目が格段に良くなったように思える。月のない夜に見える銀河はそれこそ星の海のように見えるんだよな。


 バレットさんの選択した島は、近くの島の方だった。

 島の入り江は10隻ほどが停泊できるほどの広さだ。水深も3mほどで砂地なのがありがたいな。

 隣接したところでアンカーを投げ入れて船の間にカゴを挟むと船首と船尾をロープで結んだ。


 バレットさんが手招きしているので行ってみると、直ぐに酒が出てきた。とりあえず一口飲んだところで要件を確かめる。


「航行に問題はなさそうだな? 俺のカタマランは魔石8個だが、アオイのカタマランもそうなのか?」

「大きい方がいいんじゃないかと8個の魔道機関を乗せてます。ひょっとして明日は更に速度を上げると?」


「早めに5日の距離をものにしたい。できれば3日で到達したいところだ。それだけその先の海域を知らべられるからな。たぶん2ノッチで航行したはずだ。明日は2ノッチ半で行くぞ」

「はあ、伝えておきます」


 情けない返事だったんだろう。俺の肩をバシ! と叩いて笑っている。

 そんな俺を家形の扉近くで見ている2人の女性が嫁さん達なんだろうな。片方の女性はカリンさんにそっくりだ。


「レミネィががっかりしてたぞ。トリティが一緒なら2日で到達できると言ってたな」

 豪快に笑いながらそんなことを話してくれた。

 バレットさんも操船はしないだろうから、ずっと飲んでたんじゃないか? かなり出来上がってる感じがするぞ。


 バレットさんのところから戻ったところで、明日は速度を上げることを伝えた。

 マリンダちゃんは、船尾で釣りをしていたようだ。数匹を釣り上げたようだから明日の朝食は期待できるかもしれない。

 ナツミさん達が家形に入ったのでマリンダちゃんから竿を引き継いで夜釣りを楽しむ。たくさん釣れたなら、バレットさん達にも分けられるだろう。


 島を出て2日目の朝は、心地よい揺れで目が覚めた。

 すでにカタマランは南に向けて航行しているようだ。急いで外に出ると、すでに日が登っていた。


「そこで待ってるにゃ。直ぐに朝食にするにゃ」

 困った子供だという目でリジィさんが俺を見てるんだよな。隣にマリンダちゃんがいるから、操船してるのはナツミさんということになる。


「さすがは魔石8個にゃ。この速度は始めてにゃ。魚はバレット達にも分けておいたにゃ」

 朝食のスープには魚の切り身が入っていた。

 カリカリに揚げたカマルの切り身の入ったスープは俺の好物の1つだ。別の器に入ったご飯をスープに入れてスプーンで頂く。ちょっと行儀の悪い食べ方だけど、スープの辛さがご飯の甘さで丁度良く感じられるんだよね。


「かなり速度が上がってますけど、問題はないんでしょうか?」

「水深のある海域を進んでるにゃ。あるとすれば午後になるにゃ。サンゴ礁の発達した場所を通るにゃ」


 サンゴ礁は少しずつ水面を目指して育って行く。十分に育てばそれこそ水深数十cmということにもなるんだろう。そんな中をこの速度で通るのは無謀じゃないかな?


「迂回することも?」

「それは無いにゃ。レミネィもグレミナも勝気な性格にゃ。速度は落とすかもしれないけど迂回はしないにゃ」


 勝気な性格の嫁さん達だから、心配を酒でバレットさんは誤魔化しているのだろうか? 問題はナツミさんの性格だな。誰もが憧れる女性だったけど、温和という言葉は一度も聞いたことが無いぞ。


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