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M-029 操船はナツミさんに任せよう


 翌日の朝食を終えたところで、リジィさんがハンモックと薄手の布団を持ってやって来た。その後ろからナリッサさんが小さなカゴを持ってくる。着替えかもしれないな。

 雨季にはずぶ濡れになることがままあるからね。


「雨期の間はよろしくお願いするにゃ」

「こちらこそよろしくお願いします」


 簡単に挨拶したところで、ハンモックを家形の中に吊るす。俺達のハンモックを少しずらせば3人分を吊るすのは簡単だ。もう1つぐらいは吊るせそうに思えるぞ。

俺達が左舷側でリジィさんが右舷側だ。場所が決まると自分のハンモックの横に小さなカゴを置いている。


「水を汲んできます。ナツミさんと食料品を確認してください」

「分かったにゃ。お米と調味料があればなんとかなるにゃ」


 自生している果物を使うのかな? まあ、その辺りは応用編ということなんだろう。先ずは本来の料理方法を教えて欲しいんだけどね。

 俺達の世界の料理もたまに食べてはみたいけど、無いものねだりになりそうだ。少なくともご飯が食べられるんだから、それだけでもありがたいと思わなければいけない。

 何度か往復してカタマランの水ガメを満杯にする。


「ちょっと出掛けて来るよ!」

 2人にそう告げたところで、グリナスさんのカタマランに向かう。

 桟橋を渡っていくと、曳釣り用の仕掛けを作っているグリナスさんがいた。


「1人なんですか?」

「アオイか! ああ、カリン達は商船に行ったんだよ。明日から出漁だろう? 不足してるものを買い込むらしいな」


 グリナスさんの邪魔にならないように、ベンチに腰を下ろして作業を見守る。

 ヒコウキを2個用意しているから、上物狙いということなんだろう。プラグと弓角を枝張りのようにして上層途中層を狙うつもりだな。

 グリナスさんの仕事が一段落したところで、パイプを使いながら日干しについて聞いてみた。


「ザルの上にスノコを被せるんだ。炭焼き小屋に行けば1枚3Dで売ってくれるぞ。2枚買い込んでおけば十分だろう。スノコを被せただけでは風で飛ばされかねないから、ロープで上と下にロープを張っておくんだ。ロープは家形の船首と船尾の横梁に結んでおけばいい」


 教えてくれた礼を言って、急いで自分達のカタマランに戻ることにした。早くしないとナツミさん達が買物に出掛けてしまいそうだ。

 オルバスさんのカタマランの甲板に足を踏み入れようとしたときに、反対側からナツミさん達がカゴを担いでやって来た。

 思わず顔を見合わせてしまったけど、ナツミさんの買い物リストに細いロープとタバコの包を追加してもらう。


「リジィさんにも同じような話を聞いたわ。アオイ君はスノコを買いに行くんでしょう? ロープは任せといて」

「やはり、足りない物はあるんだね。じゃあ、またあとで!」


 今度は、俺達だけでの漁になるからねぇ。食事を作り、漁をして、獲物を商船に売るために魚を捌いて日持ちを良くする処置をしなければならない。

 雨期でその辺りの仕事ができるようにしなければなるまい。海人さんも辿った道だ。俺だけなら難しいかもしれないけど、ナツミさんがいてくれるからね。2人で頑張ればなんとかなるまでにしたいところだ。


 老人達からスノコを買い、2枚を丸めてカタマランに運ぶと屋根裏に入れておいた。家形の屋根裏はある意味倉庫としても使えるんだな。

 俺の銛や釣り竿も入っているし、カゴも乗せられている。


 一応、潜航板とヒコウキは作ったし、集魚板はドワーフの職人に作ってもらったから準備は完了だ。ルアーと弓角は俺とナツミさんも持っている。この世界でもルアーは作ってもらえるらしいから、10個ほどあるルアーを色々と試してみよう。

 ハリスを8号ラインで5m。枝針も同じラインでミツカンを使って連結する。下針用のラインには途中に集魚板を付けてあるから、上層と中層を確実に狙えるはずだ。

 2つ同じ仕掛けを作り、カタマランの左右の竿で曳いてみよう。船尾の仕掛けはナツミさんが持っていた仕掛けを流せばいいだろう。

 問題は、どれぐらいの大きさの魚が釣れるかなんだよなぁ。

 

 ナツミさん達がカゴを背負って帰って来た。

 細身のロープの束を3個とタバコの包を2個受け取る。まだ1個残っているから、1個は防水バッグにでも入れておこうかな。

 

「明日はいよいよ降り出しそうだと商会の人達が言ってたわよ。晴雨計を持ってるのかしら?」

「ちょっと待ってくれ。俺の時計も……、確かに気圧が下がってきてるね今晩からかもしれないね」


 多機能腕時計はソーラータイプだからまだ使えるみたいだ。漁師の暮らしは太陽と共にあるから、いつの間にか時間を気にしなくなっていたな。

 

「これを操船場所に持って行ったら? コンパスもあるんだから、これがあれば少しは役に立つんじゃないかな」

「いいの!」

 

 嬉しそうに俺の腕時計を受け取ってくれた。天気の急変を知るのに少しは役立つかもしれないな。

 甲板を片付けて、おかず釣りの竿を取り出す。

 夕食までには10匹ほど取り上げたいところだ。

                 ・

                 ・

                 ・

 朝早く目が覚めたところで、ハンモックを抜け出した。

 とりあえず水汲みを済ませておこう。

 オルバスさんの船ではトリティさんが起きていた。カマドに火を入れているから、ついでに水汲み用の容器を出してもらった。1個も2個もあまり変わらないからね。

 満杯にした容器をトリティさんに渡したら、ココナッツの実を割って渡してくれた。ありがたく頂いて自分の船に戻ると、ナツミさん達も起きていたようだ。


「はい。満杯にしてきたよ」

「ありがとにゃ。これだけあれば2日は持つにゃ」

 容器から水をポットに入れてお茶を沸かし始めた。俺達の水筒を満杯にしておくつもりらしい。隣のカマドにも火を入れて、ご飯を炊き始める。

 スープ作りはお茶が終わってからかな?

 

「昨夜は降らなかったが、昼前には確実だ。屋根を作っておいた方がいいぞ」

 オルバスさんの言葉に、帆柱の桁を船尾に伸ばして帆布を張っておく。桁の長さは3mに満たないから、船尾での作業には邪魔にならないだろう。カマドの上までは張ってあるが、曳釣り用の竿は先端に付けた輪に太い組紐を通しているから、洗濯バサミで挟んだ道糸を先端まで持って行くのは帆布の下で十分に可能だ。


「朝食を終えたら出発だ。準備は出来てるな?」

「だいじょうぶです。素潜りだって問題ないですよ」


 俺の言葉にオルバスさんが頷くと、桟橋に向かって歩いて行った。グリナスさん達の確認に行くのかな?

 朝食を終えると、残ったご飯を真鍮の容器に入れて保冷庫にリジィさんが入れていた。なんか冷蔵庫みたいだな。

 食後のお茶を3人で飲んでいると、オルバスさんが出発を告げに来た。

 急いでロープを解き、ナツミさんがカタマランをオルバスさんの船から離していく。

後退したところで、バウ・スラスタをつかって向きを変えるのはいつもの事だ。

 ゆっくりと入り江の入り口に向かって進んでいくカタマランはオルバスさんの船だ。

 その後ろをグリナスさんの船が付いて行く。グリナスさんが入り江の出口に近づくのを見計らって、ナツミさんが俺達の船を進めて行く。


 確か南に向かうと言ってたな。南の空は真っ暗だからいつ降り出してもおかしくはないんだが、あまり降ってほしくないところだ。

 徐々にカタマランの速度が増していく。15ノットくらいは出てるんじゃないか?


「お爺さんの代に、トウハ氏族の動力船が全てカタマランになったにゃ。それまでは商船のような外輪船を使っていたにゃ」

「そのころの漁場は狭かったということですか?」

「そうにゃ。カゴ漁をしているサンゴの崖に、1日は掛かってたにゃ」


 昼近くに、カゴ漁をしている船を目にした。

 カタマランというよりは、工事用の台船に見える。大型の船を2隻並べて板を張った船尾には、門型の構造がある。あれがカゴを引き上げるクレーンになるんだろうな。


「大きな船ですね」

「あの家形は3家族が暮らせるにゃ。5日おきに家族を交代するにゃ」


 確か、素潜りができない漁師達の収入を増やすために海人さんが考えた、とオルバスさんが言ってたな。

 俺に親切にしてくれるのは、海人さんの働きもあるのだろう。

 左腕に着けられた聖痕は、ネコ族であれば垂涎の対象ということなんだろうが、俺にその資格があるのか怪しいところだ。

 とりあえずは、出来るだけのことをするだけなんだが……。


 昼になってカタマランの速度が少し遅くなった。

 どうやら昼食を作るために緩めたらしい。リジィさんがカマドの炭を熾して、朝食の残りのご飯を使って何やら始めたぞ。

 梯子を上って、ナツミさんと操船を交代すると、直ぐにナツミさんがリジィさんを手伝いに向かった。


 初めてカタマランの舵を握るけど、真っ直ぐ進むだけだし、いざとなれば魔道機関を停止させる方法だけは教えて貰った。

 先を進むグリナスさんのカタマランとは200m以上の距離があるから、しばらくはこのまま舵を握っていれば問題ないだろう。カタマランの進行速度は俺が歩くぐらいだからな。


 1時間ほど操船したんだが、緊張の連続だ。

 前を進む船との距離を一定にしなければいけないし、この海域は島がたくさんあるんだよな。南に進んではいるのだが微妙にコースが変化していく。

 舵を握ってそれに追従することになるんだが、どれぐらい舵を動かせばカタマランが向きを変えるかが良く分からない。かなり大きく曲がってしまうんだよな。


「はい、交代よ。やはりカタマランは難しいかもね。バウ・スラスタで微妙なコース取りもできるんだけどね」

「その内、教えて貰おうかな。操船は女性の仕事らしいけど、男がやることもあるかもしれない」


 舵をナツミさんに代わってもらうと、甲板に下りていく。船尾の航跡がカタマランの速度を上げたことを教えてくれる。

 ハシゴから甲板に足を下ろしたところで、ナツミさんの声が上から聞こえてきた。


「雨が来るわよ! 凄い豪雨だわ」

 その言葉が終わると同時に、バタバタと大粒の雨が帆布に落ちて来る。さすがに雨漏りはしないけど、急いでハシゴを下りて、簡易な屋根の下に入った。


「凄い雨にゃ。家形の扉を全て閉じてきたにゃ」

 家形から出てきたリジィさんが周囲を見ている。近くの島も見えないぐらいの雨だが、ナツミさんにはグリナスさんの船は見えるんだろうか?


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