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M-038 グリナスさん達の仲間を連れて行こう


 リードル漁が終わって氏族の島に帰って来ると、いつものように商船が来ていた。今回は3隻のようだな。俺達の集めた魔石を早く手に入れたいのだろう。

 トリティさんに魔石を1個渡したところで、オルバスさんに中級魔石を2個渡す。

 驚いた表情で俺を見ていたけど、俺が上級魔石を得られるんだから、他の氏族と同じに2番目のクラスの魔石を渡すと言ったら、小さく頷いて納めてくれた。


「だが、2個はいらんとおもうのだが?」

「商会から、計算に長けた人を派遣してもらうとなれば、それなりの給与を渡さねばなりません。それに世話役だって増やすのであれば」

「そういうことか。だが、それは俺達全体の話でもあるな。アオイだけに無理をさせるわけにもいくまい。氏族会議でその辺りも図らねばならんな」


「王国側の要望に応えようというのですから、それなりの見返りも欲しいところです。とはいえ、交渉事でしょうから手駒は多い方が良いでしょう」


 俺の言葉にニヤリと笑みを浮かべて頷いている。

 低級魔石の氏族への上納を1個増やすぐらいは容易だと考えているのかもしれない。

氏族全体では100個を超える数になる。それだけあれば交渉も容易だろう。


「確かに有効だろう。元々、船を作るのはリードル漁を1期余分に、とまで言われているのだ。その数があれば色々と便宜が図れるに違いない。ところで、誰を連れて行くのだ?」

「グリナスさん達に丸投げしてます。カタマランの魔道機関が2台あるとはいえ、どんな事態が生じるかわかりませんからね。グリナスさん達に考えて貰ってます」


 うんうんとオルバスさんが頷いている。多くの船で行ってもいいのだが、そうなるとその間の漁獲が低下してしまいそうだ。

 100隻の内、10隻程度なら漁獲高に大きな変動はないと考えているのだろう。

 とは言っても、素潜り漁をしないわけではない。帰って来た時には保冷庫にはそれなりの魚が確保されているんじゃないかな。


「バレット達と相談して出発日を決めるが、数日以内は確実だ。ココナッツとバナナの調達は頼んだぞ!」

「了解しました。グリナスさん達にも伝えておきます」


 オルバスさんに頭を下げて、カタマランの船尾のベンチから立ち上がると、俺達のカタマランに向かう。

 白いカタマランは目立つんだが、新しくカタマランを作る連中の中には、この船と同じように塗装をする者達も現れ始めた。

 と言っても、地味な青や緑だからあまり目立たないんだよな。あの配色だと、豪雨の中でまったく見えなくなってしまいそうだ。


 まだ、ナツミさん達は商船から帰らないから、お茶を自分で沸かすしかない。カタマランのカマドも慣れれば使いやすい。炭を掻き立てて火を熾し、ポットを乗せておく。

 お茶ができたところで、パイプを楽しみながら飲んでいると、グリナスさんの声が後ろの海の方から聞こえてきた。


「あれ? ザバンで釣りですか」

「いや、例の話だ。今夜浜に集まるぞ。夕食後ってことで俺が連絡してるんだ」


「ご苦労様!」と手を振る俺に片手を上げて答えると、グリナスさんはザバンを操って他のカタマランを目指していく。

 カタマランの船尾を見て、持ち主が分かるんだろうか? この船は白いから直ぐに分かるはずだけどね。カタマランを依頼するときの微妙な改造箇所で判断してるのかな?


 そんなことを考えながらお茶を飲んでいると、ナツミさんがカゴを背負って帰って来た。

「よいしょ!」とカゴを下ろして、マイカップにお茶を入れて俺の隣に座る。


「今回は金貨が5枚になったわ。中級魔石は手元に置いて、低級魔石を全て売り払ったから大銀貨が3枚に小銀貨が8枚よ」

「中級は色々と使い道がありそうだ。基本は氏族のためと考えたいな。金貨はトリマラン用に、小銀貨は生活費で使えばいいんじゃないか?」


「ということは……、オルバスさんは受け取ってくれたの?」

「受け取ってくれたよ。今夜の会議で氏族への上納魔石を1個増やす提案をするそうだ」


「リードル漁が終わったから、いよいよ漁獲高の調査が始まるのね」

「船、魚種、型それに数だ。上手く世話役がさばいてくれればいいんだけどね」


「私達なら容易でも、実務に着くのは問題でしょうね。でもソロバンは作れるそうよ。10桁の9玉ソロバンを3個、9玉を2こ作ってもらうことにしたわ。銀貨5枚と言ってたけど、先払いしておいわ」


 足し算をする上では有効に使えるだろう。

 使い方は、ナツミさんが教えることになりそうだな。

 新たな情報として、今夜浜で集会があることを知らせておく。俺だけなのか分からないけど、カリンさんがグリナスさんと一緒なら、ナツミさんも一緒で良いはずだ。

 

「いよいよ新たな海域に出掛けられるのよね」

 ナツミさんは嬉しそうだけど、トウハ氏族の漁場を全て回ったわけじゃないんだよな。俺達にとっての初めての漁場は、近場にだってありそうな気がするぞ。


 夕暮れが迫る前に、釣竿を持ち出しておかずを釣る。

 グリナスさんは忙しそうだから、今日はラビナスと2人だけだ。

 買い込んだ食料や雑貨を今頃は家形に運び込んでいるんだろう。そんなことを考えながらラビナスと竿を並べる。


「今日は唐揚げにゃ!」

 ザルの中のカマルを見たトリティさんは嬉しそうだ。ナツミさんに向かっておいでおいでをしてるから、料理教室が始まるのかな?

 ナリッサさんとマリンダちゃんはリジィさんと一緒に炊き込みご飯の準備らしい。


 船尾でトリティさん達の仕事を眺めながらオルバスさんと一服を楽しんでいると、グリナスさんとカリンさんがやって来た。

 カリンさんはマリンダちゃんを連れて俺のカタマランに向かったから、お茶を準備するのかな?

 向かう前に、ナツミさんと立ち話をしてるのはカマドを使う許可ってことなのかもしれない。


「どうにか全員に知らせてきたぞ。今夜集まるからナツミも連れてきてくれ。嫁さん連中も顔なじみにしておけば何かと都合がいいからな」

「了解です。それで何隻になったんですか?」

「8隻だ。やはり外せない友人がいるのは、俺もネイザンさんも一緒なんだよな」


 数を聞いてオルバスさんが頷いている。オルバスさん達だって、昔の悪友連中で対応しようというんだから文句は言えないんだろうな。


「今夜の集まりで出発を決める。食料は明日買い込むとしても、15日は必要だ」

「改めて15日分ということですね。了解です」


 ナツミさんの事だから、すでに余分に購入しているはずだ。それを見越して購入することになるんだろう。たぶん20日分は必要なんじゃないかな?

 それでも足りないことを考慮してココナッツとバナナを集めておくことになるのかな? 水の容器も1個買い足しておいたから、運搬用の容器も1個買ってもらおうかな。


 魔石を売ったおかげで、いつもよりは少し贅沢な夕食が始まる。

 スープの味がいつもより酸味が強いと思ったら、パイナップルの切り身が入っていた。この辺りで採れるパイナップルよりも大きいのは品種改良がおこなわれたものなんだろう。

 

 夕食後のお茶が終わったところで、カタマランの船首に積んであった焚き木の束を持って、ナツミさんと一緒に砂浜に向かう。

 すでに焚き火が焚かれているから、あれが目印になるんだろう。

 後ろから肩を叩かれ、振り向いたらグリナスさん達の姿があった。同じように焚き木を抱えている。

 問題は、カリンさんがナツミさんと同じような手カゴを持っていることだ。ナツミさんはワインを1ビン入れてるんだけど、皆が同じように持ち寄ったら明日は二日酔いになりそうな感じがする。

 適当に飲まないと、明日は何もできなくなりそうだ。


 グリナスさん達と一緒に焚き火に向かうと、すでに数人の男女が集まっていた。俺達も輪に加わったところで、集まった連中の顔を眺めてみた。

 何人かは知った顔だが、始めてみる顔ぶれも多いな。全員が集まったところで自己紹介位はしてくれるだろう。

 

 そんなことを考えていると、直ぐにココナッツのカップが渡された。中身はワインのようだから、少しずつ飲んでいよう。グリナスさんが一気飲みしてるけど、それだと帰りはカリンさんに抱えられてしまうんじゃないかな。


 さらに2組が輪に入ったところで、俺達の酒盛りが始まる。酔わない内にとグリナスさんがオルバスさんから伝えられたことを話したところで、俺もココナッツとバナナを集めるように言われたことを話した。


「ココナッツは各舟に背負いカゴ1つ分で良いだろう。バナナは1房もあればとりあえずは問題ない。途中の島にだってあるはずだからな」

「ココナッツを多く、ということは水を心配してるんじゃないか? 水の運搬容器以外にも竹で水筒を作っておいた方がいいかもしれんぞ!」


 太い竹の水筒なら、3個で1日分の水は入るんじゃないか? 明日にでも作ってみようかな。


「なら、竹の水筒作りと、ココナッツ集めを分担しても良さそうだ。俺達がココナッツを集めるから、グリナス達は水筒を作ってくれ。1隻に5個もあれば十分だ。バレットさん達の分もだぞ」


 そうなると、55ってことか! これは1日中掛かりそうだ。

 グリナスさん達がネイザンさん達年上の連中に頷いているから、決定事項ってことなんだろうな。


「彼がアオイなのか?」 

 初めて見る男性が隣のネイザンさんに確認している。


「そうだ。改めて紹介しといた方がいいだろうな。彼がアオイという聖痕の保持者だ。カイト様と同様にネコ族らしい姿ではないが、聖痕はネコ族以外は持つことができない。たぶん遠い先祖に、我等ネコ族の血が流れているに違いない」


 ネイザンさんの話を聞いて感心したような表情で俺達を見ている。

 ここは、挨拶しておいた方がいいんだろうな。腰を上げて砂を払うと、皆の顔を眺めながら一言挨拶する。

 俺の挨拶が終わると、ナツミさんが「一緒に暮らすナツミです」と後に続いて挨拶している。

 

「さすがにカイト様ほどの腕はないが、王国の連中が出した今回の難問にきちんと対応できる男だ。聖痕とは漁の腕だけに限らないということなんだろうな」

 ネイザンさんの話は、褒めてるんだろうな? ちょっと微妙な感じがしないでもない。


 そんな挨拶が終わると、各自が自己紹介をしてくれる。ネイザンさんの友人とグリナスさんの友人が必ずしも互いを知っているわけではないようだ。

 嫁さん連中も興味深々のようで、いつの間にか男女が分かれて話に花が咲く。

 

 にゃあにゃあと賑やかな女性の話し言葉が聞こえる中での俺達の話題は、今回の冒険に使う銛と漁についてだ。

 初めての海域ということで、一発大物狙いもあり得るし、広く魚種を調べるとなれば小型の銛が役に立つ。

 腕に覚えのある連中で、なおかつ向上心の塊だからなぁ。新たな海域に到着するまで悩むんじゃないか?


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