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M-025 やはり3人は必要だ


 先頭はオルバスさんの船で、その後ろがグリナスさんになる。俺達は最後尾なんだけど、何かあれば笛を吹いて連絡すればいいらしい。

 たまにグリナスさんが俺達が後ろを付いているか見ていると、ナツミさんが教えてくれた。

 後ろを見たら俺達の船が無い時には驚くだろうな。でも、その後は2隻で捜索してくれるに違いないだろうけどね。


 退屈凌ぎにやっていた銛作りは最初の1日で終えてしまった。

 今は周囲の景色を眺めながらパイプを楽しんでいるのだけど、あまりタバコをやると素潜りができなくなるぞと昔海人さんに教えられたんだが、その本人は後々までパイプを楽しんでいたということだ。ほどほどならいいということなんだろう。


 氏族の島を発って2日目の夕暮れ近く、小さな島の入り江に船を停めた。

 入り江は立派なんだが、奥行きのない島なんだよね。林の奥に海が見えるぐらいだ。


 オルバスさんのカタマランを挟むように俺とグリナスさんのカタマランを停めたところで、オルバスさんのカマドを使って夕食作りが始まる。

 夕食が出来上がるまでは、俺とグリナスさんが船尾でおかず釣りの竿を出した。

 小魚が数匹釣れたけど、これはおかずになりそうもないな。

 グリナスさんがこれで大物を釣るような話をしてたけど、出来ればカマルを釣り上げて欲しいところだ。明日の夜釣りの餌にできそうだからね。


「カマルの群れはこの辺りらしい。海底はサンゴと岩場だから素潜りでもそれなりに獲物が突けるだろう。午後は釣りをするからカタマランの停泊場所を上手く見定めるんだぞ」


 潮流が緩やかなのはこの辺りの海の特徴だ。30cmほどの枕のような石をアンカー代わりに使ってるんだが、流されたことは一度もない。

 底の平らな場所を見付けて、アンカーを下ろせばどこでもいいような気もするけどね。

 

「アオイのカタマランに、リジィを乗せる。魚の捌き方と一夜干しのやり方を教えて貰うんだぞ」

「夕食は、この船で皆で取るにゃ。夕暮れ前に集まってほしいにゃ」


 中々、ナツミさんの習い事は大変だな。

 夕食を取りながらそんなことを考える。ナツミさんのところにリジィさんが近寄って何やら話し込んでいるけど、明日の漁の段取りということなんだろうか? それなら俺にも話が来るはずなんだけどね。


「これを用意したにゃ。甲板とザバンに置いておくにゃ!」

 トリティさんが取り出したのは棍棒だった。

 40cm以上はあるんじゃないか? 握り部分に赤い組紐が巻かれて、10cmほどの輪が後ろに伸びている。

 釣り上げたら、ポカリだったな。確かに忘れてた。


「嫁入りの時に持ってくるんだ。俺の船にはカリンの棍棒があるんだが、アオイの場合はないからなぁ」

「寝る前に、保冷庫に氷を入れておくにゃ。明日のなればまた作れるし、最初から冷やしておけば氷が長持ちするにゃ」


 生活の知恵ということなんだろう。俺とカリンさんが頷いたのを見てトリティさんが安心している。

 食後のお茶を終えたナツミさんがリジィさんを連れてカタマランに向かった。俺達は小さな真鍮のカップでココナッツジュースの蒸留酒割を飲む。100CCにも満たない量だから、二日酔いにはならないだろう。


 その夜。ナツミさんからカタマランのカマドを、リジィさんが使いたがっていたことを話してくれた。

「昼食と夕食を作ってくれるそうよ。その理由が、トリティさんの味付けに満足できないらしいの。私には十分に美味しく頂けるんだけど、微妙な違いがあるのかもしれないね」

「当然、OKしたんでしょう?」

「もちろんよ。いろんな人から教えて貰った方がよりおいしくできるはずよ」


 深窓の令嬢なんだろうけどねぇ。こっちの世界に来て一番喜んでるんじゃないかな?

 今までの暮らしとはまるで異なるけど、皆生き生きとして働いていることは間違いない。進路や人生に悩むことなく暮らせるんだから、確かに幸せな暮らしではあるのだろう。


 次の朝。目が覚めた俺の前にいたのは、ビキニ姿のナツミさんだった。午後まではザバンを漕ぐことになるから水着姿なのは理解できるが、ちょっと目のやり場に困ってしまうな。


「この上にクラブのユニフォームを着るから心配は無いわ。アオイ君のラッシュガードとサングラスは帽子に入れとくわね」

 海の上だからね。かなり日焼けしたけど、3日も漁をしたら悲惨なことになりそうだな。

 ホイ! と渡してくれたココナッツのお椀には白いものが入っている。


「背中に塗ってほしいの。前は塗れても背中は手が届かないわ」

 これってココナッツオイルというやつか?

 どちらかと言うとオイルではなく、搾りかけのミルクという感じなんだが、これがネコ族の日焼け止めらしい。

 俺に背中を向けて水着の紐を解く。

 早めに塗っておかないと、俺の理性が怪しくなりそうだ。

 ペタペタ……、ヌリヌリ……。

 意外と小さな背中だな。終わったところで素早く外に出た。


「いつもより早いな。まだ朝食が出来てないぞ」

「銛を新調しましたからね。やはり早く試したいです」

「あっちも同じだな」

 

 オルバスさんがパイプで指した先には、すでに水着姿のラビナスが舷側に置いた銛を撫でている。

 嬉しいに違いない。ようやく漁に出られるんだからね。16歳だから氏族の中では成人として認められるが、漁の腕が伴わなければ友人達から一段低くみられるに違いない。

 

 良い匂いが甲板に漂ってきた。ナツミさんもいつの間にかトリティさんの手伝いをしている。

「遅れて申し訳ないにゃ!」

 そう言って甲板にやって来たのはグリナスさん夫婦だ。

 これで全員が揃った。俺達に「笑顔を見せてナツミさんが料理を運んでくる。

 出漁中は、ご飯にスープだけだけど、今朝はウリの塩もみのような漬物まで付いている。

 早く食べてお代わりをしなくては……。


 食事が終わったところで、お茶も飲まずにカタマランに戻った。カマドを1つ焚いてリジィさんがお茶を作るようだ。その間に、ザバンを海に下ろして、アウトリガーを取り付けておく。少し離れた場所でナツミさんがオルバスさんのカタマランから船を遠ざけるのを見届けたところで、船尾にザバンを漕いで行った。

 リジィさんが投げてくれたロープをザバンの舳先に繋ぐと、ロープを手繰って甲板に乗り込む。


 早いところ、準備をしないといけないな。家形に入ってサーフパンツに履き替えると、操船楼の扉を開けて買い物カゴに入れた素潜りの道具を取り出した。

 ベンチに腰を下ろすと、マスクとシュノーケルを首に付け、マリンブーツを履く。フィンは最後だから足元に置いておけばいい。

 家形の屋根裏から真新しい銛を取り出す。銛先が1本ものだからかなりの大きさでも使えるに違いない。


 そんなことをしていると、すでにナツミさんは停泊場所を探しながら操船をしているようだった。

 海底までの深さは、見た限りでは3mほどだ。もう少し深いと良いのだが……。


「ここにするわよ!」

 ナツミさんの声に、水底をみると数本の溝があるのが見える。かつての造山活動の跡かもしれないな。そこだけ落ち込んでいるから溝に沿って漁をしてみるか。


「良さそうですね。アンカーを下ろしてきます」

 家形の屋根を歩いて船首に向かい、アンカー代わりの石を投げ込んだ。


「いよいよにゃ。お茶は水筒に入ってるにゃ。こっちがザバンの保冷庫に入れるカゴにゃ!」

 大きなカゴを渡してくれた。カゴの中にはすでに氷が1個入っている。


「準備できた? それじゃあ、始めようか」

 ナツミさんが操船櫓から下りてきたところで、ロープを手繰ってザバンを引き寄せる。十分に近づいたところで、ナツミさんがカゴを持ってザバンに飛び乗った。

 舳先のロープを解くと、パドルを操ってカタマランから離れていく。

 フィンを素早く取り付けると、マスクをかぶり銛を持って飛び込んだ。


 ナツミさんの操るザバンの方向を確認して、シュノーケルを使いながら海底を眺めながら泳ぐ。

 この世界の海は透明度が高いから、100m先も見えるような気もする。

 色鮮やかなサンゴは浅い場所だし、濃い蒼に染まったようなサンゴはかなり水深がある場所だ。かなり起伏が激しいな。

 泳いで行くと突然さんが消えてゴロゴロした岩が幾筋も東西に延びている。

 水深は10m近いんじゃないかな? たまに魚が体を捻るのだろう、きらりと光って見える。

 

 魚影は濃いみたいだ。

 銛のゴムを引いてしっかりと握る。目標を真下の岩に決めたところで、シュノーケルを使って浅い呼吸を数回繰り返す。

 意を決して、一気にダイブする。あの獲物は何だろうな?


 岩陰で、潜って来た俺を大きな目で威圧していたのはハタだった。大きさだけで80cm近くありそうだ。

 最初の獲物にしては十分だな。こっちを睨んでいる頭に向けて銛を伸ばしていく。

 30cmほどの距離まで銛先を近づけても、逃げる様子がない。

 前から見ると面積が小さいが、これだけ近づけば外すことはない。

 左手を緩めた途端に、銛が伸びてハタの頭に銛先が吸い込まれた。

 柄を持って獲物を岩の間から引き出した。かなりの大物だな。急いで海面に浮上すると、シュノーケルから勢いよく海水を噴き出して息をついた。


 すぐにナツミさんがザバンを操って近づいてきた。

「凄い大きさね。クエかな?」

「分かんないけど。売れない魚なら釣り餌にはなるんじゃないかな。じゃあ、次に期待してて!」


 釣り餌ということにはならないだろう。ハタはカサゴの親戚だからね。それなりに美味しいに違いない。

 次の獲物は、あのブラドかな?


 3匹を突いたところで、アウトリガーの浮きに腰を下ろしての休憩だ。

 不安定かな? と思っていたが意外と安定性がある。これは、成功と言っていいんじゃないかな。


「はい、お茶よ。3匹とも獲物が違うけど?」

「見つけ次第だからね。種類が多いから、選ぶよりは、近くにいたものを突いてる感じだ」

「それだけ、豊かな海なんでしょうね」


 リジィさんが渡してくれたお茶は、冷えても美味しく頂ける。濃いお茶ではないんだけど、ハーブティーのような香りがあるんだよな。


 その後も、素潜りを続けて9匹の獲物を積んでカタマランに戻ることにした。すでに昼を過ぎているから今日の素潜り漁はこれで終了だ。


 俺が突いてきた獲物に驚いてたのは、大きなハタが混じってたからかな?

 俺がザバンをカタマランに繋いでいる間に、リジィさんの魚の捌き方教室が始まっていた。

 包丁を持つ手や、魚を抑える手まで、リジィさんが手を添えて位置を矯正している。

 大きなハタは3枚に下ろしたところで、残った骨をぶつ切りにして鍋に入れていた。あれで出汁を取るんだろうか? 爺様がそんな出汁で味噌汁を作ってくれたのを思い出してしまった。あれは美味しかったなぁ。


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