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M-018 使いやすい銛の長さ


 翌日は、カリンさんを加えた4人が朝食の準備をしていた。

 痛む頭を押さえて起きようとしたところで、ハンモックから落ちてしまった。家形の入り口から俺を見ているのはマリンダちゃんに違いない。

 すぐに離れたところを見ると、今頃はナツミさんに報告が上がっているはずだ。

 勧められるままに飲んだ結果なんだが、完全な二日酔いだ。まだ世界が回っている気がするぞ。


「これを飲むにゃ!」

 ホイ! とマリンダちゃんが俺に差し出したのはココナッツのお椀だった。中に緑色の液体が入っているんだが、いったい何なんだろう? かなり怪しい気がするんだが。


 飲まないと俺の傍を離れない気がするから、思い切って一息に飲んだんだけど……。

 苦い、とんでもなく苦いぞ。その上に渋みが強い。コーヒーの濃い味とは明らかに違うんだが、これはネコ族に代々伝わる秘薬なんだろうか? 


「飲んだら少し横になってるにゃ。グリナス兄さんも今頃は飲んでる筈にゃ!」

「ありがとう。少し楽になったよ」

 

 そう言ったら、家形を出て行った。

 動かなければ頭もそれほど痛くはない。少し横になっていよう……。


 ふと、目を開く。

 どうやら寝入ってしまったらしい。あれほどずきずきした頭が軽くなってるし、立ち上がってもふらふらしないのが良い。あの怪しげな飲み物は、二日酔いの薬だったのかな?

 館の外にふらふらと歩き出したら、オルバスさんが俺を見て笑い顔になった。

 同じように飲んでいたんだけど、だいぶ酒に強いようだ。


「起きたな? まぁ、しばらくはあれほど飲めぬはずだから大丈夫だろう」

「グリナスはまだ寝てるにゃ。もうすぐ、昼になってしまうにゃ」


 カリンさんが呆れたような表情で呟いてるけど、こればっかりはしょうがないと思うな。

 

「それで、明日には漁に出たいが、大丈夫か?」

「今日の内に水を汲んでおくにゃ。食料は……、商船で仕入れて来るにゃ」


「なら、今回は俺のところで何とかしよう。次の商船が来るまではそれでいいぞ。1航海すれば、足りない物も見えてくるはずだ」


 オルバスさんの言葉に、カリンさんがオルバスさんとトリティさんに頭を下げている。

 食料は商船でグリナスさんも買い込んではいるんだろうが、男だからねぇ。足りない物がたくさんあるに違いない。

 問題のグリナスさんは、夕方近くになってようやく屋形から姿を現した。やはり重度の二日酔いだったらしい。


「だいぶ飲んだからなぁ。しばらくはカリンに頭が上がらないよ」

「明日から漁に出るということですよ。素潜り漁にはザバンが一番ですが、その辺りは大丈夫なんですか?」

「アンカーを下ろしておけばだいじょうぶさ。船からそれほど離れることもない。そうだ! ザルを仕入れてこなけりゃいけないな。ちょっと出かけてくる」


 そういって、桟橋を歩いて行ったんだけど、商船はいないんだよね。どこに行くのかな?


「炭焼き小屋の老人のところにゃ。小遣い稼ぎにザルやカゴを編んでるにゃ」

「一揃い揃えるとどれぐらいになるんでしょう?」

「20Dにタバコが2包ぐらいで手に入るにゃ。アオイもそうするといいにゃ」


 一夜干しをしたり、獲物を保冷庫に入れたりと、いろんなカゴやザルを用意しないといけないんだよな。忘れないようにしないといけないぞ。


 夕暮れ近くになってグリナスさんが運んできたのは大きなザルが3枚と、保冷庫用のカゴが3つだった。当座はそれで十分ということなんだろう。


 翌日は朝食を終えると、直ぐに出港する。

 グリナスさんのカタマランが俺達の後を追い掛ける形だ。カリンさんの操船に問題はないみたいだな。

 たまに横からグリナスさんがこっちに手を振っているから、マリンダちゃんが手を振って答えている。

 かなり速度を上げて南東に向かって船が進んでいる。グリナスさんがカタマランを所有して最初の漁だから近場を選ぶのかもしれないな。


 いくつかの島を通り越して、夕暮れ近くに到着した場所はサンゴの崖が砂地に続いている場所だ。なるべく崖の近くにアンカーを下ろしたところで、グリナスさん夫婦がこちらの船に乗り込んできた。

 

 夕食ができるまでは、夜釣り用餌釣りになるんだが、良型はおかずにもなる。

 2人で竿を出したところで、マリンダちゃんにも前に使っていた竿を渡す。ずっと使っていいよと言うと喜んでくれたから、上げた甲斐があるというものだ。


 入れ食いとはいかないけど、ぽつりぽつりと魚が釣れる。カマルの小型だからぶつ切りで唐揚げになりそうだな。

 俺達の釣果を見に来たトリティさんが、数匹を持って行ったから間違いなさそうだ。


 今日のスープはカリンさんの作った物らしい。いつものトリティさんの味付けとすこし違うな。これがグリナスさん一家の味になるんだろう。

 ナツミさんの味付けがたまに出てくるんだけど、そのたびごとに味が異なる。ナツミさんの味が出るまではもうしばらく掛かりそうだ。


 食事が終わって俺達がパイプを楽しんでいる間に、ナツミさんが俺達が釣り上げた魚を使って魚を捌く練習を始めたようだ。

 魚の餌にするだけだから、失敗することはないと思うんだけど、俺達3人はパイプを咥えて、振り上げられたナツミさんの包丁を見守っている。

 包丁は振り上て叩き切るのがナツミさんの流儀らしい。頭を一発で落としているようだけど……。その後は3枚に下ろして、短冊を作ってもらうことになるんだけどね。


 3人で餌を分け合って夜釣りを始める。

 俺の隣で、ナツミさんが自分の竿で釣りを始めたんだけど、浮きを使って流しているようだ。上手く行けば青物が釣れそうだな。


 4時間ほどの夜釣りでカサゴに似たバヌトスが11匹と、カンパチに似たシーブルという魚が3匹釣れた。グリナスさんも数匹のバヌトスが釣れたから、まあまあというところなんだろう。

 ナツミさんが再び包丁を握って獲れた魚を捌いてザルに並べると屋根の上に干しておく。明日の朝に取り込んで保冷庫に入れるらしい。


 翌日は、いよいよ素潜り漁だ。ザバンを3艘使って広範囲にブラドを突くことになる。

 ナツミさんが帽子とサングラスを付けて、氷の入った籠と水筒を受け取ってザバンに乗り込む。

 もう1艘はマリンダちゃんが操船するらしい。同じような格好で嬉しそうに籠を受け取っている。

 トリティさんがカタマランに残って周囲を監視するのかな? 竹製の笛を紐で括って首に下げていた。


「さて、始めるぞ。サンゴの段差が強いから、大型も期待できそうだ」

 オルバスさんがそんなことを言って、俺の肩を叩くと海に飛び込んでいった。

 使う銛は銛先が2本だが、これだと中型までなんだよな。銛先が1本の物を作った方が良いのかもしれない。

 とはいえ、今はこれで行こう。

 装備を整えてシュノーケルを咥えると、俺も銛を手に海に飛び込んだ。


 数mのサンゴ礁が南に向かって3mほど落ち込んでいる。南には砂地が続いているから、段差を中心に獲物を探すことにした。

 しばらくすると、少し下をバルタスと呼ぶ石鯛の仲間が泳いでいるのが見えた。先ずはあいつからだな。


 ゴムを引いた左手で柄を握ると、息を整えたところでダイブする。

 ゆっくりと斜め後方から近付いて、魚体から30cmほどの距離で銛を放つと、バルタスの頭に命中した。

 体形が細いから銛先の2本の間に挟まったような形で銛が通っているから、そのまま柄を掴んで海面を目指す。

 海面から顔を出して、ナツミさんのザバンを探すと、こちらに近づいてくるザバンが見えた。

 今日は船首に旗を立てた棒を結んでいるな。白い旗は何で作ったんだろう?


「大きいね。これって、バルタスだよね」

「その通り。1匹で泳いでたから次は分からないよ」

 銛から魚体を外してザバンに投げ込むと、再びシュノーケルを使って海底を探る。

 その後はブラドばかりだった。とはいえ、40cmを超える立派な奴だから、この辺りは良い漁場なんだろう。

 休憩を挟みながら昼過ぎまで漁を続ける。全部で8匹だから、自分としては満足できる数だ。


 素潜り漁を終えてカタマランに戻ってくると、他の2人の結果が分かる。オルバスさんが7匹で、グリナスさんが6匹だった。

 明日は頑張れとオルバスさんがグリナスさんの肩を叩いている。


「アオイも慣れてきたな。やはり銛のせいか?」

「グリナスさんの銛よりも短いですから、使いやすいんです。とはいえ銛先が2本ですから、もう少し魚体が大きいと突き難くなるでしょうね。カタマランを手に入れたら同じ長さで銛先が1本物を作ろうと思ってます」


「柄が長いと確かに扱い難いな。アオイの銛の柄は俺より確かに短いんだよな」

「大物用は長いですよ。でも2YM(60cm)以下であれば、これで十分です」


「銛の長さに決まりはない。リードル漁は特殊だが、それ以外の素潜り漁なら、アオイの言うように自分の使いやすい長さを考えるべきだろうな。俺も何本も柄の長さを変えて漁をしたものだ」


 本当は、それを自分で分からせようとしたんじゃないかな? ちょっと余計なことを言ってしまったようにも思える。


「となると、先ずはアオイの使う銛の柄の長さで作ってみるか。次の漁が楽しみになって来たよ」

「必ずしも……、ですよ。余り短くすると、獲物に逃げられてしまいますからね」

 

 俺の言葉に、オルバスさんが笑い出した。たぶん似た経験をしたんじゃないかな。


「そういうことだ。短いと逃げられてしまう。長ければ使い難い。この中間を上手く探るんだな」


 オルバスさんの言葉に、グリナスさんが首を傾げている。

 こればっかりは個人の好みも加わるからね。柄の長さが決まるまでにはかなり長い時間が掛かるかもしれないな。


 3日間の素潜り漁を終えると、俺達は島に帰還する。

 グリナスさんの獲物はブラドが16匹にバヌトスが18匹だったらしい。総額84Dというところだが、1割を氏族に納めるから75Dが手元に残る勘定だ。1回の出漁期間が5日で2日の休みを島で取るなら、一ヵ月で銀貨3枚程度にはなるんじゃないかな?

 オルバスさんが一ヵ月の生活費はおよそ銀貨3枚前後だと言っていたから、グリナスさんも何とか生活を維持できるだろう。それに、毎年2回のリードル漁がある。魔石1個ぐらいは生活費に転用することぐらいは可能だろう。


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