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M-021 揃える物が色々ある


 やはり、家形にナツミさんと2人だけというのはちょっと落ち着かない。友人達に話したらさぞや羨ましがるに違いない出来事だ。

 これからずっと暮らすことになるのかもしれない。ナツミさんの仕事は多岐にわたるから可能な限り協力してあげなくちゃならないだろう。

 そんなことをハンモックで揺られながら考えていたのだが、ワインの酔いが回ったのか、いつしか眠ってしまったようだ。


 翌日は朝から忙しい。

 先ずは水汲みをしなければならないのだ。カタマランの屋形の中には、船体を利用した床下収納が行く地下作られている。その床下収納の1つに真鍮製の水ガメが設けられているのだ。容量は40ℓ近くあるから、2人で10日間は十分に持つ。

 水ガメの中に、水の魔石と呼ばれるリードルから得られた魔石を沈めておけば、水が腐らないらしい。それなら早くに満杯にしておくに限るからね。

 水を運搬するのは10ℓほどの真鍮の水差しのような容器だ。どの船にも1つはあるらしいから、トリティさんから1つ借り受けて、水場を何度も往復する。

 ついでに、オルバスさんの船の水ガメも満杯にしておいた。


「本当は小さい子の仕事にゃ。ありがとにゃ」

 トリティさんが喜んでくれるならそれでいい。最後にもう1度水汲みに出掛けて水差しの容器にも水を入れておく。


 オルバスさんは商船に向かったらしい。いつ船出してしまうか分からないと言って、水中メガネと潜る時に使う靴下に銛の穂先を買いに出掛けたそうだ。

 リジィさんとトリティさんが朝食を作っている後ろでは、ナツミさん達が様子をうかがっている。先ずは手順の確認というところなんだろうな。


 俺達のカタマランに移動して、甲板の後ろにあるベンチに座ってパイプに火を点けた。まだ朝食には時間が掛かりそうだな。その間に、今日の仕事を確認しておいた方が良さそうだ。


 朝食は、ご飯と昨夜のスープの残りに火を通したものだった。

 スープにご飯を入れてかき込むのが、俺の朝食の取り方だ。少し行儀は悪いんだけど、結構美味しいんだよな。

 ネコ族の中でも俺と同じように食べる人はいるようで、マリンダちゃんやラビナスは俺と同じようにして食べている。


 食後のお茶を頂いたところで、一度カタマランに戻ってナツミさんと今日の仕事を確認する。

 ザルを購入して、残った時間で曳釣り用の竿を仕上げるのが俺の仕事になる。

 ナツミさんは、グンテを買いに出掛けるらしい。確かにあった方が良いだろうな。


「まだ、商船がいるのよねぇ。タモ網も買っておこうかしら?」

「ギャフも揃えた方が良いかもしれないね」


 まだまだ購入しなければ単独の漁はおぼつかないな。オルバスさんの船をよく見ておこう。足りない物があるかもしれない。商船がいる間ならそれを買うことも出来るが、出港してしまったら次の商船が来るまで待つことになってしまう。


 短パンのポケットに財布代わりの革袋を入れて、お土産のタバコの包を2つ持つと、ザルを仕入れに浜に向かって桟橋を歩く。

 スニーカーは、この世界では浮いてしまうな。ビーチサンダルみたいなものがあれば良いんだけどね。そういえば、オルバスさん達は少し革底のサンダルを履いていたな。リードル漁の時は更に厚底だったから、革底のサンダルを買い込めばいいんじゃないか?

 思いついたら何とかで、桟橋を戻るとナツミさんにその話をしてみた。


「そうね。確かに必要だわ。マリンダちゃんと商船に出掛けて来るわね」

「リードル漁の時はかなり厚手のサンダルだったよ。2種類必要だ」


 後は任せておいてもだいじょうぶだろう。

 再び桟橋を浜に向かって歩きだし、炭焼き小屋を目指す。

 炭は老人達が作っているらしい。1YG(ヤグ:1YG=3kg)5Dということだから、高価なのかもしれないけど、漁には必要な品ではある。

 氏族の島には2つの炭焼き小屋があり、離れた島から甲板に山のように焚き木を積んでくるカタマランをたまに見ることがあるんだよな。


 炭焼き小屋に着くと、屋根だけの小屋で数人が竹でザルやカゴを編んでいた。長く続けているんだろう。見る間に形が整えられていく。


「すみません。ここでザルとカゴを買えると聞きましたもので」

「売ってやるぞ。何が欲しいんだ?」

「新しくカタマランを作った物ですから、必要な品を一揃い見繕っていただけると助かります」


 俺の言葉を聞いた老人達が、仕事を中断して呆れたような表情を見せた。

 その中の1人が、どっこらしょと腰を上げて俺のところにやって来た。


「確か、聖痕の持ち主じゃったな。アキト様は立派なトウハ氏族の長老だった。お前さんも、頑張ってカイト様のようにならんといかんぞ。それで、お前さんが必要な物は……」


 作業場所の奥に歩いていくと、大きな浅いザルや手カゴを次々と持ち出して俺の前に積み上げた。


「こんなものじゃろう。オルバスと一緒に漁をするならこれで十分の筈じゃ。使い方が分からん時は、トリティに聞けば教えてくれるじゃろう」

「ありがとうございます。ところでお値段は?」

 20Dと答えてくれたので、言い値を払いながらタバコの包を2つ添えた。


「ところで、あの細い竿を頂けませんか?」

「細工にも使えん品じゃ。持って行って構わんぞ」


 おかず釣りには丁度良い竹竿になる。ありがたく頂くと、ザルを紐で括って貰って担いでいくことになった。

 結構な荷物だ。カゴもカタマランの保冷庫用とザバン用で大きさが異なるし、お弁当用というのもあった。竹の水筒までカゴに入ってたからね。


 カタマランの甲板に荷を下ろして、家形の屋根裏に収納していく。保冷庫用のカゴは保冷庫に入れといた方が良いだろう。カタマランの右にあるカマドの近くに手カゴを2つ吊り下げておく。


 片付けが終わったところで、おかず釣り用の竿に仕掛けを作っておけば、ラビナスに進呈できるだろう。

 簡単に作り終えたところで、俺の竿と一緒に屋根裏に入れておく。これを使うのは昼を過ぎてからだ。


 屋根裏から作りかけの曳釣り用の竿を取り出して、作業の続きを始める。

 竹を割いて作った芯材を束ねてたものはすでに接着まで終えている。この上に竹を薄く切った短冊を巻き付けるのだ。向こうの世界から持ってきた軍手が役立つんだが、将来を考えると軍手を早めに確保する必要がある。ナツミさんに頼んであるから、今日中には手に入るだろう。


 どうにか巻き終えたところで、糸を巻きつけながら再度接着剤を塗っていく。これで見掛け以上に固めの竿ができるはずだ。

 左右に1本ずつ。それにリールを取り付けた短い竿も必要になる。ナツミさんが曳釣り用の竿を持っていたから、それは直接船尾から流せばいいだろう。


 2本目の竿に取り掛かっていると、ナツミさんがカゴを背負って左右の手にギャフとタモ網を持って帰って来た。


「はい、買って来たわよ。これで大物も引き上げられるわね。それと、サンダルはこれね。見た目がゾウリみたいだけど、私達には合ってるわ。リードル用の物は、ベンチの中に入れとくわよ」


 背負い籠から色々と出してきた。タバコ用の火鉢が入った木製の取手が付いたタバコ盆まで出てきたぞ。

 最後に出てきたのは、30cmほどの横幅がある木箱だった。蓋を開けると、ちょっとした大工道具が入っている。

 カタマランのちょっとした修理は、自分達で行うということなんだろうな。


「色々と買い込んだから残ってるのは金貨が1枚と大銀貨が3枚に銀貨が13枚。銀貨は、普段用で良いけど、金貨と大銀貨は残しておきたいわ」

「そうだね。俺の方は銀貨が数枚と言うところだ。これ以上は使わないだろうから、しばらくは持つよ」

 

 オルバスさんの話では、銀貨3枚程度で一ヵ月は賄えるらしい。カタマランを持つ身であれば一人前ということなんだろうが、まだまだオルバスさんに迷惑を掛ける身の上だ。やはり食費を払う必要があるんじゃないかな。

 今夜にでも、オルバスさんと話してみよう。それに漁の間だけ手伝ってもらえるリジィさんへの謝礼も相談する必要がありそうだ。


 昼食はリゾットのようなご飯に、ココナッツジュースだ。これも俺の好物だから何としてもナツミさんに教えて欲しいところだな。

 

 食事が終わるとお昼寝の時間なんだが、この時間におかずを釣るのが俺の仕事になる。

釣り竿を取り出していると、マリンダちゃんも準備をしている。その姿をラビナスが見ているから、彼を手招きして呼び寄せた。


「何か、御用ですか?」

「用というわけじゃないんだけど、これを使ってみるかい? ザルを買いに行ったら、丁度いいのがあったんで作ってみたんだ」


 家形の屋根裏から、釣り竿を引き出して彼に渡すと、大きく目を開いて驚いている。


「いいんですか?」

「ああ、いいよ。マリンダちゃんの竿も俺のお下がりだからね。3人で釣ればたくさん釣れるんじゃないかな」


 カタマランの船尾に座ると、3人で竿を出す。

 当たりはポツポツだけど、今日のカマルは結構大きいな。10匹を超えたところで終わりにして短い午睡を取る。

 目が覚めるころには夕食になるんじゃないかな。


「釣り竿を頂きありがとうございました」

「気にしないでください。俺より数を上げましたから、将来は良い漁師になれるでしょう」

 

 リジィさんが俺に頭を下げて来るから恐縮してしまうな。でも、俺の言葉にオルバスさんも頷いている。


「アオイの仕掛けなら良く釣れるに違いない。となると夜釣りの道具も欲しいところだな。それは俺が揃えるとして、仕掛けはアオイ、頼んだぞ」

「それぐらいなら、直ぐにも出来ます。それで次の漁は?」


 食事をしながらの会話だが、オルバスさんはもう1日、様子を見ることにしたらしい。

 今日帰って来なければ、グリナスさん達が帰って来るのは明日には確実だ。それは俺も賛成する。


「ところで、銛の柄を欲しがっていたな。これでどうだ?」

 オルバスさんが取り出したのは、2.4mほどの棒だった。太さは3cmほどだから、丁度いい太さではあるのだが……。


「これなら、ラビナスに渡すべきでしょう?」

「2本手に入れてきたから、1本をやるぞ。ラビナスの銛は俺が作る。今1本作っておけば、リードル漁の時までにもう2本は作れるからな」


 ありがたく頂くことにした。これで1本物の銛先が作れる。2本物よりは広範囲に獲物を突けるはずだ。


 食事が終わったところで俺達のカタマランに引き上げ、家形の中でナツミさんと次の計画を練る。

 計画と言っても、次のカタマランになるんだよな。すでにナツミさんの頭の中には、このカタマランの問題点が出てきたみたいだ。

 俺には十分すぎると思っても、船に慣れたナツミさんには物足りないのかもしれない。


「海人さんも3隻目はトリマランにしたみたい。トリマランも色々と不都合なところがあるんだけど、家形を大きくするならトリマランね」


 ナツミさんが力説してるんだけど、どうしても俺にはそれが必要な理由が思い浮かばないんだよなぁ。

 それに大きな船なら、それなりに操船人員が増えないと無理が出るようにも思える。

 漁には小回りが利く船が一番だと思うんだけどね。

 待てよ。このカタマランにバウ・スラスタを付けたのは、トリマランの操船のための布石ということかもしれないぞ。


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